同期の桜   作:ブラスト(芝犬)

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プライベッターにも投稿していましたが、ハーメルンにも投稿することにしました。
よろしくお願いします。


プロローグ

体で風を切る。

オラーシャの風は宮城とは比べものにならない冷たさだ。生身だったら寒いというより痛いと言ってもいいだろう。

自分は割と寒がりな人間だが、使い魔のおかげで寒さはあまり感じない。

ありがとう、と口の中で呟くと甘えるような鼻声で返された。

ああもう、可愛い奴め。

地上に降りたら思う存分遊ぼう。ワシャワシャでも、ボール遊びでも、手拭い引っ張りでも、取っ組み合いでも……。

ガッ……ザッ……。

眉間にほんの少し、力が入った気がした。

インカムから掠れたようなノイズ。

 

『こち……ぶち……ネウロイ……場所は……」

 

ネウロイ!

途切れ途切れの音声だが、幸い場所の聞き取りはできた。

ポケットにねじ込んでいた地図と自分の針路、通信で聞こえてきた地点を照らし合わせる。

針路からはいくらかズレる。けど……。

 

「とりあえず、行ってみますか」

 

通信を流した誰かさんの手柄を奪って睨まれるかもしれない。それでも、万が一があって寝覚めが悪くなるより何倍もマシだ。

方向転換をして、さっきより少し速度を上げてネウロイの発生空域に向かった。

 

 

 

 

快速で空を行くこと数分。

黒光りするネウロイを見つけた。中型。

その周りで攻撃を繰り返す、二人のウィッチ。

けれど、どうも様子がおかしい。

水色の服を着た方の動きが鈍い。それを紺色が気にしているのか、ネウロイに集中しきれていない。

コアが光る。光線の前触れだ。

一瞬の空白。

たわんだ竹が元に戻るような勢いで、放たれた光線が雨霰と降り注ぐ。

まずい、あっちの2人は足止めされている。紺色の方に至ってはシールドと回避を併用しているが、だんだんと回避に余裕がなくなっている。

迷わず、急上昇を開始した。

 

「聞こえてる?助けに入るよ。ちょっと耐えてて、頭上注意。」

『り、了解!』

 

通信は聞こえたらしい。

ネウロイの背中を取るだけではなく、どんどん高度を上げて行く。

完全に背後を取った。

じっとりとした手汗が気持ち悪い。背負った扶桑刀程の大きさの棍棒を握りしめた。

小さく吸って、吐いて。

クルリと体を回転。急降下を始めた。

重力と魔導エンジンの唸りが自分の体を一粒の弾丸に変える。

位置エネルギーが運動エネルギーに変わっていく。

いくらシールドを張っていてもこの速度でネウロイに突っ込んだらタダじゃ済まない。

それに、これからの自分はシールドを張ることができない。

 

「いぃぃぃっっくぞぉぉぉぉ!」

 

気勢をあげて、心を奮い立たせる。

シールドを消して、浮いた魔法力で全身と棍棒を覆う。

風が顔面に直接ぶち当たる。涙が出そうだ。

ネウロイはこっちに気がついたらしい、光線を飛ばしてきた。

今の自分は光線に当たったら炭も残らない。

回避を繰り返す。

自分がさっきまでいた場所を光線が駆け抜ける。

冷や汗をかく間もなく、ネウロイは視界の大半を占める。

棍棒を振りかぶる。

速度と魔法を破壊力に変える。

 

「破城槌!」

 

棍棒を振り下ろす。

ネウロイの装甲に当たった瞬間に固有魔法を使う。

固有魔法『衝撃増幅』。

その名の通り、増幅された衝撃はネウロイの巨体を揺らす。

装甲に亀裂が走る。

氷が気温差によって割れるような音が響く。

一撃で決まるか、と少し逡巡したが心配はいらなかったらしい。

衝撃がコアまで通ったのか、ネウロイは白く光り始めた。

咄嗟に魔法を解除、全身に回していた魔法力を使ってシールドを張った。

甲高い音を立てて、ネウロイが崩れた。

爆風と破片の嵐をシールドでしのぐ。

まともに浴びることなく済み一安心。

今回も生き残ることができた。

安堵のため息と共に棍棒を担ぎ直した。

 

「大丈夫、お二人さん?」

 

紺色と水色の二人のポカンとしている。

……まあ、気分は分からないでもない。見知らぬウィッチが降ってきて、一撃でコアを叩いてもいないのにネウロイを倒したなんて、普通は信じられない。

再起動に成功したのか、二人は表情を崩した。

 

「ありがとうございます!ストライカーが壊れちゃって……。私は第502統合戦闘航空団、ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン曹長です」

「同じく雁淵ひかり軍曹です!」

 

敬礼に敬礼で返す。

 

「改めて、小島光希中尉です。無事なら良かった」

 

 

〇〇〇

 

 

502は多国籍部隊だけど台所を預かるのが扶桑人だからか、扶桑料理を食べられるんだな。

少し意外に思いながら自分は敬礼した。

 

「小島光希中尉です。良ければ、『ミツ』と呼んでください。明日の昼ごろまでお世話になります」

 

自分の紹介に補足を加えるように、サーシャさんが立ち上がる。

 

「ミツさんは扶桑からの補給物資を乗せた艦隊の護衛ウィッチです。くれぐれも失礼の無いように」

 

簡単な挨拶を終えた後、昼食が始まった。

肉じゃがを頬張りながら席を見回すと、興味ありげな顔、輝く笑顔と友好的に迎えられているようで胸をなでおろした。

 

「ミツさん、さっきはありがとうございました!」

「気にしないでいいよ、久しぶりに自分もネウロイと戦えていい肩慣らしになったから」

 

肩をグルンと回してみせた。

しばらくぶりのネウロイだったけど大きな怪我も損害もなくて安心した。

 

「ミツさんはあまりネウロイとは戦わないの?」

 

銀髪のロスマンさんの声に肩をすくめた。

 

「自分は普段、扶桑にいますからね。海外に出るのは艦隊の護衛をするか、後は卒業したばかりの時にスオムスに一時派遣されたくらいなもんのミソッカスですよ」

 

この言葉に驚いたのはひかりちゃんとニパちゃんだ。

目を見開いて手を振り回す。

 

「でも、ミツさんはすごいじゃないですか!ドーンって!バーンって!」

「そうだよミツさん、一撃でネウロイをやっちゃったじゃない」

 

そう、それ。

自分が扶桑にこもる理由のうち一つはそこだ。

 

「自分の戦い方は、ストライカーにめちゃくちゃ負担をかけるんだよ」

 

その理由は固有魔法の衝撃増幅。

ネウロイをぶん殴った衝撃を増幅。上手くすれば、それでネウロイのコアを破壊できる。

しかし、衝撃は自分のストライカーや体にも伝わる。

まあ、初めて固有魔法を使った時は大変だった。

竹刀は破裂するわ、ストライカーは一台オシャカになるわ、治癒魔法が使えるウィッチに一週間お世話になるわ……。

それを防ぐために武器と体、ストライカーに魔法力を回すが、そうすると今度はシールドが張れない。

しかも、上手く衝撃を殺せないとストライカーが壊れる。

 

「攻撃はめちゃくちゃ強いけど、紙装甲。補給が潤沢に受けられる場所じゃないと全力で暴れられないんだ」

「そういえば、さっきも体のあちこちが少し痛いって言ってましたよね」

「そうなんですよ……助かりました、ジョゼさん」

 

ストライカーを整備班に診てもらっている間、ジョゼさんに治癒魔法をかけてもらった。

体の節々がジンワリと温かくなる感覚に、ジョゼさんはいい人だなと目を細めた。

 

「銃はダメなんですか?後は……坂本さんみたいに刀とか」

「ダメなんですよ。どうも、離れた弾は上手く衝撃の操作ができなくて……。刀も衝撃にあまり強くなくて、使い捨てになっちゃうんです。だから、ある程度丈夫で整備の心配があまりない棍棒が得物なんです」

 

目標は、いつかシールドが分厚くてバリバリの格闘戦ができる僚機を見つけること。

そうすればもうちょっと動ける幅が広がるんだが

……。

そんな自分を見て、ピュウっとクルピンスキーさんは口笛を鳴らした。

 

「近距離で一撃なんてまるで直ちゃんだ!」

 

それを聞いて自分は口をへの字に曲げた。

なんであいつはこの場にいないんだ、と不満が漏れそうになる。

 

「そりゃそうですよ。ネウロイの上から急降下してぶん殴るって戦法はあのちびっ子と二人で考えたものですから」

「管野さんとお知り合いなんですか?」

 

サーシャさんの疑問に手をヒラヒラ振りながら答えた。

 

「知り合いもなにも、あいつがヒラヒラの長ベルトを着けていた頃からの幼馴染で兵学校の同期ですよ」

 

そう言うと、皆んな酷く驚いた。目を丸くしたり、むせたり、スプーンを取り落としたり…まぁ、気持ちは分かる。匠の技によって改造された扶桑ウィッチ代表とも言えるようなやつだしなぁ。

人、それを魔改造と呼ぶ。

 

「待って、カンノそんな服着てたの!?」

「そうですよ。ほかに…先輩に扱かれて泣いたり、お姉さんが恋しいって泣いたり、初めての飛行で失敗して泣いたりなんてのも知ってます」

「泣いてばっかりの管野さん…えー、想像できないです…」

 

自分はニヤリと笑った。

まったく、あのちびっ子め。自分が来るのは知らなかったとはいえ、休みなんて取りやがって。わざわざ会いに来てやったのに。

しょうがないから、ガキンチョの頃のエピソードを部隊の仲間に話してやろう。

止められないのは残念だったな、いないお前が悪い。

 

「ラル隊長、あのちびっ子の子供の頃の話って宿代代わりになりますか?」

「勿論だ」

 

はたから見れば、相当悪い顔をしてるんだろうなと自分は笑みを深めた。

 

「じゃあ、話しましょうか……」

 

前線の娯楽は少ない。だから、大抵の場所では初めて来た人の身の上話が喜ばれる。…それはこの502でも同じらしい。

水を一口飲んで口を湿らせた。

短いようで、長い話になるだろう。これからするのはそういう話だ。

 

「まずは自分達が兵学校に入学を決める少し前の話から……」

 

思いを馳せる。

自分達の故郷の、雪の中の宮城県に。

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