拝啓、ご先祖様。人類はハエに侵略されました。   作:翠晶 秋

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俺は何を聞かされてるんだろう。

 

俺は何を聞かされてるんだろう。

 

『お願いします!舐めさせてください!』

『イヤじゃ気持ち悪い!』

『ひとペロでいいんです!ハエ様の皮膚片を体内に入れてみたいんです!』

『患者を重視せいこのダメ医者が!』

 

【医療中】のランプが光る鉄扉の向こうから、無駄に高音質に声が届く。

ガタガタ、ドコドコ、どんがらがっしゃん。

じいさん、元気だなぁ……。

 

病院についてから、メテオライトはすぐにみんなの所へ送った。

ギリギリ劣勢らしかったので、メテオライトが到着すれば押し返せる……だろう。

ジャケットの上からフェザーを撫でる。

最近はあまり使えていなかったなぁ……。

騒ぐじいさんの声を聞き流しながら考える。

 

もしもハエを駆逐し終わったら、なにが起きるのだろう。

世界の常識は元に戻る?

そんなご都合展開、本当にあるのだろうか。

今まで俺たちはハエを駆逐すれば世界が元に戻ると信じ込んでハエと戦ってきたが、どうにも引っかかる。

ハエの幹部を倒してきたのに、未だにハエの勢力は衰えない。

洗脳も解けていない。

今や幹部は世界で一人。

一人しかいないのだから、そろそろ矛盾とかに気がついた方が良いのではないだろうか。

 

「なんで、そのままなんだろう……」

 

ハエを倒してもそのままだったらどうしよう。

なんだこの胸騒ぎ。

いつのまにか、フェザーを握りしめていた。

 

「……いや、ちゃんとしないと」

「何をちゃんとするのかね?」

 

隣におじいちゃんいた。

 

「っ……こんにちは」

「はいこんにちは」

「えっとちゃんとするっていうのは……その、そう!ハエのために、ちゃんと勉強しないとなーって」

「……ハエ。ハエか」

 

おじいちゃんはため息をこぼす。

何かおかしなことを言っただろうか。

 

「……わしが、おかしいのかもしれんな」

「……?」

「近頃、あっちでハエ、こっちでハエと、洗脳されとるみたいにハエを崇めとる。流行なんてものじゃなく、国全体がハエを崇めている。……異常に思うのは、世界でわしだけなのかもしれんな……」

「…………」

「お前さんも、わしの言うことが信じられんのじゃろ?ああ、殴ったらいい。ここは病院だ。改定された法律に、『蝿に対する侮辱行為を発見した場合、危害を加えても良い』というのがあったな?」

 

……このおじいちゃん、【常識人】だ。

ハエの洗脳の影響を、受けていない。

ずっと、一人だったんだ、このおじいちゃん。

 

「……殴りませんよ」

「……ほ?」

「まあ、俺があなたにどうこう言うことはできませんけど……」

 

変わり果てた世界で、ずっと一人、おかしさを感じながら生きてきてたんだ。

俺たちが、アホやってる間に。

 

「あなたを救おうと、この世界を直そうとは、思ってます」

「それは……」

「まぁ、カッコつけて言うと……あなたは一人じゃない、って事ですかね」

「そうか……。一人じゃ、なかったか……」

 

おじいちゃんは微笑んだ。

……俺たち以外にも【常識人】がいるのなら、尚のこと。

頑張らないと。

希望は、俺たちの背中に乗ってる。

 

「おい」

「じいさん!大丈夫ですか!」

「まぁ、松葉杖があれば動けるらしい。俺を老いぼれと思いおって、雑な治療をしやがった」

「あんなに大きな傷が塞がってるんだからすごく良い医者ですよ。しばらく戦闘はやめといたほうがいいですね」

「まだ戦えるわい」

 

じいさんを介護しながら病院を出る。

 

「俺の隣にいた人、【常識人】でした」

「……ほう」

「その人は【常識人】は自分だけだと思っていたみたいです」

「引き込めは」

「無理だと思います。かなりお年を召していたので」

「オイ俺は」

「波動飛ばしてハエ斬るような人はお年寄りじゃありません」

 

そりゃそうか。

【常識人】があの場の全員とは限らない。

警戒心を、あげないと。

 

「ライアー」

「え?」

「お前の名前じゃろ」

「あ、はい。……なんですか?」

「帰ったら、覚悟をしておくことだな」

 

覚悟……?

怪我をしたばかりなのに、もう戦闘に行くつもりなのだろうか。

 

半ば呆れながら、俺とじいさんはバーへと帰るのだった。

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