拝啓、ご先祖様。人類はハエに侵略されました。   作:翠晶 秋

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拝啓、ご先祖様。人類はハエに侵略されました。

ハエとは、地球に住む軟弱な生命の一つであった。

偶然にもそれと同じような姿をした宇宙生命体達は、地球を乗っ取れば食にも快楽にも困らないことを悟った。

そして、はぐれのハエが、幹部と呼ばれるようになった頃。

最後の生き残りの幹部。思慮深く、自身に宿る能力も協力な彼は今、白煙に包まれていた。

 

立ち込める煙を、一閃の弾丸が貫き穿つ。

 

表都は照準を当てたままハンマーを引いた。

ガチリと、硬質的な音を立ててリボルバーが回転する。

……決戦は既に、始まっていた。

 

「ッ!!」

 

即座に引き金を引き、後ろに後退する。

煙が晴れる前に仕留めるか隠れるかしないと、奴に接近戦に持ち込まれたら厄介だ。

だが攻撃の手は止めてはいけない。出鱈目に撃って反射を狙う。

ここまできたらもう退けない。

 

俺が、この世界に終止符を打つと決めたから……!

 

「どこからだ!どこから来ている!」

「勝機……」

 

相手は俺を見失ってる。

座席の下からスカイライナーの外殻を取り出す。

アシアちゃんに改造してもらったスカイライナー。折りたたみ式にしてもらうのと熱源を探し当てる機能をつけてもらった。

 

「ぐうっ」

 

お、反射した弾が当たった。

ということは、俺の体のどこかのダメージが……。

 

「どこにいる……そっくりそのままダメージを返してやる!!」

 

こ、ない。

つまり、相手の能力は、『視認していないと反撃できない』?

これはチャンスだ。

長身の銃を構え、スコープを覗く。

悠長に狙っている暇はない。見つけた瞬間、どこでもいいから撃つ!!

 

ピシュ、と、空気の爆ぜる音。

相手の腕がびくりとはねた。当たったのか。

と同時に。

その腕が、こちらを向いた。

 

死。

 

「だあっ!!」

 

横っ飛びに地面を蹴り、その場を離れる。

先ほどまで俺がいたところに極太の棘が突き刺さった。動いていなかったら死んでいた。

 

死。

 

全身で感じる恐怖と鳥肌。後ろの席に飛ぶように逃げる。

メコ、と棘によって刺された座席が悲鳴を上げた。

初撃を避けるときに声を上げたから大方の位置がばれている。

尻ポケットから爆竹を取り出し、向こう側に投げる。

バオンと、音波が響いた。

 

アシアちゃん特製『音爆弾』。威力よりもその音を響かせることに特化した爆竹だ。

そしてそれは、現在のようなホールだと役に立つ。

音はホールに響き渡り、その威力を増す。

腹に響くようなビリビリとした音を聞きつつ、フェザーに弾丸を装填する。

6発。完全リロードは完了。

 

息を潜めつつ、スカイライナーの残弾数を確認。

ボディが丸いから装填できる弾丸の数が多く、どちらかというとその風貌はマシンガン。

フェザーを右手に、スカイライナーを左手に。

早鐘を打つ心臓をどうにかしようと深呼吸して、煙にむせそうになる。

それで気づいた。煙が薄くなって来ている。

見つかるのも時間の問題だ。追加のスモークグレネードを取り出す。

 

どこに───

 

「みつけた」

「ッ!!!!」

 

死。

 

死、死、死。

 

繰り出される死を、全部紙一重で避けていく。

既に息は上がっている。だが、ここで死んだら【常識人】の存在がバレる。

スモークグレネードのピンを抜こうとするが絶妙なタイミングで攻撃されるため抜けない。

万一抜けたとして、この距離ではあいつを撒くことはできないし、俺が爆発に巻き込まれる。

もっとやり方はあったかもしれんが、所詮は素人。俺は歴戦の兵士じゃなく、今を生き抜く一般人だ。

とっさに作戦が思い浮かぶ訳が───

 

死。

 

「あっぶねぇ!!」

「チッ」

 

ドッチボールの要領でターンをしてその勢いでフェザーを振り抜く。

振り抜いたままに引き金を引くが、弾丸はあらぬ方向に飛んでいった。

徒手空拳詰めて来た相手の腕が腹に当たり、内臓がシェイクされる感覚と鈍痛が響く。

次に顔面だ。膝を落として飛んできた拳を避け、足払いではたき落とす。

相手はバク転で距離を取った。

すかさずフェザーのハンマーを引きつつ、スカイライナーの砲身を根の代わりに突き出す。

 

「付け焼き刃!」

「だからなんだ!!」

 

左手を引けばその重い砲身が後ろに下がり、右手───フェザーが前に出る。

が、照準を合わせた頃にはもういない。つまりは下。

スカイライナーを地面に突き立て、半身を浮かせて横からキック。硬い感触。相手にダメージはない。自分は防御の構えが取れない空中。

 

つまりは死。

 

「(ここで使い潰すッ)」

 

スカイライナーを撃つ。

地面に砲身を突き立てたまま。

長い砲身は弾丸が詰まって破裂し、左腕があらぬ方向に持っていかれた。

空中の俺には反動はよく流れる。慣性の法則に従って俺の体が緊急離脱する。

スカイライナーは手放し、体を丸めて衝撃を流す姿勢。全身を打ちながらも攻撃を避けることに成功。あいつに殴られるよりはダメージが少ない。

 

「はぁ……はぁ」

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 

浅い呼吸を繰り返して次に備える。

ぐしゃり、とスカイライナーの砲身が踏みつけられた。

ぐにゃりと凹んだ砲身。あれではもう狙撃はできない。

 

「お前が初めてだ……俺をここまでコケにしてくれたのは」

「ふぁっくゆー」

 

空いた左手で中指を立てて見せる。

その間にも息を整えるのを忘れない。

 

「ははは……殺してやろうか?」

「ブーメランだぜ、その言葉」

 

やべえ、もう少しぬるめの挑発にしときゃよかった。時間が足りない、

右足の先を浮かせてかかとでターン。踏み込みのある拳を避ける。

背中をフェザーで殴って体勢を崩し、地面を思い切り蹴って入れ替わる形になる。

そのまま凹んだスカイライナーを拾い上げ、幹部に照準を合わせる。

 

「凹んだ銃が撃てるのか?」

「……撃てるんだなこれが」

 

親指でロックを解除。重かったスカイライナーの砲身がパージされた。

すかさずその引き金を引いて弾丸を撃ち込むが、ブリッジのような姿勢で交わされ、戻る反動で肉薄された。

すかさず再度スカイライナーで近距離射撃。

バク宙で距離を取られた。

 

スカイライナーには奥の手がある。

それが、砲身のパージ。

遠距離攻撃ができなくなる代わりに小回りが効く拳銃となる。

弾丸の最大装填数はフェザーなんか優に超える。アサルトライフルほど撃てるそうだ。

つまりは……二丁拳銃だ。

 

こっちから肉薄して上から叩きつけるように弾丸を連射する。反動で左手を体ごと回し、右手のフェザーで相手の腕を強く叩いた。

 

「ぐあっ……刃物、だと!?」

 

フェザー、奥の手。

砲身に取り付けられた刃。

なぜフェザーが、コルトパイソンとは違って無駄に四角形なのか。なぜバイオハザードカスタムなのか。

それは、砲身の下に仕込み刀があることを指していた。本当は安定性のためらしいけど。

照準を合わせ辛くなる代わりに、近距離では最強格の武器となる。なぜって?刃を当てるような状況で照準を合わせるほど距離は保てないから。だから、撃つなら至近距離で。

 

「舐めるなッ!」

 

死。

とっさにその場を離れると棘が空をさらった。

つまりは、切り傷の分をお返ししようとしていたらしい。

そして、さっきの貫くトゲを使ってこないということは、一度能力を発動したダメージは再び返すことはできないということになる。

 

重心が後ろになっていた体を無理やり右足で支え、バネのようにしならせて肉薄する。

牽制のために大仰にフェザーを撃ち、相手が回避のために体を逸らしたところを全力で蹴る。

ドロップキックで体勢を崩させ、スカイライナーを後ろに撃って反動でさらに肉薄。

頭に照準を定め、マグナム(フェザー)の引き金を絞る。

 

「おおおおっ!!」

 

首を横に逸らされ、弾丸は地面を穿った。

鈍痛。腹に拳を食らった。

地面を転がりつつ、もう一度フェザーを放つ。今度は検討外れの方向に穿ち、天井にヒビを入れた。

肘打ち、隠し刃、蹴り。

連撃を繰り返し、最後にフェザーを撃ち込んで大きく離れる。

さすがに疲れた。

 

「フェザーは……外したか」

「余裕こいている場合か?俺はまだ全力を出していないぞ」

「知らない。ハエの言うことなんて信じてないからな。ブラフって可能性も捨てきれないし」

「ハッ。疑り深いこって。奥の手まで使っちまっていいのか?」

「アンタを殺せば、全てが終わる。使わないに越したことはないけど……俺は、ラストエリクサー症候群にはなりたくないんでね。使える奥の手は使うべきだ」

 

こうして話に乗るってことは、相手もそれなりに消耗しているはず。

外傷はあちらのほうが大きいように見えるが、こちらは内臓を揺らされたり、内面的なダメージを負ってきた。吐きそうだ。

つまり、互いに死にかけ。

フェザーをリロードする時間はない。残りの残弾は1発のみ。

スカイライナーは連射できるけど、反動が大きすぎてダメージを与えた後に回避行動を取れない。

この一手で、決めなければ。

 

「ッ!!」

「突っ込んでいいのかぁ!?」

 

スカイライナーを盾代わりにしつつ、フェザーで斬りにかかる。

カウンターの拳が飛んでくるが、スカイライナーは元々硬い上にロールした弾丸があるので衝撃が薄れた。つまり、暖簾を押したようなもの。体勢も崩れる。

 

「はあああっ!!」

「チッ!!」

 

横っ腹を掻っ捌く。

瞬間、横にスカイライナーを連射して能力による反撃を防ぐ。

残りの残弾数が、俺が回避できる回数。

 

「刃の部分に毒でも塗っておけばよかった」

「……………」

 

ノンストップアクションって感じだ。忙しい。

羽を羽ばたかせて俺の頭を掴もうとするタイミングを狙ってフェザーの弾丸を叩き込めば勝ち。それで、すぐにスカイライナーを撃てば……。

 

ブスッ。

 

「あっが、あああああああっ!!」

 

右手首を貫かれ、尋常じゃない苦痛にフェザーを取り落とし悲鳴を上げる。

回避に使おうとしていた残弾を奴にぶちまけるが、機動力が高すぎてほとんど避けられた。

 

「くっ」

 

引き金を引くが、ガチリという音が鳴る。弾切れ。

スカイライナーの残弾は撃ち切った。反動を回避に使うことはできない。

恐る恐る上を見上げる。

()()()()()()()()()()()()()()奴が、笑っていた。

つまるところ。

 

 

 

死。

死。

死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死

死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死。

 

 

 

俺の至る所から、赤黒い液体が飛び出す。

死線が、俺を貫き続けた。軽率にマシンガンもどきを撃ちまくった結果だ。

棘が、俺の腹を、腕を、足を、貫く。

 

「ヒーロー気取りが」

 

ぶぶぶ、と耳障りな音を立てて奴が俺の目の前に着地する。

這いつくばっている、俺の目の前に。

 

「俺の体にこんな傷をつけやがって。せっかくいい女を見つけたのによ」

 

意識が朦朧とする。

 

「ヒエン様の子供をくださいって、懇願してくるんだ。胸もでかいしやりたいときにやらせてくれるし、いい女だぜ、ほんとに」

 

ヒエン。ヒエンって言うのか。

 

「ついこの前の話だ」

 

俺の頭に、ヒエンの足が乗せられる。

ふざけんな、どけよ。

 

「お前の学校で見つけたんだ。あっちから求婚してきてな。子供には新しい幹部になってもらう」

 

将来設計とかどうでもいい。

 

「ま、幹部が全員消えたら全てが元どおり。そんなことするわけにはいかない」

 

んなこといいから、早く。

 

「早く……」

「ん?どうした?辞世の句か」

「早く俺の上からどけよ……」

 

もうな。

機は、熟してるんだよ。

 

「しね」

「そのボロボロの体でまだそんなことを……ッ!?」

 

ミシミシ。

ミシミシミシ。

天井のヒビが、大きくなる。

 

「こいッッッ!!!メテオライトォォォォオオオオオオッッッ!!!

「なッ……」

 

メテオライトは、特殊な弾丸を近くに放てば起動する。

軽自動車モードのメテオライトを、屋上駐車場に配置していたとしたら?

答えは簡単。

ヒビは実は穴であり、そこから飛び出た弾丸に反応して、メテオライトが起動した。

 

「そっ、それはなんだ!?その黄色いのは!!」

「俺の最後の……奥の手だ」

 

満身創痍のヒエンは、瓦礫に足を挟まれている。このチャンスしか、ない。トリガーに手をかける。

 

プロトろぼ『奥の手』。

その人型は変形し、腕に詰まれたマシンガンとランチャーが前面部分に来る。

軽自動車モードの時の扉や外装が己を守る壁となり、絶対不可避の一撃を与える。

全ての弾を撃つ負担からメテオライトは再起不能となり、迂闊には使えないまさに必殺技。

 

長い主砲、己を護る壁、そして、突き出されたトリガー。

まさに、それは。

 

「対戦車砲……!!」

 

照準を、構える。

 

「これが最後だ」

「や、やめ……」

「遺書は遺したか?地獄の隅でガタガタ震える準備はオーケー?」

「わ、わかった。引き分けだ!あの女からも手を退く」

 

最後の最後で小物っぽくなるんじゃねえよ。

生き残りなら、生き残りらしく、どんと構えて。

 

「しにやがれ」

 

カチリ。

 

「ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!

「あああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───。

──────。

─────────。

 

「───ごはっ、ごほっ、ゲホッ」

 

飛んでいた意識が戻って来る。

ホールは既に壊滅状態。

壁には大きな風穴が空き、そこにヒエンの姿は無かった。

 

「終わった……」

 

塵一つ残さず、吹き飛ばしてやった。

現代武器の、勝利だ。

もっとも、その現代武器……メテオライトは、極太の棘によって貫かれ、原型を止めていないけれど。

 

メテオライトの残骸を眺めながらぼーっとしていると、ガチャリとドアが開けられた。

 

「表都、君?」

「……いりうら」

 

繭由がいた。

そういえば、繭由を助けるためにこんなことしてたんだっけ。

あれ、ただの正義感だった気もする。

どっちだっけ……。

 

「表都君だったの?」

「え……」

()()()を、殺してたのは」

 

さま?

さまって……なんで?

 

「ハエなんかきらいだろ……?」

「何言ってるの……!?大好きだよ!!みんなだってそう!!なんで幹部様を殺したの!?」

 

……幹部を殺せば、元に戻るのでは?

…………。

……そんな話、してなかったっけ?

 

「いや、でも」

 

ヒエンがさっき、幹部が消えたら全部が元どおりって……。

 

「……あ?」

 

 

『子供には新しい幹部になってもらう』

 

『ついこの前の話だ』

 

『お前の学校で見つけたんだ』

 

 

「あ、あああ」

 

 

『っていうかまゆゆんちょっと太った?』

『やめてよぉ、そんなわけないじゃない』

 

『ねぇ聞いて?私、ようやくハエ様の子供を授かれたんだよ』

 

 

「さいあくだ」

「表都君……」

「だまれッ!!」

 

入裏を突き飛ばす。

尻餅をついた入裏は自らのお腹を抱えた。

 

「やめて……お腹には……赤ちゃんがいるの」

 

フェザーを拾い上げ、仕込み刀をしまって安定性を上げた。

見た目は、出会ったときのフェザーだ。

 

「うん、がてんがいったよ。このクソみたいなヒエラルキーがおわらないわけも」

 

入裏の腹に、ヒエンの子供がいる。

 

「はは、ははは……こんなちかくにいたなんて」

 

頰をなにかが伝う。しょっぱい。

フェザーのハンマーを引いた。

 

「やめて」

「やめて、メリットがあるか」

「幸せになりたいの」

「おれはしあわせじゃない」

「そんな……」

 

フェザーの銃口を、入裏のへその下あたりに向ける。

残りの1発は、外さない。

 

「いりうら」

「……何」

「すきだ」

 

だからこそ。

 

「いりうらには、そんなくつうをうけてほしくない」

「何いってるの……!!」

「ひととしてのほこりをもっていてほしい」

「狂ってるよ!表都君は狂ってる!!」

 

何言ってるんだか。

俺は【常識人】だぞ。

 

「だいじょうぶだ。こどもがかんぶなら、それでぜんぶおわりだ」

「何言ってるのって……ねぇ!!」

 

起き上がろうとした入裏の腹を蹴る。

動くなよ、照準が定まらないだろ。

 

「おれはせかいをすくう」

「盲信だよ!!」

「どのくちが。おれのきもちもわからないのに」

 

……ああ。

俺、最低だな……。

 

渡瓶(とがめ)君』

 

きっと、ヒバリさんならこう言うんだろうな。

 

『本当にそれで良いんですか。みんなに何も言わずに、それで死ぬんですか』

 

そうする。告白の返事、できなくてごめん。

 

『おめえは最後まで狂ってやがったな。好きにしやがれ』

 

コブさん。頑固なこと言ってすみません。でも俺一人でもここまで来れました。

 

『………………。』

 

マスター。そんな顔しないでくださいよ。笑ってるあなたがみんなの士気をあげるんです。

 

『しらん。勝手にしろい』

 

勝手にします、じいさん。

 

『……お兄ちゃん』

 

アシアちゃん。ごめんね、こんなのをお兄ちゃんって呼ばせて。

 

『んーん。でも一つ、気になることが』

 

なんでしょうか。

 

『対戦車砲の使い心地は?』

 

……やけにリアルな妄想だな。

そうだな、それに対する答えは……。

 

 

「二度とあんなものを作らせない」

 

 

意識が晴れた。

もう一度、深呼吸してフェザーを構える。

悪い入裏。

俺、世界救わなきゃならんのだわ。

 

「いや、いや、いや…………!!」

 

 

 

 

さよなら

 

 

 

 

ガチッ。

 

 

 

 

死。

 

 

 

 

 

 

 

 

よく気絶する日だ。

首を上げると、光に包まれた空間に俺はいた。

次に視線を落とすと、俺の胸から極大の棘が突き出ていた。入裏の赤ん坊───ヒエンの能力を継いだ赤ん坊に『死ぬダメージ』を与えたから、俺の心臓が貫かれたんだろう。

足元には血溜まり。床がそこにあるんだろうか。見えない。

 

「……なんの用があって俺はここにいるんだよ」

 

俺、ちゃんと世界救えたのかな。

(いばら)に刺されて、腕も貫通してて、貼り付けにされてる。

 

「救えたぞ」

「…………!」

 

俺の目の前に誰かがいた。

緑の皮膚鎧に、背中の羽。

ハエだ。

 

「うっ、ぐう、あああ」

「動かないほうがいい」

「ハエのくせに何言ってやがる」

「……申し訳ないことをした」

 

今すぐにでもその首絞めて……あれ?

ハエは土下座した。

 

「部下の責任は上司の責任だ。この通りだ」

 

話が、見えないんだけど。

 

「……私たちの種族は、宇宙を旅している。そして私は、あなたたちの言うところのハエ……の、王。親衛隊と民を連れて宇宙を走っていたところで、兵士の一部が声を上げた。休憩にしませんかと。……実のところは反乱だった。兵士は私の隊列から外れ、近くの星に逃げていった。そして奴らは、その星の民に強固な暗示をかけるつもりで、私たちが追ってこれないようにその星に結界を張って姿が見えないようにした」

 

……は。それが地球と言いたいわけですか。

 

「私は焦った。好き勝手されると星としての根源が崩れる。だから私は、あるウイルスを地球にばらまいた。結界を通り抜けるのはそのウイルスしかなかったから。そしてそのウイルスに感染したものは、奴らの暗示にかからない耐性を身につけた」

 

異変の日に俺が病気になっていたのって、そういう。

っていうかいつまで俺は血を流し続けなきゃならんのだろう。

 

「そして、ウイルスが世界に広まってすぐ、奴らは下級兵……あの、あなたたちがこぞって倒していたデカいハエというやつを率いて、世界中に暗示をかけ始めた。……結果が、今のそれだ」

「……んで、ごほっ、かはっ」

「口を動かすな。心を読む」

 

なんで、日本が選ばれたんだ。別の国でも良かったじゃないか。なんで幹部は日本に来たんだ。

 

「そういうものを、信じてしまう心があったからだ」

「……どういう……」

「こうであったらいいと言う心が、欲望が、人一倍強い。だから、暗示をすんなり受け入れる日本人から暗示をかけ、雪だるま式に増やしていったのだろう」

「じゃあ……げほっ」

「喋るなと…」

「あああああああああッ」

「ッ…………」

「俺は喋れる。血ぃ吐いてもな」

 

じゃあなにか。

 

「アンタの兵士は、特に同行という理由が無く、攻めやすいからって理由で選んだのか」

「そういうことになる」

「アンタのせいじゃん」

「は……」

「アンタのせいで!アンタのせいでこんな目に!!」

「…………」

「反乱だった!?バカにすんな、反乱起こされる方が悪いだろバカ!!もっと早く来いよ!もっと早く助けろよ!なぁ!!お前の不注意で、どれだけの人が悲しんで、どれだけの人が死んだかわかってんのか!おいコラ!!おいっ!!」

「…………」

「結局のところお前が元凶だ!殺してやる!!フェザー持ってこい、そのゆるゆるの頭ぶち抜いてやるからな!!お前せいで!お前のせいで!!お前が!!お前が……!!お前、が……!!うああああああああっ!!」

 

棘に刺されている腕を無理に動かし、棘を引っこ抜く。

とどけよ、俺の手!!こいつを、殺すんだ!!

 

「…………」

「だんまりしてんじゃねえ!!この世の法則ねじ曲げといてなにしてやがる!?お前に償えんのか!!お前のウイルスに感染さえしなけりゃ、俺だってこんな目には」

「合っていた」

「……は?」

「ウイルスに感染しても、ハエに好きな人を取られた恨みからクーデターを起こしていた。君は、そういう人だ」

「…………」

 

チョロすぎんだろ、俺。

 

「私に償いはできない。が、地球を元の状態に戻すことは可能だ」

「戻す、ことって」

「あの日、ハエの暗示が世界に広まる前の世界に」

 

……じゃあ入裏は、死なないってことか。

 

「ああ」

 

血の臭いも嗅がなくていい。

 

「ああ」

 

全てが、元どおり。

 

「ああ」

「今すぐにでも!!」

「……ああ」

 

王が、手を俺の額にかざす。

一瞬身構えたけど、危害を加えるつもりはないらしい。

 

「もう、あんな思いはさせない。もう、精神を病む必要はないんだぞ」

「……病んでたっけ、俺」

「病んでいる。自分でも、ハエと戦うことに抵抗がなくなるのが早いと思わなかったか?」

「そっか、俺、病んでたんだ」

「ああ。……でも、これももうすぐ良くなる」

 

ところで、と王が付け足す。

 

「記憶はどうする」

「記憶?」

「今までの記憶だ。あの狂った世界での記憶」

「……考えさせてくれ」

 

みんなと会いたい気持ちはある。

っていうか。

 

「みんなはどうしたんだ」

「既に【常識人】の精神世界は回った。プライバシーのため回答は言わないことにする」

「……そっか」

 

みんな、もう道を選んだのか。

気になるなぁ。ああ、気になる。

……記憶を残すか残すまいか。

 

それじゃあ。

 

「それじゃあ、俺は──────

 

 

 

 

ピピピピピ。

 

「はっ」

 

目覚まし時計の音で目が覚める。

ん〜ん、いい朝。

おでこに手を当ててみるけど、昨日までの高熱が嘘のようだ。

 

「これなら学校いけるかも」

 

スマホを調べると、入裏からのメッセージが来ていた。

『もいもいのキーホルダーゲット』らしい。

 

「相変わらず悪趣味だよなあ」

 

でもちょっとほっこりした……というところで、腹の虫が音を上げる。

お腹すいたな〜っ。

 

「おはよう」

「おはよう表都」

「あらあら、寝癖すごいわよ。髪とかすからその間にご飯たべちゃいなさい」

「うん……」

 

トースターをかじりつつ、テレビを眺める。

……ん。なんか今のニュースどっかで見たような。

気のせいか。速報だもんな。

 

『次は今、流行りのスイーツがあると話題の、この出店に……』

「あ、そうだ母さん」

「なんですか祐一さん」

「これ、今朝ポストに入ってた手紙。差出人心当たりあるか?」

新立(にいだち)さん……?私も聞いたことないですねぇ」

 

新立?どっかで聞いたような……ああそうか、ヒバリさんの苗字か。

……ヒバリさんて誰だ。

 

「表都は?」

「なんかその苗字、夢で聴いた気がする」

「なんじゃそりゃ」

 

ふぅむ。なんなんだろうな。

 

「はい完成!表都、キマってるわよ」

「七三は止めてっていつも言ってるじゃんか」

「あああっ!?」

 

綺麗に分けられた髪の毛をくしゃりとすくと、母さんはショックを受ける。

いつもの日常だ。

なんの面白味もない。

 

「それじゃあ、行ってきます」

「行ってらしゃい」

 

外に出ると、まぁなんていい天気。

しかしなんだか、気分が晴れない。

忘れものはないはずだけど……。

 

「制服が軽い気がするんだよなぁ」

 

内ポケットに物が無いことに違和感を覚える。

内ポケットなんか使ったことないのに。

まいっか!違和感なんてしょっちゅうだし。

 

いつもの通学路を歩く。

代わり映えのしない毎日だ。

……けど、なんだか久しぶりに歩く気がする。

 

未夢(みゆ)、また図工の評価五点だったのか!!」

「……ん。将慈(しょうじ)おじさんのおかげ。でもご褒美は欲しい」

「……わかったわかった、こんどガンプラ買ってやるよ」

「ん!!」

 

すごいなあ、あの子。

評価が五点って、最高得点じゃないか。

それに趣味がガンプラって……渋いな。

 

『はっ!!せええええい!!』

『剣筋がぶれとる!そんなんじゃ斬撃は飛ばせんぞ!!』

『『『はい!!』』』

 

ここの道場のじいさん、中々引退しないなぁ。

それに斬撃は飛ばせません。まったく、耄碌(もうろく)じいさんだ。

 

『おいいま俺のこと耄碌じいさんだとか思ったやつおるじゃろ!』

 

やっべぇ。

顔を合わせたことはないけどここのじいさんはスパルタって話だ、絶対見つかりたくない。

 

……???

 

なんか後ろ髪惹かれるなぁ。

さっきのおじさんもちっちゃい子も、あの怒鳴り声も、全部覚えがある気がする。

…………??????

 

しばらくして歩くと、ちょっとした人の列が。

 

「マスター、タピオカシスオレンジ!!」

「……はい。そちらのお二人は」

「私はスカイライナーカクテルかなあ」

「じゃあアタシはメテオライトサンドにするー」

「……!!畏まりました」

 

出店?

ああなるほど、バーにありそうなメニューをノンアルで売ってるのか。若者風にアレンジして。

たしかさっきのニュースに出てなかったっけ?

バーの主が出店を構えたとかなんとかで。大人っぽい雰囲気と静かな笑いが人気で、スイーツのみならずマスターまでもが人気……だったっけ。

 

違う高校の女の子が、それぞれ飲み物やスイーツを手にしてキャッキャしている。

長い髪の子の横を通ろうとしたとき……。

 

「渡瓶君?」

「……え?」

 

名前を呼ばれた。

 

日張(ひばり)、誰?知り合い?」

「いや……ごめん、先行ってて」

「え、う、うん」

 

え、え、え。

誰この子、僕知らない。

……っていうか日張?ヒバリ?今朝の違和感の名前?

 

「やっと会えた……」

「……どちら様でしょう」

「えっ……そっか。渡瓶君はそっちを選んだんだ」

「え、状況が読めないんですけど。どこかで会いました?」

「……ううん、大丈夫です。……そっか、無かったことにしちゃったんだ。……私の、一世一代の告白も」

 

え、待ってほんとに心当たりないんだけど。

そんなことより罪悪感ぱねえ。まじ卍。

あ、いや、そうじゃないんだ、そうじゃ。

 

「ええと……」

「ほっ、本当に大丈夫ですから!…………じゃっ、またいつか、渡瓶君」

「えっ、ちょっ!!」

 

風のように去っていった……なんだったんだあの子。

行き場のない手を持て余していると、スマホに振動。入裏からメッセージ。

ぴ。

 

 

『ごめん』

                      『?』

『止まらない』

『後ろ』

『ブレーキ壊れた』

 

 

バッと後ろを振り返る。

あーなんか見える。暴走列車みたいな入裏が自転車乗ってこっちきてる。

 

 

『止めて』

『ごめん』

                      『ばかやろう』

 

 

無理だろそりゃああああああああっ!!!

あっちょっ待っ、心の準備がちくしょおおおおおおおおおおおおおおうおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜Fin〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『拝啓、ご先祖様。人類はハエに侵略されました』をご愛読いただき、誠にありがとうございました!!


ここから先は制作に当たっての後書きというか、ちょっとしたアフタートークになります。


軽い気持ちで書いていた小説がまさかここまで来るとは思いませんでしたよほんとにもう。
なんだか展開のリクエストをしてくれた方もいましたが、そのリクエストをもらった時点で既に最終話の展開を決めてしまっていたので、申し訳ありませんがこのまま押し通ることになってしまいました。

最後にヒロインのお腹をぶち抜いて幹部の最後の一匹を殺すという鬱展開は初期の段階から決まっていたもので、意外といい感じに持っていけたんじゃないでしょうか。

一時期は日間ランキング3位まで登り詰めることもできたし、評価なんかはオレンジ帯まで行きましたからね、頭が上がらないです、はい。

結構長続きしていたシリーズが終わってしまうのは名残惜しい感じがしますが、これも作家としての勤めと言いますか。
約二年間の間、ハエを駆逐してきた主人公たちに、どうか読者様の暖かい拍手を。
そして、そんな長い間付き合ってくださった読者様には、私から心からの感謝を。

本当に、長い間ありがとうございました!!!!
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