某所にある巨大ビル、創業から数十年で世界規模の大企業に成長した『
「か、会長、このままご自宅で宜しいですか?」
見た目通りに気弱なのか少々性格がキツそうな会長にビクビクしながら従っている様子。このご時世、再就職となると大変だからだろうから仕方がないのが。そんな態度を気にも止めず彼女は今後のスケジュールを確認した後で顔を上げた。
「いえ、このまま屋敷に向かってちょうだい。……また新入りが誕生したらしいからねぇ」
「へぇ~。ここ数代はドロドロ程度しか作れなかったのに道炎様は凄ぇな~」
「ええ、私もバケネコもガシャドクロも……あの方の教師役の彼も期待しているわ。将来的に私達始まりの四体を作った道満様に匹敵するとねぇ」
「そりゃ凄い! あの娘とも順調らしいし、次の世代が実に楽しみだ!」
誇らしげに笑う運転手と、同じく誇らしそうに静かに微笑む会長。何時の間にか晴天にも関わらず雨が降り出してフロントガラスを濡らす中、車内に伸びる二人の影は人の姿をしていなかった……。
「やあ、こんばんは。先日は俺の部下がお邪魔したね」
「君の部下ですか? 生憎何の事やら」
一誠がライザーと意気投合した日から数日後、制服の上から漢服を着た少年が道炎の屋敷を訪ねて来た。余裕ぶった態度で少し前に忠誠を誓う部下、彼からすれば捨て駒でしかない男を向かわせ帰って来なかったのだが、そんな相手にも関わらず余程の自信があるのか単身赴いた彼は座敷に通され、給仕の女性達が次々と料理を運んでくる。互いに相手を探る気なのか彼の相手をするのは小太りの中年男性だ。
「おや、食わないのかい?」
「生憎敵か味方か決まっていない相手の出した物を食べるほど間抜けじゃないさ」
「はっ!」
出された物に一切手を着けずにいる彼の返答を男性は鼻で笑い、オーバーに両手を左右に広げて溜め息を吐く。馬鹿にされたと彼が感じるのは当然だろう。顔をしかめて立ち上がった彼に聞こえるように男性は独り言を言い始めた。
「シュテンドウジ共を倒す為、源頼光は招かれた宴で出された料理を食べた豪胆な英雄だったのに……」
「ッ! 良いだろう、食べてやるさっ!」
英雄、その言葉を聞いた彼は出された料理の中で妙な程に多い
「なあ、知ってるかい? 源頼光が食べたのは……捌きたての人間の肉さ。所で完成したばっかりのソーセージの味はどうだったかい? 君が用意してくれた新鮮な肉で作ったんだ」
「……え? おぇ、うげぇえええええええええええええええっ! おげぇええええええええええええええっ!!」
一瞬、意味が分からず間抜けな声を上げた彼が意味を理解した瞬間、胃の中の物が逆流する。目から涙が溢れ、喉の奥から酸っぱい味が込み上げて来た。膝を折って口を両手で押さえても嘔吐が止まらず吐瀉物が畳の上に広がる中、彼の両腕を給仕の女性達……いや、女性達に化けていた妖怪達が押さえ込んだ。
「いただきま~す!」
ムンクの叫びを思わせる顔が顔や胴体に浮かんだ青い全身タイツの姿をした最下級妖怪のドロドロだ。そして男も正体を現す。本日誕生したヌッペフホフだ。巨大なカボチャの面が開き、嬉しそうな声と共に伸びた長い舌が押さえ込まれた彼の顔を舐めた。
「御馳走様~!」
「顔がっ! 俺の顔が無いっ!? うわぁああああああああああああっ!?」
ヌッペフホフに舐められた彼の顔からは目も鼻も口も消え去っていた。謎の喪失感で察し、認められずに放された腕で自分の顔を触るも凹凸のないノッペラとした感触が伝わってくる。先程食べた物と合わさって彼の精神は限界に達してしまい混乱の叫びを上げた。
「昨日、ウチに中二病がやって来たぞ。変な物でも食べたのか嘔吐してな。どうも取引の常連の知人らしいから丁重に送ったが……畳に付いた匂いが取れるか心配だ」
「うへぇ、大変だったな……」
翌日、道炎から迷惑な来客のことを聞かされながら校門へと向かっていた一誠の足が止まる。男女問わずに校門付近で止まって何やら囁き合い、惚けた顔で一点を見つめている。彼もまた、その存在に見惚れてしまった。
校門に背を預け、時折時間を気にしながら誰かを待っている美少女。もうすぐ時間なのか嬉しそうに微笑む姿にはカップルでさえも見惚れてしまっていた。
「あの子、誰だろう?」
「素敵よね、お姉様達以上に……」
「誰か待ってるけど……俺かっ!?」
「無い無い。あり得ないって」
その美しさに近寄りがたさを感じ、誰もが声を掛けたくとも掛けるのを躊躇う中、道炎だけが平然と彼女へと近寄って行く。
「恋、迎えに来てくれたのか!」
「当然だよ。……今日はどうしても君と放課後デートがしたくてさ」
この日、何時もの赤系の色をした着物ではなく何処かの学校の制服に着替えた恋は道炎の姿を確認するなり駆け寄り胸元に飛び込む。本当なら嫉妬の念を向けられる所だが、普段の人徳か嬉しそうな顔で増した彼女の魅力か誰も嫉妬の視線を向けてはいなかった。
「そうか。では、イッセー。俺は今からデートだから先に帰らせて貰うぞ」
「お、おう……」
肩を寄せ合い指を絡ませて手を握って去っていく友人にそれだけしか言えない一誠。もう嫉妬する気にすらならずに立ち尽くす彼を木の上からジッと見つめる蝙蝠が居た。
「まさか彼が今代の赤龍帝だったなんて……惜しいことをしたわね」
使い魔を使って一誠を観察するのはリアス・グレモリー。この町を管理する悪魔であり、実質的に一誠を見殺しにした人物だ。どっちにしろ町の外に出た時を狙われていただろうから遅かれ早かれ殺されていたのには変わらないだろうが、管理ミスで死んだ相手への発言から貴族社会で育った故の淀みが見て取れた。
リアスは先日急遽行ったレイヴェルとの話し合いの場での屈辱を思い出す。彼はこっちで何とかするから干渉不要と言われ、管理する街で好きに動かれては困ると言ったリアスにレイヴェルは失態の具体的証拠を出してきてこう言ったのだ。
「町外れの教会に結構な人数が居るようで、道炎様の部下も襲われるなど、迎え入れた異能者からの悪魔への信頼に響きそうですわね。お兄様と結婚する方の仕事ぶりが気になって調査を依頼したのですが、これでは実家より相談役が派遣されそうですわ。……ああ、でも、私はリアス様とは互いに口うるさく言わない良好な関係を築きたいのですわよ?」
侵入した者達の姿や数といった具体的な資料を出され、しかもその場所が何処の管理下でもないとリアスなら知っておくべき情報まで示されている。悔しさに震えながらも条件を飲むしかなかった。
「恐らくこの資料を制作したのは彼でしょうね……」
女王である朱乃が手に取ったのは道炎の情報。彼に関する一般的な情報のみが書かれた薄い書類だ。
「……金回りは兎も角、力は没落した筈の陰陽師一族……芦屋道満の子孫にして現当主。特筆すべきは癒しの術の力。欠損部位の修復、呪い、衰弱、病、医療を司る神でさえ治せない症状すら完治させ、多くの神話に顧客を持つ。……友人は作っても一定以上特定の勢力に肩入れはしない事で有名ですわ」
「彼自体は引き込めなくても、彼が雇ってる猫妖怪の白音さんだけでも引き込めないかしら? この前、お茶会に誘った時に随分と好感触だったと思うのだけど……」
何度もお茶に誘うリアスにウンザリしたのか一回だけと来たときにケーキを見て目を輝かせながら口にした言葉をリアスは思い出した。
「…ケーキは大好きです。悪魔も同じくらい好きです」
リアスの認識と実際は違うのだが、少なくても彼女は可能性があると思ってしまっていた……。
「……そう言えば白音が何度も誘われているけど構わないのかい?」
「ああ、当人の判断に任せる。彼奴は作った妖怪でもないしな。……しかしお前は本当に美しい。日に日にお前への愛情が限界値を上げ続けているのを感じるぞ」
「……私も昨日の私より君の事を愛しているのさ。好きだ、君が大好きだ」
帰り道、道炎の腕に胸を押し当てて愛の言葉を囁く恋だが、道炎は腕に伝わる感触に違和感を感じる。それは即座に恋に伝わり、悪戯が成功した様な笑みを浮かべるのであった。
「……分かったかい? 実はこの制服は帰宅組はお土産の一つなんだけど……下着も貰ったんだ。私、何時もは着けないし穿かないけど……見たくないかい、私の下着姿をさ?」
甘く囁き訊ねるも答えは聞くまでもないと、より強く腕に抱き付く。その頃、遠く離れた場所を困り顔で歩くシスター服の少女が居たのだが、彼女に近寄っていく警察官の姿があった。
「小豆研ぎましょうか、人とって食いましょうか……ショキショキ」
感想お待ちしています