仮面ライダーアマゾンズ pain is an CRoss-Z 作:血祭り
吸って吐く動作を頭で考え、隙間風のような乾いた呼吸音を幾度と繰り返し、止まるかも分からないこの身体に命を必死に繋ぎ止める。
灰色の空の下、古びた廃園の湿った土が、泥と血に塗れた身体を一層冷やしてくる。
既に満身創痍、身体中の骨や肉はぐちゃぐちゃにミックスされ、何が骨格で何が内臓かも分からなかったが不思議と痛みはなかった。
もはや痛覚なんて残っていなかった。
目の前は、目の出血のせいなのか視界全てが地獄の底かと見間違うほどに真っ赤になっていた。
その赤い視界に、ふと刺々しい、ブーツのような足が入ってきた。
直後、何かに髪を掴まれ持ち上げられ視点が上がり、目の前には、楕円形の大きな目と、頬が裂けたような大口をした顔があった。
忘れるはずもない、赤い顔をした、俺を殺しに来た奴の顔がそこにあった。
「…ああ本当、目が見えなくて良かった。」
そう言い奴は、空いた片手で俺の顔をなぞるように触ってきた。生まれた赤子を扱うようように、愛おしそうに首筋を嗅ぎ、顔を撫でる。
目の前の奴こそ、父親。
俺を殺しに来た、俺の父親。
「お前は本当に、七羽さんによく似てるなぁ」
僅かに涙ぐむような声で干渉に浸る。
その視力の失われた白い目。
レンズのようなその目は視えるはずのない息子の顔をぼんやりと写していた。
異形の手は、己の息子の顔を再三撫で尽くしたのち、自身のベルトに付いたハンドルに伸びる。
「天国に行ったら七羽さんに、母さんによろしく言っといてくれ」
ああでも、と男は付け足し。
「お前はいっぱい人を不幸にさせちゃったからなぁ…もしも、お前が地獄に落ちたなら」
数秒の沈黙の後、ハンドルを回し、ベルトについた二つの目が、鈍く緑色に光る。
「俺も後で行くからさ、その時は一緒に地獄巡りしような」
ベルトから延びたエネルギーのオーラが手に集中していく。
生まれてきて、たった数年だった。
楽しかった記憶は、女の子を好きになった事、愛してくれた母の温もりの事、友達と過ごした記憶と。
辛い記憶ばかりだと思っていたが、自分が思っていたよりも、自分は恵まれていたのかも知れない。
でも、嫌だ、まだ足りないんだ。
長瀬達から聞いた、学校の事、スポーツの事、オシャレの事やバイクの事。
見てみたい事、やってみたい事、感じたい事、まだまだいっぱいある。
生きたいだけなんだ、生きていたいだけなんだ。
なんでそれがダメなんだ。
それだけでいいんだ、贅沢は言わない、さっき言った事全部じゃなくてもいいんだ。
生きていたいんだ、生きて…
ああ、ダメだ、考え事をしてたら呼吸するのを忘れていた。
もう身体は動かない、肺や心臓も力なく、僅かに動いてる気がする程度であった。
「…じゃあな、千翼。俺が責任持って地獄に送ってやる」
腹へめがけ、男は自身の息子に最後の一撃をいれようとする。
ああもうダメだ、これ以上は意識を保てない。
辛い事ばかりだったけど、楽しかった事もあった。
(母さん、イユ、長瀬、みんな…)
「オラァッ!」
突然横から、威勢のいい声と共に何かが男の身体を吹き飛ばした。
自身もまた、髪を掴まれ宙ぶらりんであったその手を離れ、突然地面に叩きつけられた。衝撃の余り身体から離れかけていた意識が僅かに戻る。
視点が再び横ばいになり、生い茂った雑草のせいでよく見えなかったが、目に映ったその光景は。
先程まで自分を殺そうとしていた父親の姿と。
全身を燃やしながら立ち、何かを纏った誰か。
(あれは…龍?)
そこで意識は暗闇の中へ落ちていった。
◆
「…ん、あれ」
気がつくとそこは、よく知っている見慣れた場所だった。
teamXの溜まり場だった、あのクラブ
だった。
かつての仲間達と共にたむろした、あの場所だった。
以前の父の襲来と乱闘により無茶苦茶になってしまったが、床は千翼の寝ている範囲だけは瓦礫が避けられていた。
だがガラスの破片が散っているのか仰向けになった背中にはチクチクとした痛みがあった。
「ぐっ、ああッ!」
長椅子に寝させられていた身体に力を入れてはみたが、呻いてしまう程に強烈な痛みが全身に走りとても起き上がれない。
背中を刺す痛みの方が幾分かマシだった為、再び身体を横にする。
だが、この痛み。そして抗えない空腹感。
先程までその痛みさえ無くなるほどの満身創痍からここまで回復しているという事は。
「生きてるのか…おれ」
天国というにはあまりに見知った場所、痛みと重み、生きてるという実感がそこにはあった。
(助かったのか、あそこから?でもどうやって、あんなどうしようも出来ないところから。どうして)
考えれば考える程意味が分からず、全身の痛みに加え頭痛までしだしたが、それはこの場所へと繋がる階段から足音が聞こえてきた事でピタリと止んだ。
何者かがこちらへ来る気配。
そう感じ取り千翼は限界まで息を気配を殺した。
C4か、はたまた父か。一般人が来てもそれはそれで困る。これだけ腹をすかした状態はほぼ初めてだ。人を見た瞬間襲うのではという恐怖もあった。
しかしどれだけ考えを巡らせても、身体は動かず、入り口の方をただじっと睨むことしか出来なかった。
だが、現れたのはそのどちらでもなく。
「お、目ぇ覚めたか」
「…ひろきっ!」
千翼のよく知っている、友人の顔だった。
放浪していた千翼を拾い、最初の頃は喧嘩も多く良いように使われてると思ってたが、気にかけてくれ、そして彼の助力が無ければきっと自分の命があと少し短いものになっていただろうと思う。
そして何故か、友人だろうと御構い無しに刺激されるはずの空腹感は、この男に対しては全く感じられなかった。
「ひろきっ!お前が助けてくれたのか!?」
だが、彼は。
「あー…わりぃけど、オレひろきって名前じゃねぇよ」
自分の知っている、彼ではないと否定した。
「…は?お、お前何言って」
「おめぇ丸々1週間は寝てたぞ」
自分が知る顔のこの男が、自分の知っている彼ではないと言う。
「じゃあ、お前は誰なんだよ…」
「あ、ああ悪りぃ。オレの名前は万丈、万丈龍我だ。お前は?」
「…バンジョー?」
徐々に戻ってきた全身の痛みで頭が冴えてきた。激しい痛みが、寧ろ冷静にさせてくれた。
千翼は力なく、言われた名前を復唱する。
「バンジョー、リュウガ。バンジョー…バンジョー」
「で、お前なんて言うんだよ名前」
「…千翼」
「ええっとこういう時は…なぁ、千翼。今は何年の何月だ?」
「え…2017年の6月だけど…」
「2017…なんで時間が戻ってんだ…?」
「そもそも、何の話してるかさっぱりだ。そっちこそ本当にヒロキじゃないの?どっかで頭打っておかしくなったんじゃないのか?」
「まぁ宇宙で爆発したけど、頭は打ってねぇから多分大丈夫だ」
「絶対大丈夫じゃなさそうじゃん…」
「こっちだって訳わかんねぇよ。死ぬ気でエボルトと一緒に自爆したのになんか生きてるし。目が覚めりゃスカイウォールはねぇし。なんだよ東京って、東都じゃねぇのかよ」
「なぁ」
「ん?なんだよ」
「聞かせてくれないか、その、お前の言ってる世界の事。ほら、なんか、分かるかもしれないし」
「あー、それは別にかまわねぇけど」
そういうと万丈は、自分の知っている事を語り出した。
スカイウォールの惨劇というのがあった事、それにより日本は三つの国に分かれてしまったという事、結果戦争が始まった事。
そして人々を、愛と平和の為に戦った仮面ライダーという存在の事。
最初は、長瀬が自分をからかっているのだと、悪い冗談でも詳しく聞いていけばいつかボロが出る、そう思ってた。
しかし、聞けば聞くほど、逆に彼の言う彼の世界はドンドン肉付けされ現実味をおびていった。
万丈は決して説明が上手いとは言えなかった。長瀬もそういう事は下手くそで不器用だったが、彼ほどではない。だからこそそれが余計にその世界観の生々しさ、現実味を帯びてきてしまい、彼が今語っている世界の住人であるというのを後押ししていたように感じた。
「そんで、俺はそのエボルトを道連れにその時空の裂け目に飛び込んだって訳だ。どうだ?分かったか?」
「え…」
「え?じゃねぇよちゃんと聞いてんのか?」
「ああ、うん…お前がひろきじゃないって事は、十分に分かった」
信じられない事だが、信じるしかないのだと思った。
しかしやはり疑問は残る、そんな別世界の人間がなぜこの世界に来てしまったのか。
そのことについて尋ねても
「知らね、戦兎にでも聞いてみねぇとさっぱりだ」
逆に言えば、その戦兎、彼の言っていた桐生戦兎という人にさえ聞けば万事解決なのだろうか。
聞く限り、物理学者でありとても頭が良いのだと思われるので、きっとそうなのだろう。
自意識過剰なナルシスト、だそうだが一体どんな人物なのだろう。
「戦兎って人、なんか凄い人なんだな」
「そうだな」
彼は少し物悲しそうな顔をしながらそう言った。
それが少し、気がかりだった。
「やっぱりその、戦兎って人とかほかの仲間にも、会いたい?」
「まぁ、ここがC世界ってので、戦兎が言った通りならみんなこの世界のどっかにはいるかも知れねぇけど」
「じゃあ、探して見ればいいじゃん」
「気楽に言ってくれるぜ。探してるよ、ずっと」
万丈はそういい近くに転がっていたバーカウンターの椅子を立たせ、そこに腰かけた。
「でも全然みつからねぇんだよ。この街、東都と全然違ってよくわかんねぇし」
そう言った直後、ああ!と叫び突然立ち上がる。
座っていた椅子は勢いよく万丈の後ろへ吹っ飛び大きな音をたて壁にぶち当たる。
「そうだよ、お前この街の人間なんだろ!?道案内とか、出来るか!?」
「あ、はぁ?」
「頼む!なんでもいい、このままだとこの街ぐるぐる回って終わりそうなんだ!この通り!」
突然何をと思ったが、確かに理にはかなってる。
助けてくれた借りもある。
それに彼はやはり長瀬に似ているからだろう、なんだか放ってはおけない。
だが、それには千翼にはいくつかの問題もあり。
「そ、それよりまずは身体直さないとどうにも…」
「あ、そっか…ていうかお前、傷は大丈夫なのかよ。なんかここに運んできちまったけど」
「あ、そうだ。その部屋の隅に積んであるダンボール、あるか?」
そういいながら、首や視線を必死に使い、そのダンボールの方へ万丈の注意を向ける。
「ああ、あれがどうした?」
「そのダンボール、こっちに持ってきて欲しいんだ。」
そう言われ万丈は千翼の言っていたダンボールを持ってくる。
「それに入ってる中身、ちょっと出してくれないか」
中を開けてみると、ゼリー飲料のようなものが大量に入っていた。
「それさ、開けて飲ませてくれないか」
「お、おう」
そのゼリー飲料を開けて口元に持っていくと、それを死に物狂いで千翼は飲み出した。
「おいおいもうちょっと落ち着いて飲めって──」
だがそう言いかけたところで、彼はそれを飲み干しそして、起き上がった。
「…おい、もう起きて大丈夫なのか?」
「ああ、うん。助かった、ありがとう。後は自分で出来るから」
そう言い今度はダンボールの中に手を突っ込み中のゼリー飲料を貪りだす千翼。
さながらそれは、飢えた獣か餓鬼のようだった。
一心不乱に、プラスチックの割り吸い出し飲み干し傍に捨てるというのを繰り返し、一箱無くなった所でようやく千翼の動きが止まった。
「…うん、もう、大丈夫だ」
そういい万丈の方へと振り返る。
「お前…なんだよ、それ」
振り返った千翼の顔や身体は。
「お前、本当に人間かよ…」
思わずそう言ってしまうのも無理はなく、千翼の身体は見た限り健康そのもの、傷も完全に癒えていたのである。
だが、千翼はその言葉に酷く顔を歪ませた。怒りとも、怯えとも取れるその表情に万丈も何かまずい事を言ったのではと思った。
「あ、ああ、なんか気に障ったか?」
「お、俺は!人間、だから…大丈夫、何も、変な事は、ないから」
「そっか、いや、本当にすげぇなぁと思っただけでさ」
「別にいいよ、でも」
そういうと彼はしっかりとした足取りで、万丈の方へと近づていく。
それに数歩引いてしまう万丈だったが、そのまま顔を数センチの距離にまで近づけ
「でも、二度と人間じゃないなんて、言わないでくれ。頼むから」
「…ああ、分かったよ」
その口調や態度の余裕のなさに、万丈も何かを察しそう約束した。
◆
時は遡る事1週間前。
「でぇ?結論から言えば?結局のところ?千翼を?取り逃がした、というわけか」
大都会の街並み、巨大なビルの最上階のオフィス。
スーツ姿の40代程の男が、パノラマになったそのオフィスの真ん中に鎮座している。車椅子に乗り、全員をミイラのように包帯で巻かれ滑稽にさえ見える程に痛々しい姿で。
「時に君達。労働と対価の意味はお分りかな?誰でもわかる大変初歩的な一般常識だね?」
君達、と言葉を向ける先には。
全身血塗れで真黒の防具を身につけソファにだらしなく横になっている男と、ノートタブレットを持ちこちらも気だるげに壁に寄りかかったメガネ姿の男性がいた。
「我々は、君達をプロだと見込んで、加えて潤沢な装備を揃え、さらに高額な援助や支援をして、君達を雇っているんだよ」
そう言うとスーツの男は、だらりと締まりのない二人に向き
「なのにだ…アマゾン1匹満足に殺せんとはどういう事だぁッ!!」
外からも聞こえるのではないかという声で罵声を浴びせた。
「何も捕獲しろなんぞ言ってないんだぞ!殺せと命じた筈だッ!駆除だ駆除ッ!駆除駆除駆除駆除ッ!簡単な事だろうッ!何故出来んのだぁッ!」
一面のガラスが割れるのではというような、耳をつんざくその咆哮に、アンニュイな様子の二人も流石に眉間にシワがよる。
「いやぁでもぉ橘きょくちょー、流石にアレを他のアマゾンと一緒にするのはどうかと──」
スーツの男、橘雄悟にメガネの青年、札森一郎が言う。
「シャラップッ!君には言っていない!フゥ…黒崎君、説明願いたいね」
橘はそう言いソファにのさばる男──黒崎武に矛先を向ける。
「ハア…説明も何も、見てただろうが。腑抜け共が三文芝居に感化されて戦意喪失、おまけにガキの業務妨害、その隙に二人仲良く愛の逃避行ですよぉ」
首を回しソファにさらに浅く座りながらそう説明する黒崎に、橘は目を見開き、顔を赤く小刻みに震え出すが、目を閉じ大きく深呼吸をして、何も言わず自身のデスクへ行き、そこから何かを取り出した。
「これはまだ試作の段階なのでね、正常に作動するかは未知数なのだが」
彼は奇跡的に無事であった左手でその何かを持ち二人の座る場所へと戻る。
「アマゾン探知機、とでも命名しておこう。アマゾン細胞特有の電気信号や熱を感知し、知らせる装置だ。これと同じモノを他に5つ用意してある」
橘はそのアマゾン探知機を黒崎へ投げる。が、力が入らない為か、或いはわざとなのか、探知機は黒崎の足元へと軽い音を立て落ちた。
「いいかね…これが最後のチャンスと思いたまえ」
そういうと落ち着かせた表情が一変、怒り様を顔にさらけ出し
「今すぐにあのオリジナルを探し出して、木っ端微塵に粉砕してこいッ!!分かったかッ!!」
最後の最後に特大の雄叫びを上げ、彼ら二人に退出を命じた。
「んでどうしますぅ?」
「どうするもねぇだろ、今すぐイケる奴全員呼び出せ」
黒崎はそう言い札森に各隊に連絡をするようを支持する。
「次でぜってぇぶっ殺す」
◆
「で、探すの手伝ってくれんのか」
「…それが、俺ちょっと命狙われてて、だからあんまり表を出歩きなくないっていうか…だから、助けて貰っといてなんだけど、あんまり手伝えない」
その後も千翼と万丈はクラブで話を続けていた。
千翼は未だダンボールの中のゼリー飲料を飲み続けているが、先程と比べると落ち着いた様子で食べていた。
「そっかぁ、まぁそうだよな。あんな状況だった訳だし。そのふぉーしー?って奴らもなんかいるんだろ?」
「そうだ、ずっと気になってたんだ。ねぇ万丈、あれなんだったの?」
千翼は、自分が助けられた際の光景を万丈に話す。
自分の命を救った恩人。恐らくはこの万丈なのだろうが、しかしあんなアマゾンはこれまで見たことがなかった。
「さっきも言ったろ?アレが仮面ライダーって奴だ」
「あの場にはとう──赤いアマゾンと緑のアマゾンがいたはずだ。両方とも相当強いんだ、どうやって逃げたんだ?」
「飛んで」
「飛べるの!?」
「そういう風に戦兎が創ってたみたいだからな」
「へぇ…凄いんだな、戦兎って」
「いやぁアイツはただの変人だぜ?」
万丈はそういうと
「なぁ、飲み物とかってこの辺のやつ飲んでもいいのか?ここに来てから何にも飲んでねぇから喉乾いてんだよ」
「あ、ああ。多分冷蔵庫の中が無事ならそんなかに何かあるはずだ」
「へへ、わりぃな」
と言い万丈は飲み物の物色を始めた。
ふと、イユの事を思い出した。
彼女は鳥類、カラスのアマゾンだった。
戦っている時もよくその能力を使って敵を翻弄したりしていた。
しかし千翼が覚えている限り、飛行や滑空をするのはあっても大空を飛ぶ、といった事を彼女はした事がないはずだ。
彼女は、死体からアマゾンへと生まれ変わる事で生き返った子だった。
シグマタイプと呼ばれるアマゾンは、喜怒哀楽といった感情に極端に乏しくなる。
恐らくは好奇心などもそうだ。
きっと、イユは飛べたのであろう、でもそれをしなかったのは、無駄な行為だと判断した為だ。
もし出来る事なら、イユと一緒にあの空を飛ぶというのも、やってみたかったなと千翼は思った。
「飛んでみたかったな」
ポツリと口からそう出てしまう、すると粗方飲み物を荒らし終わった万丈が
「あー空から探すってのもありだな…じゃあついでにお前も飛んでみっか?」
そう千翼に提案する。
「な、いいよそんな。大体そんな人が空飛んでたら目立って仕方ないだろ。見つかったらどうするんだよ」
「見つけやすくなるだろ?」
「見つかったら俺は殺されるんだぞ!」
「あそっか」
「万丈ってもしかして、凄くバカ?」
「バカ言うなよ!せめて筋肉付けろ筋肉!」
「意味わかんないし…」
無駄話もほどほどに、ずっと気になっていた事を千翼は彼に聞いてみる事にした。
「ねぇ、万丈はなんで、俺を助けてくれたの?」
あの公園、イユの思い出の場所、イユの眠る場所、自分の墓場となりかねた場所
あの場には、自分を含め3人のアマゾンだけだった
自分はそこで生きる為に戦い、死ぬはずだった
「ああ、それがオレにも分かんなくて。気が付いたらお前の事助けてた」
万丈は気が付いたらこの世界にいたのだと言う。
目が覚めると、街中裏路地に一人倒れており当てもなく放浪していたが、エボルトとの戦いの疲れからかすぐにまた意識を失った。
その後再び目を覚ますと、彼は赤いアマゾン、アマゾンアルファの目の前に立っていた。
記憶が曖昧だったが自分は後ろにいる男を助け無ければならないと使命感があり、なんとかしてあの場にいた二人を撒いたらしい。
「で、一応お前を病院に連れていったんだけど」
「は!?え、そんな事聞いてない!」
「言ってなかったからな」
しかし病院に連れて行ったはいいが、勿論そんなボロボロの患者を個人が運んできたという事で万丈自身にあらぬ疑いをかけられたりそもそも千翼に合う血液型の血のストックが切れかけていたりとその後もかなりの大騒動だったそうだ。
「なんか急患が一斉に来てたらしくて、それで血液が足りねぇって事だったんで、たまたま俺とお前の血液型が一致したからそのままお前に血を渡したりして…あ、治療費はお前の財布から抜いちゃった」
「ええ…」
「仕方ねぇだろドルクが使えねぇとか聞いてなかったし」
「何それ…まぁ、でもうん。色々助けてくれたんだな」
「俺もなんでお前にここまで助けてんのかはよくわかんねぇけどよ、でも…」
万丈が言いかけたその時、またもクラブへ通じる階段から足音が聞こえて来た。
時刻は既に夜中の3時、クラブであれば稼ぎ時の時間帯だろうが、電光看板の灯りも付いていないこの店に来るのはteamXのみんなやオーナー、そして──
降りてくる人数は聞こえる音からして10~20人程、こんな所にそんな大所帯で来るのは千翼の知っている限り1つしかなかった。
「4C…!万丈、隠れろ!」
千翼はそう言い、万丈を引っ張り込んでカウンターの裏へと隠れた。
そして少しして武装した人間がクラブへと降りてきた。
「あれぇ、おっかしいっすねぇ。確かにここに反応してるんだけどなぁ」
そう言いながら札森はトランシーバーのような機械を持ち不規則にクラブ中を歩き回っていた。
「発見に1週間も掛かる辺り技術班のコレも大した事ねぇな」
気怠そうに黒崎はそう言い、だらりと下ろして持っていた銃を構え
千翼達の隠れていたバーカウンターへ発砲した。
「うぉッ!?」
「ばッ!ば、万丈!」
「そこにいるんだろぉ?出てこいよぉ」
隠れていて視認出来ないが、カウンターの周りを4Cの部隊が取り囲むのが分かる。
半六角形で壁際にあるこの机は、包囲するには絶好のポイントだったのかも知れない。
完全な判断ミス、鉄で出来たエアロック扉の個室に隠れた方がまだマシだったかも知れない。
いや、今後悔しても仕方がない、千翼は咄嗟に取ったドライバーを腰に撒き、注射器状のアイテム──アマゾンインジェクターを差し込む
「…あれっ!?なんで!?」
インジェクターを差し込んだのに変身出来ない。
普段であればすぐにでも身体が変化するはずだった。故障か、それともダメージが大きすぎた結果なのか。
原因が全く分からない、今は一刻も早くこの場から逃げなければならないのに。
焦りようは隣の万丈も見て取れた。
「おい。どうしたんだ!?」
敵には既にこちらの事は気付かれてるが、バレないよう念のため小声で聞く。
「出来ない…なんで…」
と何度も何度も注射器の押し子を押している。
「なんで…なんで…」
「もうやめとけって!ここは任せろ」
万丈はスカジャンの裏から何かを取り出した。
歯車がデザインされたハンドルの付いたそれを腰にあてるとベルト状になり腰に固定された。
それに謎のアイテムを差し込むとベルトの右手側についたハンドルをグルグルと回し始めた。
「いいか、いっせーので飛び出すぞ」
「ちょっと、何考えて」
「いっせーの!──」
千翼の腕を引っ張り上げた万丈は腰についたドライバーに何かを差し込んだ。
<Aer you ready?>
「変身ッ!」
謎の音声が鳴り直後に万丈の周りを管が取り囲む。
4Cは飛び出してきた二人に一斉に射撃を始めたがその管がバリアのようになり一切寄せ付けなかった。
<ウェイクアップクローズ!ゲットグレートドラゴン!>
<イェーイ!>
万丈の姿は、青色ベースの戦闘スーツと思しき姿になっていた。
「捕まってろよ!」
千翼を抱き抱え、地上へと続く階段を上り地上に出る。
それに続き4Cも階段を上り銃を構えるが、二人はそこから地面を蹴り上げ一気に建物の高層へとジャンプした。
「なんすかあれ…」
建物の屋上を次々と渡り遠ざかっていく二人を見上げ札森が言う。
「知るか、新種のアマゾンかなんかだろ」
「でもあれ、さっき突っかかってきたガキっすよね?」
「なんなんだよ…あッ、つぅ…」
見たものをイマイチ飲み込めず、持病の頭痛がし出し乗ってきたバンに持たれる黒崎。常備してある頭痛薬を取り出し、用法を無視したような数を服薬する。
「クッソ、また千翼を狩り損ねるしアイツは変なのになってるし」
そういい、おぼつかない足で車に乗り込もうとし「あぁ!割にあわねぇ!」と叫び力任せに車体を蹴飛ばした。
「ねぇ万丈」
「なんだ?」
ビルを上へ上へとジャンプし渡り歩く万丈。
目が覚めてからあのクラブにいたせいか時間間隔がなかったが、外は既に日は落ち冷たいビル風が担がれた体を刺すように吹く。
空には満月があり、高いところを渡っているせいか、いつもより近く感じる。
「お前は、ひろきじゃないんだろう?」
「ああ」
「じゃあ、なんで俺のことを助けてくれるんだ?」
「それは…」
しばらく考えこんだのち、万丈は
「…愛と平和のため、かな」
と、答えた。
「なにそれ」
意味はよくわからなかったが、何故だかそれがおかしく笑みを漏らす。
「あーなんで笑うんだよそこで!」
「ごめんごめん。そうか、愛と平和、か」
自分の人生は、そんなものとは無縁だった。
平和はなく、愛情も自分自身が喰らった。本能に理性が耐えられなかった。
この呪われた身体に、そんなものとは到底無縁のように感じる。
だが、それでも、そうだとしても。
俺は、生きたい。
「いいな、愛と平和」
「…ああ」