運営の卑劣なる「安かろう(デザインが)悪かろう」トラップが思春期の常寺を襲う……!
バンディットバルチャー 「常寺が死んだ!」
マッドフロッグ 「このひとでなし!」
常寺が強盗スタイルになってから数日が過ぎた。
あの後、装備を更新した常寺は無事に2体目のエリアボス戦をクリア。
サードレマにたどり着き、フルフェイス装備を求めて生産職の集団に駆け込んでいた。
運よく「ビギナーには優しく」というスタンスの人に巡り合えたのが良かったのだろう。
「レースクイーン装備のついでで良いなら作ってやるよ。手持ちの頭防具出しな。足りない素材は……ま、初回サービスだ」
という言葉と共に、手持ちの鉱石素材で強化された初期防具の馬面は、中世にあった金属製の馬用頭防具があしらわれ、耐久値、防御力共にボンテージマスクのはるか上を行っていた。
防具の上に防具を足したような作りだが、そこそこレアな鉱石も使っているらしく、サードレマ周辺の探索にも耐えうる性能になっている。
見た目は騎士の馬面である。
割と見た目が良くなって常寺としては大満足な結果だった。
また、予備のマスクがあった方が良いだろう? という事でニット帽を取ることでありのままの姿に戻ったボンテージマスクもビジュアルチェンジが施されていた。
足りない素材をサービスする。という言葉の通し、持っていない素材を融通してくれたのだろう。見たことのない素材で作られた顔面保護パーツを追加。さらに敵を威嚇するための羽飾りをあしらう事で存在感を増していた。
見た目はジェイソン要素を持ったモヒカンマスクである。
……犯罪性が! 増してやがる!
初対面の時に頭が強盗だったせいで「そういうのが好き」とでも思われたのだろうか?
どう見ても「混ぜるな危険」カテゴリの要素を混ぜたソレは現代の強盗から世紀末のモヒカンへと変化を遂げていた。
しかも顔面ジェイソンマスク風味やぞ。世紀末スプラッタホラーとかどないすんねん。
などと首を傾げながら受け取った常時は、その性能を確認し白目をむく。
そう、生まれ変わったモヒカンマスクは、強化された馬面をもってなお、突き放すくらいに上回る圧倒的な性能だったのだ。
「久しぶりに楽しい仕事をさせてもらった。ウチの連中は基本初期装備だからな……楽しかったぜ」
とニヒルに笑う生産職いわく、素材には現時点における終盤のエリア、「無果落耀古城骸」に出る「ハードラッグ・ライノ」の素材をふんだんに使っているらしい。
この後「いいよな、世紀末」と握手を求められた常寺は、場の雰囲気的に装備せざるを得ないモヒカンマスクの下で白目をむきながら握手に応知る。
翌日、レースクイーン装備のマッチョがファスティアに現れたらしい。
●
さて、それはそれとして、攻略である。
さんざん悩んだ末にオシャレ感覚が性能の誘惑に負け、モヒカンジェイソンマスクを装備した常寺は、サードレマから行けるエリアの一つ。「千紫万紅の樹海窟」へと訪れていた。
光る苔が壁や天井に生えた迷宮型のエリア。
生い茂る樹海を花の絨毯を踏みしめて歩けば、自然と探検気分に乗せられて口元が緩み上がっていく。
そして割と頻繁にポップする昆虫エネミーの存在に自然と口角が下がるダンジョンだ。
そんな迷宮をひた歩む常寺は、いつも組んでるセントワイズはもちろん、他のヘルマーや別クランのプレイヤーと連携を取りつつ、奥へ奥へと進んでいた。
そう、今日はいつもと違って団体行動である。
自らが所属するフルフェイスヘルマーのクランメンバーと、考察クランである「ライブラリ」を始めとした初心者終盤の新人メンバーが中心の3パーティー30人による合同遠征。
集団戦初心者新人に大人数での戦いを経験させる目的を兼ねた、巣の形状や材質の調査である。
目的地は巨大な巣のある割と広い空間だ。
もう数分で着くという。メインの戦闘はすぐそこだろう。
今、知識欲にまみれた新人研修が始まろうとしていた。
●
「くそ、こいつら、指揮官が出た途端、動きが変わりやがったぞ?」
「くそ、連携を取り始めやがった……おい、誰か回復をくれ!」
迷宮にあるハチの巣穴に乗り込んで30分。
迷宮タイプのエリアであることが幸いしていたのだろう。
上空から大量の蜂が降ってくるようなこともなく、ある程度地上戦が機能してるおかげで、割と有利に戦況は運んでいた。
だがそれも過去の話。
戦況が進むことで巣穴から出てきたエンパイアビー・ナイツと、それらを含めた全体を指揮する宰相の出現で事態は嫌な方向へと変わり始めていた。
もちろん所詮は蜂だ。高度な知能があるわけでもなく、複雑な連携が取れるわけでもない。
だが蜂ごとに役割がハッキリしてる分、シンプルな連携がキッチリと機能する。
それぞれが、それぞれの役目を果たす。それだけの事で集団の脅威が倍増する事実を新人プレイヤー達は身をもって味わっていた。
そんなプレイヤーの一人である常寺は、思いのほか防御重視になった蜂たちの連携が、バリケードのように立ちふさがるように思えた。
いや、事実バリケードになっている。宰相の指揮のもと、地上スレスレにみっしりとした防御陣が出来上がっていた。
……不味いな、この流れ。
初心者上がりで連携が拙い者も多く、バラバラになりがちな面々を先輩格が押しとどめているような状況だ。
割と新人研修的な側面が強く、上級者が手出し控えめなのもその一因だろう。
記録されているらしいので後で反省会はするのだろうが……それにしたって全滅していいはずがない。
しかし、このまま新人中心に行ってもアイテムを浪費するだけで、蜂のバリケードを突破できないことは明らかだった。
ジリ貧。
そんな言葉が脳裏をよぎる。そんな時。
一緒に来ていた異端審問ヘルマーがイベントリから一振りの武器を取り出した。
……なぁにこれぇ。
他のプレイヤーとスイッチしたことで前衛から後ろへと下がった常寺は思わず内心で声を上げた。
異端審問ヘルマーの取り出した武器。
それは打鞭にカテゴリされる……されど芯のあるべき中心が空洞になっている円柱だったのだ。
まさに砲塔である。
その人も入りそうな筒には小さく持ち手がついている……見た感じ、STR極振りでなければ持てそうもないような巨大かつ、重厚な作りの武器だった。
純魔の異端審問ヘルマーでは扱えない武装である。
しかし、いつの間に用意したのか……その砲塔はプレイヤーメイドの家具アイテムらしい「どう見ても砲座にしか見えない木製の台」に倒れ込むように乗せられた。
セットされた姿はどう見ても「大砲」そのものである。
シャンフロには火薬が無いため、銃火器が無い。
そう、「正式な」銃火器は無いのだ。
……けどこれ、どう見ても大砲だよな?
思わぬ光景に動きを止める常寺。
そんな彼に説明を始めたのは武器を取り出した当人、異端審問ヘルマーだった。
いわく、別のエリアで入手できるハニワ爆弾のアイテムを使えば話が変わるのだという。
爆弾を砲身の底に仕込み、「衝撃を受けると良い感じに吹っ飛ぶ」という「あえてマイナス効果をつけた」プレイヤーメイドの盾を緩衝材にすることで、単発ではあるものの「大砲モドキ」の運用を実現したらしい。
見れば他の先輩ヘルマー達も似たような大砲の準備をしていた。
砲弾は無いのかと聞くと、異端審問ヘルマー曰く、「鉱石で砲弾を作っても手間とコストが割に合わないし、イベントリ枠がもったいない。それなら回復アイテムを持ってきた方がよっぽどマシ」とのことだった
もっと言うと「コレに弾を入れてモンスターを撃つくらいなら、レベルを上げて物理で殴る方が実用的」らしい。
しかし、その理屈はそのまま、この大砲の運用が回復アイテムの持ち込み以上に大切で、実用的という事でもある。
常寺は「一体この大砲で何を撃つのだろう」と興味津々でたまらない様子だった。
かくして大砲のセットが終わり……前線をスイッチして一度後ろに引いたセントワイズがやって来る。
そして、場が整っていることを確認したセントワイズは、現状を打破する「とっておきの策」を伝えようと、テンションを上げて常寺に声をかけるのだった。
「ハアイ常寺ぃ……南斗人間砲弾(なんとにんげんほうだん)って知ってる?」
常寺のワクワクは砕け散った。
●
……なんとにんげんほうだん……なんと人間砲弾!?
何を撃つのか楽しみにしていたとこにピエロマスクのこの言葉である。ワクワクは取り戻せそうもない。
質問の意味が分かりたくない常寺はとりあえず首を振った。
その反応にセントワイズは大げさなアクションを取る。
「オー……今のジリ貧を打開する良い作戦なのに……見ての通り、準備もできてるんだよ?」
なるほど、と常寺は内心で納得すると、誰もが思うであろう実事を断言した。
「名前からして非人道的やろ? 騙されんぞ」
思わず猛虎弁になった常寺は、この流れは切っておいたほうが良いと……というか何を準備してくれとんねん。と微妙な気分になりながら、セントワイズの提案をはねつけた。
しかしセントワイズも食い下がる。
「いや、この技は人間を砲弾にして攻撃するのではなく、大砲に入れた戦士を大砲でバリケードの向こうに飛ばし、籠城した相手を中から攻撃するものなんだ。綿密な計算の元に発射を行うから天井にぶつかる事もないし。事前にバフをかけることでデメリットである発射時・着地時のダメージを最小限に抑え込めるのさ。……どうよ?」
常寺は微笑んだ。
「面白そう! 特攻部隊募るわ」「待てや!」
会話すら放棄し、思考も放棄しようとした常寺。セントワイズは引き留めるべく食い気味に声を上げ、言い聞かせるように問いかけた。
「いいのかい……? あの光景を見ても、同じことが言えるかい……?」
そう言ったセントワイズが指さしたのは、スキルの流れ弾で宰相蜂が倒され、満を持して出てきた本丸だ。
そして問われた常寺は、一拍遅れて声を上げる。
「……! プリンセスビー!」
そう、満を持して出てきた蜂たちのトップ、「エンパイアビークイーン」の隣にレアエネミーである「エンパイアプリンセスビー」がいたのだ。
普通ならクイーンビーだけが出てくるところに、とんだレアエネミー。驚きのサプライズである。
今特攻してもバリケードの壁に殺されるのは目に見えている。プリンセスビーとは戦う事さえできないだろう。
これでは進んで死にたがるものが出るはずもない。他の面々に特攻を持ちかけても断られるのは目に見えていた。
そのことだけを理解し、悔しがる常寺にセントワイズは畳みかける。
「分かるだろう。もはや特攻という選択肢はない。とはいえジリ貧なのも変わらないので、このままではレアエネミーを前に初心者たちは全滅だ。それが嫌なら……人間砲弾になろう。 さあ!」
「……」
常寺は苦い顔をして沈黙した。傍から見ればジェイソンマスクにモヒカンを付けた世紀末スプラッタホラーな覆面の男が静かに佇んでいるだけの光景だ。
だが、それでもどんな顔をしているかがセントワイズには予想がついた。
「オー……そんな認めたくなさそうな顔するなよ。確かにコレの元ネタはアニメで大不評。原作者と担当編集者に怒られた逸話もある。けど、曲芸軌道のできないタンクやアタッカーがバリケードを無視して本丸を攻めるには割とベストな選択肢でもあるんだぞ?」
「その作戦で勝てる?」
「えっ うん」
そう言ったピエロの顔は、表情の変わらないフルフェイス装備なのに何故か引きつって見えた。
……お前そこ一番大事なとこやぞ!?
とはいえ、戦いに絶対はないことくらい常寺にも分かっている。
だが少なくともバリケードを超えて本丸を襲えば前線の指揮は乱れるだろう。
戦線を支えている味方もかなり楽にはなるはずだ。
選択肢はなかった。
「畜生、結局砲弾じゃないか……!」
と、人間砲弾タクティクスを了承したジョージは、セントワイズがグネグネと動ハニワ爆弾を砲身に突っ込んだことを確認して、緩衝材の盾と共に砲身の中に入り込んだ。
そして常寺の装填を確認したセントワイズは嬉しそうに、そして朗らかに笑いだす。
「南斗人間砲弾はいいぞジョージ 割と使いどころが多くて困惑するくらい深い。君も絶対ハマるから……」
「お前も世紀末プレイで暴れてくるんだよおぉぉぉぉ!」
「キャアアアアアアアーーーー!」
……常寺は死んだ。
確かに、世紀末アニメの産んだ狂気のタクティクス……南斗人間砲弾によってジリ貧だった状況は打開された。
蜂達との戦いは誰一人死ぬこともなく、皆が満足して解散することができたのだ。
しかし、一連の戦いでレベルの上がった常寺は、解散後に「レベルもいい感じに上がったし、今ならソロでも良い感じに行けるやろ!」と考え、「千紫万紅の樹海窟」」のエリアボスである道化蜘蛛「クラウンスパイダー」に挑んでしまった。
調子に乗った常寺に前衛殺しともいえるクラウンスパイダーの性能が常寺に牙をむいたのだ。
相性の悪さもあり、奮闘むなしく糸でぐるぐる巻きにされた常寺は、どこぞのピエロマスクを彷彿とさせる蜘蛛に丸太を落とされた挙句、足でゲシゲシと蹴られて死んだのだった。
リスポン。
オマケ
南斗人間砲弾について。
世紀末アニメに登場したエセ南斗。正式な技ではないので注意しよう。
この二次も3話目。そろそろペニーワイズネタにマンネリ感が出るころである。
そこで、ソイツを吹き飛ばすインパクトを求めた結果「マッダイさんのような極振りパワータイプなら素で同じ事できそうだし、このくらいならセーフ……だよね?」というノリでこのネタが投入された。
元ネタがどんなのか気になる! という人は南斗人間砲弾で検索してね。
なお今回行ったコレは一回の砲撃で砲身の耐久度がそこそこ減少するであろう事を考えると、割と乱発はできない……と思われる。
輸送できる「組み立て要素の少ない射出台」という点が強みだけど、高機動型は自前で上位互換。爆弾準備の手間を考えると、あくまで移動スキルの無いアタッカーやタンクなどを飛ばすチョイワザといった程度、と想定しています。
……拠点への設置は「整備性」と「耐久度」、「爆弾」というドロップアイテムがいらないという三点からスカルアヅチにある投石機の方が現実的。
砲塔はアレだ。プレイヤーメイドに関しては武器としてギリ成立する造形ならわりと自由が利く感じなので、どうかアリという事に……というか「猫じゃらし」がいけるなら真ん中くり抜くくらいアリだろ……ダメ?
なお地味に起爆剤であるハニワ爆弾の威力が分からないのが不安要素。
その辺はプレイヤーと爆弾との間に効果盾を挟めば割と何とかならんかー? という無茶理論でセルフセーフ判定を出している。
※異端審問ヘルマーの紹介する人間砲弾の使用例。
・敵のバリケードが硬い!→南斗人間砲弾
・あんな高い場所、タンクじゃ登れないよ!→南斗人間砲弾
・あのでかいモンスター、顔が弱点ですぜ!→南斗人間砲弾
・空中落下攻撃のスキル習得が難しい。良い方法ない?→南斗人間砲弾
・NPCに芸を披露せなアカン、どないしよ?→南斗人間砲弾
・くそっ、その護衛対象を逃がせ! 死なせるなよ!→南斗人間砲弾
このように、南斗人間砲弾は一部のヘルマーによって愛用されているのだ!(錯乱)