凛として、生きて 中編   作:樋口晶子

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第8話 すれ違い

「…それで、あなたの将来像を6年待ったわ、そろそろ答えを聞かせてもらえるかしら」

 

「…そ、それが…加賀先生、最近凄く忙しくて!弓の試験もあって、蒼龍さんの騒ぎやテストなんかも多くて…」

 

「で」

 

「…まだ考えてません、ごめんなさい」

 

「あなたの欠陥は計画性がまるで無いところよ、蒼龍の件は私も聞いていますがそれ以前に思考する時間は充分にあったはずです」

 

「…はい、すみません」

 

「あなた、大学に行くと言っていたわね」

 

「…はい…言いました…」

 

「それは決まっているのね」

 

「…はい…決まってます…」

 

「ならあなたは、高等学校に行く必要があります」

 

「…えっ」

 

「ここから通える高校は帝都第一高等学校だけれど、総合共通選抜試験上位400名しか入学を許可されない難関よ、こうして自堕落な生活をしていては無理でしょうね」

 

「…と…いうことは…」

 

「第一高校に入学できなければ鎮守府を去る事になるわね」

 

「そ!そんな!私には無理です」

 

「甘えないで、これはあなたが決めたことよそれに、何故入学が出来ないこと前提なのかしら、私なら今からでも必死に対策するわよ

試験本番は来年2月、鎮守府にいたければそれまでになんとかすることね」

 

「…うう」

 

「…それと、これは提督からの手紙よ」

 

「…はい…開けてみてもいいですか?」

 

「あなた宛の手紙を他の誰が開けるのかしら」

 

「はい!すみません」

 

[水神凛殿 貴殿に付与した鎮守府の在留権は満18歳をもって停止する]

 

「…………………」

 

「異論はないようね」

 

「…はい、いつかは言われると思っていましたから」

 

「ならあと4年、ここでの時間をどう使うか…考えなさい」

 

「はい、加賀先生」

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、山城さん」

 

「あ、凛ちゃん先生!来てくれたのね!っ!いてて」

 

「ああ!起き上がろうとしないで!山城さん結構な大手術だったのよ?病室にいる時くらい安静にしてて」

 

「…うん、そうさせてもらうね」

 

「…セフトリアキソンは朝変えたのね、お薬はちゃんと飲んでる?」

 

「うん!看護師さんの言いつけ通り」

 

「そう、状態は落ち着いてるから大丈夫よ」

 

「…でもね、すごく体が重いっていうか」

 

「それはね、フェンタニルっていうお腹に貼ってある鎮痛剤、でも剥がしたら死ぬほど痛くなるから!剥がさないでね」

 

「そっか!じゃあ傷が治ったらこの体調も?」

 

「ええ、傷が塞がれば体調も良くなるわ」

 

「よかった!一生このままなのかと思ったよ」

 

「…扶桑さん、毎日お見舞いに来てたんですってね」

 

「ええ、姉さまに聞いたわ…私、そんなに眠っていたのね…」

 

「でも弾倉3カ所、肋骨4本骨折、気胸、肝破裂おまけに腎動脈損傷でここまで回復したんですもの…ついてたわね!」

 

「…凛ちゃん先生のおかげだよ」

 

「山城さんの生きたいっていう気持ちだよ……じゃあ私はもう行くね!」

 

「ふふふ、忙しいのね!凛ちゃん先生も」

 

「ええ!これでも鎮守府の医者ですから!」

 

「…先生!今戻った艦隊に重傷患者が!」

 

「人数と怪我の状況を詳しく教えて」

 

「患者は10代前半から20代後半の8名全員女性そのうち2名は意識不明1人は脈ふれません」

 

「…そうトリアージ、AEDと挿管キッド、エピネフリンと生食、呼吸器用意してスタットコール!非番の看護師もかき集めて」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

「…ただいま」

 

「…お帰りなさい、凛」

 

「私ね…高等学校を受験する事になったよ」

 

「ええ、加賀さんから聞いたわ」

 

「あとこの手紙」

 

「………………………」

 

「……でももうお母さんを困らせたりしないよ!私は高校に行く、加賀先生も提督も私を思って言ってくれてること…わかるから」

 

「………凛」

 

「えへへ、お母さん…あったかい」

 

「…なんか凛のほうが大人になって、私は子供になったみたい………本当はね、凛のことが心配で仕方ないの、ここを出て生きていけるのか凛と離れたくないのはお母さんの方なの」

 

「…お母さん」

 

「…ごめんなさい、せっかく凛が自分で決めてそうしようとしてるのに、お母さんが言った事なのにね」

 

「んん!…多分ね、家族ってみんなそうなんだと思う、それも私をここまで育ててくれたお母さんのおかげ!」

 

「…凛」

 

「…うん!エンジンかかった!見てて!一高にトップで入ってみせるから!それでお母さんを安心させてあげる!私だって何かに成れるって」

 

「…ふふふ、頑張ってね凛」

 

 

 

 

「…あ!ねえ暁、凛ちゃん」

 

「…凛ちゃん、久しぶり」

 

「…暁ちゃん、電ちゃん、響ちゃん…久しぶりだね」

 

「凛、高校に行くって話」

 

「…うん、行くよ…今その勉強中、みんな…その制服…」

 

「えへへ!電達も正式に駆逐艦隊に配属されたのです!」

 

「どお!似合ってるでしょ!これで暁も立派なレディよ!」

 

「凛、時間あったら久しぶりに話さない?」

 

「そうするのです!電達の部屋最近模様替えしたのです」

 

「うん、私も話したいことがあるの」

 

 

「どーぞ!なのです!」

 

「ありがとう…ふふふ、なんか電ちゃんにこうしてお茶をもらうなんて、なんかへんな感じだね」

 

「間宮では凛ちゃん給仕さんだものね!でも、暖かいお茶を出されるのもいいものでしょ?」

 

「うん、私ずっと間宮の店員だからわからなかった…いただきます」

 

「…どお!私達の部屋!」

 

「とっても素敵ね!あ………この写真…」

 

「…雷と凛が写ってる一枚だからね、いつもそこにおいてるんだ」

 

「雷ちゃん…」

 

「…あのね、凛ちゃん…私達も作戦で鎮守府をでるの」

 

「…電達これから遠くの島に住むことになるのです」

 

「…そう、なんだ…ねえ、帰ってくるのはどれくらい先なの?」

 

「まだ、わからないんだ長期の作戦になりそうだから」

 

「こんな事になるなら練習サボって間宮行けば良かったよね!」

 

「ほんと、これからは間宮の甘味も簡単には食べられないね」

 

「でも出張までは暇なので、これからは毎日行けるのです!」

 

「…え、みんな私と会うのが嫌で間宮に来なくなったんじゃないの?」

 

「…あの時は…モヤモヤした気持ちだったよ、でも雷が死んだのは凛のせいじゃない」

 

「そうそう!凛ちゃんが悪いわけでもなんでもないもの!」

 

「でも、凛ちゃんに会いに行こうと思ったら訓練とか試験とかで忙しくなっちゃったのです」

 

「だから、私達は凛を避けてた訳じゃない…むしろこうして話したかった」

 

「……ごめんね、そうだったんだね…私、暁ちゃん達に会うの避けてた怖くて、何が怖かったのかはわからないけど…私から会いに来るべきだったのに」

 

「…電達も同じなのです、本当は短い時間でも会いにくることできたのに」

 

「そうね…久しぶりに凛に会ってどう思われてるか怖かった」

 

「でも!これでハッキリしたじゃない!私達はこれからもずーっと友達よ!そうでしょ凛」

 

「うん!ずーっと友達でいて!」

 

「ねえ、凛の話って何?」

 

「…んん!なんでもない!暁ちゃん、響ちゃん、電ちゃんの気持ちがわかったからもういいの」

 

「そっか!ねえ凛ちゃん!今日は泊まっていきなよ!」

 

「それはいいアイディアなのです!」

 

「ハラショー」

 

「うん!お母さんに聞いてみるね!」

 

 

 

4年後に鎮守府を去ることは伝えなかった

3人に嫌われ、恨まれていたらどんなに楽だっただろう

淡々と別れの挨拶をして淡白に離れられたのに

でも、こうして友情が戻ってきてしまえば少なからず相手を不安にさせたり、心配をかけるようなことは言えなくなってしまった

こんな気持ちになるのは自分だけでいい

今は4人で過ごしているこの時間を大切にしよう、そう思った。

 

 

 

「凛ちゃーん!注文お願いなのです」

 

「はーい!………お伺いします」

 

「凛に注文するのも久しぶりだね」

 

「うん!えーとねチョコパフェとキャラメルパフェ2つ、苺大福に間宮モナカ2つ、ココア3つ、苺タルト3つ、チーズケーキお汁粉とおぜんざいちょうだい!」

 

「ふふふ、そんなに食べられる?」

 

「久しぶりの間宮だからいっぱい食べるのです!」

 

「はーい!で、ココアはホットにする?アイス?」

 

「3つともアイスで」

 

「はい、かしこまりました!」

 

「凛、昨日から私達と一緒で勉強してないけど試験大丈夫なの?」

 

「そうよ!高校に落ちたら鎮守府に居られないって!」

 

「大丈夫!それに久しぶりに3人が間宮に来てくれたんですもの」

 

「凛ちゃん!注文お願ーい」

 

「はーい!今行きます蒼龍さん!」

 

「…待って凛、…蒼龍さんって大丈夫なの?…」

 

「…そうよ、凛ちゃん大変な目にあったって…」

 

「…電も心配なのです…」

 

「大丈夫!みんなも蒼龍さんと仲良くしてあげて!」

 

「凛がそう言うなら私も考えを改めるよ」

 

「うん!ありがとう、じゃあ行ってくるね」

 

 

「…今日も来ちゃった」

 

「いついらしてもいいんですよ!蒼龍さん」

 

「暁達…間宮に来るんだ…」

 

「はい!今日久しぶりに来てくれたんです」

 

「…ふーん…あ!で、注文ね」

 

「はい!お伺いします」

 

「お抹茶と白玉パフェお願い」

 

「はい!かしこまりました少々お待ちください!」

 

「ねえ凛ちゃん」

 

「はい!どうしました?」

 

「…んん、なんでもない!」

 

「…ふふふ、へんな蒼龍さん!」

 

 

 

「…じゃあね、凛ちゃん」

 

「体に気をつけて」

 

「…あっちに着いたらお手紙書くのです!」

 

「…暁ちゃん、響ちゃん、電ちゃん………絶対に!絶対に…死なないで…元気に帰ってきてね!」

 

「ええ!帰ってきたらまた間宮さんの甘味いーっぱい食べに行くから!覚悟しといてね!」

 

「これ、電達から凛ちゃんにプレゼントなのです!」

 

「え!」

 

「凛が無事に高校に合格できるよう、御守り」

 

「…ありがとう」

 

「私達が戻っても凛が居なかったたら意味が無いじゃない」

 

「私も!3人にマフラー編んだの、遠くに行って夜寒くなったらと思って」

 

「…わあ!凄くあったかいよ!ありがとう凛ちゃん!」

 

「ふふふ、電のはピンク色なのです!可愛いのです!」

 

「でも、まだ9月よ…ちょっと暑いわね」

 

「……あ、あははは!寒くなったら巻いて」

 

「…じゃあもう行くのです」

 

「またね、凛」

 

「…っ!………凛!」

 

「…っ!暁ちゃん」

 

「…必ず帰るから…凛も頑張りなさいよ!」

 

「…うん!必ずここで待ってる」

 

 

 

「ただいまー!暁ちゃん達にちゃんとマフラー渡せたよ!いつ帰って来れるかな?さて、勉強始めますか!」

 

「…あ、凛…」

 

「ん?どうしたのお母さん」

 

「…あのね………お母さんも遠方に駐留する事になったの…」

 

「…………………え……」

 

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