喋る刀と大海賊時代を生き抜く   作:オハギ

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第5話です!


5話 旅立ちです。

 

 はぁ〜い、強く美しいパーフェクト刀の氷姫でぇ〜す!

 

 

 ━━━なんて、柄にもなく可愛い子ぶってみた私であった。

 

 ええ、無いわ⋯⋯無いわね。

 やっぱり清廉潔白な私には落ち着きが一番似合うと思うの。

 しかし、人には好みというものがあるし、一応私の新しい適合者に意見を聞こうかしら。

 

『という訳で可愛い子ぶりとクール、どっちが良いと思う?』

 

「知るかっ!?今それどころじゃ━━━ぐほッ!!」

 

 あ、キースが蹴られて吹き飛んだ。

 

 まったく、集中力が足りてないわねぇ。

 そんな調子だから一年経っても二人目(・・・)で苦戦しちゃうのよ。

 

 ⋯⋯まあ、本音を言えば、一年経っても一人目の海兵だった彼を倒せるとは思ってなかったんだけどね。

 

 腐っても海軍本部の中将だった彼は、性格に難はあれど実力は本物だった。

 幼女を前にしたら息を荒くする癖にね。

 

 そんな彼にキースは勝利した。

 運ではなく、正真正銘己の実力で。

 

 初めて私を手にした時はヘナチョコ貧弱少年だったのに、今じゃ少しは男らしくなったかも。

 ほんの少しだけね?

 

「うぐぅッ、⋯⋯クッソ!痛いじゃねぇかこんちくしょー!」

 

 蹴られた腹部を手で抑えながら吠えるキース。

 そして私を構え、相手に向かって獣の如く駆けていった。

 

 

 それに⋯⋯何故かしらね。

 

 キースといると何か懐かしさを感じるのは━━━

 

 

 

 

 ▽■▽

 

 

 

 

「⋯⋯」

 

「ふッ!はッ!━━━うおっと!?」

 

 はい、氷姫主催の修行(殺し合い)です。

 只今、俺は二人目の相手である元氷姫の使い手だった海賊の男と刀を交えていた。

 

 え、一人目の海兵はどうしたって?

 ふっふっふ⋯⋯!

 ああ、倒しましたよ!この手でズバッとねッ!!

 

 いやぁ⋯⋯何度切り刻まれた事やら。

 

 現実じゃないとしても、斬られたら勿論血は出るし、腕を切り落とされたらその痛みが襲い掛かってくるんだ。

 

 でもどんなに血を流しても“ここ”では死なねぇんだよ。

 そりゃ、何百と斬られれば死ななくても狂うわな。

 俺よく正気を保ってられたと思う。

 いやマジで。

 

「⋯⋯⋯」

 

「うおっ!?」

 

 我ながら天晴れ、と思っていると、俺の足元から小さい氷の柱が顔を目掛けて飛び出してきた。

 俺は咄嗟に上体を反らし、避けて安堵するが⋯⋯。

 

「げっ」

 

 見上げた先にあったのは巨大な氷塊だった。

 氷塊はその大質量を以て、ちっぽけな人間である俺を押し潰さんと襲いかかる。

 

 そして、氷塊が地面に着弾した瞬間、衝撃波が周囲へ発せられる。

 

「⋯⋯」

 

 相手を仕留めたからだろうか。

 海賊版靄人間は、刀を下ろして戦闘モードを解除した模様。

 

 ━━━まだ俺生きてるのにね

 

 

「油断してんじゃねぇよ」

 

「⋯⋯ッ」

 

 俺の声に反応して再び刀を構える靄人間だが、残念。

 既に奴の四方には氷壁を展開して逃げ場はないぜ。

 ⋯⋯ああ、上は閉じてないけど、もう遅いよ?

 

「お返しだぁぁぁッ!」

 

 俺は奴の上空に槍のように鋭い氷塊を創り、先程のお返しと言わんばかりに刀を振り下ろしてぶち込んでやった。

 氷壁ごと粉砕した氷塊。氷の粒がパラパラと飛び散る。

 

「⋯⋯よ、っしゃ」

 

 俺は奴が消滅したことを確認し、氷姫を手放して仰向けに倒れた。

 ドクドクと白い地面に流れる俺の真っ赤な血。

 

 き、斬られすぎた⋯⋯けど、倒した⋯⋯っ!

 

 俺は痛む体で小さくガッツポーズする。

 前回の海兵には倒すのに十ヶ月かかったけど、今回の海賊には三ヶ月で倒せた!

 

『二人目も倒したわね⋯⋯お疲れ様』

 

「おう、どうだ⋯⋯これで脱貧弱、だろ⋯⋯?」

 

 人の姿になった氷姫に、俺は笑みを浮かべながら言う。

 氷姫は“ええ、そうね”と困ったように微笑んで俺の近くに座った。

 

『ご褒美でもあげようかしら?』

 

 そう言って、氷姫は俺の頭を軽く持ち上げ、自身の太ももに乗せる。

 え、これって⋯⋯もしや。

 あれか?

 

『ええ、膝枕よ。嫌だった?』

 

「ご褒美です!」

 

 いかん、つい反射的に本音が。

 

 だって仕方ないじゃん、健全な19歳だもの!

 というか俺が史上初じゃないだろうか、美女とは言え刀に膝枕をして貰うのは⋯⋯?

 

『これが最初で最後だからしっかり味わいなさい』

 

「了解!」

 

 ふむ、ならば折角だ。

 堪能しなければ勿体無いよね!

 

 俺は痛みを落ち着かせるように目を瞑り、そのまま眠りについた。

 

 

 

 

 ▽■▽

 

 

 

 

『結局、助けの船が来ないまま二年が経っちゃったわね』

 

「ははは、無慈悲だよねぇ」

 

 神様なんていなかったのさ。

 でもいいもん!自分の道は自分で切り開くんでね!

 

 海に出来た果てしない一本の氷道を見て、俺はそう思った。

 

「人間って⋯⋯やればできるんだな」

 

 しみじみそう思う。

 この島に来て、貧弱なキースは捨て去ったぜ。

 俺を何度も食べようとした獣も、今じゃ俺のペットみたいなもんだし。

 

『そのペット、見送りには来てくれないけどね』

 

「そうだね」

 

 悲しいかな、懐いてはくれなかったんだ。

 まあいいさ!元気で生きてくれればそれで!

 

 そして、一番印象的なのはやっぱり━━━

 

『私の修行でしょ?』

 

 氷姫さん正解!

 

 特に一人目の海兵だよ。

 何だよあいつ、動き速すぎるし、空中を蹴って飛ぶし、ひらりひらりと避けるし、めっちゃ堅くなるし⋯⋯蹴りで斬撃飛ばすし⋯⋯指で体を突き刺してくるし⋯⋯!!

 

 アイツの動きに慣れるまで、どれだけ痛い思いしたか⋯⋯。

 

『私の記憶から創ったけど、中々強かったでしょ?』

 

「うん、現実だったら何百回も死んでた」

 

 あの海兵で一番弱いなんて信じられないけど。

 

 過去の氷姫の使い手は全員で7人いたらしい。

 随分少ないと思ったら、これは氷姫に適合して力を引き出せた人達なんだとさ。

 

 氷姫曰く、それ以外の不適合者⋯⋯つまり力を引き出せなかった人達は何十人、何百人と居て、顔も名前も覚えてないらしい⋯⋯どんまい。

 

 んで、その7人の中で、俺が倒した海兵が実力的に7番目で海賊が6番目。

 

 あの海賊は億越え賞金首だって聞いたときは納得したよ。

 アイツも強すぎだ。

 その上に5人もいるとか正気じゃねぇよ。

 

『私を使うんだもの、強者じゃなくちゃ困るわ。キースもしっかりね?』

 

「へいへい」

 

 氷姫が俺に悪戯っぽく問いかけてくるが、適当に返事をしておく。

 

 まあ俺は、氷姫の記憶から創られた中将とは言え倒した男ですから、ええ。

 多少は強いと自負させて頂きますよ。へへっ。

 

『なんとも小物臭い』

 

「うっさい!」

 

『私が認めたんだから、胸を張りなさいよ』

 

「⋯⋯えっ」

 

 突然の氷姫の言葉に俺は戸惑ってしまう。

 

『あなたの努力を隣で見てきたのは私よ?正直、直ぐ死ぬんだろうなぁ⋯⋯とは思ったけど』

 

「おい」

 

 とんでもない事を暴露しやがったコイツ。

 まあいいや、氷姫の言葉を聞こうか。

 

『━━━でも、あなたは立ち止まらなかったじゃない。何度無様にやられようと、私が影で笑っていようとも!』

 

 うんうん、うん?

 

『その結果、あなたは島を結ぶ程の力を手に入れたのよ。だから⋯⋯自信を持って誇りなさい』

 

「お、おう」

 

 途中、聞き捨てならない台詞が飛んできたけど、聞かなかったことにしよう。

 初めて氷姫が俺の事を認めてくれたんだ。

 その事は素直に受け取っておこう。

 

 

 

 

「んじゃ、行きますか!」

 

『ええ』

 

 食料やその他諸々を可能な限り準備し、氷で創ったソリの上に乗せた。水は氷を融かして補給すりゃいいし。

 もし食料が無くなっても、魚でも釣ろう。

 

『方向は合ってるの?』

 

「おう!この島にくる前に永久指針を買っておいたからな!」

 

『あら、キースにしては準備が良いわね』

 

 相変わらず一言多い氷姫だ。

 でもちゃんと買ったもんね!アルバスト(・・・・・)の永久指針を!

 

 

 

 ━━━この時、ちゃんと永久指針に書かれている文字を読んでおけばと後悔しました。byキース

 

 

 

 

「天気は良好、最高の旅立ちの日じゃないか」

 

 俺はすこぶる快晴な空を仰ぎながら、氷の道へ足を進める。

 そして、一度島の方へ振り返り、深く頭を下げた。

 

「二年間、お世話になりました!」

 

『律儀ね⋯⋯』

 

「こういうのはちゃんと言わないと駄目なんだぞ?」

 

 

 俺は海へ歩み出す。

 

 

 

 




てな訳で、漸く旅立ちです。
次回から原作キャラが登場します。きっとね!


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