凛として、生きて 中編   作:樋口晶子

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第9話 我儘

「………お母さんも…なんだ」

 

「凛、ごめんなさい…あなたの側から離れないって言ったのに…」

 

「…そっか、お母さんも行っちゃうんだ…」

 

「…凛」

 

「…私も行きたいな…」

 

「凛…」

 

「大丈夫!冗談冗談!そっかーじゃあお店は私が切り盛りしないとだね!今までお母さんの料理いっぱい教えてもらったからなんとかなると思うけど、やっぱりお母さんがいないとパッとしないだろうね!」

 

「…凛、お店は休業にするわ、あなただってこれから受験で忙しくなるのに親の店を全てまかせるなんてできない」

 

「なんでさ!!」

 

「り、凛?」

 

「……お母さんとの…思い出のお店、私に守らせてよ…嫌だよ…暁ちゃんたちも戦場に行って…今度はお母さんまで……私、おかしくなっちゃうよ!…だからせめて……お店にいさせてよ!全部凛から奪わないでよ!」

 

「………凛……」

 

「……お母さん…ご、ごめんね…困るよね!私、我儘言わないお母さんを困らせないから!大丈夫私の事は心配しないで!」

 

「……凛、あなたは私の娘…我慢しないで困ることも悲しいこともたくさんぶつけていいのよ」

 

「…………嫌だよ…嫌だよ!!そんなところ行かないで!ずーっと側にいてよ!お母さん!お母さん!お母さん!」

 

「…ごめんなさい凛…」

 

「…ぜ、絶対に帰ってくる?」

 

「向こうではね、お母さん炊事を担当するのよ…だから直接戦闘に参加する事はないと思うの」

 

「じゃあ!」

 

「でも!凛は受験があるのだからお店は週一回にしなさい!いいわね」

 

「うん!毎週金曜の夜にお店開いて鎮守府のみんなに来てもらってお母さんの料理を忘れないように私、頑張るね!」

 

「ええ!しっかり頑張るのよ!副店長!」

 

「はい!」

 

 

 

鎮守府には私を含め数人が在中することになった

お母さんを含めた最終の部隊が出立する前日、私は提督に呼ばれた。

 

 

 

 

「…水神凛です、提督お邪魔してもいいですか?」

 

「どうぞ」

 

「失礼します…お呼びでしょうか?」

 

「…この前は手紙でいきなりすまないね」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「それで、一高を志望するんだって?」

 

「はい、18歳までここで暮らしたいので」

 

「そうか…君は成績優秀だそうだね、加賀さんからきいてるよ」

 

「で、提督さん…私に何の用でしょうか」

 

「………すまない……鳳翔さんを、君の親を戦場に送ることになってしまって」

 

「…お母さんの本当の仕事は敵を倒して勝つ事だと理解しています、提督さんに謝られる事はありません」

 

「…凛ちゃん…」

 

「…私には…我儘を言えて困ること、悲しいこと苦しいこと辛いこと全部受け止めてくれる人家族がいます、だからその人の前以外では弱音は吐きません、ですから提督さんは戦場に出ているみんながちゃんと仕事をして無事に帰って来られるように…全力で仕事をしてください、私も全力で今出来ることをします」

 

「…僕もね、家族を失っているんだ、もう20年も前の話だが…だから君を鎮守府に引き取って育てていくつもりだったが、鳳翔さんが任せてほしいと言ってね…家族を喪う悲しさは誰よりわかっているつもりだ、それを二度君に味あわせることは絶対にしない。約束しよう」

 

「…提督さん」

 

「僕だって加賀さんという妻がいるんだ、その人を遠い島で死なせるわけにはいかない。当然誰一人死なせる作戦は立てない…凛ちゃんは安心して受験に挑んでくれ…今日伝えたかったのはその事だ、しばらくは鳳翔さんにも会えないだろうから二人の時間を過ごすといい」

 

「はい、提督さん…母をみんなを、よろしくお願いします」

 

「わかった」

 

 

 

「お母さん!今日は肩もみしてあげる!」

 

「え!どうしたの凛、そんなことより勉強しないと!」

 

「い!や!だ!今日はずーっとお母さんといるの!」

 

「ふふふ、そんなこと言って勉強したくないだけじゃないの?」

 

「えへへ!バレた?」

 

「もう!凛ったら」

 

「お母さん、どお?私の肩もみ」

 

「ええ、とっても楽になるわ!」

 

「あ、明日行く準備できてる?」

 

「ええ、もう荷物も纏めたわよ」

 

「マフラーも入れた?」

 

「ええ、大丈夫」

 

「あ、………お母さん…白髪見つけちゃった…」

 

「え!もう!凛ったら…お母さんだってもう歳なんだから白髪の一本二本あります!」

 

「お母さん」

 

「もう!今度は何!」

 

「………っ!お母さん!!」

 

「っ!………凛」

 

「こっち向かないで!………………これからお仕事しに行くお母さんに見せられない顔してるから…このままでいて」

 

「……ふふふ、凛はあったかいわね」

 

「…私、受験頑張る、お店もがんばる、間宮さんのお店も、弓も一人でがんばる」

 

「ええ」

 

「だから………お母さんは必ず帰ってきて、絶対絶対帰ってきて…」

 

「…凛、ありがとう。あなたがこんなに優しい良い子に育ってくれた…お母さんそれだけで嬉しいの、最初出会った時から他人に思えなくて、凛にとっていいお母さんでいられたかしら?」

 

「…お母さんの教えてくれたことをしてただけだよ、全部お母さんのおかげだよ?私のお母さんはお母さんだよいいも悪いもない!」

 

「…ふふふ、凛の高校の入学式に出席する為にも絶対に帰るから。必ず合格するのよ?」

 

「うん!!…お母さん!ここもう一本白髪!」

 

「っ!…いちいち報告するんじゃありません!」

 

「どうしよ!プチん!って抜いたほうがいいのかな?」

 

「ダメよ!そんなことしたら余計に増えるって!」

 

「え!そうなの!うーどうしよう」

 

「そうゆう時は染めるのよ!」

 

「あ!じゃあ私がやるー!」

 

「もう!綺麗に染めてね」

 

 

 

 

 

「よし!これで仕込み完了!…お酒も、うん酒屋さんに持って来てもらった分で大丈夫!あとはみんなを呼びに行くだけね!」

 

 

「提督さーん!今日は居酒屋鳳翔営業日ですよ!来てくださいねー!」

 

「り、凛ちゃん!ノックしてから入りなさい!」

 

「ごめんなさーい!」

 

 

「榛名さん、霧島さん今日は居酒屋鳳翔営業日ですよー!」

 

「ありがとう凛ちゃん、必ずお邪魔しますね!」

 

「私のお酒頼んでくれたかしら?」

 

「はい!バッチリです!」

 

 

「山城さん、扶桑さん!今日は居酒屋鳳翔営業日です!」

 

「あら、凛ちゃん毎週ご苦労様」

 

「ええ、私達の息抜きのためにありがとう、訓練が終わったらお邪魔するわね!」

 

「お待ちしています!」

 

 

「蒼龍さん!今日は居酒屋鳳翔営業日ですよー!」

 

「凛ちゃん、そっかまた金曜日か…」

 

「はい!毎週金曜日は営業日です!」

 

「うん!ありがとう仕事終わったら行くね」

 

「はい!お待ちしてます」

 

 

「いらっしゃいませ!榛名さん、霧島さん」

 

「凛ちゃんの女将さん姿もみなれてきちゃいましたね!」

 

「ええ、頼もしいわね」

 

「今日のおススメはお母さん直伝里芋の煮っころがしとヒラメの煮付けですよ!」

 

「あら!とっても美味しそうね!二人分もらうわ」

 

「はい!ありがとうございます…いらっしゃいませ提督さん、山城さんに扶桑さんもいらっしゃいませ!」

 

 

「じゃあ霧島の分とで8600円ね…1万円であと凛ちゃんのお小遣い!」

 

「そ、そんなダメですよ!」

 

「いいの!凛ちゃんのおかげで金曜日ホッとできるところがあるんですもの」

 

「あ、ありがとうございます榛名さん」

 

「…この酔っ払いは、榛名が連れ帰るから…心配しないで…」

 

「……もっと酒だあ〜!!酒を持ってこ〜い…んぐっ……」

 

「わー!まだ吐かないで!霧島ー!!じゃあ、ありがとう凛ちゃん!」

 

「あ、ありがとうござましたー!……………ふう、後片付けしますか!」

 

「いらっ……蒼龍さん!」

 

「ごめんね凛ちゃん遅くなっちゃって…もう看板かな?」

 

「大丈夫です!みなさん帰られましたけど、料理もまだちょっと残ってますよ!」

 

「あら、じゃあお言葉に甘えてちょっと飲んでもいい?」

 

「はい!」

 

「…凛ちゃんやっぱり鳳翔さんがいないと寂しい?」

 

「はい…でもお店の準備とかで色々しなきゃいけないこともあって、お母さんこんなに頑張ってたんだなーって改めて思い知りました!」

 

「…そっか」

 

「どうぞ、お酒おつぎします!」

 

「あ、ありがとう……………うん、おいしい」

 

「えへへ、よかったです!」

 

「ねえ、凛ちゃんも隣座って飲みなよ!」

 

「えっ…でも私まだお酒は」

 

「凛ちゃんの好きなのってオレンジジュースだったわよね?」

 

「は、はい…あ、そんなお客さんに入れてもらうなんて!」

 

「いいの、いいの!はい!オレンジジュースね!凛ちゃんもまだ夕飯食べてないんでしょ?一緒に食べよ」

 

「じゃあお言葉に甘えて!」

 

「かんぱーい!」

 

「おいしいわね!このヒラメ」

 

「ありがとうございます!お母さんの味なんですよ」

 

「うん!よく作れてるよ」

 

「これ、余った材料で作ったマカナイなんですけど、良かったら一緒に食べますか?もちろんお代はいただきませんから!」

 

「まあ!凛ちゃん特製なの?」

 

「えーと…そうですね、余った材料なんで特製といえば、特製ですかね?」

 

「是非いただくわ!………ん〜!とっても美味しいわ!」

 

「そんな、大袈裟ですよ!」

 

「凛ちゃん、もうみんな遠征に行ってから二ヶ月経つね」

 

「はい…みんなどうしてるんでしょうか…通信の保護とかで結局手紙も届かないですし…」

 

「凛ちゃんの高校入学まで帰ってこれるかな」

 

「…心配です」

 

「凛ちゃん大丈夫?」

 

「…本当はすごく心配で不安です!みんなちゃんと帰って来られるのか、怪我とかしてないのか不安でねむれないんです」

 

「鳳翔さんも炊事担当らしいけど…前線に行ってたら…」

 

「…っ!そんな!………なんかすごく不安になってきました!それにすごく悲しい、なんで!すごい嫌な気分です!なんで…こわい!…っ!蒼龍さ…ん」

 

「大丈夫、大丈夫よ…凛ちゃんには私がいるから」

 

「…蒼龍、さん」

 

「その不安な気持ち、全部私にぶつけていいのよ?一人でかかえようとしないで」

 

「…蒼龍さん!私、もう嫌です!私が大事にしてる人全員私の側から居なくなる!なんで!!なんでこんなに悲しいんだろう!」

 

「大丈夫よ…私がいるわ」

 

「…あ、あれ…なんか…体がフラフラして…あれ?すごい…へんなかんじ…」

 

「大丈夫?凛ちゃん飲み過ぎたんじゃないの?オレンジジュース」

 

「………な…んか……お、おかしい……です」

 

「…ふふふ、眠たくなったら寝ていいのよ?」

 

「………お…みせの………か、た……ず…………け……………」

 

「ふふふ、片付けね…しておいてあげる」

 

「…………………」

 

「………お帰り、飛龍」

 

 

 

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