拝啓、ご先祖様。人類はハエに侵略されました。   作:翠晶 秋

20 / 25
反逆の棘

 

翌日。

未だにハエはヒエラルキーの頂点にいた。

洗脳の類。

ハエの影響力は衰えず、たった一匹のハエに歓声を上げている。

 

「ねぇ、聞いて?私、ようやくハエ様の子供を授かれたんだよ」

「良いなぁー!早く私も欲しいなぁー!」

 

狂ってる。

なにがどうしてハエの子供なんか孕む理由があるんだ。

 

気味の悪い会話を聞き流しながら次の授業の準備をする。

不意に、ポケットのスマホが振動する。

 

『今日の午後。いつもの場所にて汝を待つ。 日張』

 

……あのひと、いっつもこんなメールしか送らないなぁ。

 

 

◇

 

 

それは突然だった。

移動した山の中でハエを駆逐していると、急にじいさんが倒れた。

足が漆黒の棘(いばら)に貫かれている。

 

「じいさん!?」

「お前らじいさんを運べ!一旦退くぞ!ヒバリ、スモーク!」

「かしこまりぃ!!」

 

白煙が立ち込める中、俺はメテオライトに搭乗し、腕に乗っけてじいさんを運んだ。

メテオライトからアシアちゃんに信号を送る。

だいぶ太い棘だ、人間が抜くのは不可能。

作業アームがデフォルトのアシアちゃんの機体なら、きっと抜けるはずだ。

 

『メテオライトを自動照準モードに切り替えます』

 

メテオライトを護衛として任命し、俺は一旦降りる。

 

「じいさん!どうしたんですか!」

「しらん……。俺があいつを刺した瞬間、俺の足がどうにかなりやがった……どうなってる?」

「黒い棘が刺さってます……アシアちゃんが来るので、そのときに抜いてもらう予定です……」

「いい、判断じゃ……ビスマス、ビスマスはどこかにいないかの?」

 

『ここに』

 

何もない空間からビスマスが出てくる。

これが光学式迷彩ってやつかな。基本的に虹色だけど、周りの色に溶け込んで潜伏ができるらしい。

 

「うちの門下生の様子を見てきてくれ」

『はい』

「ありがとう」

 

程なくして、ビスマスが戻ってくる。

どうやら映像を撮って来たらしい。

 

「……っ」

「……この憎しみがあれば、俺はまだ、戦える。絶対、死ぬわけには行かぬのじゃ」

 

その場に投影された映像を見て、誰もがその場で拳を握った。

 

あまりにも悲惨な光景。

ハエとの逢瀬。狂った顔で快楽を求める女性門下生と、ハエに攻撃され傷だらけの男性門下生。

 

「あの日から、ずっとこんなもんじゃ」

「ったくじいさん、なにしてくれてんだよ。一気にシリアスになっちまったじゃねえか」

「ははっ、それは悪かったのう。なにせ、これが俺の闘気になるのでな」

「アシアちゃんには見せられないですねぇ」

「……ヒバリさんが平然と見ていることは触れないのですか?」

 

俺の学校ではその場ですることなんてなかったけど。

でも、他の場所では、まだこんなことが行われてるんだ。

 

駆逐。ラストスパート。終わらせる。

 

そうだ。全世界のハエを駆逐するまで、俺たちの戦いは終わらない。

楽しさなんて求めるべきじゃない。たとえそれが日常に必要なネタだとしても、この日常はハエによって作らされたものだ。

 

いらない。そんなの、いらない。気合いが入った。

 

「終わらせましょう。ハエの、物語を」

「表渡……?」

「最後の一人の幹部を倒すんです。今までも、簡単に倒せたんですから、きっとできます」

「……今(・)ま(・)で(・)も(・)、か。確かに、そうなのかもしれないのう」

 

弱々しい呼吸を繰り返し、じいさんが空を見る。

 

「のうコブ」

「ど、どうした」

「こいつのネーム、俺が考えても良いかの?」

「こいつって……表渡のか?まぁ、構わんが。いいな、表渡?」

「え、あ、はい」

「ほ、そうかそうか……。なら」

 

じいさんは目を細めた。

 

「ライアー(嘘つき)だ」

「ライ、アー……?」

「いやなに、俺が死ぬか回復すればわかること。真実は時間が教えてくれるじゃろうて」

 

ライアー。

嘘つきという意味のその名が、まったく俺には関係ないものだった。

じいさんがどういう意図でこの名にしたのかはわからないが、十中八九気づいている。

 

コブさんが何か言おうとするが、それはキャタピラの音によってかき消された。

 

『遅くなった』

「アシアちゃん!」

「アシア、直径5センチ2ミリ!圧力35で!」

『了解!』

 

アシアちゃんの機体……ネプチュナイトからスチームが噴き出す。

右腕のアームがじいさんの棘を掴み、ゆっくりと引き抜いた。

とめどなく血が流れる。

ヒバリさんが即座に布巻き、俺が乗り込んだメテオライトで運ぶ作戦。

 

『じゃあ行きますよ!』

「おう!」

『ん!』

 

周りのハエを警戒しながら進む。

ちなみに、プロトろぼに乗り込んでいるのは俺とアシアちゃんだけ。

人数や手数が増えるので他のプロトろぼは自立稼働中だ。

 

「メテオライト、近くの病院を検索」

『検索。およそ500メートル先、右折します。街道に出るため、走行モードへの移行を推奨します』

「それ、じいさんはどうなる?」

『腕が格納されるため荷台部分に収納されます』

「じゃあそれで!」

 

近くの病院まで走る。

メテオライトが走行しながらキャタピラやアームを格納し、見た目が軽自動車になった。

メテオライトに免許はまだ存在しない。よって俺は犯罪者にならない。

 

「まあ多分、攻撃したらオートカウンターするみたいなハエの能力なんでしょうな!もうなんだよこれ!突然変異の範疇超えてるよ!」

『いいから早く行け!』

『……緊急事態では、信号を無視しても法的に問題ありません!』

 

スピーカーから流れてくる声。

なーんかあったね、変化前のネットニュースで。

隣を並走していたマスターたち(搭乗中)が急に止まる。

後ろを見ると、ハエが追って来ていた。

 

『俺たちが足止めする!』

『ん!だから、行って!』

『アジュライト!ホーミングミサイル展開!』

 

ヒバリさんのアジュライトが両腕のホーミングミサイルを展開する。

メテオライトの姿を隠すようにミサイルを真上に放ち、そしてミサイルは次々に地面に落下した。

 

『たのしー!』

『お前ソレ『コバエフレンズ』のセリフだろ!集中しろ!』

『ゴブさんこっち側だったんですか!』

『うるせえ!ガトリング展開、バイオレット・スパイク……長えよバカ!』

「フハハハハ!ざまあみろ!」

『表渡てめえええええ!!』

 

バイオレット・スパイク・クリスタル・エクスプロージョン。

ちゃんと存在する鉱石の名前なんだよ!

 

『……クロコアイト、頼みますよ。火炎放射器とカッターアーム、展開』

 

ゴウッ!!!!!

ズパアッ!!!!!

 

『……え火力高っ』

 

今素の声が聞こえた気がしたけど知らん。

 

「みんな、頼みますよ!」

『おう!』

『……はい!』

『任せろーばりばりー!』

『……ん!』

 

仲間の放つ戦争のような音を聞きながら、俺は山を降りた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。