オニ愛な二人   作:ケツアゴ

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プロローグ

 煌々と燃える篝火によって照らされた地下室に血の香りが充満する。床一面を血が濡らし、無残な死体が二人分散らばっていた。引き裂かれ、潰され、食いちぎられて無数の肉片となった二人の男女。

 

「……まだ居た。君はこの二人の子供かい?」

 

 鈴の音の様に澄んだ少女の声が響く。部屋を照らす炎が燃え移ったかの如き紅い色の髪の小柄な少女。肌は白く、人ならざる存在が人を惑わす為に化けたと言われれば納得してしまいそうな妖しい美しさを持っている。その手には部屋に転がっている物よりも大きな肉片、少年の父親の右腕が抱えられ、その一部が少女の鮮血で汚れた口の中で咀嚼されている。肉を噛みしめるクチャクチャという音、骨を噛み砕くボリボリといった音に混じって火の粉が弾ける音が響いていた。

 

 対するは無事だった頃の二人に酷似した少年。凛とした風貌を持ち、髪は烏の濡れ羽色。将来順調に成長すれば年頃の少女達を惑わすであろう容姿であり、その背後には無数の人ならざる者達が蠢き、今にも少女に襲い掛かりそうだ。だが、少年はそれを手で制すると一歩前に出る。二人の視線は互いのみを見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閑静な住宅街の一角、近所の子供に幽霊屋敷と噂されそうな程に古めかしい作りの武家屋敷に朝日が射し込んだ。手入れが行き届いた庭の木々池の鯉を朝日が照らし、閉められた障子を通して室内に明かりが差し込む。鳥の鳴き声が聞こえたのか布団の中で紅い髪の少女が目を覚ました。

 

「……ん。朝だよ、起きて」

 

 上半身を起こした少女、あの紅い髪の彼女は枕にしていた腕の持ち主を起こすべく声を掛ける。あの少年との会合から十年以上の時が過ぎ、より妖しい美しさを増した彼女は異性の獣欲を刺激するであろう肢体に布切れ一つ纏わず

、隣で彼女に腕枕をして眠っていた少年、引き締まった長身に成長した彼を揺さぶる。

 

 二人が寝ていた布団は表面に皺が入り、汚している物や部屋に充満した臭いが昨晩に何があったかを物語り、やがて少年に抱き付いた少女は自分の物だと主張する為に臭いを着けるかのように体を擦り付け、やがて少年の頬を両手で挟み込んだ。

 

「……早く起きないとキスしちゃうよ? ……ん」

 

 脳まで溶かす甘い声で囁き、紅潮した顔をゆっくりと近付けて行く。やがて宣言通りに唇が触れ合った時、少年も目を覚ますその両腕は自然に迷い無く少女の腰に回り、強く抱きしめた。

 

 

「お早う、恋(れん)。今日も美しいな。出来れば朝一番のキスは俺からしたかった」

 

「お早う、道炎(どうえん)。……なら、二番目のキスは君からして欲しいな。魂まで燃やす熱いのをさ」

 

 唇を離し、唾液の糸が互いの唇を結ぶ中、二人は見つめ合い言葉を交わす。少女、恋の腕は少年、道炎の首に絡み付き今から行われるキス……その続きを期待していると視線で告げる。了解したと道炎が覆い被さろうとした時、障子が左右に開いて朝日がいっそう眩しく入り込む。二人の目の前には障子を開いた犯人が呆れ顔で立っていた。

 

「ほらほら、キスまでなら終わるのを待ってたけど、それから先始めたら中々終わらないんだから学校が終わってからにするニャ」

 

 恋といい勝負の肉体を割烹着で包んだ黒髪の彼女の頭とお尻には猫の尻尾と耳が生えており人間ではないと示している。この部屋からは見えない場所にも同じ様な格好のお手伝いさんらしき姿が点在し、その中には彼女と何処かが似ている白髪の少女の姿もあった。

 

「やあ、黒歌。今日も良い天気だね」

 

「お早う。今日の朝飯はなんだ?」

 

「鰺の干物がいい感じに出来上がったってお玉さんが言ってから多分出ると思うニャ。って、早く起きないとゆっくり食べる暇が無いわよ。ったく、お盛んなのは結構だけどね」

 

 黒歌は二人に着替えを投げ寄越すと風呂が沸いてるから体臭を落としてから来いと伝え、忙しそうに駆けていく。その姿を見送った二人は名残惜しそうに離れると立ち上がった。

 

「風呂か……一緒に入るのは夜までのお預けだな」

 

「……お玉、怒ると怖いからね。あのバケネコ、実は最強なんじゃない?」

 

 肩を竦め苦笑する二人。軽いキスを交わし、指を絡ませるように手を繋ぎながら大浴室へと向かっていく。途中、物陰や家具の隙間で何かが蠢いていた。

 

 

 

 

 

「ほら、口元に米粒が……」

 

 体を清めて出て来た頃には既に食事の準備は万端で、座布団に座って差し向かいで二人は食事を摂る。炊き立ての白米に胡瓜の酢の物、大根と油揚げの味噌汁に焼き海苔、そして無駄な焦げが無い香ばしい鰺の開き。それに副菜がチョコチョコと和食のメニューを行儀よく食べていた二人だが不意に道炎の指先が恋の口元に伸ばされ付着した米粒を摘まみ摂る。そのまま恋の口に運んだ指は先が食いちぎられていた。

 

 骨を軽く噛み砕く音が恋の口の中で鳴り、道炎の指先からは骨と肉の断面が見えてしまっている。バツが悪そうにする恋の口から赤い血が垂れてしまっていた。

 

「……ごめん、つい我慢できなくて」

 

「仕方のない奴だ。ほら、今度は血で汚れてしまったぞ」

 

 怯えも痛みで呻きもせず道炎は平然と恋の口元をちり紙で拭う。先ほどの光景が幻だった様に彼の指先は存在するが、ちり紙に付いた血が現実であったと証明する。拭いて貰って恋は嬉しそうにはにかみ、道炎も彼女のそんな姿を見れて嬉しそうに微笑むのであった。

 

 

 

 

 

 

「……うわぁ」

 

 その光景を襖を僅かに開いて覗いていた黒歌は心の底から引いた様子だが慣れた感じもする。どちらかというと毎回繰り返す光景に飽きないでよくやると思っているかの如し。気配を感じ、ふと後ろを振り向けば路傍の紙屑を見る目で見つめている少女の姿があった。

 

「正座しなさい、駄姉」

 

「……白音? なんかお姉ちゃんに酷くない?」

 

 妹の威圧に思わず正座してしまいながら恐る恐る抗議の声を上げるも弱気になっていて通じない。逆に威圧感が増ばかりだ。

 

「酷いのは姉様の頭です。胸に栄養吸い取られているんじゃないですか? 同じ猫族だからって知り合いの娘に過ぎない私達を引き取ってくれたお玉さんに迷惑が掛かりますよ?」

 

 自分とは違って肉付きの良い姉の胸部を憎々しげに見詰めながら冷徹な声を出し続ける。その様子を廊下の向こうから歩いてきていた異形の存在、茶色い毛に覆われ何処かの部族の仮面らしき物を張り付けた者が関わり合いになりたくないと踵を返す。それ程に白音と呼ばれた黒歌の妹は恐ろしかった。

 

 

「……まぁ、私もあの人には感謝してるよ? 下手したらあの悪魔の眷属になってたからね」

 

 バツが悪そうな顔をする黒歌は引き取られた後に自分達を勧誘に来た悪魔、ベリアル家の某とやらの事を思い出す。最初は温厚そうな態度を取っていたが何故か怪しいと感じ、何度も会うことで性根が見えてきた。最後は強硬手段に出た所を先程逃げ出した異形に返り討ちにあったが、勧誘を受けていたら道具にされていたと、そう確信している。

 

 

「あの後、何にしたっけ? グラタンだったかニャ?」

 

「……いえ、ミートパイだったかと。今になって思えば肉食獣は同族を食べることも有りますし、何を抵抗してたのかと」

 

 今となっては好物の部類に入る肉料理の味を思い出した白音は舌なめずりをする。丁度の仕事帰りだった先輩が翼を見られたからと堕天使に襲われたと聞いている。その先輩は今朝美味しそうに目玉焼きを食べていた。

 

 

 

「……今夜の賄いは庭でバーベキューだそうです。頑張って働きましょう」

 

「そうね。……ハツは美味しいけど毎回争奪戦だからニャー」

 

 美味しい食事こそ日々の活力となる。姉妹は夕食への期待で胸を膨らませながら仕事に励むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ行ってくる」

 

「……行ってまいります」

 

 そろそろ出勤や登校する人々で町が慌ただしくなる時間帯、道炎と白音は駒王学園の制服に着替え玄関に立っていた。黒歌も大学生なのだが一限目は講義がないので少し仕事をしてから出るらしい。結果、見送りには恋のみが出ていた。切なそうに顔を俯かせ、道炎の制服の袖を握ろうとして踏みとどまる。その手に道炎の手が優しく添えられた。

 

「会えない時間も愛を深める。俺が帰るまで待っていてくれ」

 

「……うん。私、ずっと待ってるよ」

 

「学園は目と鼻の先ですが早く出ないと遅刻しますよ?」

 

 毎朝のように繰り広げられるやり取りに呆れながら溜め息を吐く白音。この後は行ってきますのキスをしてから出るのでいい加減にして欲しいのが本心だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……相変わらず凄いですね」

 

 登校して靴箱を見れば何枚ものラブレターが入っている。登校中、部活の朝練中の女子生徒や登校中にすれ違った女子生徒の顔は憧れの異性に向けるものであり、毎朝のように見ている物だ。質が悪い事に道炎はにこやかに挨拶を返し、ラブレターも無碍には扱わない。それで白音はついつい呟き、即座に後悔する。

 

「まあ、俺が愛する女性は恋だけで友人や知人としては兎も角、他の誰にも異性への好意は皆無なんだが、俺が異性人気だと誇らしいって恋が喜ぶからな。好物が出た時や遊びに行く時等、シチュエーションによって微妙に魅力が違って……」

 

「……では、私はお先に」

 

 若干胸やけを感じながら退散する白音は余計な事を言ったと深く猛省する。惚気話に繋がると予測できたのに何をやっていたのだと……。

 

 

 

 途中、校門の方で黄色い声が上がる。二大お姉様と呼ばれ男女問わず人気があるリアスと朱乃がやってきたのだ。クラスメイトも数名が窓から眺め歓声を上げる中、彼女は興味を示さずに席へと向かう。そのまま座った時、重大な過ちに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お弁当忘れました」

 

 家が近いので昼休みにでも取りに行けば良いが、姉にからかわれるであろうと思うと気が重くなる白音であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前達、今日こそ委員長として言わせて貰うが猥談は程々にしろ。とある研究によると女性のトラウマで一番多いのが異性からのセクハラ等によるものと聞くし、何が良いのかは全く理解出来ないがハーレムとやらから遠ざかるだけだろう」

 

 その頃、道炎はクラスメイトであり、幼なじみの一人が含まれる三人組、過剰な性欲からの行為から変態三人組と他校にまで知られている一誠、元浜、松田に小言を言う。この日はエロ本を広げて大いに騒いでいたのだ。

 

 だが、今まで説教されても反省しなかった彼らが素直に聞き入れる訳が無く、今回も反発する。自分の行動を棚に上げ、嫌ってくる女子に恨みを抱くような彼らからすれば道炎は敵であり、夢を否定する言葉に大いに反応した。

 

 

「ふざけんなっ! お前と違ってモテない俺達にはこれしかないんだよ!」

 

「てか、選り取り見取りのお前が言うな、お前が!」

 

「そうだ! ハーレムの素晴らしさが解らん人でなし!」

 

「そう言われてもなぁ。俺にはこの人だけ居ればいいって程に熱い恋に落ちた相手が居るし、複数人もの恋人が居たらその分相手する時間が減るだろう? 恐ろしくて考えたくもない。……恋は良いぞ。この前、遊園地で観覧車に乗ったのだが隣に座って手を重ねながら俺の顔だけ眺めていてな。訳を聞いたら何時もと違う景色を見る君の顔を見たい、だそうだ。全ての愛情を注ぎたいと思える相手が居るのは本当に素晴らしいぞ」

 

 小言が何時の間にか惚気話へと移り変わり、教師がやってくるまで続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、であったばかりの少年と少女はこんな会話を交わした。

 

「一目でお前が好きになった。俺の物になってくれ」

 

「奇遇だね。じゃあ、今日から私は君の物だ。当然、君は私の物だけどね」

 

 互いに一目惚れ。会ったその日に二人は恋に落ちていた……。

 

 




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