さて突然どうしたかといえば、わたしのまぶたの裏で日々暴虐を謳歌している
わたしが日常を目立たぬよう出しゃばらぬよう、かといって職場での奉公に手を抜くこともないようにと心掛けるように、小鬼たちもめいめい血腥くろくでもない時を過ごしている。
そうとなれば自然と残る五つの窓に目が掛かることになる訳で、日々逃げ惑っては成長する小鬼という種族たちはまさに
三つ目の窓から見える小鬼は久しぶりに
ただし、先日の
四つ目の窓の小鬼は、突如としてねぐらに満ちた
他の窓とて、上手いこと育つ前に死んだ個体は、すでにひとつの窓につき両手の指ですら数えきれない。巨大小鬼は寿命(そもそも大往生を迎えた小鬼というものを見たことがないが)まで含めて例外中の例外である。
さて、それでは冒頭の一文に立ち返って二つ目の窓の小鬼の話である。例によって
それが唐突に
ことによれば
二つ目の窓の小鬼は、何者かによって
そもそもわたしのまぶたの裏に在る時点で不思議極まる小鬼窓だが、まず観察できる小鬼を意図的に交代することが出来ない。ただしその小鬼が死んでいれば
交換を念じるまでは小鬼の死骸の様子が映りっぱなしで、大抵は肉食の獣に食い荒らされるか放置されたまま腐敗してゆく。そういえば五年ほど前にはしばらく、妙に腑分けされたように四散する小鬼が散見された覚えがある。それだって交換するまではそのままだった。
まあそんな訳で、わたしのまぶたの裏の小鬼は、死ねばただ消えるといった代物でもないのだ。
そして、消えた術士の窓に交換を念じても新しい小鬼に
おかげで空白となった窓をひとつ抱えざるを得なくなり、観察と育成を楽しめる窓が占めて四つになってしまったことを、はてさて嘆くべきか楽しむべきか──。
「
「冷える前にそれぞれ
「
「
「
仕事中の厨房は、さながら戦場に例えられる。
「はあ、ようやく休憩ですね」
「疲れました」
人数にして三十を超える同僚のうち一人と共に、
「喉が渇きました」
「私もー。それじゃちょっとお水汲んで──ごめん、少し待ってね」
わたしが渇きを覚えてぽつりと漏らした言葉に同調した同僚が、汲み置きの瓶に向かって歩き始めたところでなにかに気づいて踵を返した。小走りで厨房の方、廊下の向こうに姿を消していく同僚を見送る。
わたしが職場の菓子の差配に関して
確証はないが、たぶん摘まみ食いを注意しに行ったのだろう。今日の休憩時間はそれほど長くない。わたしは立ち上がって
三つ目の窓の小鬼が最近棲家を変えたので、最近はそれを特に注視している。砂舞う不毛の荒野から、昏き墓所へと突然居所を変えたわたしの三番目の窓の小鬼──
日常的に逃げ回る小鬼のこと、棲家を変えるなどそれこそ日常茶飯事なのだが、今回ばかりはいささか状況が異なる。小鬼英雄は、彼が率いる群れごと移動……否、
「お待たせ。あ、水汲んでくれたんだ。ありがと」
「あ、いえ」
耳に届いた同僚の声にパッとまぶたを上げて笑みで応える。気づかれるはずもないことだが、それは気づかれないように努力しなくてもよいということではない。
「まあ、摘まみ食いにも困ったものよ。
「そのように言うところもあるとは聞きますが……さすがにハエ扱いはどうかと」
「それもそうか。じゃ、ナイショで」
「はい」
同僚はなにかと物怖じしないところがあり、そこが上司に気に入られている感がある。日々をおっかなびっくり過ごす私とはなんとも大違いである。
そう、おっかなびっくり、だ。
十年一昔の以前、あったかどうか定かでもない
転移した小鬼英雄が、ひょっとしたらわたしの足の下に潜んでいるかもしれない、という
次に休憩に入る同僚と交代し仕事に戻り、せっせかと働いて、陽の落ちる前に家に帰り、ぐったりと寝台に身を沈める間にも、わたしは怯えて震えるのだ。
まぶたの裏の小鬼の後ろに、ある日わたしが映るようなことがあれば。という想像を幾度となく繰り返し、そうならないよう細心の注意で小鬼を寄せ付けないように考えては、そのための実効指示の効果の不確かさに
転移したということは場所が不確かだということだ。
それが朽ちた墓所であるからには、それが
「あ」
たまの休みの日。家でのんびり小鬼の観察をしようとまぶたを下ろしたところ、ちょうど小鬼英雄が負傷したところを目撃した。角の折れた小柄な兜鎧が、血飛沫の中で小鬼英雄の右目に右籠手を叩き込んでいたのだ。
ひょっとして、墓所を守るために迷い出た
直後、逃走に成功した小鬼英雄の背後には他にもいくつか小鬼とは違う姿が見えたので、恐らくは冒険者の一党なのだろうが。
……
右目を喪う危機を切り抜けた小鬼英雄は、後日ふたたびやって来るだろう冒険者の脅威から逃れるべく、群れを捨てて逃げに入る……かと思いきや、なんとそのまま居座るつもりらしい。
逃げろよ、と思考しようとしたところで、彼らがそこに転移で送り込まれたということを思い出した。つまり
事前に探索して逃げ道を確保しておけば、と思うのがわたしたち只人の浅はかさ。そもそも小鬼がそんな勤勉な避難対策などをするはずがない。よってその運命は、残念ながらもはや風前の灯と言えるだろう。
──まさか崩れた岩盤の下敷きとなって圧死するなどとは、実際にそれを見るまでついぞ思わなかったが。