同期の桜   作:ブラスト(芝犬)

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前回:さよなら、家族


今回から兵学校生徒ですが、描写が妙とかあったら教えてください。


始まりの日

兵学校から派遣されてきた下士官の魔女に引率されて汽車の旅を二日間。

途中、名古屋で停車したときにチョクのお姉さんが果物の差し入れをしてくれる嬉しい出来ごとがあったり、汽車の乗り換えのために自由時間ができて遊郭に迷い込みかけたり。

そんなこんなで自分達は江田島に到着した。

入校の5日ほど前のことだ。

この最後の猶予期間の間に、身体本検査、制服試着を行い、入校式についての説明をされた。

秋に届いた電報。あの時点では海兵入学は最終決定ではない。

本当の最後の最後、江田島についてからの身体検査をパスした時が海兵入学が本決まりになる。

自分もチョクもこれには合格できたけど、全体で1人か2人かは落とされたらしい。

彼女らを気の毒に思う間も無く入校式の日になった。

 

「さあ、君たち服を脱いで」

 

ハレの日、まさにその当日に先輩にそんなことを言われるなんて夢にも思っていなかったわけだが。

 

 

 

別に百合の花が散るような事態になったわけではない。

大浴場に案内されて、風呂に入るよう言われただけだ。

 

「綺麗さっぱりシャバの汚れを落としてこい」

 

長身で眉の上に傷がある先輩がニヤリと笑った。

脱衣所に取り残された自分達は仕方ないから服を脱ぎ始める。

 

「シャバって……アレだよね、この世」

「まさか自分たちは入学すると死ぬ?」

 

そんなことはないだろう、と笑い飛ばして浴場に足を踏み入れた。

風呂場には巨大な浴槽が2つあった。

片方は最上級生専用の風呂、もう片方は二年生と一年生用だ。

今日だけはどちらも使っていいが、最上級生用は普段は絶対に使うなと言い含められた。

椅子に腰掛けて、上級生に言われた通り体をよく洗う。

 

「それにしても、同じ分隊になったのがまだ信じられないよ」

 

兵学校の生徒になると、生徒隊に編入される。この生徒隊は12個の分隊から構成されるが、振り分けは入試の時の成績順だ。

自分もチョクも第8分隊に振り分けられた。

体を擦りながらチョクはホッとしたように笑った。

 

「本当に良かった…あんまり知らない人と喋るのは得意じゃないから」

「まったく……お前、1人で陸士に行っていたらどうしたんだよ」

 

ぽん、と頭を軽く撫でた。

しょうがないな、と目を細めて笑った。

 

「だから、ミツ。それはやめてよ」

「やだね。悔しかったら身長伸ばしてみろ、チミっ子」

 

頬を膨らますのがまるで弟のようで、なんだか笑ってしまった。

体を洗い終わった後、チョクが真っ先に浴槽に足を踏み込んで溺れかけた以外は特に何事もなく入浴を終えることが出来た。

入浴を終えて着てきた服を身につける。

その際、数人の紺色制服を着た生徒が更衣室に入ってきた。

 

「では、今から制服に着替える!分隊ごとに伍長に引率してもらい、寝室へ!まずは、第1から第4分隊!」

 

混雑を防ぐためか、4分隊ずつの行動だ。

3分隊はここよ、1人足りないぞ第2分隊、だの制服を着た生徒が指示を飛ばして新入生が続々と部屋を出ていく。

 

「では次!第5から第8分隊!」

 

さて、誰が第8分隊の担当なのやら。

見回そうとしたが、すぐに誰が8分隊の担当か分かった。

一際長身の生徒が8、8と呼びかけていたからだ。

そっちの方に向かいながら眉の上に傷がある先輩だと気づいた。

シャバの垢を落とせ、と言ってきた先輩だ。

集まった新入生を一瞥した先輩は咳払いを1つ。

 

「よし、揃ったな!私が貴様らの所属する第8分隊の伍長、斎藤和子だ。では、分隊の寝室に向かう」

 

そう言って、齋藤先輩は歩き始めた。

伍長とはなんだ、と頭を捻りながら先輩を追いかける。

しばらく歩いて着いた寝室にはベッドがズラリと並び、紺の制服を着た生徒が並んでいた。

 

「二号はそれぞれ対番の生徒をベッドまで連れていくように」

「はい!」

 

斎藤先輩が二号と呼んだ生徒が歯切れよく返事を返した後、一年生の集団に向かってきた。

 

「おう、お前が管野だな!こっちゃ来い!」

「えっ、ちょちょ、ミツ〜……」

 

チョクは豪快な笑顔を浮かべた先輩に引っ張られていく。

迷子の子供が知らない大人に声をかけられたような顔でこっちを見つめてくるが、助けられない。

すまないチョク、頑張ってくれ……。

引きずられていくチョクを見送る。

 

「小島生徒、かな?」

 

そんな自分におっとりとした声がかけられた。

振り向くと、髪を後ろで一つ結びにした先輩に声をかけられた。

気をつけをして、自分より少し高い位置にある目を見つめる。

 

「はい、自分が小島光希です」

 

答えると、先輩はパッと顔を輝かせた。

 

「私があなたの対番、出雲葵です」

「よろしくお願いします、出雲先輩」

 

頭を下げると、出雲先輩は笑って手を振った。

 

「先輩はだめよ。小島生徒、出雲生徒、みたいな感じで『生徒』を使うの。伍長は斎藤伍長で大丈夫だけど」

 

そして、出雲先輩は悪戯っぽい笑みを浮かべて囁いた。

 

「うっかり間違えると怒られるわよ。気をつけてね」

 

出雲先輩……改め、出雲生徒に連れていかれたベッドの上には、制服や水練着、帽子や靴などがズラリと並んでいた。

感嘆のため息をついていると、斎藤先輩の声が響く。

 

「目の前にいるのは、貴様らの対番生徒だ。対番とは、貴様ら三号に兵学校のルールを教える姉のようなものだ。よく教えてもらい、一刻も早く一人前の兵学校の生徒になるのを期待している。では、対番生徒に指導してもらい三号は制服を身につけること」

 

出雲生徒に教えてもらい、衣服を身につける。

初めて身につける、ホックの上衣には苦戦したが、概ね順調に服を着れたと思う。

詰襟の制服で少し首が苦しかったが、すぐに慣れる、と出雲生徒に言われた。

 

「小島生徒は何歳?」

「今は9歳です」

「それにしては背が高いわ、制服が似合うわね」

「ありがとうございます」

 

制服に着替え終わった後は、再び伍長に引率され、大講堂へ向かった。

向かって正面に玉座が設けられ、天井には船の舵輪をモチーフにしたシャンデリアが吊るされている。

誰かが感嘆のため息をついた。

不動の姿勢をとって時間まで待機をする。

講堂のヒヤリとした雰囲気や緊張した空気はなんとなく落ち着かない。けれど、1人だけ動くわけにもいかなかった。

幸い、我慢の時間は短かった。

入校式の時間になり、校長が壇上に登ったからだ。

校長は、自分達の顔を見回すように顔を動かした。

そして、一呼吸置いて口を開く。

 

「三田洋子以下、151名。海軍兵学校生徒を命ず」

 

それに続いて主席の三田が、全員分の宣誓書を校長に提出した。

この瞬間、自分達は海軍兵学校の生徒になった。

続いて校長が訓示を述べる 。

それを聞きながらもボンヤリと考えた。

自分の周りの少女達はその胸に何を抱いているのだろう。

高揚感だろうか。感動だろうか。恐怖だろうか。

自分は、遥か遠くの空に輝く星を掴むため岩山に手をかけた気分だった。

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