仮面ライダーアマゾンズ pain is an CRoss-Z   作:血祭り

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3話

「良かった、あんまり変わってない」

朝5時半の大学は、早朝の為人はほぼおらず、忍び込むにはあまり不審にならない、自然と中へ入れるいい時間だった。

 

「ここに座って」

研究室に入ると悠は側にあった丸椅子へ千翼を手引きした。

「僕も決して詳しいわけじゃないけど、見よう見まねで覚えているから、君の細胞がどう変化したかくらいなら分かる」

机に置かれた注射器を手に取り、注射の準備をし、悠は千翼の脈に針を刺す。

採血したその血を液体の入った容器に入れ、血液を数滴垂らし左右に軽く振る。

「色々と調べる事があるから、二人は隣の部屋にでも行って休んでるといい。確かベットなんかもあったはずだし」

悠は顕微鏡にその液体を垂らし、レンズを除きこむ。

そう言われ千翼と万丈は隣の部屋へと移った。

 

細胞が生きていれば、殺す。

千翼は有罪か無罪かを待つ被告の心境だった。もし細胞が生きていれば彼は今すぐにでも殺しにくるのではないだろうか。

──だがアマゾン細胞が死んでいたらどうする?

そんな事があり得るのだろうか。

生きているものが死滅している。生まれついてからずっと付いて回ったこの呪いが、いなくなったのなら自分は果たしてどうなるのだろうか。

どちらにしても不安しか残らない。

時間が牛歩の速さでしか進んでくれない。吊るされた時計の秒針は止まっている気さえしてくる。

 

随分と時間が経った。

緊張で吐きそうな千翼と、万丈もそんな様子の千翼を見かねて「ちょっと、覗いて見ようぜ」と悠のいる部屋へ入って行った。

悠は、顕微鏡を覗き込んだまま微動だにしなかった。

「おい、終わったか?」

そう聞かれる悠はしかし全く動く気配がなかった。

「な、なぁ。どうなんだよ、おい」

一向に動こうとしない悠に検査結果を迫る。

二人の様子が気になり千翼も研究室へと入る。悠は、ゆっくりと、顕微鏡から目を離した。

その目は、何か理解しがたいものを見たような、平常心が保てていないような表情だった。

「で。生きてんのか、死んでるのか?その、なんとか細胞」

「…分からない」

「分からないって、あんた分かるつってたじゃねぇか」

「…結果だけ見れば恐らくは、アマゾン細胞は消滅していると思う」

「じゃあそう言えばいいじゃねぇかよ」

「違う、そんな簡単な話じゃない。二人とも、そこにかけて…いいか千翼、落ち着いて聞いて欲しい」

悠は体を千翼と万丈のいる方向へと向けた。

「君は、もしかしたらヒトでもアマゾンでもないものになっているかも知れない」

「…え?」

悠は一度、目を瞑り軽く息を整え、また顕微鏡の中を覗き込みながら「この細胞はヒトとも、アマゾンとも違う。未知の細胞に変異してる…」と言い顕微鏡から目を離すと、今度は悠は千翼に質問を始めた。

「正直に答えて。ここ最近、人を食べたくなった事は?」

「──お前に襲われてから1週間ずっと寝てて、起きたら万丈がいた。で、すっごくお腹は空いてたんだけど、不思議と万丈を食べたいとは思わなかった。そのあと4Cが来て逃げる途中にコンビニにも寄ったんだけど、店員を見ても、全く食べたいとは思わなかった」

「僕と仁さん、君を殺して、1週間経ってるとはいえ治癒が早すぎると思うんだけど」

「ゼリー、食べたから。タンパク質の」

「それだけ?」

「それだけ」

「アマゾンになれないみたいだけど、それは彼に助けられた後からずっと?」

千翼は無言で数回頷く。

「じゃあ最後だ。あの公園から1週間、これまで一度もやった事のない事とか、した?」

「えっと…」

千翼は暫く考え込んだ後、「あっ!」と言うと「輸血!万丈に輸血して貰ったんだ!」

「…分かった。ありがとう」

「な、なんか分かったのかよ」

二人の問答の間、黙っていた万丈がそう口を開いた。

「…念の為言うけど、僕は専門家じゃない。正直、仁さんや野座間の研究所とかの方が詳しく分かるだろう。だからこれは僕の推測だけど」

悠はそう前置きをし次のように続けた。

「アマゾン細胞の治癒能力が向上している。多分他のアマゾン体のどれよりも。この細胞、増えない代わりに減りもしないんだ。減った側から増えていく」

「それ凄い事なのか」

「アマゾン体でも大量のエネルギーを摂取してやっと治る傷も、コレは瞬時に回復すると思う。そしてタンパク質を摂取すれば恐らくそれ以上のスピードで」

少し間を置き、悠はこうも続けた。

「そして何より凄いのは…それによって起き得る食人衝動の喪失だろう。勿論摂取すればそれだけ得るものがあるから完全とは言えないだろうけど、エネルギーは全て自給自足で補っている。共食いして増えるなんて、そんな…」

一人驚きを抑えられない悠だったが、説明を聞いていた万丈は何を言っているのか分からないという顔をしていた。

千翼も悠が何を言っているのかは分かっていなかった。だが理解してない訳ではなかった。あまりの事に、思考が止まってしまったのだ。

人を食わなくていい。食べたいと思わなくなった。

『食人衝動の消失』

これは千翼にとって、まさに福音といっても過言ではない喜びだったのだ。

まだ確証はなくとも、その可能性がある。そして今の食人衝動の失せた自分という証拠が、もう人食いをしなくていいという

「千翼がアマゾンになれなかったのは細胞が変異した結果、既存のアマゾン細胞どれとも違うから機能しなかったんだ…そもそも、これをアマゾン細胞といっていいのかも疑問だけど」

悠そう言うと、今度は万丈の方へ視線を変えた。

「万丈、だったよね。君もアマゾンみたいな姿になれるけど、何か特殊な細胞があったりするの?」

万丈は、そう言われると少し考えた後、話を始めた。また自身の出生から。

そして自分には生まれつきエボルトという異星人の事、その遺伝子の事、様々な事を。

「…でもよ、良かったじゃねぇか。その、マラソン細胞ってのがなくなったんだろ?」

千翼と悠にそう言う万丈だったが、悠は浮かない顔をして少し下を向いた。

「…現状、今の千翼の細胞が他の人間にどんな影響を及ぼすかは未知数だ。これまでは水分を介した感染だけだったけど、もしかしたら今は空気感染するようになってるかも知れない。そうなら、やっぱり千翼は、殺さないといけないのかも」

「…は?いやいや、おかしいだろ!話しがちげぇじゃねぇか!だってお前、細胞は死んだっていって──」

「でも食人衝動は、あっても本当に極々僅かだろうと思う。我慢もいらない範囲、今生きてるアマゾンの中で一番人を食わないアマゾンだろう。人を食べないのなら、殺さなくてもいいんじゃないかって、そう思う自分がいる…」

悠は、そういったきり黙ってしまった。そこから誰も口を開くことはなかった。

程なくして学校のチャイムが鳴り響いた。

気がつくと時間は既に8時半を回っていた。

「…そろそろ人が増えてくる。帰ろう」

そういい悠は器具を片付け始めた。

「っておい!結局、お前は千翼を…」

そう言う万丈に悠は、機材を元あった場所へ戻しながら、背中をむけこちらをみずに答える。

「殺さない。とりあえずは…けど、彼の細胞が暴走する事があれば…その時は──」

その言葉に句点をつける事なく、悠は持ち物をとり部屋から出ていってしまった。

 

 

 

 

悠と別れた二人は、教室を出て大学を後にした。

万丈は持ってきた農具用の二輪車を持って帰ろうとしたが、それはあまりに目立つのでやめてほしいと千翼が止めた。

大学には申し訳ないが、これはそのまま引き取って貰おうということになった。

 

「なぁ」

「うん、言いたい事は分かる」

 

外に出て暫く歩いていたが、どこに行ってもずっと道行く人、残らずこちらを見てくる気がする。

千翼も万丈も、そう感じていた。

それは驚愕だったり、不審的だったり、困惑や恐怖、様々ではあるが一貫して気分のいい目線ではなかった。

こちらを見ながら何処かへ電話をかける者もいた。

逆にスマホをこちらへ向けて写真を撮る人もいた。

流石に万丈もそれには喧嘩腰で近づいて一言言おうとしたが、一目散に逃げてしまい結局撮られっぱなしになってしまった。

「なぁ、やっぱ変だよな」

加減そうな顔をする万丈。千翼も流石に

「…人通りの多いところなら、紛れて目立たなくなるかもしれないしそっち行いってみよう」

万丈は千翼に言われるまま共に街の大通りへと入っていった。

しかし、それが不味かった。

事実を知るという意味では、ある意味正しかったのかも知れないが、知らなければこんな混乱もなかったかも知れない。

 

『先週未明、…区…にある飲食店にて十代の少年二人組による強盗殺人が発生しました。少年二人は店に押し入った後、客に殴る蹴るといった暴行をし、更に刃物のようなもので客の腕や足を切りうち名が死亡、6人が重症、その日の売上と客の財布を奪い取り逃走したという事です。その後行方が分かっておらず、警察は極めて凶悪な事件として少年らの顔写真を一部公開するという、異例の措置を取りました。また犯人は──』

大通りの巨大なスクリーンには、千翼と万丈の顔が大きく映し出されていた。

目線は入っていたがそれも気休め程度でしかなく、一目見れば誰か分かるってしまう。

「なんだよこれ…先週って、アイツ何したんだよ…」

「さっきから人に見られてたのはコレだったんだ」

唖然とする二人だったが、二人へ向けられる無数の視線に気付き、その場を逃げるように後にした。

 

「何がどうなってんだよ」

「分かんない、けど。おれを捕まえる為にあんな事してたのかも」

大通りから全力で走り駆け込んだ細い路地裏、少し息を潜めていた。

「なぁ、死んだ奴がいたっつってたけど、あそこから逃げる時誰も殺してねぇよな?なんで死んでるんだよ」

「先週なら多分、おれが殺した人達だ」

千翼は、目を閉じ深呼吸をする。

あまり思い出したくない記憶に、血が急に早くなるのを感じていた。

そうして緊張した身体を、落ち着かせる為に。

「ああ、アイツが言ってたなそんな事」

小さく零す万丈、千翼は先程から気になっていたその物言いについて聞いた。

「ねぇ万丈、そのさっきから言ってるアイツって、誰?」

万丈はそれに対し、少し目を逸らしてきゅっと口元を閉める。

そのしまった、というリアクションは千翼の中の疑問を更に増幅されてしまうものだった。

「悠が来た時もそうだった。約束がどうとかって、それはなんなの?」

表の通りの何処かの飲食店、その排気口の音が低く響くだけの静寂。

万丈はしばらく黙り込んでしまったが「まぁ、その長瀬ってのに頼まれたんだわ、お前の事」と言った。

「長瀬が…でもなんで」

「それはいいからよ、とりあえずはどっか移動しねぇとな。なんかいい場所知らねぇか──」

万丈がそう言いかけたその時、目の前に大勢の足音がこちらに向かってくる音が聞こえてきた。

「ヤバい万丈、多分4Cだ!」

「昨日の奴らか!」

反対方向へ逃げようとする二人だったが、逃走しようとした進行方向からも人の気配を感じ、更には建物の上の方からもこちらへの視線を感じる。

「袋の鼠ってわけか…」

「万丈、こうなったらアレになって逃げるしか!」

「お、おう!」

千翼に言われ万丈はドライバーを取り出す。だがその瞬間何者かが発砲、万丈のドライバーを持った手を的確に射抜いた。

「万丈ッ!」

「うっつぅ…!ああくそっ!」

撃ち抜かれた手を抑え歯をくいしばりながらも、再びドライバーを手にしようとする万丈だったが、「はい、それまでぇ。次動いたら殺すぞ」銃を万丈の脳天にピタリとつけ、黒崎の警告で二人とも身動きを封じられてしまった。

「よう千翼。お前まだ生きてたんだな」

「黒崎…!」

「そんな恐い顔すんなよ。まぁ、今から手前を殺すって奴相手じゃそうなるか」

やれ、と黒崎が支持を出すと4Cは千翼目掛け一斉攻撃を始めた。

飛び続ける銃弾と血液、それは人一人に浴びせる量を遥かに超えるような火力の暴力だった。

千翼の叫びも、怒涛の銃撃音によってかき消されるほどの圧倒的な数の。

全身が再びあの時のような、血と骨と肉が混ざり合った、最早肉塊としか言いようがない程に滅茶滅茶にされる。

「千翼…ッ!てめぇこの野郎ッ!──」

「動くなって言ってんだろ。お前もああはなりたくなきゃ、素直についてこいよ。長瀬裕樹に似た、誰かさん」

銃を向けたまま黒崎は万丈を無理矢理立たせ腕を素早く拘束し、こう言った。

「うちの局長がな、お前に興味があるらしくてな。一緒に来てもらうぜ」

そういい黒崎は万丈を顎に横蹴りを入れる。不意打ちと千翼の無残な姿に気を取られていた為に万丈もなす術なく気絶、千翼だったものと共に部下に回収させその場を後にした。

それはまさに、ほんの数分の出来事であった。

 

「はい。ご協力感謝致します」

そう言い携帯電話の通話を切る橘。

窓の外は雲一つない晴天、太陽の光が全面ガラスのこの部屋に煌々と入り込んでくる。

橘はその光景を、ただただ真顔で見ていた。

 

「橘局長もやり方がえげつないですよねぇ」

「元々そういう奴だろ、アレは」

4Cビル内の廊下、万丈を連行する途中で札森が黒崎にそう話題を振った。

「警察上層や報道機関に私と繋がりの深い人物がいるから彼らを使ってあの二人を指名手配し報道、民間人やSNSを使って居場所の特定と潜伏を封じる作戦って…それ自体殆ど犯罪じゃないですかマジで」

「お偉いさんってのは上になるほど大なり小なり犯罪者だ。要はバレなきゃいいんだよ、お前も政府の人間ならそれくらい分かるだろ」

「いやぁ、分かりたくないっすねぇ…あ、そういや千翼君どうなりました?」

「あーあれな、廃棄したいところだけど、アレでもオリジナルだからな。それなりの処理をしてから捨てるらしい」

「へぇ。なんか残酷っすねぇ」

そう言いながらも、黒崎も札森も実にあっけらかんとした様子であった。

 

 

「やあ、君が長瀬君か。私はこの4C局長をやっている橘というものだ。以後よろしく」

万丈が目を覚ますと、そこは手術室の様な場所だった。

無影灯の光につい目を細めるが、段々と慣れて来たその目に移ったのは、白い防護服を着た人間たちと、スーツ姿のキザそうな中年であった。

「おい、ここどこだよ。千翼はどうなったんだよ!」

怒りで暴れる万丈だったが、身体をしっかりと拘束されておりどれだけやっても精々台を軋ませるのがやっとであった。

橘はその様子を見て鼻で笑いながらこう言った。

「いやぁまさか、千翼の友人に君のような面白いサンプルがいるとはねぇ。類は友を呼ぶ、という事か…率直に聞かせて欲しい。君は何者だ?」

橘はそう尋ねる。「誰に作られた?何処の組織だ?」

万丈はそう言う橘に対し吐き捨てる様に答える。

「はっ、誰が教えてやるか。まぁ、有り体にいや宇宙人か」

橘は万丈のその態度が気に入らなかったが、あくまでリードを取る為冷静を装った。

「はぁ宇宙人。では宇宙人に改造されたとでも?」

「そう言ってんだろ」

「これは面白い。では君もまた宇宙人であり、つまりは地球人権もないから法律は気にしなくて言いわけだこれはいい。では遠慮なく、実験させてもらおう」

「あ?実験だ?」

そういう万丈に橘は邪悪な笑みで返し、部下に何か指示したのち再び万丈の方へと向き直す。

「まずは君が一体どういったアマゾン体なのか否、アマゾンかどうかを聞かせてくれ。言葉と、君の身体でね」

 

 

千翼が目を覚ますと、そこはとても暗く、また冷たい場所であった。




もし続きを待っていただいた方が一人でもいらっしゃったのなら大変お待たせしました。
どう展開したらいいかを散々考えてましたらなあなあで2ヶ月経っておりました。
申し訳ないです。
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