「……うん?」
モフモフがモゾモゾと動く感触で目を覚ました。一瞬ボーッとした頭で尻尾を見つめて、昨日のことを思い出す。
「夢じゃなかったか……」
嬉しいような寂しいような。とりあえず立ち上がろうと体を起こすが、巻きついてくる尻尾に阻害された。
「あのー、起きたいんだけど雪狐……さ……ん……?」
「ふふふ」
尻尾ではなく本体の方へと目を向けると、その姿は昨日とは見違えたものになっていた。
薄い青色を帯びた、雪のような白髪。首下までかかるそれを大きなリボンでポニーテールに束ねている。雪の結晶のような紋様の入った白い着物に身を包み、こちらに向かって可愛く微笑む。
「おはようございますわ、旦那様♪」
「雪狐ぉぉぉぉ!?!?」
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「……で、なんでヘンカしてたんだお前は」
「朝目覚めると美少女が同衾している──みたいな、殿方はそういうのがお好きと聞きましたので♪」
「同衾っていうか尻尾に埋まってただけなんだけどな?」
落ち着くためにレジャーシートの上で正座をし、向かい合って話し合う。着物のおかげか正座姿がとても様になっている。和服美人といった印象だ。
「もう、旦那様のいけず……昨夜は私の尻尾にあんなことやこんなことをした癖に……」
「なっ、俺は何もやってな」
「『寝ていたから、意識がなかったから』……そんな言い訳をして逃れるおつもりですか!? 昨日はあんなに私を求めたというのに……」
「雪狐っていうより尻尾の方だよ!」
「私じゃなくて私の体が目的だったんですね……」
「体っていうより尻尾の方なんだが……いや、雪狐自身のこともしっかり、その……なんだ、大切にするから……」
「……すみません、旦那様。少々からかいすぎました」
腰を丸め、雪狐は丁寧に頭を下げた。
「改めまして、雪狐でございます。貴方に育てて頂いたアローラキュウコンです。誠心誠意旦那様の役に立つ所存でございます、よろしくお願い致します」
「よろしく、雪狐。そんなに畏まられるほど大した男でもないから、もっとラフでいいよ」
「あ、そうでございますか? それならそういった感じでいきますけど」
「……まあお好きな方で」
「よろしくお願い致します、ご主人様♪」
「こ、こちらこそよろしく」
「むむ、少々席を立っていた間に何かが進んだ様子」
ただいま戻りました、と両手にバケツを抱えたレジャーナが帰ってきた。ドレスのせいで不釣り合いな上に歩きづらそうに見える。
「おかえり。水なら鞄の中に『おいしいみず』入ってたみたいだし、わざわざ汲んでこなくてもよかったのに」
「いえいえ、そんな勿体ない真似は出来ません。節約出来るところはしっかり節約しないと」
「そ、そっか……」
見た目のイメージとのギャップがすごい。しかしその言葉は口に出さず、飲み込むのだった。倹約家なのは普通にいいことだと思う。そういえば、所持金はどうなっているのだろうか。
「所持金は恐らく持ち越されているはずです」
「マジか!?」
暇潰しにポケモンリーグを周回していた時期があったため、そうであるなら資金には大分余裕がある。軽く資産家レベルである。案外この時点で気ままで楽しいポケモンライフが送れるのかもしれない。
「私としてはその……貴方に育てて頂いた身ですし、精一杯戦って生きたい所存でありますが」
「あー、すまん。冗談だから気にしないでくれ。戦わずに生きるつもりなんてないよ。ズルしてるみたいで何か嫌だし」
まあ結局俺が稼いだ金みたいなので、ズルも何もないんだけど。自分のポケモンの手前、少しカッコつけてしまった。
「流っ石旦那様! 格好いいです!」
「ん、ありがとう雪狐」
抱きついてくる雪狐を見ながら、結構大きいんだなこの子と素直に思ってしまった。何処からか殺気を感じたのでこれ以上は何も考えないことにする。
「私は……その、マスターが働いていようが働いていなかろうが、貴方に着いていきますので」
何なら養いますので! と顔を赤くして言うレジャーナを見て、悪い男にだけは引っかかってはいけないぞと言いたくなる。言った。
「大丈夫だよレジャーナ、幸いお金は結構あるみたいだし。んー、とりあえずそのお金を元手にこの世界を回りたいと思うんだけどどうだろう?」
「賛成ですわ♪」
「いいと思います!」
二人の賛成も得られたので、とりあえず今後の予定を明確に立てていきたい。所持金は相当ある。とするなら、二、三の地方をのんびり巡るくらいの余裕はあるだろう。
「あ、そういえばここってどこの地方なんだ?」
「カントー地方みたいですよ。鞄の中にタウンマップが入っていますので、詳しい場所はそちらで確かめていただいたほうがよろしいかと」
言われたとおりに鞄の中をまさぐる。すぐに紙らしき手触りに行き当たったので、取り出して開いてみる。タウンマップである。帽子や服装の雰囲気からして俺だと思われるデフォルメされたキャラクターが、現在地らしき場所に立っている。GPS付きかよ。
「タッチすると場所の名前が表示されるそうですわ」
「しかもタッチパネル!? どう見ても紙なのにすげーな!」
試しに現在地に触れてみた。一番道路、と表示される。どうせならマサラタウンから始まってほしかったが、まあ赤緑世代としては十分嬉しいスタートだ。
「……よし、朝ごはん食べたらとりあえず街まで行くか!」
「「はいっ♪」」