え、ちょ。可奈美ちゃん13歳って、マ? 作:なみのじ
アプリのロード画面で、可奈美ちゃん13歳に目を見開いたのは自分だけじゃないはず、と信じたい……
一見、静謐なーーしかし張り詰めた空気が道場を満たす。
周囲に座する人間が固唾を呑んで見守る中、真ん中で立ち会っていた2人の影が同時に動いた。
「はぁっ!」
先を取ったのは、やはり姫和だった。
速さにおいて一日の長を誇る彼女に、先手を譲るといった考えはなかった。
構えた御刀ーー小烏丸の切っ先を、左方から潜り込ませるようにして可奈美に斬りかかる。
常人では反応できない剣線。
しかも小烏丸の定石ともいえる突きではなく、変則的な斬撃だ。
「……っ」
しかし受ける可奈美に動揺はなかった。
あらかじめ予測していたかのような淀みのない動きで、太刀を回し小烏丸を受ける。
想定していた踏み込みより浅い位置で抑えられた。
体重が乗り切らなかった一撃に威力はない。姫和の足が……止まる。
見逃すことなく、可奈美が動く。
応手として可奈美が選択したのは、滑り込みだった。
自らの持つ千鳥の刀身を小烏丸の鎬線へと滑らせ、姫和の懐に飛び込こもうとしてくる。
試合を楽しむ可奈美の考えが透けて見えるような、純真な返しだった。
ーー可奈美は至近距離での斬り合いを望んでいる。
姫和はそう察したようだ。
小烏丸自体は、斬るよりも突くに適した刀だ。
従って技量の同じ者同士の斬り合いになれば、姫和の分が悪い。相手が可奈美ともなればなおさらだ。
とっさに受け流すように重心をそらすと、千鳥を弾き返しつつ姫和は引いた。
距離を取る。
追い太刀はない。
可奈美も深追いは避けたようだ。
目をそらさず視線を交わし、お互いに居住まいをただす。
……奇しくも2人が構えなおした位置は、最初の開始位置だった。
「「「「「……ふぅ」」」」」
そんなため息は、試合をしている2人ではなく試合を見届ける周囲から上がった。
もちろん感嘆のため息を漏らした面子には、一緒に見守っていた俺も含まれている。
一瞬の攻防だがーーいや、一瞬の攻防だからこそ分かる、2人の恐るべき技量だった。
だがこれは所詮、小手調べにすぎない。
「さすがだね、姫和ちゃん。突然薙ぎできたからびっくりしちゃったよ」
「ふんっ、何をいう。全然驚いてなかったくせに」
「あははは……じゃあ、次、行くよっ」
「望むところだ。こい、可奈美」
エンジンのかかってきた2人は、互いに次の段階への移行を宣言する。
次の段階ーーすなわち「迅移」である。
迅移とは、刀使が使う加速術である。
これを使うと、時間の軛から自らを解き放ち、物理法則から外れた行動すらできるようになる……まぁ、ちゃちい言葉で言うなら、超スピードで動くことができるようになる。
迅移を使用できる者とできない者が戦えば、勝敗の行方など語るべくもない。それほどの加速術だ。
とはいえ迅移自体は刀使であれば、それほど特別な技ではない。
迅移にも段階があり、いわゆる1段階と呼ばれるレベルであれば大抵の刀使は使えるからだ。
だが注目すべきはここで向かい合うのが、普通の刀使ではないということだ。
衛藤可奈美
十条姫和
幾多の激戦を経てこの場に立つ2人は、英雄と呼ばれるまでに至った者達だ。
従ってこの試合で用いられる迅移は、段階を超越した迅移に他ならない。
もうこうなると、一般人である俺の目には追えない。
かろうじてさっきまでは脳内解説らしきことができていたが、これからの立会いを俺視点で語ることはもはや叶わず。
なので無理やり目の前の2人の戦いを描写するなら、こうなる↓
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンッ
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンッ
「」「」「」「」
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンッ
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンッ
「」「」「」「」
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンッ
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンッ
なんもワカンねぇ……
2人の姿が道場から消えた。
たぶん刀で打ち合っていると思われる、キンキン音だけが聞こえる。
周囲で試合を見守る人々。そのほとんどが刀使である。
それも此度の試合を見ることを許された、生え抜きの猛者達だ。
そんな彼女達ですら、険しい表情で目を見開いている。可奈美と姫和の試合を目で追うことすら困難な模様だ。
男で凡人の俺に理解しろという方が無茶振りだと思うよ。
おそらく目には見えないほどの速さで、超絶技巧を駆使した試合が繰り広げられているのだろう。
それでも、この場にいるエリート刀使たちは流石だった。聞こえてくる声から察するに、俺には見えない何かが見えているようだ。
特に両隣にいる名を知らぬ女の子なんか「すごい……」とか「参考になる……」とか感動してしている。
まぁ俺じゃわからないか……この
ただここにいる以上、俺も形くらいは取り繕わないと、あまりに情けないだろう。
腕を組みながら、ウンウンこれはナカナカそれはチャウネンとか、したり顔でうなずいておいた。
試合はまだ続いている。
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンッ
暇だぜ。
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンッ
冷えたビールが飲みてぇ……
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンッ
今夜のおかずは信州ポークかな……
キンキンキンキンキンキンキンキン……キ
あ。
俺が夕飯何にするか脳内クックパッドと相談していたら、俺時間において3分ほど経過したところで、ようやくキンキン音が止まった。
場に目を戻すと、姿を消していた2人が現れていた。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ……っ」
両者ともに息が荒いが、どうやら決着がついたようだ。
可奈美が膝をつく一方、姫和は相対するように小烏丸を正眼に構えていた。
一見すると姫和が勝ったかに思われたが、「写シ」が解かれていたのは姫和の方だった。
写シとは刀使の使うダメージ転嫁術である。写シを貼ることにより一定回数の肉体的損傷を無効化できる。
殺傷力を持った御刀を使用してガチ試合ができるのも、この技があるからこそである。
これが解かれるということは、致命的な一撃をくらったということ。
ーーすなわち、この勝負は可奈美の勝ちである。
「「ありがとうございました」」
自らの足で開始位置にもどると、互いに礼をして試合は終わった。
万雷の拍手が二人を包む。
うむ。いい試合だった(放心)
「いやーっ! 楽しかったなーっ! やっぱり試合は最高だよーって、あ、定家さん?
定家さんも試合見ててくれてたんだ!」
ぐぐっと伸びをしていた可奈美は、途中で俺の存在に気がついたようで飛び跳ねるように駆け寄ってきた。
天真爛漫な笑顔。喜びが全身から溢れ出ていて、よっぽど先の試合が楽しかったんだと思われる。
「おう、お疲れ」
「きゃーっ!」
駆け寄ってきた可奈美と、それを迎える俺。
そんな光景を見た周囲が、黄色い声を上げた。
可奈美は先の大災厄を解決した立役者であり、彼女もまた英雄である。しかも現最強の刀使とも言える存在。
一応、俺も可奈美と共に事件解決に関わったうちの1人であり、そこそこ有名だ。
そんな二人が会話してるのだから、周りが盛り上がるのも無理はないだろう。
……
俺ーー徳川定家と姫和そして可奈美との出会いは、あの事件の冒頭まで遡る。
一連の事件の発端となった、折神紫襲撃事件だ。
当時、特別刀剣類管理局を束ねていた折神紫局長を、姫和が全国大会決勝にて隙を見て暗殺しようと企みた事件である。
弾丸の速度すら超越すると言われる、3段階の迅移。
姫和は並みの刀使では、感知すらできないだろうソレを使用し奇襲を試みたが、折神紫の人外じみた迎撃により、あえなく失敗。
なぜか逃走を手助けした可奈美ともども、2人は全国に指名手配されてしまった。
そんな彼女達がホテルの俺の部屋に、たまたま逃げ込んできたのが俺たちの縁の始まりだ。
やべぇ、やつらがきた!!!
最初、話を聞いたときには、とんでもない奴らだと戦慄したものだよ。
特別刀剣類管理局といえば護国の柱である。この世界では国防の要のような組織だ。
前世でいえば、姫和ちゃんは自衛隊の観艦式で幕僚長に突然発砲した新米自衛官のようなものだ。
ありていに言って非常にやばい奴である。
完全にテロリストだ。
たとえ見た目が麗しい少女たちだったとしても、テロリストが部屋にやってきて歓迎する奴はまずいない。
頭大丈夫かこの女たちーーとも思ったが、
涙ながらに語られる彼女の母親にかかる因縁。
折神紫を倒さなければならない、その理由ーーそれを聞いて俺はあっさり納得した。
いやー。俺も前々から怪しいと思ってたんだよね。あの女!
だって見た目が若すぎるもの。折神紫3X歳。
周りの学長連中と比べてみると一目瞭然。肌年齢全然違うやん。アンチエイジングとかそういうレベルじゃないぞ。
真庭学長とか見てみろよ。
20年前の写真見たらめちゃくちゃ可愛い褐色美少女だったのに、今じゃ立派なおばさん学長だよ。
時の流れは残酷だから仕方ないね。
時間は誰にでも平等だから……
でも平等じゃない人がいるよね?
そう折神紫3X歳です。
あいつだけ時間の流れがおかしい!
誰も不思議に思わないのか!?
かねてより不思議に思っていた俺は、姫和と可奈美の言い分に分があるように感じたのだった。
ーーそして気がついた。
よくあることじゃないか。己が欲望のため、敵と手を結ぶ。
そんな悪役、見たことあるだろ?
折神紫は荒魂と裏取引をしたに違いない。
護国の柱による人類に対する明確な裏切りだ。許せん。
俺にはわかるぞ。理由はそう……永遠の若さだ!!←全然違った
そして彼女達に与することにした俺は、一緒に逃走しつつ謎の解明をし、その後に続く一連の巨大な陰謀を防ぐことに成功したのである。
これらは都合の悪い事実を巧妙に隠しながらも、おおむね全国に公表されている。
その結果、可奈美たちは英雄として扱われているというわけだ。おまけで俺も。
だから可奈美を見て興奮する周囲の反応。
これは無理もないことなのだ。
可奈美はそんな沸き立つ周囲を気にすることもなく、俺に尋ねてきた。
「定家さん! 私の試合どうでした?」
どうって言われてもね。なんも見えなかったよ。
素直にそれを言っていいものか……
「あっ、可奈美さん!! 試合、お疲れ様ですっ!」
「徳川さん、すごかったんですよ! お二人の戦い、私たちは目で追うのがやっとだったんですけど、
徳川さんは全部わかってる感じで、『なかなかやる』とか『それは違う』とか言ってました!!」
俺が言いあぐねていたら、両隣にいた名も知らぬ刀使たちが余計な補足をした。
それを聞いた可奈美の目が輝く。
くっ……こいつら余計なことをっ!
「ほんとっ? 何が違ったの!? 教えてっ」
ぐぬぬ。
これは何かしら気の利いたアドバイスをしないことには済まないようだ。
でもはっきり言って俺は素人である。
何も見えなかったどころか、剣術のけの字も知らない俺にアドバイスとかできると思う?
俺が事件を戦い抜けたのも、とある自動で戦ってくれる秘密道具があったからである。
ソシャゲをオート戦闘しかしてない層に、アリーナランカーから意見を求められても困るよ。
「えー、あー、うん。ちょっとね、あそこはあーじゃなくて、こうっ!こうっね!!」
もちろん助言とかできるわけないから、エア刀を持って空中でブンブンふるった。しかもへっぴり腰。
ここが道場じゃなかったら不審者丸出しである。
いや、ここは道場なので初心者丸出しであった。
案の定、両隣の名も知らぬ刀使たちは、頭に?マークを浮かべて、何言ってんだコイツみたいな顔をしている。
「うーん、うん。そうか、確かに!! そうだよね! あそこはこうじゃなくてこうだった! こうっ!!」
しかしなぜか可奈美は、俺のヘタレ素振りから何かを感じ取ったようで、また一段階高みへと登ってしまった。
その場で繰り広げた素振りが、確かに洗練されたかのように思える。
これがひょっとして、達人は初心者からでも得るものはあるという奴なのか?
よくわからんが可奈美が感覚派で助かったぜ!!
可奈美がそんな反応をしたものだから、さっき胡乱げに見てきた刀使たちも、打って変わって尊敬の眼差しを俺に向けてきた。
これが達人同士にしかわからない領域の話か、みたいな見上げるようなキラキラした視線だ。
なんという眩しい眼差し。
うーん残念。
見上げてもその領域に俺はいないよ。見るなら下かな。俺がいるのは君たちよりずっと下の方だからね!
これはまた謎の勘違いが加速してそうである。
そう。俺は可奈美や姫和たちに比肩するほどの剣術使いとして、世間に知れ渡っているのだった。
いや確かに事件解決に、一緒になって尽力したけどさ。
だからって戦闘力を一緒に換算するのってどうなの?
いつも一緒にいたからって戦闘力を悟空と同じとみなされたら、ヤムチャがかわいそうだと思わないか?
つーか冷静に考えてくれよ。刀使でもない男の俺が彼女たちと肩を並べられるほど、強いわけないだろ。
あれは全部「電光丸」とかいう剣のおかげなのだ。勘弁してほしい。
「ね、ね! 今の感覚を忘れないようにしたいからさ、定家さん。今から一緒に試合しない?」
そんな俺の思いとは裏腹に、また可奈美が無茶を言いだした。
殺す気か、悟空。
「いやー。今ちょっと愛刀ないからね。無理かなー」
「えー、そうなんだ。あ、それなら誰かから御刀借りられないかな? 丁度管理局の人もいるし」
君、今さっきバトルしたばっかでしょ。
なんでそこまで俺と戦いたがる。
やはりこの子……バトキチ!!
ちなみにバトキチとは「バトル大好きちゃん」の略であり、決して差別用語ではないのでご注意。
釣りキチ三平って漫画が、釣り大好きちゃん三平の略であるのと一緒だね!
「いやー、他の御刀あってもダメかなー。俺、電光丸じゃないとね。ほんとクソザコナメクジだから」
「そうなんですか……残念」
しゅんと落ち込む可奈美。
その悲しそうな姿を見ると若干胸が痛いが、ここは断固として拒否するぞ。
そもそも他の御刀とか俺が握ったところで、つまようじ以下だしな。
電光丸なしで、このバトキチと事を構えるとか冗談ではないわっ。
……あ、言い忘れてたが実は俺、転生者である。
そしてさっきから出てくる「電光丸」とは、いわゆる転生特典だ。
語ると長いのでさらっと流すが、トラック転生:土下座神と邂逅した俺は、この世界へと転生する事になった。
慣れたやつならここで転生先で無双するぜとか意気込むかもしれないが、俺はそんなことなかった。
なぜなら土下座神が、転生先の世界の情報を全く教えてくれなかったからである。
かろうじて、刀で戦う世界としか教えてくれなかった。
未だにこの世界が何なのか、分からないんだよな。
何かのアニメやゲームの世界なのか、それともパラレルワールド的異世界なのか……
エレンが変な口調で喋ってたせいで、艦これ世界だと勘違いしたのもいい思い出だよ。
まぁ、そんな状態だったから、転生させるぞと言われても困惑するしかなかったね。
だって登場人物も起きる事件も何にも知らないんだもの。
ただ、行った先で無様に死なれても困るということで貰ったのが、名刀電光丸である。
名刀電光丸とは知ってる人も多いと思うが、ドラえもんのひみつ道具のひとつだ。戦闘シーンで映えることから、劇場版に出てきたこともある。
22世紀の超科学により生み出されたチャンバラ剣であり、内蔵されたAIと超レーダーが連動し、これを握ったものは誰であれ凄腕剣士のようになれるという、とんでも剣でもある。
これだけ聞くと非常に心強い道具だ。
欠陥の多いドラえもんのひみつ道具の中でも、割とまともな戦闘用道具である。
実際は、凄腕剣士のようにの「ように」が問題なんだけどね……
まぁ、それでも過去の大災厄やらなんやらで俺が生き延びることができたのも、あの剣のおかげである。
それは感謝している。
その代わり、時々勘違いを誘発して面倒ごとを持ってくるのもあの剣である。
この今の可奈美のように。
「じゃあ、次会った時は是非戦おうね!」
「あー、そうだな。次会った時も持ってればな……」
……あの剣は封印しておこう。下手に持ってたら永遠バトルに引きずりこまれそうだ。
あの剣で戦うのってめちゃくちゃ疲れるんだよ。握ると勝手に戦いだす剣。あれは使い手のことを全く考えてないからね。
「だいたい俺じゃなくても戦う相手はいっぱいいるだろう。
今の可奈美となら試合したがる奴だっていっぱいいるだろ」
「うーっ、そうなんだけど、定家さんと戦うのって、本当に楽しいんだよね!
既存の剣術と全く異なる概念の動き。私、今まであんなの見たことないよ」
刀に振り回されてるという奴。
「特に定家さんの動きがすごいよ。体の所作から剣の動作が全く読み取れないもん。
まるで剣自身が意思をもって動いてるような不思議な動きで……」
それ正解。
「あの動きを自分のものにできたら、私はもっと強くなれると思うんだ!!」
絶対無理だと思うよ。
「ははは……まぁ、俺の剣術のことはどうでもいいじゃないか。
それよりさっきの試合は見事だったよ。また腕を上げたな」
誤魔化すために話を変えておく。
見えてないのに見事もクソもない。小学生並みの感想である。
「うん、姫和ちゃんもどんどん強くなってるから私も頑張らないと!!
でも今回は私の勝ちっ!」
そう言って屈託無く笑った可奈美は、次に何かを期待するような上目遣いで俺を見てきた。
……これはアレだ。アレを期待されている。
しかしここでは人目につく。
いやまぁ別にそこまでいかがわしいことじゃないんだけど、衆目監視の中でやるにはそこそこ恥ずかしい行為である。
なので可奈美を連れて、ちょっと離れた場所へと移動した。
そして向かい合う。
「うんうん。よく頑張ったな」
ナデナデ
突き出された頭を、俺は優しく撫でた。
「えへへ……」
可奈美は頬を染めて、とろけるような表情で身震いした。
これはつまり、ご褒美ナデナデである。
俺と可奈美は戦友だ。生死をかけた戦いも経験している。
もともと困難を前に落ち込む可奈美を励ますためにやっていたのだが、いつの間にか頑張ったご褒美みたいになってしまったのである。
これってやってるこっちも恥ずかしいんだが、求められる以上は仕方ない。
世界すら救った英雄だというのに、相変わらず子供っぽいやつだな。
そう、子供っぽい……
……あれ?
「そういえば、すごく当たり前のこと聞いて申し訳ないんだけど、可奈美ちゃんて中学生だよね?」
「? そうだよ。美濃関学院中等部二年生だよ」
あはは。
だよね。姫和ちゃんとほとんど同い年なんだもんね。
子供っぽいじゃなくて、マジで子供だったわ。
うおおおおおおおおお!!!!!
この子も高校生だと勘違いしてたわーーっ!!
いや、確かに姫和ちゃんよりは子供っぽいなと思ってたけどね。
でもまさかそこまで幼いとは思わなかったよ。
だってしょうがないじゃないか。
成し遂げた功績の数々、圧倒的戦闘力。これらを省みて中学生と断定するのは無理がある。
折神家親衛隊を相手取って余裕生還。
第二形態タギツヒメを瞬コロ。
禍神化した姫和ちゃんに、勝つ未来が見えないと言わしめる始末。
鎌府女学院最強の沙耶香ちゃんからは「強くなりすぎて一人遠い所にいる」とまで言われてましたよね。
どんだけー。
特に戦いの時、可奈美の頼り甲斐ときたらもうね。
背中を任せたと思ったら、正面の敵まで全員倒してくれたからね。
正直、可奈美一人でいいんじゃないかな、とかなるからね。
呼び方を「可奈美さん」に変えよっかな、とか悩むレベルだったよ。
それなのに……
【悲報】可奈美さん、可奈美ちゃんだった【マ?】
「ちなみに年齢はいくつだっけ? 14歳かな? あはは」
「えーと、あ、まだ誕生日きてないから……13だね」
じゅ、じゅうさんさいだと……っ
「そ、そう。13歳ね。すごいな、可奈美ちゃんは……はは」
「13歳ってそんなに凄いかなぁ? 変な定家さん」
変なのはこの世界の方だよ!!
というより、おいっっっ!!! 刀剣類管理局!!!
俺は知らなかったけど、局の奴らは知ってたんだよな?
最終戦の直前とか13歳に、任せたぞ可奈美。お前に任せるぞ可奈美。とか全責任負わせてたわけ??
13歳って、1年前は小学生だぞ!!
ランドセルの代わりに世界背負わせてんじゃねぇ!!!!!!
13歳に救われる世界! 13歳に命運をかける世界!!
それでいいのか刀剣類管理局!!
「あはは……」
「えへへ……///」
まぁ、ある意味13歳をナデナデするのは、高校生をナデナデするよりもふさわしいだろう。
とすると今までのナデナデが間違っていた訳で、これが正しい形なのでは?
そんな支離滅裂な考えに至ってしまうほど、放心状態で可奈美ちゃんを撫で続けていたら、ふと背中に悪寒が走った。
何者かの鋭い視線を感じる。
「ひぇっ」
後ろを振り返ったら、姫和ちゃんが恐ろしいほどのジト目で俺たちを見ていた。
視線の先はいうまでもなく、頭を撫でられ喜ぶ可奈美と俺の手にある。
「一体お前たちは何してるんだ?」
ドスの利いた声に弾かれるよう慌てて手を離すと、可奈美ちゃんが「あっ……」と名残惜しそうな声を上げる。
姫和ちゃんの額に青筋が走った。怒気にドキドキしてくる。
これは激おこである。
「あ、姫和ちゃん! 今日の試合に勝ったから、定家さんにご褒美貰ってたんだ!!」
「あ、ああ。そのとおりだ。可奈美は頑張ったからな。いつものご褒美だ」
「いつもの……確かにいつものだなっ!」
いつものと聞いても姫和ちゃんの怒りは収まらない。
確かに、勝負に勝ったご褒美に撫でるというのは、今まで続けてきた可奈美ちゃんとの関係である。
一連の事件ではほとんど一緒に過ごしてきたので、そうした関係を当然姫和ちゃんも知っている。
しかし、だからと言って納得できることではないだろう。
なんせ今の俺と姫和ちゃんは恋人同士なのだ。
俺だって、試合が終わって席に戻ったら、恋人が男に頭を撫でられてたとか頭が沸騰するわ。
姫和ちゃんの怒りはごもっともである。
「全く、破廉恥な! 時と場所を考えろっ!」
だからこんなこと言われても、「君、昨日、公園でキスをおねだりしたよね?」とか野暮なことは言わないよ。
俺は気遣いのできる男だからね。
女神の怒りを鎮めるため、俺は話題をそらすことにした。
「い、いや。それにしても姫和、随分と遅かったな。何かあったのか?」
「別に好きで遅かった訳じゃないぞ。いっぱい人が話しかけてきてな」
試合が終わるとすぐに駆け寄ってきた可奈美ちゃんに比べて、やけに時間が掛かると思ったら、そんな事情があったとは。
姫和ちゃんも、もちろん英雄の一人だから人気がある。しかも可奈美ちゃんたちと比べて、全然学校に出てこないレアキャラだ。
ここぞとばかりに質問攻めにでもあったのだろう。
「ああいうのは苦手だ。……どう答えていいかわからなくなる」
「みんな姫和と仲良くなりたいのさ」
「別に私も拒んでるわけじゃない。ただなんというか、居心地が悪くなるから」
姫和ちゃんは母親が死んでその原因を知った時から、折神紫を討つためにひたすら牙を研いできたような子だ。
誰にも相談することもできない中、ずっと1人で生きてきた子である。そう感じるのも無理はないか。
……ほんとに14歳だよね? いまだに疑っちゃうんですケド。
「まぁ、おいおい慣れていけばいいさ。これからはきっとそんな機会がいっぱいあるだろうからな」
「ああ、わかっている。そ、それより……んっ」
「ん? 頭なんか突き出してどうしたんだ?」
「わ、私もっ……今日は頑張った!」
新手の頭突き技かと思ったが、そんなことはなかった。
顔を真っ赤にした姫和ちゃんを見れば、何を求めているかは一目瞭然。
「えーっ! 姫和ちゃんズルイよ。だって勝負に勝ったの私だよ!」
「う、うるさい! 私と定家はごにょごにょ……だからいいのだ!」
ひぇっ!!
姫和ちゃんが恐ろしい単語を口にしようしたので、慌てて口封じに頭を撫でた。
こんな場で恋人宣言されてみろ。俺は英雄から一気にロリコンだ。
しかしそうすると、先ほどなでなでを中断された可奈美ちゃんが不満そうな顔をしていたので、仕方なく彼女ももう一回撫でる。
「えへへ……」
「……っ」
2人とも嬉しそうな顔をしている。
とりあえずは、この場はなんとかなりそうである。
でもこれって端から見ると、セーフかなアウトかな?
彼女たちの真の年齢を知った俺の悩みは尽きない。
そんな俺たちを、柱の陰からとあるツインテールがじっと見つめていたことに、残念ながら俺は全く気づかなかった。
敵「胎動編と波瀾編の間に4ヶ月経っているはずだぞ」
僕「ドラえもん時空で頼む」