え、ちょ。可奈美ちゃん13歳って、マ? 作:なみのじ
現実と理想がたびたび食い違うように、アニメや漫画では見た目と実際の年齢が異なることはよくあることである。
どう見てもロリィな女の子が学園の理事長をやっているーー
凛々しいイケメンが「俺、小学生だけどどうする?」などと問いかけてくるーー
アレなゲームだったので、登場人物が全員18歳以上だったーー
見覚えがないだろうか?
だが、架空世界では笑って済ませるソレが、現実となって降りかかってきた時どうなるか。
俺はその答えを、身をもって知ることになるのだった。
☆
その日、俺は晴れた日に公園にいた。
朗らかに降り注ぐ日差しの中、キャッチボールする少年たち、杖をつき散歩する老人が目に入ってくる。腰掛けたベンチから見えるのは、そんなのどかな光景だ。
隣を見ると、ちょうど姫和(ひより)がチョコミント大福にかぶりついていたところだった。つい先ほど、一緒にコンビニで買ったものだ。
「うん! この大福は当たりだな! 美味しい」
姫和の顔に花が咲いた。
こぼれ落ちた大福の粉が口についているが、そんな瑣末なことは気にならなくなるほど美味しかったようだ。
普段クールな彼女が笑うと、笑顔が一層眩しい。
俺もつられて笑顔になる。
「確かにうまいな。見た目が大福っぽくないからどうかと思ったが、瑞々しい感じがなかなか」
「もちもちしているのに、クリームは滑らか。新しい食感だ。チョコミントの大福でこんな冒険をするとはな。
最近のセブンは頑張っている。うんうん」
セブンは時々、トチ狂ったようにチョコミントの新商品を出すからな。
そんな時、我々チョコミン党は機を逃さず全商品を網羅する。
手元にはそんな商品が袋詰めされており、戦利品を2人で検分しているところだ。
当たり外れのブレが結構大きいのだが、先ほどの大福は大当たりだった。
「しかし結構な量になったな。本当に良かったのか? お前に全部買ってもらうなんて、申し訳ないような……」
「なぁに、社会人にとってはたいした金額じゃないさ。学生が気にすることじゃない」
俺は23歳。稼ぎのある立派な大人だ。
そんな社会人が年下の彼女に、お菓子代請求するとかそちらの方がむしろ恥ずかしい。
男女間だと食事を割り勘するかしないか時々話題になるが、これは別。
これはそう、大人の甲斐性というものだろう。
「もぐもぐ。この大福は本当に美味しいな。是非ともセブンで末長く売ってくれないものだろうか」
「どうだろう。確かにうまかった。今までの商品で一番かもな。けど難しいだろうな……」
セブン新商品の寿命は短い。
雨の後のタケノコのように出したかと思うと、あっという間に除草剤を撒いたかのように不毛の地と化すのもまたセブンである。
「くっ。みんながもっとチョコミントの美味しさに気付けば……っ」
「まぁ、万人受けする味ではないからな。俺たちはこういう機会にいっぱい味わっておこう」
次の新作チョコミントに手を伸ばす俺。
お、これはシューか。手堅いところできたな。確実に美味いはず。
そんな俺の仕草を、姫和はマジマジと見つめたと思ったら、なぜかニヘラと笑みをこぼした。
「……え、どうしたんだ? 俺の顔になんかついてる?」
ちなみに大福の粉がついてるのは、姫和の方だぞ。
「いや、好きな人と好きなものが一緒なのはいいものだと思ってな」
言いながら顔を真っ赤にする姫和。恥ずかしいこと言ってる自覚はあるのだろう。
だがこの場合、恥ずかしいのは返って俺の方である。
この子は2人きりになると、時々素直すぎるから困るな……
「あ、あぁ。俺もそう思う」
俺も顔に血が集まるのを自覚しつつ、頷くようにしてシュークリームを頬張った。
とはいえ素直なのは良いことである。否定する要素は1つもないのだから。
そう。
何を隠そう俺と姫和ーー十条姫和は恋人同士。俺たちは付き合っているのだ!
馴れ初めは長くなるのでここでは端折るが、折神紫暗殺未遂、大荒魂討伐、ノロ強奪事件ーー様々な事件を彼女と共に戦い続け、俺たちは絆を深め合った。
そして平和を勝ち取った今日。晴れて恋人同士となっている。
お互いの境遇が似ていたこともあるし、二人揃って無類のチョコミント好きだったというのも、心を通わせた一因ではあるだろう。
幾多の困難を乗り越えて成長した姫和は、刀使としてこの国でも最強の一角だ。
しかも彼女は強いだけでなく、美しい。
キリリと整った顔つき。腰まで伸びた艶やかな黒髪。知性と意志の輝きを感じさせる力強い瞳。
全く素晴らしい女性だ。
「こ、こほん。ほら次はこれを一緒に食べよう。チョコミントポッキー! もぐもぐ……うん。これも当たりだな!
……ほ、ほら。お前も食べろっ! ……あーん」
そんな姫和が頬を真っ赤に染めながら、あーんをしてきた。
……おそろしい破壊力である。
だが俺とて彼女と共に苦難を乗り越えてきた身。
堂々と迎え撃つ所存である。
「おう。あーん」もぐもぐ「うん、美味い」
「……」
「……」
しばらく、なんとも言えない甘酸っぱい空気が流れた。
どことなく公園にいる人たちからの、微笑ましいものをみる視線を感じる。
目に見えそうなほどの、いたたまれなさ。しかしそれはとても良いものであり、幸福を結晶化したような幸せの極致だった。
「ところで今度、こんなイベントがあるんだ」
しばらく余韻を堪能したのち、おもむろに姫和がカバンから何かを取り出した。
カラフルな印刷がされたチラシだ。紙面には「平城学館競技祭」の文字がある。
「このところ、刀使にまつわるいろんな事件が続いただろう。良くも悪くも世間を騒がせたからな。
イメージ回復のため、学校をあげて競技祭を開くらしいんだ」
「へー。いいんじゃないか。確かに色々あったからな。これで刀使を身近に感じてくれれば、いざという時も協力してくれるようになるよ」
「うん。私もそう思う」
姫和も祭には賛成のようで、満足げに微笑んだ。
しかしすぐに困ったように眉間にしわを寄せる。
「ただ、右下のそれはいただけないんだが……」
「右下?……おおっ、姫和の写真が印刷されてる!」
そこには姫和のバストアップが載っていた。
とても凛々しいキメ顔である。
「勝手に私の写真が使われていてな。気がついたときには、すでに印刷されていて止められなかった……」
「うーん。そりゃなかなかひどいな。とはいえ平城学館にとっては、姫和はある種の誇りだからなぁ」
日本を騒がせた大災厄を解決した立役者。その一人として、姫和は世間でも有名な英雄である。
人集めの目玉として広告塔にされるのも、やむを得ないかもしれない。
「全く。学館にも困ったものだ」
プンスカしながらチョコミントシューに食いつく姫和。
しかしそう言いつつも断固反対まで至らないのは、姫和自身も必要性を判っているからだ。
しばらく遠ざかっていたとはいえ、平城学館は彼女の母校である。事件の余波で一時的に外されることもあったが、紆余曲折の末、現在籍も戻している。
世話になった母校に必要とされているのだ。姫和とて、求められれば反対はしない。大人の対応といえよう。
「でも、姫和はそれだけのことをしたんだ。誇っていいと思うよ。俺も恋人として鼻が高い」
「いや……私は結局、私怨で動いていただけだ。あの時はたまたまそれが良い方向に進んでくれたにすぎない。
それを誇るというのは、何か違う気がするーーただそんな自分でも人の役に立てるなら、協力は惜しまないつもりだ」
ははぁ。
惚れ惚れするほど立派である。
まだ彼女が高校生であることを考えたら、世間からチヤホヤされて天狗になってもおかしくないものだ。
果たして同年代でこれほど気高い精神を有する女の子が、どれほどいるだろうか。
そんな彼女を見ていると、年齢こそちょっと年上だが幼稚な自分が恥ずかしくなる。
俺も彼女に負けないよう精進しないとな。
「ん。でもこれ、ここに誤植があるな」
水を差すようでなんだが、ちょっとあんまりなミスがあったのでつい指摘してしまった。
これもう印刷しちゃったんだっけ。不味くないか?
「誤植だと? どこだ?」
「ほら、ここここ」
俺が指差す先には、明らかな誤りがあった。
全く、こんな単純なミスをするとは困ったものだ。
「姫和の紹介文が、平城学館中等部在籍になってるよ」
いくらなんでも中等部はないだろう。
まぁこんな分かりやすいものなら、すぐ間違いってわかるし問題ないとはいえ、姫和を中学生扱いとは彼女に失礼というものだ。
女性の年齢を間違えるとは、担当者は猛省して欲しいものだね。
しかし俺のクリティカルなはずの指摘にも関わらず、姫和は首をかしげた。
「何がおかしいんだ?」
「え、だって中等部って……」
「問題ないと思うが……」
……。
……ふぁ!?
「え、ちょちょちょっと待って! 姫和、中等部なの?」
「何を今更。そうに決まってるだろ」
えっ、ちょっとまって、中学生!? って中坊!?
姫和……いや、姫和ちゃん、中坊だったの!!!!!????
……いやいやいやいや。
まてまて。
十条姫和といえば、日本の英雄である。
誰もが気付かなかった折神紫の闇を暴き、単身、折神家ひいては刀剣管理局を敵に回して戦い続け、大荒魂による大災厄を未然に阻止し、現世と隠世の同一化を目論んだタギツヒメをも打ち倒した、正真正銘救世主である。
それが中学生だって? はは、ナイスジョーク。
改めて姫和ちゃんを見てみる。
すらりと伸びた背筋。凛々しい横顔。透き通るような気高い意思を感じさせる瞳。
姫和ちゃんなんて失礼。
はい、これはどう見ても姫和です。
「本当は高等部だよな? そうだと言ってよ姫和ィ」
「どうして私が高等部になるんだ? 飛び級した覚えはないぞ」
どうやら、冗談を言っているようではないみたいである。
マジで姫和は姫和ちゃんだった。
……マジかよ。
俺、中坊と付き合ってたのかよ!
……え、これ許されるの?
どうやら中学生と付き合っている23歳がいるようですよ。
犯罪の足音が聞こえる……俺の足元から!
いやいやいや。
まだだ。まだわからんよ。
ひとえに中学生と言っても幅広いからな。
中学生とは可能性の塊である。そう、その可能性の中には留年していた可能性も当然ある。
失礼だが、例えば5年ほど姫和ちゃんが引きこもっていた場合、彼女は中学生でありながら立派な淑女の地位も手に入れる。
こんな大人びた子が、そんなに若いはずがない!
「あの……ちなみにお年はおいくつでしょうか?」
「どうしたんだ、さっきから。14歳だがそれがどうかしたのか?」
じゅじゅじゅ、じゅうよんさい!?
恐るべき響きに、意識が遠のく感じがした。
14歳とは、だいたい中学2年生である。
少し振り返ればランドセルを背負っていた姿が見える。
姫和ちゃん、14歳で国家相手にケンカ売ったわけぇ!?
バカなっ! こんな14歳がいてたまるか!?
ここにいたり、俺は混乱の極致に達した。
先に述べている通り、俺と姫和ちゃんは付き合っている。つまりステディな関係である。
もちろん恋人らしいことも……ちょっとしてる。
しかしそれは俺が、姫和ちゃんを高校生ーーそれも17~18歳くらいだと思っていたからだ。
俺の年齢は23歳。17歳と23歳が付き合うのは……まぁ許されるだろう。
社会的に見れば多少危うい部分もあるかもしれないが、少しすれば女子大生と社会人くらいの関係だ。
よっぽどの奴でもない限りは、目を三角形にして咎めはしないだろう。
二人の関係が誠実な間柄であれば、それほど非難もされないはずだ。
しかし姫和ちゃんは中学生だった。しかも14歳。
つまりここに誕生していたのは、14歳と付き合う23歳だったのである。
中学生と付き合う社会人か。テレビでよく見たことがあるぞ。
逮捕報道でなっ!!
姫和ちゃんは俺の動揺など露ほども気にせず、大きな口をあけてシュークリームを口にしている。
俺は未だに開いた口がふさがらない。
「あぅあぅあぅ」
「なんだその口は? ……あっ、ったく。しょうがない奴だな。ほら……あ、あーん」
その口をどう受け取ったのか、姫和ちゃんは開いた俺の口めがけ、再び「あーん」をしてきた。
シーンはさっきの焼き直しである。ただ違うのは俺の心境、急転直下。まさに天国と地獄である。
いや、本当に違うのは俺の心境だけか?
さっき微笑ましかったはずの周囲の視線が、このロリコンが死ね!って言ってるように聞こえるぞ?
痛い。
視線とはかくも痛いものだったのか。
しかし反射とは大したもので、姫和ちゃんの差し出す食べかけのシュークリームを俺は無意識に頬張っていた。
うん、おいしいね。こんな時でもやっぱチョコミントは美味いよ。
あ、もう一つさっきと違った点があったわ。
今の「あーん」は間接キスでした。
「ふふふ」
姫和ちゃん、無言で俯きつつもめっちゃ喜んでるよ。
いいな。俺もそこに戻りたい……。
無邪気に喜べたあの頃に。
そんな昔じゃないはずなんだが。
誰か俺の記憶を、数分ほど削除してくれないだろうか。
しかしパンドラの匣を開けてしまった今、もはや後戻りはできないのだった。匣の底には一つの希望が残るという。
真実を知ってしまった以上、進む道はただ一つ。そうそれは、ロリコンへと至る道。
どんな希望の道だよ。
進みたくねー。
そこ、至るのはいいけど、その後断崖絶壁じゃない?
というか、待ってほしい。そもそも俺はロリコンではない。
俺は別に、未成熟な中学生に惹かれたわけでないのだ。
俺と姫和ちゃんは、体ではなく心で繋がっているのだ。
俺は彼女を一人の人間として尊敬している。そう、俺は彼女の高潔な精神性に恋して、付き合うことにしたのだ!
そこにやましい気持ちは一切ない!!
……なんかロリコンがいいそうな言い訳にしか聞こえないね。
法廷で弁論しても、続きは刑務所で聞こうって言われる未来しか見えないよ。
はぁ。
別れるべきなのだろうか?
それが真っ当な大人のあり方なんだろうか?
……こんな嬉しそうな姫和ちゃんに、別れを告げろというのか。
これは俺だけの問題ではない。
いかに実年齢以上に大人びた子とはいえ、母を失った彼女は天涯孤独の身である。
姫和ちゃんにとって見れば、そんな折にできた新しい家族とでもいうべき、恋人を失うのだ。
そんな酷なことはないでしょう。
一体俺にどうしろというのだ……
「ど、どうしたんだ? そんなに私を見つめて……はっ」
これからのことに俺が思いを馳せていると、なぜか自分が見つめられていると勘違いした姫和ちゃん。
「し、仕方ないやつだな」
さささっと周囲を見渡し人気が薄くなったのを確認すると、なんと目をつぶってこちらに向き直った。
え、ここでそれ求めて来ちゃう!?
嘘でしょ!!?? 姫和ちゃん、そんな顔しないで!
しかし真実とは残酷なもので、どんなに否定しても目の前の姫和ちゃんはうるさいですねぇとばかりに、キス待ちをやめてくれないのだった。
そうして俺がとった行動は……
この日以来、姫和ちゃんとの関係をどうすべきか、俺は日々頭を悩ませることになるのだった。