え、ちょ。可奈美ちゃん13歳って、マ?   作:なみのじ

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4.エレンちゃん?15歳って、マ?

ザザザザザ……ザザザザザ……

 

 柔らかな潮騒の音が、耳朶をくすぐる。

 うっすらと目を開けると、部屋の窓の外に横向きになった海岸が見えた。

 

 なんで横向きなんだ?

 ……いや、横たわっているのは俺の方か。

 

 右の頬に感じる、柔らかな体温と人肌。

 ぼんやりとした思考の片隅で、誰かにヒザ枕されているのだと悟った。

 

「Oh。ていとーく。目が覚めましたデスカ?」

 

 頭上から底抜けに明るい声。

 誰かが俺を呼んでいる。

 

 声の主を確認しようとヒザの上で仰向けになったが、目に入ったのは2つの巨峰。

 あまりに大きすぎるお胸様のせいで、顔が見えないのだった。

 

「大丈夫みたいデスネー。ていとくがずっと起きないので心配したのデース」

 

 しかし見えなくても、誰なのかすぐに察した。

 この特徴的な口調。ふくよかで豊満なボディ。

 そして親しげに俺を提督と呼ぶことから、鋭い人なら彼女が誰なのかーーもう分かるだろう。

 

 そう。彼女の名前は金剛。

 俺の秘書艦である。

 

「でも、ずいぶんうなされていましたネー。どうしましタカ?」

「長い夢を見ていた。いや、あれは前世の記憶か……」

 

 そう。俺は艦これ世界に、再転生したのだった。

 

 祢々切丸みたいな馬鹿でかい御刀を、横薙ぎに喰らったらどうなるか? 想像するのは難しくないだろう。

 激情にかられた薫ちゃんに、見事、 定/家 されてしまった俺は、あの世界で人生の幕を閉じたのだった。

 

 徳川定家23歳。

 短いが充実した人生だった……

 

「ていとく? 泣いているのデスカ?」

 

 だが唯一心残りがあるとすれば、それは姫和のことだ。

 俺がいなくなった世界でも、彼女は元気に暮らしていけるだろうか。

 

 俺自身、彼女に二度と会えなくなった今、胸が張り裂けそうに苦しい。

 仰向けのまま、ズキズキと痛む胸を押さえる。

 

「辛い夢を見たんデスネ……でも安心してくだサイ。ていとくにはワタシがイマース」

「そうだな。俺にはお前がいる……」

 

 俺の頬に添えられた金剛の手に、俺の手を重ねる。

 白魚のように透き通った綺麗な指だ。

 

 この愛すべき秘書艦と共に、俺はこの艦これ世界で精一杯生きよう。

 

 俺の新たな門出を祝福するように、はらりと舞い降りてきた彼女の金髪が、日に反射してキラキラと輝いていた。

 

 ……って金髪?

 

 俺はむくりと起き上がった。

 

「エレンじゃねーか!?」

「? もちろん、エレンデスヨ?」

 

 俺を膝枕していたのは古波蔵エレンだった。

 

「おい、エレン。その俺のことを『提督』って呼ぶのいいかげんやめろ。また勘違いしちまったわ」

「NonNon。ていとくはていとくデース。ユーの名前は定家・徳川。略して、ていとく。なにもおかしくないデスヨ?」

 

 クリクリした大きな瞳で覗き込んでくるエレン。

 

「いやいやおかしいから! 俺の名前は『さだいえ』ね。『ていか』じゃないから!」

「Oh。日本語難しいデース」

 

 こいつ……日本語わかりませーんの外人ポーズを使いこなしやがって……!

 

 俺の名前は徳川定家。

 あの13代江戸幕府将軍:徳川家定と似たような名前だ。

 

 だから基本的に呼び間違われることはないのだが、エレンは頑なに俺のことを「ていとく」と呼んでくる。

 まぁ、姫和を「ひよよん」、可奈美を「かなみん」とか呼ぶような奴だ。

 

 その枠で俺は「ていとく」に収まったのだろう。

 でも、こいつの言動で「ていとく」とか言われると、どうしても生前やっていたゲームのキャラを彷彿とさせて困るんだよね。

 

 おかげで今日も寝ぼけ頭に、妙なプロローグが走っちまったわ。

 当たり前だが、再転生とかしていない。ここは長船女学院の保健室で、人生はまだまだ絶賛継続中であった。

 

「っつ! いてててて……」

「手当はしましたけど、安静にしないとダメデース。あ、ほら包帯が解けてしまいましたヨ……」

 

 急に起き上がったせいか、身体中が痛みに悲鳴をあげていた。

 

 人生継続中ということで、いうまでもなく薫ちゃんから受けたダメージである。

 なんとか、 定/家 こそされなかったものの、ボコボコにされた俺は切腹レベルの重傷を負っていた。

 

 それにしても、よく死ななかったものだ。

 やはり初撃の横薙ぎを、土下座で躱せたのがデカかったな。あれで1フレーム稼げたよ。

 

 桃から生まれた桃太郎は、バアさんが桃を横に切っていたら死んでいたという。

 俺の場合、薫ちゃんが縦に攻撃してきていたら終わっていたよ。全くもって運が良かったね。

 

 だが命こそ儲けたものの、代償は大きかったようだ。

 それがこの体の節々に走る痛み。

 

 エレンがいうには保健室に連れ込まれた時に、俺の骨格はネジれの関係にあったらしい。

 薫ちゃんは奇怪なオブジェと化した俺をベッドに叩き込んで、帰っていったようだ。

 

 どおりで身体中が痛いわけだよ。

 

 ベッドに座りなおした俺の隣で、エレンがズレた包帯を甲斐甲斐しく巻き直してくれる。

 それにしても手当ての手際がいい。エレンは女子力が高いな。

 

 刀使は怪我しやすいからだろうか。

 いや。逃亡中に可奈美と姫和と俺を匿ってくれた、メガネのあの人とか手当てが最悪だったわ。

 

 刀剣類管理局は元刀使の女性が多い。

 あの組織は、戦闘力は高いかもしれないが女子力が低いのをなんとかしてくれ。

 

「すまんな、手当してくれたのはエレンか。助かったよ。

 にしてもお前は、こんなところで何やってんだ?」

 

「それはこっちの台詞デス。ここは長船女学園ーーワタシの学校デスよ。ここにいるのは当然デスネ。

 ついさっきまで荒魂退治に出撃していて、帰ったとこだったのデス」

 

 ああ、そういやエレンと薫ちゃんって事件の後、また長船所属になったんだっけ。

 今は二人ともここを拠点に活動してるのだった。

 

「それはご苦労だったな。でも保健室にいたってことは、まさかお前もケガしたのか? 

 見た所大丈夫そうだが……」

「Wao! 心配してくれるんデスか? サンクスデース。でも問題ないデスよ? 

 何と言ってもワタシは金剛デスからネ。お風呂に入れば治りマース♪」

 

「え?」

「え?」

 

「は? お前、やっぱ金剛なの?」

「? ワタシには金剛身がありますからネ。お風呂に入れば汚れは落ちマース」

 

「ああ、金剛身な……金剛身金剛身」

 

 エレンの得意な技名である。

 紛らわしいんじゃ!!

 

「それより、ていとくこそ長船でなにしてたんデース? ここ女子校デスヨ?」

「刀剣類管理局の仕事でちょっとな。といっても小間使いみたいなもんだが。もちろん許可は取ってあるぞ」

 

 俺は首に吊る下げた入校許可証を、軽くチラつかせた。

 こいつがなければ女子校でこんなにも堂々としてられない。

 

「Oh、お仕事でしたカ。遠くからはるばるよく来ましたネ」

「長船は岡山県だからな……」

 

 ちなみに出向命令が出たのは今朝である。

 さすがはブラック刀剣類管理局。13歳に世界を守らせるだけあるわ。23歳の人権など無いに等しい。

 

「フフッ。相変わらず仕事熱心なんデスネ」

「そんなことないさ。刀使として日頃、命張ってるお前たちと比べたら大したことはない」

 

 しかしこき使われはするものの、事件以降、俺が戦うことはほぼ無くなった。

 当時は俺も電光丸片手に一緒に戦ったもんだが、今は一線を引いている。

 

「俺に比べて、エレンは今も昔も変わらず大活躍みたいだな」

 

 特にエレン。

 今ももちろんだが、事件当時のこいつの活躍は目覚しかったからな。

 

 何を隠そう舞草と合流後、反折神紫活動の中心となったのが、この古波蔵エレンである。

 行く先々で折神家からの追跡の裏をかき、万全の状態で大荒魂と対峙することができたのも彼女のおかげだ。

 

 また、折神家親衛隊の燕結芽。彼女が助かったのも、エレンがずっと昔からフリードマンに依頼していた荒魂を体から抜く研究が役にたったからだという。

 同じく親衛隊の皐月夜見も、死にそうなところを間一髪エレンが助けたんだっけ。

 

 何かと不思議なくらいに、準備や察しのいい奴だったんだよな。

 まるで起きること全部わかってるみたいに。

 

「ワタシの顔をそんなに見つめて、どうしたんデスか?」

「いや、改めてお前は凄いなと思ってな。結芽も夜見もお前には感謝していると思うぞ」

 

 俺がマジマジとそういったのがツボに入ったのか、くすりとエレンは笑った。

 

「変なていとくデスネ。でもそれはちょっと違いマース。

 ……彼女たちを助けることができたのは、あなたのおかげでもあるんですよ。あなたは気づいてないかもしれないですケドネ」

 

 俺のおかげ……? 俺、何かしたっけ?

 行き当たりばったりで戦った記憶しかないが……いてっ!

 

 記憶をなぞろうと首をかしげたら、首筋に激痛が走った。

 

「Oh、ていとーく。傷がまだ癒えてないみたいですネ。もう少し休んだほうがいいデース。

 ほらココいいデスよー」

 

 ベッドに腰掛けたエレンが、ポンポンしている。

 どうやら再びヒザ枕をしてくれるようだ。

 

 短いスカートから伸びた白い太ももが眩しい。

 女性らしい丸みを帯びた優美なフォルムが、誘蛾灯のように俺を誘っている。

 

 しかし気を失っていた時ならともかく、この誘いを受け入れるわけにはいくまい。

 なんといっても俺は姫和の彼氏なのだ。

 

 彼女が見ていない時にこそ、自らを律する。

 それこそが大人というものである。

 

 エレンの太ももから見上げる景色は絶景だったが、ここは丁重にお断りしよう。

 煩悩に身を任せてはいけない。心を無にして対応しよう。

 

「いい子デスネー。ついでに耳かきもしてあげまショウ」

 

 ……あれ?

 

 気がつくと目の前に2つの巨峰が実っていた。

 靴を脱いでベッドに横になり、仰向けになって果実を見上げていた。

 

 こ、これが無意識……恐ろしい。

 

 長船の異常に胸を強調する制服も相まって、強烈な視覚効果にクラクラしてくる。

 長船の制服はすごいよ。さすが巨乳以外に厳しいセクハラ制服学校。

 

「最初は右からやってあげますから、あっち向いてくだサイ」

「はい……」

 

 言われるままに壁側を向く。

 ごそごそとポーチを漁る音がして、耳かき棒のこそばゆい感触が入ってきた。

 

 でもエレンって、ちゃんと俺の耳が見えてるのかな。

 自分の胸が邪魔で見えてないんじゃないの? 不安になってきたぞ。

 

「〜♪」

「……」

 

 そんな懸念は杞憂だったようで、エレンは慣れた手つきで俺の耳を手入れしてくれた。

 

 良かった。それに気持ちいい。

 日々の疲れまでもが、リフレッシュされていくようだ。

 

「それにしても、いつもながらていとくと薫のじゃれ合いは凄いデース。

 今回はまた随分派手にやられましたネ」

「はははは……」

 

 割とサボリ魔の薫ちゃんとエキサイティンするのはよくあることである。しかし今回ほどの規模はなかなかあるものではない。

 しかも全面的に俺が悪いことは確定的明らかだったので、もはや乾いた笑いしか出てこなかった。

 

「クスッ。そんな顔しないであげて下サイ。ああ見えて、実は薫もていとくのこと、結構気に入っているんデスヨ」

「ちょっと待て。それ本当か?」

 

 思い返す限り、自業自得とはいえ、邪険にされた記憶しかないんだが……。

 気に入ってる相手をボロ雑巾にしますか?

 

「嫌よ嫌よも好きのうち。知っていますカ? 薫みたいなのを、ツンデレといいマース。

 ワタシの見立てでは、薫は心の中ではていとくにラブラブデスヨ」

「うーむ、にわかには信じられん」

 

 ってか絶対ありえないだろ……。

 エレンは前にも薫のことをツンデレとか言ってたけど、薫ちゃんのデレとか見たことないや。永久行方不明である。

 

 いや、あれだけのことをしでかして、こうして生かされたのは奇跡に近いが、まさかこの助かった命がデレなのか……?

 デレの成分薄くない?

 

「ツンデレはいいよ。俺はどちらかというとデレデレの方が好きだ」

「Ah。それならワタシなんてどうでしょうカ? ワタシもていとくのことが好きデース。デレデレデスよ」

 

 そう言いながらエレンは優しく俺の頬を撫でた。

 

 ……え、なにこれ。

 好きってLOVEか? 今の告白なの?

 

 急な告白に体温が上がると同時に、エレンの体温もつい意識してしまう。

 特に今は見えないが、真横に確実にある巨峰の熱量を感じる。

 

 いや、これは巨峰なんて甘い果物ではない。

 もっと破壊力のある食べ物、巨峰……いや、巨砲だ。900mmカップ砲だ。

 

 でっか。

 

 本当に高校生か? いやいやこれは間違いなく超高校生級。

 とすると、やはり超弩級戦艦?

 

 あれ……ひょっとしてこいつ、本当に金剛なのでは?

 

 金剛といえば提督LOVE勢。つまり金剛な彼女が定家徳川LOVEなのはもはや必然。

 ひょっとして彼女とケッコンカッコカリできちゃう?

 

 姫和ちゃん(違法)と付き合うより、エレン(巨砲)と付き合うほうが、ひょっとして世界平和に貢献できるのでは????

 

 ……なんてな。そんなことは露ほど思わんよ。

 

 俺は姫和一筋だから。

 アニメのクールごとに嫁を替えてしまうような、世の中の節操のない連中とは違うのさ。

 

 でも一応確認。

 

「ちなみにエレンって年いくつだっけ?」

「ン〜15歳デース♪」

 

 エレンちゃん(違法)じゃねーか!!

 姫和ちゃんと1年しか違わねぇじゃねーか!!

 

 それでこの発育!?

 一体どうなってんだよこの世界はよぉ!!!!

 

 またもや俺は世界に対して心の中で咆哮をあげた。

 俺の知っている刀使たちの、見た目と戦闘力と実際年齢に齟齬がありすぎる件について! ぜひ書籍化したい。

 

「フフフ。それでていとくはどうデース? ワタシのこと好きデスカ?

 ちなみにワタシは薫と一緒でもOKデスヨ?」

 

 なにがOKなんだか……

 こっちは全然OKじゃないよ。

 

 年齢を確認したら、火照った頭が一瞬で冷えてしまった。

 

 冷静になって考えてみれば、今のこの状況。やってることは女子高生耳かきである。

 なにが日々の疲れがリフレッシュだよ。リフレッシュはリフレッシュでもJKリフレだよ。

 

 風俗一歩手前だ。

 摘発されたら、またもや判決死刑である。

 

 さて、どう答えたものか。

 まさか馬鹿正直に、自分には姫和がいますんでとか答えるわけにもいくまい。

 

 しかし賢い俺はこんな時、どんなことを言えばいいのか知っているよ。

 あらゆる女の子からの追求をかわす、魔法の言葉があるよね。

 

 そう、これじゃよ。

 

「え、なんだって?」

「……難聴禁止デース」

 

グサッ

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 耳、耳がぁぁぁぁぁああああああああ!!!

 

 俺は痛みのあまり、ベッドをのたうちまわってしまった。

 くそっ! すべての難聴系主人公にこの痛みを分けてやりたい!!!

 

「Hum。仕方ありませんネ。今日はこの辺にしといてあげマス」

 

 やれやれと肩をすくめると、エレンは耳かき道具をさっさとポーチにしまった。

 痛みと引き換えにだが、結果的に追求を避けることができたようだ。

 

 よかった……のか?

 

「ま、ワタシ本当は……十五歳ですけどネ」

 

「え?」

「え?」

 

「え? 何歳だって??」

「もちろん15歳デース♪」

 

 ああ、びっくりした。

 35歳って言ったのかと思ったわ。本当だとしてもさすがにそれはないだろ。

 

 やはり先ほどの一撃で耳がおかしくなってしまったようだな。

 こりゃ本当に難聴になったかもしれん。

 

「さて、ワタシはこの後報告にいかなきゃならないのでそろそろ失礼しますネ。ていとくもお大事に」

「ああ、今日はありがとな」

 

 手を振って別れる去り際、少しだけエレンが振り返った。

 

「後、提督。私は提督に一番ふさわしいのは、やっぱり私だと思いますよ。

 いろんな意味で、ね。それじゃバーイ」

 

 またも謎の言葉を残し、エレンは去っていった。

 

 いろんな意味?

 なに言ってんだ、あいつ。

 

 俺は首を傾げながら帰路につくのだった。

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