「おどろおどろしき呪と共に、足下より天高き塔を築いた邪悪なる魔術師。それを追って槍使いの紡ぐ『
己の詩に感極まったように、若い吟遊詩人がじゃじゃん、と
「行く手にはだかる
晴れた日の昼下がり、広場の一角で吟じられる勇壮な歌は、昼食を終えた人々から注目を集めていた。
「雲霞の如き小鬼ばらは、小鬼殺しの一振りにて尽く命脈断ち割られ」
都の流行はとにかく移り変わりが激しい。
「真正面より振るわれた重戦士の
歌われるのは西の辺境、邪悪なる魔術師の築いた塔がわずか三人ながら名のある銀等級
「おお
歌い手の力量こそせいぜいが冒険者における
「最高、最強、最優の辺境三勇士による魔宮滅亡の段、ひとまずこれまで」
一礼する吟遊詩人に向け、拍手と
わたしは、そんな様子をボーッと眺めていた。
槍使い、重戦士は気にならない。強いのだろうが、あくまで辺境の冒険者で、都に住むわたしに接点はない。
それより
以前に別の吟遊詩人(今日の若い詩人より歌が上手かった)の歌を聞いた際に、その存在と辺境最優の称号、そして他人の評価を
ひたすら小鬼退治の依頼ばかりを請け負い、貧しい寒村を幾度となく小鬼の脅威から救ってきた
それでいて
最優? とんでもない、わたしにとっては
食後の口休めにと購入した
そういえば昔一度だけ、乙級
そもそもわたしの見てきた
知識、経験、金銭、そして畏怖。様々な要素が不足しているからだろうし、それでも小鬼側が七割で死ぬとなればそうそう是正もされないだろう。
小鬼は、たぶんわたしよりは強いのだが、一般的な成人であれば誰でもたやすく叩き伏せることが出来るだろう程度には弱い。それでいて好戦的で狂暴だ。
だが武器を使う。毒も使う。罠だって仕掛ける。
互いに素手であれば、体格差もあって精々が爪で引っ掻かれる程度の
それが群れれば、
「ごちそうさまでした、と」
知識として役立つことはないだろうが、基本的に小鬼の
ちょっとだけゾッとする。
「……寒」
軽く身震いしてからまぶたを上げて立ち上がる。年越しも近い冬の休日、多少は歩いて体を暖めないと体調を崩しかねない。
やってたことは出歯亀みたいなものだが、この程度で動揺するだけの情緒などすっかり麻痺を通り越して擦りきれている。それは嘆くべきことかもしれないが、いちいち嘆いていてもどうしようもない。
きっとわたしは
小鬼に歌というものを教えてみたことがある。
ラララですらなく、あーあーとかうーうーといった調子外れの代物ではあったが、教えた小鬼たちはぎゃーぎゃーごぶごぶと愉快そうに騒いでいたので、それなりに伝わってはいた、とは思う。
耳障りで騒がしいからと、その群れを従えていた巨大な
町や村といった集落を道で繋ぐことで強度を増している只人の社会とはやはり比較にならない。騒がしくも愉快な歌という文化を保つには、小鬼とその社会はあまりに脆弱にすぎるのであろう。
「──ん?」
小鬼育成の過去の失敗例を夢に見たある日の早朝、目を覚ましたわたしのまぶたの裏に、前日までと異なる色が存在していた。
不可知の手段で奪われていた
その中央には、ひしゃげた鉄鎧にねじり潰されたかのような無惨な姿。
今、わたしの感じるこの悔しさは、ひょっとして敗北感というものだろうか?
「あ」
骸の腰から、華美な装飾仕立ての鞘がもぎ取られる。
わたしの目の前であるとも知らず
そして腹を立てた自分の理不尽に気づいて、意識してゆっくり気を落ち着け、分析する。
窓に映る白一色は雪景色だ。おおよそこの辺りの平地に積もる量ではないので、恐らくは雪山、あるいは遥か北方の地だろうか。
小鬼王は胸甲止まりだったがこちらは鉄の全身鎧。
いや、そもそもわたしのまぶたの裏から小鬼を拐かすような得体の知れない力から考慮すると、恐らくは
そこまで考えて落ち着くと、わたしは思考の方向性を切り替える。
雪上に打ち捨てられた小鬼の死骸は、もはや顧みられることもなく埋もれてゆく運命しかないだろう。交換、と意識して念じると、あっさりと白一色の風景は元来の闇一色へと切り替わった。
──ちょうど産まれ落ちるところなので、今だけは肌色と血の赤に塗れてはいたが。
聖騎士、いやその前に
小鬼に神を信仰させるなど、きっと小鬼に歌を教えるよりもはるかに難題ではあるだろうが、さてどのように試してみようか?