戯言教室   作:青ボタン

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アンサツイエロー 戯言遣いと暗殺教室 2

「えー、ということで皆さん。先日律さんが仲間になったばかりですが、なんとなんと、今日は新しい先生をお迎えしました!」

 

扉の向こうがその一言で湧き上がる。まるで転校生が来るかのような反応だ。…いや、大差ないのかな。暫く声がこちらに向くのを待つ。

 

「いー先生、どうぞ入ってください!」

 

一通り話し終えたようで、廊下で待機していた僕に声が掛かる。というか、わざわざ廊下で待機する必要があるのだろうか。どこでもそうだけれど、やはりこういうイベントは演出を重視するのか。それとも、知らない間に見知った教室に知らない人間がいるという、見ようによったらーーー見ようによるまでもなくーーー怖いシチュエーションを避けるためだろうか。

 

ガラリと扉をスライドして教室に這入る。先程までがらんどうだった教室の机に、当然といえば当然だが、きっちりと中学生が座っている。学生である僕からしたら、早々見れる景色ではないので、なかなかに壮観だ。

 

「…こんにちは。今日から皆さんと一緒に勉強するーーーいや、違うか。こういう場合、どういう自己紹介をするべきなんですかね?」

「ヌルフフフ、そうですねえ。普通は名前と趣味、最後に質問を、というのがオーソドックスなところですが、君の場合は特殊です。いきなり質問タイムに入っちゃってもいいんじゃないですかねぇ」

「そうでしょうか。ではそうします。何か質問があれば聞いてください。答えられれば答えます」

「ええぇぇえ?なんだそれ…」

 

…普通、学生は教師として教卓には立たない。自己紹介をしろと言われてもどうしようも無い。生徒の困惑の声が凄いが、僕にもどうすることも出来ない。文句なら哀川さんに言って欲しいものだ。僕も言いたい。

 

「はいはーい!じゃあ最初はこれでしょ!先生の名前はなんですかー?」

 

ふわふわした髪の女の子が勢いよく手を挙げた。

 

「…いきなりで悪いけど、その質問には答えられない」

「は?名前だぞ?なんでだよ」

「事情があってね。本名は人に教えないようにしてるんだ。いーちゃんいっくんいー兄いーたん戯言遣いエトセトラ…好きに呼んでくれ。因みに、先程あったイェラビッチさん…イェラビッチ先生はいーくんと読んでいる」

「なんだそりゃ…。苗字呼び名前呼びすっ飛ばしていきなりニックネーム呼びかよ…。」

「じゃー次俺!なんの教科をやってくれるんだ?」

 

坊主頭の少年が手を上げる。

 

「それも…決まってない、というか知らない…あ、いや。好きな教科をやっていいと言われてる」

「なんだ、それ…じ、じゃあ先生、ええと」

 

水色の髪の背の低い少年が言い淀む。

やがてゆっくりと手を挙げた。

 

「先生は、どんな暗殺者…なんですか?」

「……いや。僕は暗殺者なんかじゃないよ」

「「「………は?」」」

 

今日一番の困惑ーーというか、クラス全員、完璧な程にハモった。ああ、ついでに隣の超生物もハモっていた。お前は把握しておけ。

 

「いやいやいや、なんだよそれ?暗殺者じゃないって、じゃあなんで来たんだよ?」

「人類最強の請負人に頼まれたというか、拉致されたというか…。僕は戦闘なんて出来ないからね。体より先に口から生まれた、とかよく言われるから、身体能力はーー人より劣る、とは言わないけれど、高いとはお世辞にも言えない。」

 

それに、と言葉を続ける。

 

「僕は殺人なんて言うのは最低な行為だと思っているから。暗殺者なんて、そう思われるのも心外ってところだ」

 

こんどはしん、と静まりかえる。いまから、この隣の黄色いヤツを殺そうという彼らに正面切ってこう言い切れば、まあ静まり返るだろうなんてことは予想できたが、僕としてはこれは譲れないところだ。先に言わせてもらった方がいいだろう。別に、長居する気も、仲良くなる気も無いのだから。

 

「…じゃあさ、お兄さんは何が出来るわけ?教育も暗殺も出来ない、なら何が出来るの?なんのためにここに来たのさ」

「なんのために…か。それ、僕が聞きたいところなんだけどな…。強いて言うなら、さっきも言ったとおり、哀川さんに連れてこられたから、だけどーーー、何が出来るか、と言われればーーそうだね。戯言を吐くくらいかな」

「戯言?」

「そう、戯言。僕は戯言遣いだからね。口先で物事を丸め込むような、そんな事が得意なのさ」

「詐欺師みたいなことを言うんだね~」

 

赤髪の少年が煽るように言う。この空気の中発言できるのは、阿呆なのか空気が読めないのか、もしくはわざと読まないのかのどれかかな。恐らく最後だろうが。

 

「そう。間違っちゃいない…かな。よく言われるしねーー他に質問はない?」

「じ、じゃあ、何歳ですか?」

 

空気を取り直すためか、黒髪ロングの女の子が言う。

 

「歳は19。大学生だよ…ま、あまり行けていないけれど」

「へえ、大学生なのか。どこの大学?」

「大学ーー分かるかな。京都の立命館大学なんだけれど」

「ええっと…じゃー高校!高校は!?」

 

分からなかったらしい。

 

「高校は殆ど行ってない。アメリカにいたからね」

「ってことは帰国子女?留学生みたいな?」

「いや、間違ってはいないけど、ER3プログラムに1年半ほどいたから。途中で辞めちゃったけどね」

「「「ER3!!!??」」」

 

またハモった。本当に仲がいいな、このクラス。タコも含めて。

 

「ER3ってそれ、めちゃくちゃ頭いいんじゃん先生!」

「なんで途中で辞めちゃったの?もったいない!」

「…色々事情があってね。質問タイムはこの辺りでいい?」

「そうですね、そろそろいい時間ですし…もう授業始まっちゃいます。1時間目はイリーナ先生の時間なので、少し私と話しませんか?ヌルフフフ」

「…構いませんが」

「では皆さん、1時間目の準備をして下さい!」

 

際限なく質問が続きそうだったので一旦打ち切り、僕は再び職員室に連れてこられた。隣の超生物はニヤニヤ笑いを崩さず、職員室の扉を閉める。すっと椅子を差し出されたので座ると、超生物の先生は僕の前に座った。丁度面接、または面談のような隊形だ。いや、二人しかいないのに隊形というのは可笑しいのかな。他の2人ーーイェラビッチさんは授業、烏間さん(目の前の黄色に教えて貰った)は仕事で今現在居ないんだそう。文字通りの二人きりだ。

 

「さて、いーさん。私からも質問させて頂いてもよろしいですか?」

「…いいですけれど、そんなに僕みたいなやつの事を知りたいですか?」

「勿論です。潤さんの紹介なんだそうですね?」

「…知ってるんですか。というか、哀川さんを知っているんですか」

「はい。この間いきなり殴りかかってきましてねえ。なんとか避けられたんですが、数発くらってしまいましたーーー勿論、素手だったのでそこまでのダメージはくらいませんでしたが」

 

空間(からま?)さん(名前、合ってるよな?自信が無い。というか記憶が無い)が言う通りなら、こいつはマッハ20て動けるらしいがーーー哀川さん、化け物か?なんで数発も入るんだよ。いや、この場合逆か。哀川さんで数発しか入らないなんて、こいつ、どれだけ化け物なんだ…。……いや、やっぱり逆か?

 

「折角なのでパソコンで調べて見たんですが、何やら京都の殺人事件に関わっていらっしゃったそうですね。辛い事件だったでしょう。他にもいくつかの事件に巻き込まれたことがあったようで。」

「ああ、はい。辛かったです。何せ、知り合いが死んだんですから。過去巻き込まれたどれよりも辛かったです、はい」

 

…白々しかっただろうか。目の前の黄色の目が心無しかジト目に見える……いや、戯言なんだけれど。

 

「では、そこに触れないようにします。私からも、質問をさせていただきますね?まず、何故名前を教えてくれないんですか?」

「……今までに、僕の本名を知った人が3人いますが、ーーーその誰もが生きているとは言えません」

「…!の、呪われた名前とか、そんな感じですか?」

「そういう認識で、まぁいいんじゃないですか」

「そうですか。では、次の質問を。履歴書に京都在住、と書いてありますが、こちらではどうするんですかね?」

 

ピラピラと履歴書を軽くふる。…いや、なんだその履歴書。物凄く綺麗な字だけど、書いた覚えないぞ。哀川さんが書いたのか?…まあ、それならそれで、そこまで知られて困ることも書いてはいないだろう。逆に安心ーー出来ないな。安心出来ない。あの人のことだから、何を書いているかわかったものじゃない。不安ぶっちぎって逆に安心出来る。悪い方面に。

 

「それなんですがね…。住む場所がないので困っているんですよ。いきなり拉致された身でして」

「ふむ、ならこの校舎に住んでしまっては?勿論、こちらでの住処が見つかるまでですが」

 

…と、どうでもいい(いや、悪いのかな?戯言だけれど)質疑応答を適当に繰り返した。およそ1時間。いい加減終わりの時間のようで、黄色は立ち上がって扉の前に歩くーー歩くというのも何だか違和感があるな。触手なのにーーーま、戯言だな。

 

「それでは時間もいいところですし、これで最後にしましょう。ーーーー貴方は、呪い名の方ですか?」

「……呪い名?」

 

呪い名ってなんだ。聞き覚えがないな。なんのことだろう…?のろいな、なら僕の名前みたいな話かとも思うが、まじないなでは検討もつかない。

 

「…そうですか。いえいえ、良かったですよ、分からないならそれで。ヌルフフフ、ありがとうございました、いー先生」

 

すいっと扉を開ける。僕は椅子に座ったままだ。

 

「いえ、どうせ面接がわりだったんでしょう。構いません。ところで、僕はこの後どうしたら良いんでしょう?さっきも言ったとおり、僕は何もすることがないんですよ」

「そう言えば、いー先生は授業を受け持っていませんでしたね。とはいえ、ER3プログラムに居たのであればどの教科でも受け持てるでしょう。好きな教科はありますか?」

「好きな教科ですか…英語ならそれこそ話せますけれど、見たところイェラビッチさんは英語の担当では?」

 

寧ろそれ以外なら驚くところだ。

 

「おや、英語ですか…その通り、イリーナ先生が担当でして。ああ、もう時間が無いので、放課後までに考えておいて貰えますか?烏間先生は体育の教員ですので、それ以外で」

「…分かりました。放課後までに考えておきます」

「ヌルフフフ、では」

 

かたん、と誰もいなくなる。勿論僕以外。仕方が無い。放課後まで、適当に時間を潰しながら考えるか。エイトクイーンはそろそろ飽きそうだし。




評価ありがとうございます。ただ、評価だけでは直すところと直せませんので、出来れば文章もお願いします。
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