え、ちょ。可奈美ちゃん13歳って、マ? 作:なみのじ
「うん、調子は万全だ。今日も頼むぞ、小烏丸」
「Oh。ひよよん、気合入ってマスネー」
「ああ、エレンか。度々出撃していたお前たちと違って、私はしばらく現場からは遠ざかっていたからな。
今回は久々の実戦になる。油断したくない」
「いい心がけデスネ。でも安心してください。バックアップは万全デスヨ。
グランパに頼んで、いざとなれば最新のSS装備を飛ばしてもらえるよう手配しておきマシタ」
「それは助かる……にしてもSS装備? S装備ではないのか?」
「HuHuHu。新しく開発された私たちの新装備デース。
S装備はダサいのでデザインを一新してもらいマシタ。もちろんデザインだけじゃなく、戦闘力も折り紙付きデスヨ」
「なるほど。よく分からんが凄そうだな」
「もちろんデース。なんといってもSSデスからネ。星4つは確実デース」
駅のホームで、ソシャゲみたいな会話を姫和とエレンがしていた。
SS装備か……さぞかし防御力が高いんだろうな。羨ましいことだ。
S装備とは、刀使の能力を格段に向上させることができる戦闘ユニットである。SS装備はそのハイレアバージョンということだ。
だからもちろん刀使ではない俺にはないぞ。男の俺にそんなカードが実装されると思ったかね?
つーか刀使でない俺は、当然写シも使えない。エレンの得意な金剛身なんぞも使えるわけがない。
防御力0である。裸みたいなものだ。すなわちノーマル。しかも男。これは売却待った無しである。
しかし現実ってヤツは、パーティ編成でリーダーを俺に指定しやがった。
SSレアばっかりの中にノーマルカードをリーダーにするなんて……ソシャゲ初心者かよ。
そんなパーティで高レベルダンジョンに派遣されたら、真っ先に死ぬのは間違いなく俺だよね。
低ランク時にパーティのコスト穴埋めに入れられるノーマルカードの悲嘆が、俺には分かった気がした。
しかしこうなった以上は仕方あるまい。腹をくくろう。
頼りになるのは電光丸だけである。こいつに俺は命を賭ける。頼むぞ、電光丸。
心なしか握りしめた電光丸が、俺の期待に応えるかのように刀身を震わせた気がした。
いい緊張感だぜ……っ
プルプル
ん? 気がしたってか、これーー本当に震えてない?
そう思った瞬間、電光丸は握りしめた俺の右腕ごと、ぐるりと弧を描いて背中に回った!
……
…
……ちょっと想像して欲しいんだけど、突然腕を掴まれて後ろに引っ張られたらどうなると思う?
孫の手なんて商品があるくらいだ。普通、人間の腕は背中に回るようにできていない。
にもかかわらず電光丸は、突然人体の機構を無視して動き出した。
すなわち、こうなる。
「う、う、う、うでぇぇぇ!! 腕がぁぁぁぁぁ!!!!」
人の関節がぁぁぁぁ!! 曲がってはいけない方向にぃぃぃぃ!!!
関節がぁぁぁぁぁ!! 可動領域を超えたぁぁぁぁぁ!!!!
「あはは。お兄さんすっごーい! 完全に死角から攻撃したのに、受け止めちゃったぁ!!」
受け止めちゃったぁぁぁぁ……じゃねぇ!!!!
「いきなり何すんだ、こいつっ!!」
痛みによるホワイトアウトから復帰し向き直ると、目の前には抜刀し俺に斬りかかった燕結芽。
そしてそれを受け止めた電光丸の姿があった。
一目瞭然。電光丸先生は結芽の奇襲から、俺を救ってくれたのだ……俺の関節を犠牲にしたがな。
「……って、お前は燕結芽(つばくろゆめ)? あれ、なんで結芽がここにいるの?」
「やっほー。お兄さん、おひさー」
御刀をしまい、気楽にヒラヒラと手を振る結芽の姿がそこにはあった。
「あれ、紫さまから聞いてないの? 今回の任務、私も一緒に行くことになったんだ~」
「えーと、紫さまは確か、参加者が俺たち以外に一人いると言っていたな。
まさか、それが結芽だったのか!?」
「そうだよー。えっへっへ。嬉しい? お兄さん。ね、嬉しい?」
結芽はそう言いながら後手に手を組み、くるくると俺の周りを回り出した。
嬉しいわけあるかい!!
突然斬りかかられて喜べるのは可奈美ちゃんくらいである。
まじかよ。
確かにもう一人いるとは聞いていたが、まさかこのバトキチだったとは。
燕結芽。言わずと知れた可奈美ちゃんに続く第2のバトキチである。
なぜか彼女に気に入られている俺は、先ほどのように突然戦いを挑まれ、度々命をすり減らしている。
「私はお兄さんと一緒で嬉しいよ」
小悪魔風味にウインクまで決める彼女だが、言葉通りの意味に受け取ってはいけない。バトキチの好きは好敵手の好きである。
注意しなければ、お代は己の命で支払うことになるだろう。
「Oh。結芽ではないですか! まさか今日は結芽も一緒に?」
「あ、エレンおねーさん! エレンおねーさんだぁぁ!!」
「あはは。急に飛びつかないでくだサーイ」
俺と同様に気に入られているエレンが顔をみせると、結芽は顔に花を咲かせてエレンに抱きついていった。
そのまま2人はキャッキャと回り始めた。相変わらず仲のいい2人である。
おかしいな。
同じ気に入られているはずなのに、俺と歓迎の方法が違うぞ……
「やれやれ。ようやく追いついたか」
「結芽も病み上がりなんですから、少しは自重してほしいものですわ」
再会を喜びあうエレンと結芽を見ていたら、背後からそんな声が近づいてきた。
結芽に続いて、駅のホームに顔を出したのは獅童真希(しどうまき)と此花寿々花(このはなすずか)だった。
エレンと戯れている燕結芽もそうだが、腰に差した御刀が示すようにこの2人も刀使である。
先の事件でも一緒に戦った、元折神家親衛隊のメンバーだ。
「や、定家さん。お久しぶり」
「あら、定家さん。ごきげんよう」
「おや、懐かしい顔が揃ったな。まさかお前達も結芽と一緒に?」
皐月夜見こそいないようだが、彼女を抜かせば元折神家親衛隊が勢揃いである。
ここにいるということは、群馬行きに参加するのだろうか。紫さまは増援は一人だと言っていたが。
「いや、僕たちは別の任務さ。ただ、結芽とは方向が一緒だったから途中までね」
真希が肩をすくめた。
もともと同じ部隊にいたこともあって、結芽と彼女達の仲はいい。見送り、のようなものなのだろう。
「それに結芽は病み上がりだからね。少し心配だったというのもある」
「本当はわたくしたちも参加したかったのですけど……残念ですわ」
寿々花も残念そうである。
彼女たちが参戦してくれたなら、俺の負担も軽くなって万々歳ではあるが仕方あるまい。
現状ではガセの可能性もあるのだから、過剰に戦力投資するのは良くない。ただでさえ荒魂は各地に現れていて、刀使は人手不足なのだから。
とはいえやはり参加したかったという趣で、真希と寿々花は名残惜しそうに結芽を見つめていた。
病み上がりとの先ほどの言にもあったように、結芽が心配なのだろう。
結芽はそんな2人の心境も知らず、相変わらず楽しそうにエレンと戯れていた。
「それにしても、あの2人は相変わらず仲がいいんだな。再会した途端にあのとおりだ」
「そうだね。僕もちょっと驚いたかな」
「仕方ありませんわ。なんといっても古波蔵エレンは結芽の命の恩人ですからね」
命の恩人。これは言葉通りの意味である。
燕結芽は、幼い頃に御刀に認められ天才剣士として名を馳せたが、同時に若くして大病を患ってしまった。
病は命に関わるほどの重篤なものであり、死の一歩手前までいったらしい。
さらにその延命のために、当時折神紫さま(悪属性)からノロを受け取り、結芽は荒魂にまで汚染されてしまったのだ。
一時はそれで延命できたのだが、それも根本的な解決には至らず、何もしなければそのまま死んでしまっていただろうと言われている。
それを救ったのがエレンだ。
舞草と深いつながりがあり、フリードマンというノロの専門家を祖父に持つ彼女は、ノロと人体を切り離す方法や病の治し方を前もって用意しており、瞬く間に結芽を助けてしまったのである。
まるで全てを予測していたかのようなスピード解決に、俺は唖然としてしまったもんだよ。
どんだけ準備いいんだよ、こいつ……まるで御都合主義だな、ってね。
しかし御都合主義だろうがなんだろうが、結芽が助かったのは良いことであることは間違いない。
そして後に全てを知った結芽が、エレンに懐くのも当然のことであった。
その結果が、今二人が浮かべている笑顔だ。
「エレンには僕らも感謝しているよ。もちろん君にもね」
「そうですわね。ノロを暴走させた結芽を力尽きる前に抑えたのは、定家さんだったと聞いてます。
だから結芽はあなたにも心を許しているのでしょう。あなたもまた、結芽の命の恩人ですわ」
「ははは……」
そんなこともありましたね。
でも恩人に突然斬り掛かるのはやめてほしい。
「君たちに救われて、結芽はずいぶんと明るくなった。以前の結芽はこう言ってはなんだけど、抜き身の刀のような危ういところがあったからね。
信じられないかもしれないけど、突然紫さまに斬りかかる何てこともあったんだよ。
それが今ではすっかり険が取れて、本当、見違えるようだよ……」
タイムテレビが欲しい。
5分前の凶行を真希に見せてやりたい。
「願わくば結芽の笑顔が曇らないよう、よろしく頼むよ」
「結芽のこと、任せましたわよ」
なんか子供を見守る熟年カップルみたいなこと言ってる。
結芽のことを、年長者が年下を慈しむような視線で見てるぞ。
まぁ2人とも経験を積んだ一流の刀使だ。それもやむなしだな。
……いや、騙されてはいけない。なにが年長者か。
徳川定家よ。今まで何度そうやって勝手に判断し、勘違いしてきたことか思い出せ。
確かに一見すれば2人とも大人だ。
獅童真希なんて、女の子も虜にしそうなイケメンフェイスに俺並みの身長がある。
此花寿々花は魅惑的なスタイルはもちろん、お嬢様気質からくる精神的余裕らしきものが身体中から溢れている。
2人とも、風格は完全に大学生以上。
しかし姫和、可奈美、薫ちゃん、エレンと全てに勘違いしてきたのが、この俺だ。
唯一、勘違いしてなかったのが紫さまぐらいだよ。
だからここでしっかり確認しておこう。
もう騙されないぞ!
「突然失礼するが、君たちの年はいくつだったかな?」
「ん? 僕の年かい? 16歳だよ」
「あ、真希さん。そんなに簡単に……本当に失礼ですわねこの男。はぁ、仕方ありません。
わたくしも16歳ですわ。それが何か?」
じゅうろくさい!!
……16歳!
16歳か。
……
セ~〜〜〜〜〜フっ!!!!!
きょ、許容範囲!!
多少よろめいてしまったが、16歳というのは納得の範囲だ。
最悪のパターンで真希が「僕、小学生だけどどうする?」ってセリフ言うまで想定してたから、ダメージは少ない!!
……だよな。
考えてみたら、こいつらはただの刀使ではなく、元折神家親衛隊である。
前世で言えば大臣のSPみたいなもんだ。
それに抜擢されるような連中が、小学生なはずないね。
いくら頭が鳩ぽっぽでも、小学生をSPに抜擢する大臣がいるわけなかったわ。
そりゃ16歳も若すぎる気もするけど、可奈美ちゃん13歳に比べれば十分まともである。
やはり可奈美ちゃん13歳は偉大だ。
ったく、俺も焼きが回ったものだ。
よりにもよって折神家親衛隊を小学生と疑うなんてね。そんなことあるはずないね。あはは。
「っと、電車が来てしまったようだ。それでは僕たちはこれで失礼するよ」
「それではごきげんよう。他の方々にはよろしくお伝えくださいませ」
挨拶もそこそこに、真希と寿々花は去っていった。
時間の関係か、俺としか会話できなかったがよかったのかな。
まぁ、任務を無事に終えたら、改めてこちらから出向けばいいか。
こちらもそろそろ発車の時間になりそうだしな。
俺は踵を返すと、姫和たちと合流し電車が来るのを待った。
☆
車窓から見える風景が、雑多なビル街から長閑な田園風景へとその姿を変えていく。
ポツリポツリと点在する家々は古くからの日本家屋が目立ち、都会から遠ざかっていくの感じる。
差し込む光が乱反射する窓には、同時に車内の光景が写っていた。
平日の特急電車は人気も少なく、車内には俺たち以外の姿はない。
「〜♪」
姫和は俺の隣に座り、簡易テーブルに何かを広げ、楽しそうに手元をいじっている。
その向こうにはエレンと結芽が並んで座っており、仲睦まじくお菓子を食べる姿があった。
薫ちゃんはその後ろの座席に、一人座っている。
駅のホームでも一人ブスッとしてたし、今もご機嫌斜めなのだろうか。
残念ながら窓の外を見ており、その表情は伺えない。
「結構乗ったけど、到着にはまだ時間がかかりそうだな」
車外から目に入る緑は多くなってきたが、山々は遠く先にある。
目的地に着くにはまだ時間がかかりそうだ。
移動手段もなぜ電車なんだろう。
ヘリを出せとまでは言わないが、せめて車で送迎してくれてもいいのではないだろうか。
群馬は近いようでいて意外と距離があるんだよな。
しかも今回の場所はローカル線も挟むから、余計に時間もかかるし。
さすが日本に残る最後の秘境である。
「よし剥けた」
「剥けたって何がだ……ってミカンか」
先ほどから何をイソイソとしているのかと思っていたら、姫和の手元にあったのはミカンだった。
ぷっくりとした果肉が綺麗に顔を覗かせている。出がけの売店で買った冷凍ミカンだ。
「にしても冷凍ミカンとはこれまた珍しいな」
前世では子供のころ列車の旅といえば冷凍ミカンだったが、気がつくと姿を消していた商品だ。
なんというか、時代を感じる。
あの売店もよく売っていたものだ。この世界ではまだ現役商品なのだろうか。
「そうか? と言っても私も小さい頃に母さんから、旅には冷凍ミカンが付き物と聞いただけだから初めて買ったんだが……
ま、ようやく溶けて剥けるようになったからな。一緒に食べよう」
姫和が半分に割った片割れを、ありがたく受け取る。
季節外れの食べ物でもあるが、ほどよく食べごろに溶けていた。
……うん、美味しい。
シャリシャリとした食感と果肉の水々しさが、同時に口の中に広がる。
この味わいは冷凍ミカンならではのものだよな。
なによりこの冷たさがいい。
車内の高い室温で火照った体に、気持ちよく効いてくる。
「シャーベットじゃないし、ジェラートとも違う……なかなか味わい深いな」
そんなことをいいつつ嬉しそうに頬張っている。小動物チックに膨らませた頬がなんとも可愛らしい。
姫和も気に入ったようだ。これはまた帰りの電車で買ってもいいかもしれないな。
「ほら結芽ー。あ~んして下サーイ。あ~んデスヨー」
「えーっ。エレンおねーさんってばそんなの恥ずかしいよ……なーんてね☆ あーん」
「いい食べっぷりデース! その調子で今度はおっきく育つんですよ」
「今度はって何〜? じゃあ、お返し~。あーん……って、エレンおねーさんは十分大きいじゃん!!」
ふと視線を奥に移すと、エレンと結芽がクッキーの食べさせあいっこをしていた。
あいっこ、である。エレン×薫ではまず見られそうにないものだが、エレン×結芽だから成立していた。
……なぜか本来ありえないことが、奇跡的に完成したかのような光景に感動を覚える。
なぜだろう。美少女同士で、眼福な光景だからかもしれない。
「……」
その様子を姫和もチラリと見たが、特に何の感想もなく冷凍ミカンに向き直った。
実は彼女たちに感化されて姫和も俺に「あーん」をしてくるのかと、ちょっと期待したりもしたのだがそんなことはなかった。
さすがに知り合いが見ている前で、そんなことはしないらしい……残念。
と思ったが、その代わりというように、肘掛に乗せた俺の右手にそっと乗せられるものがあった。
もちろん姫和の温もりである。
「……」
無言ではあるが、赤く染まる頬が姫和の心境を物語っていた。
むむむ。
これではミカンを食べようにも右手が使えないではないか。姫和だって左手が使えないぞ。
無論、そんなことは些細な問題である。
重ねられた姫和の手を振りほどくことなく、俺と姫和は仲良く片手でミカンを食べるのだった。
いやー! 列車の旅って最高ですね!
……そんなことしてたから、薫ちゃんが窓に映った俺たちを、憎々しげに見ていたことに全然気がつかなかった。
仕方ないね!
仕方ないぜよ。