一狩り行くのも一苦労   作:焦げパン

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筆が進まぬ。
女性目線がこれほど難しいとは、


向き合う

 

 

私はハンターだ。

しかもそれなりに長い。

村の近くまで現れた火竜リオレウスを倒し、村じゃちょっとした英雄にまでなっていた。

だからなのか、私は気が抜けていたんだ。

 

ここは大自然の中。

何が起こってもおかしくない。

 

しかもこのエリアは、私の最初で最後のクエスト失敗が起こった場所。

 

 

私には、トラウマがある。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

落ち着いて考えればわかることだった。

 

ざわめく森

 

ゲームでもかなり序盤の、しかもソロプレイ専用の村長クエストだったが、問題はそこではない。

なんとクリア後にジンオウガが乱入してくるのだ。

ジンオウガとは、モンスターハンター3rdのパッケージを飾った代表とも言えるモンスターで、リオレウスと同等、いやそれ以上の実力を持つ強力なモンスターだ。

当時俺は多人数向けの集会所のクエストを先に進め、あらかじめジンオウガと戦っていたため大した衝撃は受けなかったが、今回はわけがちがう。

ゲームと違って村長直々の依頼なんてまず来ないし、そもそも今回は集会所でクエストを受注していたはずだ。

俺は今初めて初心者プレイヤーの受けた衝撃

…いやそれとは比べ物にならないほどの衝撃を受けていた。

 

 

「グルル…」

 

ジンオウガが唸る。

 

…何あれ超かっこいいんですけど。

うわめっちゃ鱗くっきり見えるんですけど

 

睨まれた恐怖で足はピクリとも動かなかったが、俺の思考はなんだかよくわからない方向へ進んでいた。

 

いかんいかん、こんなことしてる場合ではない。

俺の防具はユクモノ一式。思いっきり初期装備なので防御力が足りない。

モミジの防具はリオレウス一式。防御力はあるが、雷狼竜とあるように、ジンオウガは雷属性持ちなので属性面で相性最悪だ。

ゲームなら絶対逃げたほうがいい。罠にかかってたドスファンゴもビビって逃げてたし。

 

だが、この世界は違う。

エリア間のロードがないので余計危ない。

下手したら死ぬ。下手しなくても死ぬ。

よって戦うしかない。

 

 

「やるよ!?」

 

 

モミジに尋ねる。

 

…おかしい。返事が返ってこない。

疑問に思って振り返ると、そこには震えているモミジがいた。

ジンオウガが突進の構えに入る。

まずい。

 

 

「モミジ!!!」

 

 

全力で叫んだ。

その瞬間モミジはハッとなってこっちを向き、ジンオウガの突進を回避した。間一髪だった。

 

 

「モミジどうしたの?」

 

 

なんだか様子が違うモミジに違和感を抱き、聞いてみる。

 

 

「…逃げなきゃ」

 

 

「…え?」

 

 

いつものモミジからは想像もできないほどの弱々しい声が発せられた。

 

 

「逃げるってどうやって!?」

 

 

「とにかく逃げるの!」

 

 

「逃げても追ってくる! 戦って撃退するしかないだろ!」

 

 

「戦っても勝てないよ!」

 

 

モミジは過去に何かあったのだろう。

そんなことは震えているのを見れば痛いほどわかる。

だが

 

「何もしないで死ぬよりもよっぽどいい!!」

 

自分の言葉が薄っぺらいことくらい自分が一番わかってる。

けれども俺は、死にたくない、という強い意思を言葉に乗せた。

もう死ぬのはごめんだ。…しかもあんなうっかりしたことで。

 

 

 

 

「…そうだね」

 

 

 

こんな俺の言葉でも、少しは響いたらしい。

 

 

ジンオウガがまた突進をしてくる。

 

お互いに目を合わせて頷き、反対方向に飛ぶ。

ジンオウガの突進は当たらない。

 

 

「…ありがとう、カヅキ」

 

 

「…終わってからなんかおごってよ」

 

 

「…!そうする!」

 

 

さあ、もうひと頑張りいこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジンオウガが2連前脚叩きつけを繰り出す。

俺をそれは転がらずに位置どりで避ける。

そして隙を晒したジンオウガの顔に二回斬りつける。

 

 

ズガガッ

 

 

斬るより叩き割るに近い攻撃を食らっても、ジンオウガはビクともしない。

ちょ、顔近いよ。鼻息が当たるんですけど。

 

そこにモミジが斬りかかる。

 

 

「グオォ…」

 

 

これは少なからず効いたようだ。

この隙にもう一発。

 

ズガッ

 

 

…効いてる様子はないが、とりあえず攻撃は回避できている。

 

ジンオウガは連続攻撃の後、必ず威嚇を挟む。

俺はジンオウガというモンスターが好きだった。

その理由はなんと言っても戦いやすさ。

攻撃は強力な分、躱せばそれだけチャンスが生まれる。

戦ってて楽しいのだ。

 

今俺はこの狩猟を少し楽しんでもいた。

だって、ジンオウガ相手にモミジと戦えているんだ。

最高かよ。

 

だが現実そう甘くもなかった。

 

俺が勝手にそう思っていたんだ。

 

ゲーム通りじゃないことくらい、アオアシラとの戦いで実感したはずなのに。

 

 

 

 

ジンオウガがぶっとい尻尾を叩きつける。

横に避けて、柔らかい足に斬りつける。

少しでもダメージを与えて、転倒させるためだ。

そして飛びかかりを繰り出すジンオウガ。

この後は威嚇だ。

俺は横に走って避け、攻撃に移ろうとした。

だが、ジンオウガの行動は予想に反するものだった。

 

尻尾叩きつけだ。

 

俺はそれを理解した瞬間、横の跳んだ。

だが、とっさのことだ右足が巻き込まれた。

 

 

ズドンッ

 

 

うわあ痛った。文面じゃ分かりにくいがむちゃくちゃ痛い。

なんか右足の感覚がおかしい。

 

 

「ぐ…あ…」

 

 

痛みで動けない俺に向かってジンオウガが突進を繰り出す。

これは…まずい

 

 

「やめてぇ!」

 

 

その時

いつの間にか鬼人化したモミジが、ジンオウガに向かって空中回転斬りをくらわせた。顔面フルヒット。

 

 

「グウウァァ!!」

 

 

ジンオウガが大きく仰け反る。

だが、ジンオウガはすぐさま頭突きをした。

 

 

「うぐっ」

 

 

モミジが吹っ飛ばされる。

だが頭突きだ。モミジの防具も考えると大したダメージではないはず。早く復帰しなければ。

立ち上がろうとするモミジに、ジンオウガが尻尾叩きつけを繰り出す。

 

だがここでモミジはエア回避をしてしまった。

 

エア回避をすれば尻尾叩きつけは避けられる。

しかし、その後に続く飛びかかりを避けられない。

 

俺は必死に伝えようとするが、もう遅かった。

 

 

「きゃぁ!」

 

 

飛びかかりにあたり吹っ飛んだモミジは、そのまま後ろの木に激突。

 

助けないと

 

思った時には体が動いていた。

足の感覚はおかしなままだが、そんなこと気にしてる場合ではない。

俺は鬼人ダッシュを使って、モミジとジンオウガの間に入る。

 

ちょうどジンオウガが前脚叩きつけをする直前だった。

 

避けないとタダじゃ済まない。

だが避けたら避けたでモミジが危ない。

 

前脚が振り下ろされる。

 

俺は当たる直前に両手で双剣を横に振ってジンオウガの前脚に当て、軌道をずらす事で攻撃を外させた。

自分でも驚いた。

ゲームじゃ絶対出来ない芸当だ。

なんで出来たかわからない。

ってそうじゃない。2撃目が来る。

またジンオウガの脚が振り下ろされる。

今度は右の手の鉞だけを使って軌道をずらす。

だが思うように刃が入らない。

切れ味が落ちたのだ。

いなしきれず、若干左腕に当たる。けどこの際痛みは無視だ。

切れ味低下も無視無視。

 

「おらぁあ!」

 

動ける左手で、近づいた頭に思いっきり攻撃を入れる。

 

ズガァッって言う音がしたが、ジンオウガは怯まない。

ジンオウガはこちらを睨むと噛み付こうとしてきた。

とっさに右手に持つ鉞を口に挟ませる。

だが、それでも勢いは止まらない。

そのまま俺を噛み砕こうとしている。

 

「ぐぅ…」

 

左の鉞も挟ませてなんとか止める。けど持って数秒。

避けるとモミジが危ないが、避けなければ俺が死ぬかもしれない。

 

あ、そうか

 

俺のことはいいや、モミジが助かれば。

 

そう考えた瞬間、なにかが吹っ切れた。

 

俺は力強くで剣を振り抜く。

ここでジンオウガがようやく怯む。

ここだ。

 

俺は素早く3回斬りつける。

ジンオウガは気に入らないとでもいうように頭突きをしてきた。

避けきれずに右肩に当たる。

だが体勢は崩さない。

近づいた顔に斬りかかる。

怯まない。

今度は前脚叩きつけだ。

剣を当てて避ける。

 

だんだんと俺の持つ二つの剣(斧)が青いオーラを纏う。

 

速度も上がる。

 

前脚叩きつけの二撃目が来る。

鬼人強化状態になった俺は、最小限の動きで右に素早く鬼人回避。

隙だらけのジンオウガの顔面に向かって両手で斬りかかる。

今度は大きく怯んだ。

俺はここぞとばかりに鬼人化。

 

ここで乱舞を全て当て…

 

「ウオゥゥ…」

 

乱舞の7撃目が入ったところでジンオウガが何かの構えに入る。

 

まずいと思ったが乱舞を中断できない。変なところでゲーム仕様にしやがって。

 

ジンオウガが右脚を軸にして体を回転させ、尻尾を振り回す。

 

ゲームでもあった大技、サマーソルトだ。

俺は直撃し、吹っ飛ばされてしまった。

 

3回ぐらいバウンドしたが、まだ意識は保っている。

 

ジンオウガは…

 

 

 

少し顔をしかめたかと思うと、森の中に姿を消した。

 

 

 

 

「なんとか、なった…」

 

終わったと思った瞬間、意識が遠のき始める。

 

 

モミジが走ってこっちに向かってくるのが見えた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

カヅキは不思議な人だ。

突然訳のわからないことを言い出すし、記憶喪失のはずなのにいろんなことを知ってる。本当によくわからない。

 

だけど、これだけはわかる。

 

彼は努力家だということ。

 

ある日の夜、物音に気付いて起きると、誰かが家から出て行く音がした。

一瞬泥棒かと思ったが、家の扉を開けると、その影でだれか判断することができた。

 

 

「…カヅキ?」

 

 

不思議に思った私は、その後をつけることにした。

たどり着いたのは訓練所の裏の練習場。

 

私はそのとき、カヅキが夜な夜な出かけては双剣の練習をしていることに気づいた。

 

それを見て、私は素直に応援したいと思った。

だから自分の気持ちを彼に伝えた。

どうやら彼も同じことを考えていたようで、

 

 

「モミジと狩りにいきたいしね」

 

 

なんて言っていた。

舞い上がっている自分がいたけどそれは置いておいて…

 

 

 

 

そして実戦試験当日。

驚きの連続だった。

アオアシラに恐怖することなく挑む勇気。

それだけでなく、初めて攻撃を避けたかと思うと、それ以降は完璧に攻撃をかわしながら攻撃するという、普通じゃありえない動き。

さらに、練習で一度もしていなかった鬼人強化状態になって、ありえない速度で剣を振るっていた。

 

しかも狩猟が終わった瞬間、その場で倒れたのだ。

寝ているだけだったためいい意味で(?)期待を裏切られた。

もう、本気で心配したのに。

 

だけどその後、彼は私に、アオアシラの命を奪った自分が怖いと言ってきた。やっぱり普通なんだなと謎に納得しつつ、自分の体験をもとにアドバイスをした。先輩としてしっかり教えなきゃ。

 

 

 

モミジが一休みした後、私はせっかく新しい武器ができたのだからと彼を狩りに誘った。

なんだか遠慮気味だったけど、勢いで押し切った。

カヅキは押しに弱い。

 

ドスファンゴのクエストに決めて、クエストに出発。

 

 

 

 

 

ドスファンゴなんて簡単すぎるかなと油断していたんだ。

 

現れたのはジンオウガ。

 

 

その瞬間体が動かなくなる。

頭は必死に動こうとしてるのに。

 

だけどそのとき、私を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

「モミジ!!」

 

 

カヅキだ。

とっさに我に返って攻撃を避ける。

 

だけど、だめだ。

戦ったら負ける。

 

 

「逃げなきゃ…」

 

 

自然と声が漏れていた。

 

 

「逃げるってどうやって!?」

 

 

「いいから逃げるの!」

 

 

「逃げても追ってくる! 戦って撃退するしかないだろ!」

 

 

「戦っても勝てないよ!」

 

 

まるで子供のように叫んだ。

みっともない。でもこの時はそれどころじゃなかったんだ。

 

 

「何もしないで死ぬよりよっぽどいい!」

 

 

カヅキも叫んだ。

そしてその言葉は、なぜだが私の心の中にストンと落ちた。

彼がハンターになってまだ1ヶ月もたってないのに。

その言葉には重みが感じられた。

 

 

「…そうだね」

 

 

だから答えようと思った。

 

 

「…ありがとう、カヅキ」

 

 

「…終わったらなんかおごってよ」

 

 

「…!そうする!」

 

 

無事帰るためにも!

 

 

 

 

 

 

 

相変わらず完璧に攻撃を避けるカヅキ。

終わったら問い詰めよう。

だけどその集中力だって無限じゃない。

急にカヅキの動きが止まる。

なんとか避けようとしたが、尻尾に足が巻き込まれてしまった。

私がカヅキを助けなきゃ。

 

 

「やめてぇ!」

 

 

本能に任せて斬撃を叩き込む。

 

ジンオウガが大きく怯んだ

…ように見えたが、その体勢のまま頭突きをしてきた。

 

 

「うぐっ」

 

避けられずに食らって飛ばされてしまった。

だけどこの程度問題ない。

ジンオウガが尻尾を振り上げる。

叩きつけられる瞬間、その尻尾を踏みつけて跳躍。

もう一度斬撃を…

 

見えたのは、飛びかかる直前のジンオウガの姿だった。

 

空中では動けない。

 

 

「きゃぁ!」

 

 

痛みで頭がいっぱいになる。

後ろから衝撃が来た。

木にでもぶつかったのだろう。

 

 

前脚を掲げるジンオウガ

 

 

ああ、死ぬんだ。

 

 

 

その瞬間、私とジンオウガの間に何者かが飛び込んできた。

 

カヅキだ。

 

カヅキは剣をジンオウガの前脚に当てて軌道をずらした。

 

 

…なんだそれは。

 

カヅキは考えられない動きで。

だけど攻撃を食らいながらも私をしっかり守ってくれていた。

 

でもこれ以上攻撃をくらったらカヅキが危ない。

ただでさえ足をやられているのに

……足?

 

そうだ。カヅキはさっきの攻撃で足をやられているんだった。

それに気付いた途端、かつて自分を守ってくれた人の背中が思い出される。

 

 

「もういいの!」

 

 

 

カヅキに向かって叫んだ。

だが、全く聞こえていないようで、攻撃を続けていた。

 

ジンオウガが噛み付こうとするのを、カヅキは剣を挟んで止める。

そのまま振り抜き、攻撃。

そして頭突きを食らいながらも剣で斬りつけ、次の前脚での攻撃を完璧に躱す。

気づくとカヅキの剣が青く染まっていた。

これが鬼人強化状態。

間近で始めてみた。

基本双剣の鬼人化は剣が赤く染まるため、不思議な光景だった。

 

モミジが鬼人化する。

その場で乱舞を…

 

気づくと、一瞬でカヅキの姿が消えていた。

 

一瞬状況がわからなかったが、すぐに理解した。

 

ジンオウガの攻撃で吹っ飛ばされたんだ。

 

 

「カヅキ!」

 

なんとか体を起こして立ち上がり、カヅキの元へ向かう。

身体中が痛むが、そんなこと気にしてられなかった。

 

 

そこには、私を助けてくれた小さな英雄が、

 

気を失って倒れていた。

 

 




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