ふくめんにっき!   作:無完の書く芸迷人

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前回のあらすじ

ゴウランガ!
経験値を求めて鰻を釣る常寺に唐突な鷲メール!
それはフルフェイスヘルマークランより送られた「ウサギをつれた鳥面の半裸を探せ」というあまりにも困難な指令だった……!

いけ! 常寺! 逝け!!

ついに鳥面半裸がエントリーだ! とうとうヤツラが動き出すぞ!


第四話 世紀末要塞

ユニークモンスター『墓守のウェザモン』討伐。

 

つい先日、夏の大型アップデートに合わせて通知された事実にシャングリラフロンティアは盛り上がていた。

夏休みシーズンという事もあって、ゲーム全体のログイン率も上昇。

ファスティアやセカンディルはもちろん、サードレマもかなりの混み具合を見せている。

兎をつれた半裸を探しながらサードレマを起点に各地を攻略していた常寺は、人が増えてきたこともあって。

またユニークモンスター討伐と新大陸という未知への熱に惹かれ、各街のクエストを後回しにしてレベリングとエリア攻略、そしてプレイヤースキルの向上を優先していた。

 

スタミナを伸ばし、コストの低いスキルを連射することで多数のスキルコンボを状況に合わせて組み替える……一部では『ソリティア決闘者ビルド』と呼ばれるスタイル。

そいつをモノにした常寺は、中量級アタッカーとして確実に実力を伸ばし、今では8つめの街。エイドルトへと到達するまでになっていた。

 

だが世の中には……もといゲームの世界にはレベルを上げ、スキルを増やしてもどうしようもない事もある。

今、常寺はまさに、その「どうしようもない事」に追い詰められていた。

 

 

 

 

 

 

「……僕の所持金がゼロに!」

 

悲痛な叫びが8番目の街、エイドルトの一角に響く。

声を上げたのはモヒカンジェイソン頭のプレイヤー、常寺だった。

 

メインジョブを「修行僧」から「僧兵」へとクラスアップさせた彼は、素手と近い感覚で動ける手甲をメインに他の武器を模索。

ここ、エイドルトで行われたプレイヤーメイドのオークションなどに顔を出し、いくつかの武器を購入していた。

加えて消耗品の補充と、耐久値の減った武器防具の修理、空腹度を回復させるための食事を行えば見る見るうちにマニーは減り……。

 

その後、ついつい楽して稼げないかとNPC露店のシェルゲーム(3つカップの1つにボールを入れ位置を入れ替えた後に、どこにボールがあるかを当てるゲーム)に挑戦。

高度なAIが繰り出すプロ顔負けの攪乱により瞬く間にカモとなった常寺はついにすっからかんの男として、FXで有り金を全部溶かしたような顔を晒していた。

 

……仕方ない、どこかでイベントリに残ってる素材でも売るか。

と、そんな弱気な発想すら常寺の頭に浮かび始めた……そんな時だった。

 

 

「ハァイ、調子良い?」

 

どこからともなく、暗い顔の常寺と対照的な、気軽とも思える声が常寺にかけられる。

常寺は声の主は探そうとして、気づき、息をのんだ。

なんと露店の横にある建物の屋根。常寺の負けっぷりを上から眺められる場所から、よく知った頭のヘルマーがこちらを覗いていたのだ。

ヘルマーの名前は「セントワイズ」。

ピエロマスクの愛用者であり、割とプレイヤースキルの高い避けタンクだった。

いったい何時からそこにいたのだろう。屋根の上で観戦など普段なら視線を集めそうなものだが、今は生憎と明朝。午前4時少し前だ。

街にはそもそも人がまばらで騒がしいのは常寺くらい。

おまけに昨日の夜、この街には兎を求めて彷徨うゾンビ集団がたむろしていた。

暗い夜の街を蠢く水晶ランプに照らされたゾンビ集団。

そういったものを経験したばかりのエイドルトの住人にとって、多少の奇行はスルー案件。リアクションにも値しない。

結果セントワイズに視線を送るのは苦々し気な顔をした常寺ただ一人だった。

ちなみにゾンビだった集団は、その後朗らかな顔でこの街を去っている。

このことから噂の人物がこの街にいた事が察せられるが……もっともその人物はすでにどこかのクランに入った後ということもあり、フルフェイスヘルマーからの捜索勧誘令は少し前に取り下げられている。

機会があたら色々聞きたいが無理に探すほどでもない。

というかセントワイズが自分が負けまくる光景をのんびり観戦していた方が問題だ、というのが常寺の正直な感想だった。

 

……というか、今の所持金ゼロの叫びを聞かれた!?

仮想空間の中で現実に戻った常寺は冷や汗をかく。

これはもう、弱みを握られたようなものである。

そう考えた常寺は警戒し、一歩、その場から引いた。

すると常寺の動揺を察したのだろう。屋根から降りたセントワイズはにっこりと微笑み、ジョージの前に来ると話し出した。

 

「『水晶巣崖』って隠しエリア、知ってる?」

思わぬ質問である。

しかし水晶というからにはこの街、エイドルトと関係があるのだろう。

ここは店売りの武器防具にも水晶が揃う、水晶が特産の街だ。

常寺は『どこかで聞いた気もするけど……』と内心で悩みながらとりあえず首を横に振った。

 

「オー……割と有名な名物エリアなのに……行ってみない?」

 

あんまりよく分かっていない常寺をもったいないと思ったのだろう。セントワイズが手を差し出す。

その姿は、仲間を未知の冒険へと誘う、気さくなクランメンバーそのもの。

常寺はその手を一度取りかけ……しかし手を止め、引っ込ませた。

目に入った街の風景がある記憶を掘り起こしたのだ。

 

 

「確かそこ、『殺戮者の巣窟』とか言われとる場所やろ? 騙されんぞ」

それは攻略サイトで見た何かの一文の記憶。

思わず猛虎弁になった常寺は、この流れは切っておいたほうが良いと……というかクランメンバーを死地に誘おうとすんなや。と微妙な気分になりながら、セントワイズの提案をはねつけた。

 

しかしセントワイズも食い下がる。

「いや、それは水晶窟に住む蠍と戦ったら死ぬ、というだけであって行くだけなら何の問題もない。鬼エンカだから普通は戦わざるを得ないが、今回は対策も用意している。……どうよ?」

 

常寺は微笑んだ。

「面白そう! この街でユニーク探すわ」「待てや!」

ショートカットを放棄し、順当な攻略を志す常寺を見て、引き留めるべく食い気味に声を上げたセントワイズは、言い聞かせるように問いかけた。

「いいのかい……? コイツで、一稼ぎしたくないかい……?」

そう言ったセントワイズが手にしたのは映像を記録するアイテム『録映の眼球』だった。

そして問われた常寺は、一拍遅れてその意味に気づく。

「……! 僕の所持金!」

「その通り! 『水晶巣崖』は未踏破エリアだからエリア情報を『ライブラリ』に売れば金になる。その金欠をなんとかしたいなら……『水晶巣崖』に行こう! さあ!」

「……」

常寺は苦い顔をして沈黙した。外から見ればモヒカンジェイソンが静かに佇んでいるだけだが、それでもどんな顔をしているかはセントワイズにも予想がついた。

「オー……そんな嫌そうな顔するなよ。別に無策で行くわけじゃあない。ちゃんと裏技は考えてあるんだぞ?」

 

 

 

「それ常識的な手段?」

「えっ うん」

そう言ったピエロの顔は、表情の変わらないフルフェイス装備なのに何故か引きつって見えた。

 

……とはいえ、金策は必要……多少手段がぶっ飛んでるとしても、稼ぎの目があるなら賭けるのもありか?

そう考える常寺が考えるのは、マトモに稼ごうとした場合にかかる手間と時間の大きさだ。

人の増えた夏休みシーズン。古参プレイヤーは自然と終盤の街をメインに遊ぶ傾向が出ている。幾人かはこのエイドルトにもいるだろう。そういったプレイヤーを相手に金銭的に効率の良いモンスターを取り合いながら倒し続ける、というのは中々に面倒くさい。

そう考えると、多少手段がぶっとぶくらい何でもないように思えた。

 

人はそれを感覚麻痺と呼ぶ。

 

しかし感性の麻痺に自覚のない常寺は、目の前に提示された『マニー』という餌の魅力に抗えない。

「取り分に温情があるなら……」

と、水晶巣崖に行くことを了承したジョージは、再び握手を求めるピエロの手を取り説明を求める。

 

セントワイズの秘策。

それは「世紀末サーカス」だった。

 

 

そもそもの発端は数日前、「忍者のムササビアクション、楽しそうじゃない?」と羨ましがった異端審問ヘルマーが、どこぞの防具職人に防御力を犠牲にして滑空するムササビスーツを数着依頼したらしい。

ソレを知ったセントワイズは水晶巣崖の殺戮者、「水晶群蠍」が地面への振動をキーに動く事を思い出し、地面を踏まなければある程度奥まで行けるのではないかと考察した

そう、先日行った「南斗人間砲弾」と「ムササビスーツ」を組み合わせる事で殺戮者を起こすことなくMAPの情報を入手できるはずだと考えたのだ。

 

先に異端審問ヘルマーが二門の大砲をセットしハニワ爆弾をセットする。

彼によると少し前に『水晶巣崖』の中で誰かが「日の出をお知らせしまーす」と大声を上げていたらしい。そこで中にいる誰かが倒され、起動していた水晶群蠍が待機状態に戻るまで、多めに見積もった時間を待機に当てる。

そして十数分間の待機を終え、ムササビスーツに着替えたセントワイズはいそいそと。そして同じく、装備を整え『録映の眼球』を受け取った常寺は気後れしながら大砲に装填された。

 

 

 

 

そして準備を終えたセントワイズは嬉しそうに、そして朗らかに笑いだす。

「『水晶巣崖』はいいぞジョージ 蠍もいて深い。君も絶対ハマるから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆でライブラリ相手に一儲けするんだよおぉぉぉぉ!」

「キャアアアアアアアーーーー!」

 

 

 

 

 

 

……常寺は死んだ。

 

確かに人間砲弾からのムササビスーツコンボは殺戮のエネミーたる水晶群蠍を起こす事は無く、進行は上手くいっていた。

 

 

しかし、山が動いたのだ。

 

半裸の鳥面が金蠍を倒した頃、一定以上の水晶群蠍が倒された事をキーに動き出した水晶群老蠍。

大量の水晶群蠍を背に乗せた、空母を思わせる存在感。ゲームの情報体でありながらなおプレイヤーを圧倒する巨大な質量と存在感。

そのレイドボスもかくやと言わんばかりの存在が出たり消えたりする半裸を追い求める所に鉢合わせてしまった常寺は……ちょうど半裸が消えていたこともあってタゲられてしまったのだ。

目の前の現実に惚けながら「ムササビスーツは止まれない」事に気が付く常寺。

そして、まるで導かれるように水晶群老蠍の背中に……もっと言うとスタンバった大量の水晶群蠍に迎え入れられた常寺は、割とホラー染みた感じに死んだのだった。

 

 

……そしてセントワイズも死んだ。

割とシャレにならない初見の蠍が出たとはいえ。それでも古参の避けタンク。

死を覚悟した常寺がとっさにヘイトを集めるスキルを使った事を察し、合わせるようにヘイト逸らしのスキルを使用。

同時に二段ジャンプのスキル、「スカイウォーク」で緊急回避し、スプラッタになったジョージを録画しながら水晶群老蠍の横をすり抜けようとチャレンジする。

しかし、そんな浅はかな真似が許されるはずもない。

隠密スキルも何のその。ソロで空を滑空するのは目立ち過ぎる事もあり、常寺の死によって再びタゲがセントワイズに戻される。

そして……彼らの南斗人間砲弾に対抗しようとでもしたのだろうか。必死に逃げようとするセントワイズを狙い、水晶群老蠍は「南斗蠍砲弾」を使用。水晶群蠍を撃ち放った。

コントロールの甘い、しかし大量に投げられたそれはまさに蠍絨毯爆撃。

避けタンクが降り注ぐ蠍の群れに抵抗できるはずもなく。

セントワイズもアッサリと死ぬこととなったのだった。

 

 

 

 

なお今回録画した映像。B級映画感が凄いものの、色々未確認映像だったため割と高値で売れはしたらしい。

だが常寺達の間には、レベルキャップを解放するまで二度とあそこにはいかないぞ。という暗黙の了解が生まれたのだった。

 

 

 

しゃーない。

 




オマケ

くっそ難産蠍回。
というか原作の時点で蠍によるネタ死が多く、割とマジで「どうやってジョージすれば良いんだ!」と悩む羽目になったんだよなぁ。
原作者、やっぱ蠍好きすぎんよー。

なお感想返しのイーブイ説を見て「ああ、蠍は進化の石やったんやね」と納得しかけたのはここだけの秘密。「初期は3種類」→「朝と夜でパターンが変わる」とか初代から金銀の流れを思い出す。
そもそも蠍の設定的に進化要素がタップリなんだよなぁ。


追記。
最近感想欄で話題の「神秘の剣」だけど、事前に準備するだけでバフもデバフも回復も担えて、弱点特効できるなら十分強ジョブだと思う。
剣聖と違って並列操作の適正もいらないから門戸も広い。
ただその場合過労死枠というかパーティーの歯車感が凄いよなあ…。
使い手のイメージかな…。

なお個人的な印象ですが、過去話に「剣聖は下手をすれば特化魔法職並にMP消費が激しい」という記述があることを踏まえると、「剣聖」は短期決戦型。「神秘の剣」戦線維持に向いた万能型に思えます。

というかサイガー100さんはサブジョブとアクセの恩恵をフル活用した廃人ビルドなので、ジョブ性能を比較するならアラミースの方が妥当…妥当じゃない?
外付けイベントリに回復アイテム詰め込んで、回復アクション省略しながら戦う廃人は一般的な「剣聖」とは別枠と思うんや(´・ω・`)






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