拝啓、ご先祖様。人類はハエに侵略されました。   作:翠晶 秋

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決断。そして決戦へ

 

「……今回の幹部の能力は『カウンター』にあると思われます」

「カウンター?でもやつらはそんな素振り見せなかったぞ」

 

マスターの言葉に、やられた張本人の爺さんが手をあげる。

 

「……ええ。ですから、正確に言うなら『カウンター』よりも『受けたダメージを返す』と言った方がいいでしょう」

「……なに?」

「じいさん、アンタ、あのときどれくらいの傷を負わせた?」

「……なるほどのう。たしかに、俺はハエに大きなダメージを与えた。それこそ、部位1つ貫かれるくらいの」

 

部位1つ貫くくらいのダメージを与えたから、じいさんは部位1つ貫かれるダメージを負ったってことか?

 

「……それに、私のクロコアイトも、しばらくして棘による攻撃を受けました。……おそらく、受けたダメージをイバラで返す。そのような能力なのでしょう」

「となると、安易に攻撃ができないな。アシア、クロコアイトの被害は?」

「腕を持っていかれてる。……ん、鎧タイプにしなくてよかった。そうでなくちゃマスターは腕を……」

 

貫かれて、いた。

だが一つわかった事。こっちの得になる情報は、あのガン◯ムもどきを人としてハエが認識したこと。

もっと大きく、もっと装甲を厚くすれば、戦闘に支障はなくなるだろう。

問題としては、じいさんのような装甲で戦うのを嫌う人。

ロボットでは樫牙流の剣術が使えないそうだ。

 

「これは、じいさんは留守番ですかね……」

「バカにするでない。まだ俺は戦える」

「どこからくるのかわからない棘相手に、どうやって戦うって言うんです?」

 

黙ってしまうじいさんに、尚も俺は続ける。

 

「受けたダメージを返す……そんな能力の相手を、もし、じいさんが、その刀で。……首を跳ね飛ばしたり、心臓を貫いたりしたらどうなると思います?」

「待って渡瓶君、それ以上は……」

「これは、命に関わるんです。いつも死がとなりにいると言うのなら、今回の死は僕らに抱きついている」

「言ってる意味が……わからないよ……」

 

コメディなんてものはなかった。

じいさんは、戦えない。

アシアちゃんも制作陣のため、戦う技術は持っていない。

 

「俺は、止められても行くぞ」

「マスター。監視をお願いできますか」

「……ッ……わかり、ました……」

 

戦闘班が、二人も消えた。

しかも、二人とも冷静に状況が判断できるプロだ。

 

これで……俺、ヒバリさん、コブさん。

この3人で、戦うことになった。

 

「……大ボスを倒しましょう」

「……どういうことだ」

「ハエを駆逐する度にロボットを半壊にされていては資源が持ちません。ここは一つ、大将を───ハエの幹部の最後の一人を、殺しに行くべきではないかと」

「お前っ、リスクを考えろよ。お前がソロでやってたときとは話がちが……」

「私は……渡瓶君についていくよ」

「お前!!」

「じいさんの体も大事だし……今大元を叩くのも、理にかなってると思う」

 

ヒバリさんが、俺の手を取ってくれる。

コブさんはまだ納得がいっていないようだ。

 

「情報が欲しいですね。いつ、どの辺りにハエがでるのか」

「そうだね……さりげなく、互いの学校で聞いてみよう」

「……勝手にしろッ。俺は制作陣に行く」

 

また、人が減った。

残りは、俺とヒバリさんのみ。

なにがおかしいんだよ。幹部を倒せばハエの能力は消えるんじゃないのか?

だったら、やるべきだろ!

 

ヒバリさんを連れて外へ出る。

 

「渡瓶君、渡瓶君」

「あ、はい?」

「とあるサイトなんだけど……【常識人】が集まってるサイトがあるの。コブさんから後で教えろって言われてたんだけど、忘れちゃっててゴメンね」

「あ、えーと……ありがとう」

 

送られたURLを見ながら、俺はどうにも憤りを覚えていた。

 

 

 

 

「ギチャア……」

 

ハエが始末される。

殺しても殺しても足りない。

なんで幹部とやらはいつもニホンに現れるんだ。

 

「メルク、死体撃ちはやめておきなさい。弾丸の無駄よ」

「……チッ」

 

ハンドガンを腰のホルダーにしまう。

弾丸をリロードしてからスマホを見る。

サイトに新規のキャラクターがログインしていた。

 

「……は?」

 

近々、ニホンで最後の幹部を倒すらしい。

その準備をしている、とサイトログに書いてあった。

 

「どうしたのメルク?」

「ニホンで最後のハエの幹部を倒すそうだ」

「まぁ」

「俺たちはもう戦わなくて良いってことだろうか」

「ハエの幹部を倒してそれで終わりとは限らないわ。ニホンで何かが終わるなら、ニホンで何かが始まる確率もまたあるのよ」

 

まぁ確かに。

 

「どうする?俺たちも行くか?」

「言葉の壁があるわよ。それに私たちが離れたらエジプトの民はどうなるの?【常識人】がいなくなって、ハエはヤり放題だわ」

「……まぁ、確かに」

 

 

 

 

「ヘーイ!!どうしたんだYO!!」

「うるさい……」

「多国民連合のクセにそんな辛気くさい顔してちゃ、ニホンのサムライも動けないYO!!」

「元気だねぇ、ダイアンがイラついてるよ」

「だから俺は嫌だといったんだ……」

「ジェーンも笑うんだYO!!」

 

まったくこの子は。

愛する姉も妹も犯され、親は殺され、片目を抉られ。一番辛いのはこの子でしょうに。

心配性のダイアンを気にかけて、わざとお気楽なピエロを演じて。

あなたが夜な夜な泣いてるの、みんな知ってるんだからね。

 

「はいはい!あともう少しの辛抱。あと少し待てば、ニホンの人がやってくれるよ!」

「そうだYOジェーン!ニホンのサムライにお願いするんだYO!」

 

ニホンのサムライ、ねぇ。

ニホンの人は刀でハエを倒してるのかな?

そうだとしたら舐めてるとしか思えないけど……。

 

「……ン?だれかくしゃみしかたYO?」

「するわけない……幻聴が聴こえるようになったのかい……?」

「ン〜〜〜?気のせいだったのかYO……?」

 

もしかして、ニホンに本当に刀で戦ってる人がいたりして。

……いるわけないか!そんな人。

 

 

 

 

……おやすみのキスをしようと思ったんだが……どうやら、我が愛娘はハエとお楽しみらしい。

漏れる嬌声を聞きながら掌を硬く握る。

私の、私の娘を。

父親として、ここまでの屈辱はない。

 

「旦那様……」

 

メイドのリリアンも、私と同じ【常識人】だ。

私は……ハエを殺めたことがある。

リリアンが襲われそうだった。そのとき、とっさにナイフを持ってリリアンを庇ったのだ。

 

「私は大丈夫……だ。リリアン、サイトのみんなはどうしてるかな?」

「日本のグループが、最後のハエの幹部を倒しに行くそうです。いかがされますか」

「せっかくなら私も行きたいところだが……行く理由が見つからない。ニホンといったか。リリアン、君だけでも行くんだ。何かの力になれるかもしれん」

「……申し訳ありません。私はこの家のメイドにございます。今は、この家を、お嬢様が溺愛されているハエ以外から守るのに背いっぱいでございます」

 

そうか……そうか。

 

「わかった。ニホンの人の活躍を待とう」

「ええ。日本の民はとても強い化学兵器を持っているそうです。きっと彼らなら、やってくれるでしょう」

 

せめて、この家くらいは守る。

私は溢れるその気持ちを、リリアンと共に弾丸に込めた。

 

 

 

 

色んな人がいたんだな。

世界各地の【常識人】の状況を見て思う。

それと、その期待が俺たちの背中に宿ってることも。

コブさんはまだ工房にいる。

世界の命運がかかっているというのに、なにを呑気な。

 

「きっとゴブさんは、理性では理解していると思うんですよ」

「……?」

「でもゴブさんはそれ以上に仲間を大切にしていて、じいさんがケガをしたとき、凄く焦ってたんですよ」

 

ブランコを揺らしながら、ヒバリさんは夕陽を見ていた。

 

「だからきっと、そんな時でも冷静な渡瓶君に怒っちゃったんだと思います。……ゴブさんは、あれで優しいところがありますから」

「ヒバリさん……」

「また明日ゴブさんに謝りましょう。その時には、ゴブさんも反省してますよ」

 

そう言って、ヒバリさんは───日張さんは笑った。

とても決戦を前にした女子高生の顔とは思えない、美しい笑顔だった。

 

「ところで渡瓶君」

「ん?なんすか」

「好きです」

 

………………。

 

「はい?」

「好きです。渡瓶君のことが」

「……どういう冗談でしょう」

「まぁまぁ。今は聞いててください、……別に、恋人になってくれなんて事は言わないですよ。ただ、渡瓶君が好きだというだけです」

 

何を言えばいいのかわからない俺を前に、日張さんは語る。

 

「まぁ……渡瓶君に好きな人がいるっていうのがわからなかったら『付き合ってください』くらいは言ってたかもしれませんけど……単純に、渡瓶君が好きなんです」

「……。あの……」

「私は、あなたが好きです。この決戦で、あなただけは守ってみせる。……それだけは、覚えていてくださいね!」

 

呆然とする俺をよそに、日張さんはブランコから降りた。

 

「では!また明日!!」

「また、明日……」

 

元気よく、タタタと駆けていく少女。

俺は、深いため息を吐いてから空を見上げた。

 

茜色の空に、ブランコの鎖がじゃらんと鳴った。

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