喋る刀と大海賊時代を生き抜く   作:オハギ

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8話です!


8話 アラバスタに到着です。

 

 

 

 

 モンキー・D・ルフィが率いる海賊団━━━麦わらの一味。

 

 この海賊団は常に活気に溢れており、些細な出来事でもドンチャン騒ぎをするような賑やかな集団だ。

 次の目的地であるアラバスタ王国へ目指す道中でさえ、船長を筆頭に賑やかさが絶えない。

 

 しかし、今この瞬間だけは違った。

 

 彼らの船から響いてくるのは笑い声でも無く、怒号でも無い。

 聞こえるのはただ一つ⋯⋯刀と刀が交わる度に響き渡る金属音である。

 

「⋯⋯まじかよ」

 

 狙撃主のウソップが目を見開いて呟いた。

 眼前で繰り広げられている光景が信じられないのだろう。

 いや、彼だけではない⋯⋯仲間全員が同様に驚愕していた。

 

 それもその筈だろう。

 

 この一味の主力である三刀流剣士のロロノア・ゾロが、同じ剣士であるキースに一太刀も与えられていないのだから⋯⋯。

 

 

(⋯⋯何なんだ⋯⋯コイツは⋯⋯っ!?)

 

 観客であるルフィ達以上に驚愕しているのは、他の誰でもないゾロ本人だった。

 

 己の積み重ねてきた剣技。

 その悉くを否定するかのように、目の前の男は受け流している。

 

 初めは二刀流で相手をするつもりだったが、気が付けば3本目の“和道一文字”を引き抜いていた。

 肩慣らしという事も忘れ、ただひたすらに刀を振るい続ける。

 

(⋯⋯切り崩せねェ⋯⋯ッ)

 

 ゾロの中に焦りが生じ始める。

 

 “世界最強の剣士”との間にそびえ立つ巨大な壁のように⋯⋯今の自分じゃどう足掻こうと届かない壁が、この男━━━キースとの間にもあるのか。

 

 また⋯⋯負ける?

 

 ふとその言葉が脳裏に浮かび、ゾロは一度キースと距離を取った。

 

「⋯⋯らしくねェ」

 

 ゾロは鼻で笑ってポツリと呟き、深く息を吐いて再び構えた。

 

 弱気になってどうする?

 そんな暇があるなら刀を振れ。

 

 ⋯⋯この胸に与えられた傷と共に誓った筈だ。

 

 ━━━もう二度と負けない、と。

 

「“鬼⋯⋯」

 

 渾身の一撃。

 

 キースでも受け流せないほどの一撃を与えるべく、ゾロは力を込める。

 防がれる事は考えてない。頭にあるのは、目の前の男を打ち破る事のみ。

 

 集中力が極限まで達し、ゾロが斬り込もうとした。

 

 その時━━━

 

「はい、ここまで」

 

「斬━━━”⋯⋯⋯は?」

 

 キースが刀を鞘に収めたのだ。

 ゾロは突然の終了に困惑し、構えたまま数秒間固まっている。

 

 そんな彼にキースは微笑み、静かに問い掛ける。

 

「これ、肩慣らし(・・・・)なんでしょ?このまま続けてたら収拾がつかなくなりそうだ」

 

「⋯⋯ッ、すまねェ。つい熱くなっちまった」

 

 キースに言われ、ゾロはやや不満そうに刀を下ろして謝った。不完全燃焼である。

 そして大きく息をつくとキースへ手を差し出した。

 

「今度やるときは肩慣らしじゃなくて、本気の斬り合いを頼むことにするぜ」

 

「いや、それはちょっと勘弁です⋯⋯」

 

 良い笑顔だなぁ⋯⋯と、顔を引きつらせながら握手するキース。

 その後、ルフィ達がゾロとキースを中心に騒ぎ始めるのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 ▽■▽

 

 

 

 

『お疲れ様〜』

 

 

 三刀流剣士のゾロとの手合わせが終わり、ホッと一息ついてると氷姫が労いの言葉をかけてくる。

 

『で、本物の人間と刀を交えた今の気分は?』

 

 死ぬかと思った。

 

『即答ねぇ』

 

 ふふふ、と笑う氷姫はまるで悪魔である。

 

 ゾロの斬撃は頑張って防いだよ?

 でも、あの気迫がヤバかった⋯⋯靄人間とは比べ物にならないくらいに。

 

 あとゾロが3本目の刀を口でくわえた時は衝撃だった。

 そのせいで動揺しちまったし⋯⋯。

 きっとあれだ、精神攻撃ってやつだ。

 

「ねえ、キースさん」

 

「うん?」

 

 海を見て黄昏ながら思い出していると、後ろから話し掛けられる。

 顔を向けるとそこにはビビちゃんが立っていた。

 

「キースさんは観光でアラバスタに行くのよね?」

 

「そ、そうだね」

 

「今はあまり長居しない方が⋯⋯いいかも」

 

 俺の隣に来たビビちゃんは、どこか辛そうな面持ちでそう言う。

 

 もしかしてアラバスタは治安でも悪いのか?

 

 ふっふっふ、だがご安心を!

 この俺はチンピラごときに遅れを取ったりはしないんだぜ!

 

 ⋯⋯まあ一応言うとおりにはするけど。

 

「わかった。そうしとくよ」

 

「ありがとう、キースさん。あ、アラバスタはいい国なの!ただ、今はタイミングが悪いというか⋯⋯その⋯⋯と、とにかくいい国だから!」

 

「お、おう」

 

 手をわたわたさせて誉めまくるビビちゃん。

 

 そこまで必死に言われると逆に怪しい。

 何か裏があったりしてね。

 例えば“王国の裏には海賊の魔の手が!”とか。⋯⋯絶対ないと思うけど。

 

「それで、今向かってる“ナノハナ”という町は香水が有名で━━━」

 

 んん⋯⋯?

 あれ、いつの間にか町の紹介になってね⋯⋯?

 

 

 

 

 ▽■▽

 

 

 

 

「アラバスタだ!!」

 

 ルフィが船首の上で両手を上げながら叫んだ。

 麦わらの一味プラス俺は甲板にてその町並みを眺める。

 ━━━港町“ナノハナ”、それが俺達が上陸する町だ。

 

 思えばあっという間だったけど、船ってやっぱいいね。

 

 道中ではゾロと戦ったり、ビビちゃんの話を聞いたり、チョッパー君をモフッたり、野生のオカマが現れたり⋯⋯色々あったけど。

 

 彼らはいい人達だ、海賊だけどね。

 一緒にいたらどれだけ楽しいことやら。

 

「なあキース、やっぱり俺達と海賊やらねェか?」

 

 だけど、そのお願いは聞けないんだルフィ。

 

「悪いけどそれは出来ないな」

 

「⋯⋯そっか、分かった」

 

 うん、ルフィ。

 本当に分かったならゴムの腕で俺をぐるぐる巻きにしないでおくれ。

 結構痛いんだけど。

 

「諦めろルフィ。コイツにはコイツなりの信念があるってことだ。それに、今俺達にはやるべきことがあんだろ?」

 

「けどよぉ⋯⋯」

 

 おお、ゾロよ!我が友よ!

 俺に信念なんてこれっぽっちもないけどありがとう!

 

 しかし、ゾロはニヤリと笑って俺に目を向けた。

 

「だからまた海で会ったとき、力ずくで入れてやりゃいい」

 

「そうだな、ゾロの言うとおりだ!」

 

「コイツら怖いっ!!」

 

 

 やだこの二人野蛮人!

 

 


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