「「「博物館見学?」」」
「はい。こんど俺のクラスが博物館でハエの歴史を学ぶことになりまして」
「地獄だね……」
「……それは、どのような意図があるのでしょう?」
「えっと……これプリントです」
今この場にいるのは、マスター、アシアちゃん、ヒバリさん。
他の人はドックにいたり自分の道場にいたりと、とにかくここにはいない。
「ん。『ハエに対する新たな見識を深め、これからの政治を……』」
「へー、すごいですね」
びり……。
「ヒバリさん!?!?!?」
「あっっっ、ごめん!ついムカついて!!」
「仕方ない。私が直す」
「マジかよアシアちゃん天才だな」
「……ん。ふふ」
アシアちゃんがカウンターの下でなにかをごそごそしている間に、今回の作戦を話す。
「とりあえず。今回の学習は特別ゲストに……最後のハエの幹部が来るらしいです」
「……なるほど。おおかた、子供を残して今のヒエラルキーレベルを保つためでしょうね」
「ってことは、女の子を見定めるために参加するってことかぁ。つまり、その間は無防備」
そこを叩けば、ハエの幹部はいなくなる。
幹部……っていうか上司がいなくなれば部下のハエの能力が無くなることは、前回、前々回の幹部で立証済みだ。
俺の正体はまだ誰にもバレていない。それなら制服の内側ポケットにフェザーを入れておけばいつでも出せる。
まあ一つ欠点を数えるならば……。
「…ねぇ。もしかして、相打ちにしようとしてる?」
「……ッ!!」
マスターの顔が強張った。
……まぁ、そういうことになる。
俺が弾丸を撃ち込めば、そのダメージが俺に返ってくる。
心臓以外を狙っても帰ってくるダメージ。銃を扱い始めて、間もない俺は、腕を貫かれたら即終了、引き金を引くことすらままならないだろう。
……だからこそ、狙うべきは心臓。
一撃で。『死ぬダメージ』を与えなければ、命は無駄に散っていく。
そう。
「だめだよ……そんなの、ダメだよ!!」
「これしか手はありません」
「メテオライトは!!メテオライトを使えば……」
「あのデカい図体をどうやって博物館内で操縦するって言うんです?」
「っ、別に今じゃなくたって!」
「奴の住処はわからない。今もどこかで女を犯し、子孫を残そうとしているのかもしれない!」
絶句するヒバリさんを横目に、アシアちゃんからプリントを受け取る。
ご飯粒で境目が分からないほど完璧に修正されたそれの持ち物の欄。
その禁止事項に。
『尚、女生徒は避妊具の持ち込みは禁止』
……殺す。
これ以上、奴らの好きにはさせない。
「自分の命が惜しくないの!?」
「たった一人、俺の命でハエが殺せるなら……安いもんでしょ」
「…………狂ってるよ……」
狂ってる、かぁ。
【常識人】の中で真の常識人は俺しかいないと思ってたんだけど、とっくのとうに常識から外れていたのかもしれない。
自己満?厨二病?どっちでもいい。
正義感なんて生優しいもんじゃない。
俺はハエを殺したい。
平和を崩し、甘い蜜を啜ってのうのうと生きる奴らが許せない。
「じゃあ……一人で行ってきますよ」
「えっ……」
「これから連絡はしません。俺一人で戦います」
「ちょ、ちょっと……」
バタン。
俺は扉の外でふぅと一息つくと、階段を登った。
変わってしまった世界に……地上を、踏み締めるたけに。
狂うなら……最後まで狂ってやる。
最終決戦だ。
◇
バスの向こうの景色を眺める。
一晩眠りについても、胸の奥の仄暗い闘争心は消えなかった。
どんな方法で殺す?ハエの幹部の後継がいない保証は?
今になって湧き出る不安がぐるぐると胸中で渦巻く。
「それでは皆さん、博物館に行く前に、携帯の電源は切ってくださいね!」
「「「は〜い」」」
携帯に表示された、『着信:日張さん』の文字。
……電源ボタンを長押ししてリュックに押し込んだ。
「っていうかまゆゆんちょっと太った?」
「やめてよぉ、そんなわけないじゃない」
繭由か……たしかに、なんだか少し太ったような。
太った、太ってない。そんな会話を、続けられるような世界にする。
俺が終止符を打つ。
もう俺は覚悟を決めた。
この制服の内側に縛り付けた───フェザーはポケットに入らなかった───銃で、俺が全てを終わらせるんだ。
バスが止まる。
ハエの博物館……正式名称は蠅ノ暮らし博物館。
反吐が出る。
中身もハエばかりだ。
……猿から人間に進化するやつも、卵から成体になるまでのハエの成長が描かれていた。
女子が恍惚とした表情で眺めていたが、どうにも理解できない。
……薄暗いトンネルの中でガラスの中にハエのミイラが展示されている。
上からスポットライトを当てて、神聖さが醸し出されている。
理解できん。
……最後についたのが、大きなホールだった。
それぞれ配られた番号の席に座る。
ホールの中央には人が一人入れるくらいの箱があり、全員が席に座ると照明が落ちていった。
メインディッシュの登場ってわけか。
スポットライトが当てられ、箱が四つに割れる、
スモークの中から出てきたのは……案の定。
「初めまして諸君」
緑色の甲冑……皮膚が硬化した鎧を纏った、人型の化物。
どこかで誰かが言っていた。この世で一番怖いのは人間であると。
化物は一目で化物と分かるから対して怖くない。
だが、人型は人間がもっとも見慣れた姿であり、それがどれくらいの力を秘めているかも感じ取れない。
「……へぇ。この学校も、中々上玉が揃ってるじゃないか」
奥歯がぎりりと鳴る。
そうやって……色んな命を食い物にして来たのか。
あぁそっか。わかった。お前の生き様はよーくわかった。
唐突に立ち上がる。
視線が集まり、先生が座らせようとしてきた。
「どうしました?トイレなら目立たないように……」
先生は怪訝そうな顔で俺の手元を見つめた。
ピンが抜かれた、筒状の物体、両手に2本ずつ。
「ば、爆弾だぁー!!」
悲鳴っぽい何かを叫んで投擲。
その四つが全て起爆した。
ボォォォン!!
スモークが撒き散らされる。
俺の体が煙に完全に包まれたところで、胸ポケットからスイッチを取り出した。
看板、パネル、ミイラ、etc。
この博物館で回った至る所に仕掛けてきた。
怪我人の一人やふたり、覚悟してくれ。
親指を赤いボタンに沈めると、大きな振動とともに博物館の至る所が爆発した。
入り口が瓦礫によって塞がれる。
よってこの空間にはハエと俺の二人きり。
「今の俺は全身兵器だ……んじゃ、さっさと終わらせてもらうわ。この世界総出の茶番をな」
くるくるっとガンアクションしながら笑う。
さてと。
世界、救いますか。