翌日。
未だにハエはヒエラルキーの頂点にいた。
洗脳の類。
ハエの影響力は衰えず、たった一匹のハエに歓声を上げている。
「ねぇ、聞いて?私、ようやくハエ様の子供を授かれたんだよ」
「良いなぁー!早く私も欲しいなぁー!」
狂ってる。
なにがどうしてハエの子供なんか孕む理由があるんだ。
気味の悪い会話を聞き流しながら次の授業の準備をする。
不意に、ポケットのスマホが振動する。
『今日の午後。いつもの場所にて汝を待つ。 日張』
……あのひと、いっつもこんなメールしか送らないなぁ。
◇
それは突然だった。
移動した山の中でハエを駆逐していると、急にじいさんが倒れた。
足が漆黒の
「じいさん!?」
「お前らじいさんを運べ!一旦退くぞ!ヒバリ、スモーク!」
「かしこまりぃ!!」
白煙が立ち込める中、俺はメテオライトに搭乗し、腕に乗っけてじいさんを運んだ。
メテオライトからアシアちゃんに信号を送る。
だいぶ太い棘だ、人間が抜くのは不可能。
作業アームがデフォルトのアシアちゃんの機体なら、きっと抜けるはずだ。
『メテオライトを自動照準モードに切り替えます』
メテオライトを護衛として任命し、俺は一旦降りる。
「じいさん!どうしたんですか!」
「しらん……。俺があいつを刺した瞬間、俺の足がどうにかなりやがった……どうなってる?」
「黒い棘が刺さってます……アシアちゃんが来るので、そのときに抜いてもらう予定です……」
「いい、判断じゃ……ビスマス、ビスマスはどこかにいないかの?」
『ここに』
何もない空間からビスマスが出てくる。
これが光学式迷彩ってやつかな。基本的に虹色だけど、周りの色に溶け込んで潜伏ができるらしい。
「うちの門下生の様子を見てきてくれ」
『はい』
「ありがとう」
程なくして、ビスマスが戻ってくる。
どうやら映像を撮って来たらしい。
「……っ」
「……この憎しみがあれば、俺はまだ、戦える。絶対、死ぬわけには行かぬのじゃ」
その場に投影された映像を見て、誰もがその場で拳を握った。
あまりにも悲惨な光景。
ハエとの逢瀬。狂った顔で快楽を求める女性門下生と、ハエに攻撃され傷だらけの男性門下生。
「あの日から、ずっとこんなもんじゃ」
「ったくじいさん、なにしてくれてんだよ。一気にシリアスになっちまったじゃねえか」
「ははっ、それは悪かったのう。なにせ、これが俺の闘気になるのでな」
「アシアちゃんには見せられないですねぇ」
「……ヒバリさんが平然と見ていることは触れないのですか?」
俺の学校ではその場ですることなんてなかったけど。
でも、他の場所では、まだこんなことが行われてるんだ。
駆逐。ラストスパート。終わらせる。
そうだ。全世界のハエを駆逐するまで、俺たちの戦いは終わらない。
楽しさなんて求めるべきじゃない。たとえそれが日常に必要なネタだとしても、この日常はハエによって作らされたものだ。
いらない。そんなの、いらない。気合いが入った。
「終わらせましょう。ハエの、物語を」
「表渡……?」
「最後の一人の幹部を倒すんです。今までも、簡単に倒せたんですから、きっとできます」
「……
弱々しい呼吸を繰り返し、じいさんが空を見る。
「のうコブ」
「ど、どうした」
「こいつのネーム、俺が考えても良いかの?」
「こいつって……表渡のか?まぁ、構わんが。いいな、表渡?」
「え、あ、はい」
「ほ、そうかそうか……。なら」
じいさんは目を細めた。
「
「ライ、アー……?」
「いやなに、俺が死ぬか回復すればわかること。真実は時間が教えてくれるじゃろうて」
ライアー。
嘘つきという意味のその名が、まったく俺には関係ないものだった。
じいさんがどういう意図でこの名にしたのかはわからないが、十中八九気づいている。
コブさんが何か言おうとするが、それはキャタピラの音によってかき消された。
『遅くなった』
「アシアちゃん!」
「アシア、直径5センチ2ミリ!圧力35で!」
『了解!』
アシアちゃんの機体……ネプチュナイトからスチームが噴き出す。
右腕のアームがじいさんの棘を掴み、ゆっくりと引き抜いた。
とめどなく血が流れる。
ヒバリさんが即座に布巻き、俺が乗り込んだメテオライトで運ぶ作戦。
『じゃあ行きますよ!』
「おう!」
『ん!』
周りのハエを警戒しながら進む。
ちなみに、プロトろぼに乗り込んでいるのは俺とアシアちゃんだけ。
人数や手数が増えるので他のプロトろぼは自立稼働中だ。
「メテオライト、近くの病院を検索」
『検索。およそ500メートル先、右折します。街道に出るため、走行モードへの移行を推奨します』
「それ、じいさんはどうなる?」
『腕が格納されるため荷台部分に収納されます』
「じゃあそれで!」
近くの病院まで走る。
メテオライトが走行しながらキャタピラやアームを格納し、見た目が軽自動車になった。
メテオライトに免許はまだ存在しない。よって俺は犯罪者にならない。
「まあ多分、攻撃したらオートカウンターするみたいなハエの能力なんでしょうな!もうなんだよこれ!突然変異の範疇超えてるよ!」
『いいから早く行け!』
『……緊急事態では、信号を無視しても法的に問題ありません!』
スピーカーから流れてくる声。
なーんかあったね、変化前のネットニュースで。
隣を並走していたマスターたち(搭乗中)が急に止まる。
後ろを見ると、ハエが追って来ていた。
『俺たちが足止めする!』
『ん!だから、行って!』
『アジュライト!ホーミングミサイル展開!』
ヒバリさんのアジュライトが両腕のホーミングミサイルを展開する。
メテオライトの姿を隠すようにミサイルを真上に放ち、そしてミサイルは次々に地面に落下した。
『たのしー!』
『お前ソレ『コバエフレンズ』のセリフだろ!集中しろ!』
『ゴブさんこっち側だったんですか!』
『うるせえ!ガトリング展開、バイオレット・スパイク……長えよバカ!』
「フハハハハ!ざまあみろ!」
『表渡てめえええええ!!』
バイオレット・スパイク・クリスタル・エクスプロージョン。
ちゃんと存在する鉱石の名前なんだよ!
『……クロコアイト、頼みますよ。火炎放射器とカッターアーム、展開』
ゴウッ!!!!!
ズパアッ!!!!!
『……え火力高っ』
今素の声が聞こえた気がしたけど知らん。
「みんな、頼みますよ!」
『おう!』
『……はい!』
『任せろーばりばりー!』
『……ん!』
仲間の放つ戦争のような音を聞きながら、俺は山を降りた。