戯言教室   作:青ボタン

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アンサツイエロー 戯言遣いと暗殺教室 3

山の中をフラフラしていると、いつの間にか道を外れてしまったことに気づく。いや、もちろんこれは比喩的な意味ではなく、僕が単に迷ってしまった、と言うだけなのだが。しかし困った。携帯電話の時計を見る限り、中学校における『放課後』というものは、とっくに来てしまっている。上を目指そうにも、鬱蒼としていて方向感覚が狂いに狂ってしまい上が分からなくなってしまっている。ただ、どうやら下の方まで来てしまっているようで、電波が届くくらいの高度だ。ポジティブに考えれば地面が近いので、一旦下まで降りれば道がわかるはず。ただ、ネガティブな僕に言わせれば、赴任初日(無理矢理とはいえ)から迷子になる、と言うのは大変格好悪いので、バレないように急いで戻りたい。頂上が遠い、つまり今からダッシュで逆走してもバレることは確実、という事だ。幸い電波は現在通っているので、頂上に戻るだけなら容易いのだが。

 

「…さて、どうしたものか」

「あっ!いたいた!いーいー先生発見!」

「でかした中村!先生、大丈夫ですか?校舎はこっちです」

 

金髪女子(中村さん?らしい)と黒髪男子が制服のまま軽やかに駆け下りてくる。どうやら、僕が解決策を見つけ出す前に、救出隊が来てしまったらしい。僕の近くまでよると、自分達が北方向に指を指す。

 

「殺せんせー探してたよー!あたし達ももーちょい話聞きたいし、着いてきてー」

「この山遭難しますいんで、なんも考えずに入ると危ないですよ」

「うん。たった今それを体験したよ」

 

先に言って欲しかったが、まあ、これは迂闊な行動をした僕が完全に悪い。そこで文句を言うのはお門違いという所だろう。

 

「おお、いー先生、心配しました!大丈夫でしたか?」

「大丈夫ですよ、心配をかけてすみません」

「謝んなくていーって!…もしもし?うん、見つけたから帰ってきてー」

 

中村さんが電話を掛ける。次から次へと電話をかけていく。まさか、全員で探したのか?…うっわ、申し訳ないを通り越して、滅茶苦茶格好悪いな、僕…。

 

「ん、電話したからそろそろ戻ってくると思うよー。ったく、なんか言うことあるんじゃないのー?先生ー?」

「そうだね。ありがとう、助かったよ」

「どーいたしまして。戻ってきたらみんなにも言ってあげてよね!」

 

随分馴れ馴れしいな、と思ったが。中学生なんてこのくらいなのかもしれないな。いくらバイトレベルとはいえ、教師をやるというのに最初に生まれた感想が『馴れ馴れしい』というのは随分なものだろう、いくらなんでも。

 

次第に、と言うより次々に、生徒が頂上の校舎に戻ってくる。僕を見て多種多様の挨拶だったり文句だったりを浴びせてくるが、1人が手を挙げて発言したことでその騒動も収まる。先程の男子だった。

 

「みんな、注目ー!いー先生、俺達から自己紹介をさせてください。朝は質問だけで終わっちゃったので。まず、俺は磯貝悠馬です」

「あたしは中村莉桜。よろしく!」

 

次々と自己紹介をして行くが…ええと、磯貝、中村、菅谷、茅野、潮田…駄目だ、覚えられない。仕方が無いのでその都度聞くことにしよう…勿論、出来るだけ覚えるが、僕の記憶力を舐めては行けない。あってないようなものと言ってしまっていい。

 

「そんで、こいつが律。本体は教室にいるけど」

『自律思考固定砲台と申します。律とお呼びください』

「律……さん。ええと、よろしくお願いします…?」

『はい。こちらこそよろしくお願いします、いー先生』

 

磯貝君がスマートフォンをこちらに向けると、中で女の子がお辞儀をした。…AI、だよな。物凄く高性能だ。友が見たら喜びそうだ。今度見せてやろうーーー友の事だ、もっと凄いものを作れるのかもしれないが……3時間とかで。

 

「で、これで自己紹介は終わりです」

「はい、殺せんせーはここでおしまーい。どっかいってー!」

「に、にゅやっ!?何でですか倉橋さん!ちょ、押さないでください、先生もって皆さんと一緒にお話したーーー」

「って事でいー先生!みんな気になってる事、聞いていい?」

「気になっていること?」

 

何だろう。質問タイムは朝したはずだが、続きをやろうと言うことだろうか?

 

「先生って、暗殺者…だよね?どんな人?」

「やり方次第では私達も手伝えるからさ、教えて欲しいなーって」

「今殺せんせー居ないから、安心して!」

 

成程、そういうことか。しかし、倒すべきターゲットが退出しようとも、僕の答えは同じ。

 

「僕は、暗殺者じゃない。」

「…」

 

しん、と全員が見事に黙る。口を噤む。

 

「人を殺すなんて、最低の行為だ。…だから、僕の仕事は暗殺とか、そんなことじゃあ無い」

「…暗殺…じゃない?それって…」

 

はっ、と茅野さんが口に手を当てる。僕の言わんとすることに、言おうとしているニュアンスに気がついたようだった。つまり、暗殺以外の仕事をしに来ている、と。勿論教師では無い。いや、違う訳では無いんだけれど、所謂「真の目的」と言うやつは別にある、という事だ。

 

「ええと、さっき名乗ってたーー戯言遣い、だったっけ、それが関係あったりする…?」

「戯言遣い、というのは、僕のスキルの名前だったり、2つ名だったりを指す訳では無い。それは僕そのものを指す名詞だから、関係があるかと聞かれれば、関係しかないと答える他にないんだけれどーーーニュアンス的には概ね正解だよ」

 

すっと、中学生達に背を向け、校舎の中に這入る。後ろから待って、などと少し焦った声がするが、聞こえないふりをした。何故?今から暗殺して見せるからーーーではなく。

 

「すみません。教科の件なんですが」

「おや、いー先生。生徒達とのお話はもう済んだのですか?」

「ええ。数学あたりでどうでしょう」

「数学ですか」

 

黄色は意外そうにこちらに体を向ける。意外そうに、というのは声の調子だけだ。目は点だし、口は笑顔で固まっている。

 

「ふむ、先生、貴方は文系かと思っていました」

「はあ、そうなんですか」

「はい。先程も英語を希望していましたし、話し方からしても文系かと。国語ではなく、数学で良いんですか?」

「僕に国語は教えられませんよ。日本語ならともかく」

「どういうことでしょう」

「…戯言ですよ。気にしないでください」

「ヌルフフフ、戯言遣い…でしたね。それがあなたの戯言という事ですか」

 

ニヤニヤとそういう黄色。

 

「分かりました。では、明日から数学を教えていただきましょう。ER3プログラムの参加者にあったことは何度かありますが、参加者の方が教鞭を振るう所を見るのは初めてなので、先生楽しみにしてます」

「そうですか。ご期待に応えられれば良いですがね」

 

再びヌルフフフ、と笑い、黄色は外に出て行った。生徒に話をしに行くらしい。ふっと黄色の机の上に置いてある国語のテストを見る。

 

《傍線部Bにおける主人公の心情を述べよ》

 

テストから目を背け、いつの間にか設営されていた僕の机に座る。窓の外では夕暮れの中、はしゃぎ回っている中学校と黄色の姿が見えた。それを、頬杖をついてぼんやり眺める。イェラビッチさんと烏間さんは、それぞれ2人で仕事をしているらしく居ない。

 

もしもこの世界が小説だったなら、主人公は一体誰なんだろうか。あの黄色だろうか、もしくは烏間さんだろうか。あの中学生の中の誰かだろうか。もしくは、この僕だろうか。

 

すっと瞼を閉じて、先程の問題を思い出す。

僕は国語だの、現代文だの、そういう類が苦手だ。漢字や語句ではなく、ああいう類の問題が。いつだって、答えは変わらない。変われない。

 

 

《傍線部Bにおける主人公の心情を述べよ》

 

《知るか》

 




いーちゃんは旧式の携帯電話(ちゃんとガラパゴス)を携帯しています。地上なら電波が入りますが、山頂では入らないんだとか。難儀なものですね。
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