ゴブリンスレイヤー ~血濡れの鎧を着た男~   作:ひ弱な悪鬼

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サブタイトルは思いつかないのでおとなしく話数だけ書きます。


第一話

ゴブリン。そう聞いて思い浮かべるイメージはなんだろうか? 緑の皮膚で鼻が長く、人の子どもくらいの背丈でそれ相応の力と知恵しかない。   何より、モンスターでは最弱の部類である。そう考える者が大半だ。特に冒険者ともなると普通の人よりは多からず少なからず力を持っている。そんな冒険者からすれば、ゴブリンは大したものではないのだろう。

 

 

 

   そのように慢心するから、犠牲者があとを絶たないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は昼。とある森の奥にある洞窟。此処はゴブリンの住処となっている。

 

 

 

   !       !」

 

「………う……ぁ……」

 

 

 

洞窟の一角の広い空間で、ゴブリンたちが村から連れ去った娘を犯していた。この周囲には多少距離があるとはいえ、村がいくつかある。その内の1つの村を昨日滅ぼしたばかりで、この行為もまだ1日と経っていなかった。そのお陰というべきか、娘には傷はそれほどなく意識もあった。   しかし、心はもうボロボロだった。目の前で知人を、友人を、家族を殺され犯されたのだから無理もない。実際、彼女は最初からこの様子で、叫び声の1つも上げずにいた。それでも叫び声を上げさせようとゴブリンが彼女を殺さないのは、彼女が上玉だからだ。わざわざ住処に持ち帰ってから犯すほどに彼女がゴブリンから気に入られたからだ。

 

 

 

    ?」

 

 

 

だが、それも時間の問題。一部のゴブリンが薄い反応しかしない彼女に痺れを切らし、剣を突き立ててみようと提案したのだ。今のままでも満足していたゴブリンたちだが、確かに何かしらの変化が欲しいとその意見に賛同し始めた。そして、見学に回っていたゴブリンの1匹が毒をつけてない剣を振り下ろす。

 

 

 

   ドシュ。洞窟内に肉を斬り裂く音が響く。次いで、叫び声が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  !?         !!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   だが、叫び声を上げたのは剣を振り下ろしたはずのゴブリンだった。娘の反応に注目していた他のゴブリンも、悲鳴を上げたゴブリンに目を向ける。すると、先ほどまで剣を握っていたゴブリンの右腕がなくなっていた。否、なくなったのではない。ゴブリンの半数は2本のナイフと共に壁に突き刺さっている右腕だったものを見つけ、理解した。   何者かがナイフを投擲して腕を切り離し、それと同時に串刺しにしたのだと。ゴブリンたちは敵襲だとわかるとすぐさま武器を手に取る   には遅すぎた。

 

武器を取ろうしたゴブリンたち全員の頭にナイフが突き刺さる   だけでは止まらず、頭を貫き壁に突き刺さる。寸分違わず脳みそごと頭を破壊されたゴブリンは絶命し、唯一生き残った右腕を失ったゴブリンは理解が追いついておらず、ただ悲鳴を上げ続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   武器を構えるには遅すぎだな。叫び声が聞こえた瞬間に構えるくらいじゃなきゃ、咄嗟に行動できないぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洞窟内に新しい声が響く。その声を聴いたゴブリンはようやく正気を取り戻し、短剣が飛んできた方向に目を向けた。

 

   そこに立っていたのは赤黒い兜と鎧を身に纏う2メートル近くある長身の男。男と判断したのは、兜越しでくぐもっているとはいえ女にしては低すぎる声だからだ。よく見れば、鎧の赤黒さには返り血が混ざっており、道中でゴブリンの同胞を屠ってきたことがわかる。腰には紐が巻かれており、大量のナイフが柄の先にある輪を通すことで吊るされている。他に武器は見当たらないが、籠手から滴り落ちる血は拳を武器にしていることを連想させるのには十分だった。しかし、ゴブリンはそんなことは気にならなかった。気にする余裕などなかった。

 

   兜の奥からゴブリンを見る目からは、尋常ではない殺意が向けられていたからだ。その目を見たゴブリンは、次の瞬間には今までの人生を振り返っていた。走馬灯というやつだ。実際に死の間際というわけでもないのに、走馬灯を見てしまうほどの殺意が自身に向けられている。そう認識したゴブリンは数秒の間だけ今までに殺してきた人間を、犯してきた女の恐怖に歪んだ顔を思い出していた。しかし、現実逃避として思い返したその光景も、数秒と経たぬ間に目の前の存在から放たれる殺意への恐怖に塗り潰された。

 

 

 

   !?     !!!」

 

 

 

ゴブリンは再び叫び出すと、洞窟の奥へ走り出す。奥へ逃げたところで、抜け穴などない洞窟の壁があるだけだ。しかし、目の前の存在からできるだけ離れたいゴブリンはそんなことも忘れて駆け出す。

 

 

 

「だから遅いっての」

 

 

 

男はゴブリンが一歩目を踏み出した時点でナイフに手をかけ、柄についているボタンを押す。すると紐に引っかかっていた輪が収納されナイフは自由に動かせるようになる。そのまま間髪入れずにゴブリン目掛けて投擲する。そのスピードは矢と比べても謙遜がなく、言葉が終わった瞬間にはゴブリンはその命を終えていた。

 

 

 

「これで此処にいるのは全部か。数は……11。来るまでに殺したのと合わせて…………43か。そこそこ大きいグループだったな」

 

 

 

そう言いながら男は娘へまっすぐ進む。普段ならナイフを回収してから近づくのだが、先ほどから何の反応も示さず安否が不明なのが心配だったのだ。

 

 

 

「大丈夫………じゃなくて、生きてますか?」

 

 

 

一目見るだけで何があったかわかってしまう有様に大丈夫かは失礼かと感じた男は、質問の仕方を変えた。娘は変わらず虚ろな目のまま反応がなかったが、しばらくしてようやく口を開いた。

 

 

 

「…………た……す………か…………た……?」

 

「えぇ、もう大丈夫です。少なくとも、これ以上酷い目には遭いませんよ」

 

 

 

確認するかのような質問に男が答えると、娘は力なく抱きつく。男は今にも崩れ落ちそうな体を、血に濡れた拳を当てないように気をつけながら支える。

 

 

 

「……………犯さ、れ……まし………た」

 

「はい」

 

「…………殺され……ました」

 

「はい」

 

「……知人も………友人も………家族も………みん、な……! 皆………!!」

 

「辛いですよね。でも、生きていきましょう。あなたが生き残ったことは、決して無駄じゃない。殺されてしまった皆さんの分まで、幸せに生きましょう」

 

「ぅあ………あぁぁぁああ………!!」

 

 

 

男の胸を借りて娘は涙を流す。   こんな惨劇を体験してしまう女性は、この世界ではあまり珍しくない。少なくとも、男は似た境遇の女を何人も見てきた。だから、男は娘の気が済むまで泣かせる。こうするのが一番だとわかっているから、悲しみや憎しみは涙と共に流すのが一番だと理解しているから。

 

 

 

…………女性の慰め方がわかっていないという理由もあるのだが、当人以外が知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   あ、ゴブリンスレイヤーさん!」

 

 

 

様々な冒険者たちが依頼を受けるために集う場所、ギルド。その受付で長い間働く受付嬢は、密かな想い人であるフルフェイスの兜をかぶった古びた鎧を身につけた男   ゴブリンスレイヤーに、本人に自覚はないが声音は自然と喜びの色が見える。もっとも、当人に気づかれていないのは幸いというべきか、不幸というべきか……。

 

 

 

「依頼された洞窟に行ったが、ゴブリンは既に全滅していた」

 

 

 

ゴブリンスレイヤーは端的に事実を述べた。いつも通りゴブリン討伐の依頼を受け、つい先日パーティを組んだばかりの女神官を連れて洞窟に向かったが、中にいたゴブリンたちは1匹たりとも生きてはいなかった。彼は言葉が足りないため分かりにくいが、内心かなり驚いている。殺されたゴブリンの中には田舎者(ホブ)やシャーマンがいた。それだけなら別に珍しくないが彼が驚いているのは、そのホブ3()()とシャーマン2()()が同じ空間で殺されていたことだ。それに、普通のゴブリンも周りには何体もいた。ゴブリンの厄介さは彼が一番よく知っている。少なくとも、彼なら同じ状況になっても一度撤退し、どうにか分担して各個撃破を狙う。間違っても広い空間で同時に相手取るなんてことはしない。しかし、そのゴブリンたちを殺した者は、その場の全員を相手取って勝利を収めている。どのようにして殺してどのように勝利したのか、とても興味があった。そんな内心少しワクワクしているゴブリンスレイヤーに気づけるはずもなく、受付嬢は依頼を横取りされて気分を害していると思い謝罪をする。

 

 

 

「申し訳ありません。なんでも、冒険者さんが帰り際に偶然見つけて討伐したらしくて。あ、でも、報酬は本来の依頼を受けた方に渡してください、と言われて、こちらに預かっています」

 

「い、いえ! 私たちは何もしていませんし、討伐を行った方に渡してください!」

 

「そうだな。その報酬は受け取れない」

 

 

 

2人はそう言って受け取りを拒否するが、それに対して受付嬢は疲れた目で笑いかける。

 

 

 

「いえいえ、そう言わずに受け取ってください。その討伐をした方も、受け取らないの一点張りで1時間以上粘られた末にこちらが折れましたので   ぶっちゃけますと、これ以上この件で疲れさせないでください」

 

「………わかった」

 

 

 

心底疲れたという感じの声色とは真逆に、威圧感すら覚える笑みを浮かべる受付嬢にゴブリンスレイヤーは大人しく報酬を受け取る。彼女を怒らせると厄介なことは彼も少しは理解しているのだ。ようやく面倒な仕事の1つが終わったと安堵の息を出す受付嬢。そんな彼女に、女神官は素朴な疑問をぶつける。

 

 

 

「あの、その討伐を行った方はどれくらい強いのですか? ゴブリンスレイヤーさんの話だと、戦ったのは1人だけだという話でしたが……」

 

「強さ、ですか? そうですね………単純な等級だと、彼は紅玉級冒険者ですね。実際の実力に関しては………誰もわからないんです」

 

 

 

わかっていない? ゴブリンを、それもホブとシャーマンを1人で同時に相手取れるほどの力を持っていながら、有名ではないのか? 2人の疑問を知ってか知らずか、受付嬢は続ける。

 

 

 

「一応、異名だけは有名ですよ。ゴブリンスレイヤーさんと同じで兜で完全に顔を隠してますし、何よりその返り血を浴びたかのように赤黒い鎧から血濡れの鎧(ブラッディ・メイル)と呼ばれてます。ですが、少なくともいい人ではあります。礼儀正しいですし、相手のことを気遣ってくれますから。…………でも、彼は誰ともパーティを組んだことがないんです。依頼も………全部がそうというわけではないのですが、受ける物の大半は   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ゴブリン退治なんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

 

依頼を終え、急遽行ったゴブリン退治についてもギルドに報告した男は、自宅へ着くと同時に一息つく。彼の家は山奥にあり、街まではかなりの距離がある。それも2年も続ければ慣れてしまった。しかし、彼は予定より長引いた旅路で汗をかなりかき、鎧もある程度落としたとはいえ血で汚れている。なので、彼はまず風呂に入ることにした。

 

 

 

彼の家にあるのは、大きなサイズの鉄窯を煮立て、木の板を床に沈めることで入る風呂   言わば五右衛門風呂である。ちょうどいい温度まで暖めると、彼は着ていた鎧を脱ぎ始める。しかし、その下には鎖帷子を着込み、革の手袋をはめているため未だに肌は出てこない。鎖帷子も脱ぎ、ようやく中に着ていた普通の服を脱ぐ段階で、彼は手袋を脱いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   そして、緑色の肌が露になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま脱いでいくが、出てくる肌はやはり緑色。ところどころに小さいが棘のような凸凹があるその皮膚は、どう見ても人間のものではない。そして、遂にその兜を脱ぎ顔を出した。   鼻は途中で切り落とされ、耳たぶの先も欠けてはいるが、その顔は、姿は、間違いなくゴブリンそのものだった。彼はゆっくりと湯に両足を入れ、そのあと体全体を一気に沈める。あらかじめ自分が入った時の水嵩を計算しているため、お湯が溢れて無駄になることはない。リラックスするように息を出し、天井を見上げる。しかし、その目は天井の向こう側の空を   その更に向こう側を見ているようだった。

 

 

 

   母さん。今日はゴブリン共の群れを2つも殺したよ。片方は結構大きいグループだったけど、ホブやシャーマンだけじゃ話にもならなかった。やっぱり鍛えるのは大事なんだね」

 

 

 

彼は嬉しそうな声音で、しかし悲しそうな表情で空の向こう側へ向けて話し続ける。結局手遅れで1人しか救えなかったこと。他人の依頼を奪って申し訳なく思ったこと。依頼の報酬は依頼受けた人たちに渡すように言う自分と、討伐した本人が受け取るように言う受付嬢とで1時間以上も口論したこと。今日1日あったことを思い返しながら、報告するように言葉を続ける。そして、報告も全て終わり言うことがなくなると、彼は表情だけでなく声音も悲しそうにしながらこう言った。

 

 

 

「………ねぇ、母さん。俺、()()()()()生きられてるかな……?」

 

 

 

その問いかけに答えてくれる者がおるはずもなく、浴室に響いた独り言は開けていた窓から風に乗って消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、ゴブリンスレイヤーと似た境遇でありながらも、殺す対象は自分の同族であり、護る相手は本来自分の敵である人間という世界で唯一の異端のゴブリンの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   善良なゴブリン、ですか? まあ、世界中探せば1人…………1匹くらいはそういうのもいるかもしれませんね。でも、期待するだけ無駄ですよ。周りには悪いゴブリンしかいないんですから、産まれたゴブリンもそれに染まるのが自然でしょう。それに人やゴブリンに限らず、生き物ってのは真っ先に嫌悪や敵意を抱く対象は自分とは異なる姿の生物ですからね。いがみ合うのが当然です。普通に同族嫌悪を覚えるっていうことも多々ありますがね。…………え? 俺はゴブリンをどう思ってるかって? そんなの決まってるじゃないですか。

 

 

 

   1匹残らず殺したいと思うくらい嫌いですよ




いかがでしたか(((;゚Д゚)))ガクブル
一話目から正体バラすかは悩みましたが、隠し通してお話の続きを書ける自信がなかったので普通にバラしました。主人公が同族であるゴブリンを嫌っている理由は……まあ、大体わかっちゃいますよね。最後の会話はふとぼやいた受付嬢の言葉にたまたまいた主人公が答えたものです(今考えました)
次の投稿は本当に未定です。ぶっちゃけ投げっぱなしの可能性大です。なので、気長にお待ちになるか、記憶から消去しておいてください。
それでは、またの機会があればその時はよろしくお願いします。ここまで読んでくださりありがとうございました。

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