その先に見えるもの   作:辰伶

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序章 それは唐突に

「それは俺も行ったんだが・・・・・・・・・。風龍がお前らと行くとどーしても聞かなくてな」

 珍しく龍造が歯切れの悪い言い方をした。振り返ると、今まで風龍は毅然とした態度で通していたが、龍二が厄介ごとに巻き込まれる度にやれ右眼やら腹だの背中だのに瀕死の重傷を追って帰ってくることが多かったものだから、心配してしまったのだろう。

 彼女はこの家を預かる者として、しっかりと見張っておかなければという使命感―――と呼んでいいのか分からないが、とにかく彼女なりの決意であろう―――を果たすべく志願したものと捉えた。

 それはそれで嬉しいのだが。厄介事排除は、多いほうが助かる。

「すまないが、頼まれてくれ」

「へーい」

 そういうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

それは、ある爽やかな朝に唐突に告げられた。

「龍二、お前来週から川神学園に転校な」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 進藤龍二はたっぷりと時間を使って、父の理由(わけ)の分からない宣告について反論した。

 つい先日、彼は親友佐々木安徳の一件を解決し、束の間の平和な学校生活を送っていた。今日とてのんびり学校生活を楽しもうとしていた矢先の、父龍造の朝食の席での一言だった。

「親父、意味分からん」

 龍二は父に言った。

「川神学園に転校しろといった」

「いやそうじゃなくて」

 この時点で、またとんでもない面倒ごとに巻き込まれると感じていた龍二であったが、取り敢えず父にその理由を問うた。

 どのみち、自分に拒否権はないのだから。

 川神学園と言えば、神奈川県川神市にある武士や貴族の末裔が多く通っているとかいう学校で、それこそ全国的に名の知れた名門一族から一般庶民の家系がごまんと通っているという。かつ、川神市には多くの非日常的イベント盛沢山でそんじゃそこらの出来事ではびくともしない猛者達が住んでおり、関東三山の一つ川神院がある町と聞いたことがある。

 そして混沌に満ち溢れた街であるという噂まである。

「九鬼財閥を知ってるだろ?」

 龍造はさらっと話題を変えると、龍二は知ってると返した。

「うん。(みかど)のおっさんの会社でしょ?」

 九鬼財閥。

 世界屈指の大企業であり、あらゆる産業を網羅している超一流財閥である。その当主九鬼帝と龍造は幼馴染であるらしい。その縁で、これまで何度か彼の家へ遊びに行ったことがあり、彼の子供である3姉弟とも面識があった。

 確か、次男が自分の一つ下であったはずだ。

「その九鬼で、今『武士道プラン』という計画を進めていてな」

「武士道・・・・・・なんだって?」

「簡単に言うと、過去の英雄のクローンを作ってんだよ」

「そりゃまたなんで?」

「まぁ色々大人の事情があんだよ」

 それ以上聞くなと眼が訴えていた。龍二はそこまで馬鹿ではないので、それ以上の無粋な真似はしなかった。

「それで、そのクローンが今度川神学園に通うことになったんだよ」

 父の話によれば。

 『武士道プラン』とは過去の英雄をこの現代に転生させる計画であるらしい。詳しい内容は彼も知らないようだが、あくまで、この計画は過去の英雄を「転生」させることに重点を置いているので、通常のクローンとは一線を画している。

 しかし、倫理や技術面的に世界を揺るがすことになるそうだ。最も、計画自体はかなり前から秘密裏に進めていたらしいが、今回それが軌道に乗ったということで本格的に稼働し始めたとか始めてないとか。

 そりゃそうだろうなと龍二は感じた。『禁忌』に近い技術だし。

「じゃぁ槇田(まきた)のおっちゃん大変だなぁ」

「まぁ、前総理も手伝ってるから大丈夫だろ」

「それで、それと俺の転校とどんな関係があんのさ?」

「帝に彼らの護衛を頼まれてな。奴のところにも従者部隊がいるが、常に学園で護衛できるわけでもないのでな。外部で動けるものが欲しいんだと」

 それでなんとなく察したくない意図を察した龍二は、心の中で大きなため息をついた。

「それで、九鬼の家のこと知ってて、知り合いでそれなりに融通がきいてかつ実力があるちょうどいい人材がいる俺達に話が来たのね」

 そういうことだと快笑する父。どうやら天は自分に平和で楽しい学生ライフを楽しませてくれることはないらしい。

 恨むぞ神様。ざけんなちくしょう。

 とは言え、龍二の友人や周りには、そんなクローンなんて存在をぶっちぎるくらい異常な連中がわんさかいるので、大して驚くことはなかった。

「んでよぉ親父」

「分かってる。達子ちゃんも一緒だ抜かりはない」

 暴走されちゃたまんないしなと茶を啜る龍造。達子ちゃんとは、龍二の恋人である神戸達子のことである。

 まぁ、最近の彼女はそんくらいで暴走することはなくなったが、下手したら本当に暴走戦士(バーサーカー)になりかねないから今の彼女は怖い。故に側に置いておきたかった。その意図を汲んでくれた父に感謝する。

 しかし、ここ最近の出来事で、彼女の性格は信じられないくらいガラッと変化した。今から考えれば本当に信じられないことだった。どうしてこうなったのか、今から誰かに問うてみようかしら。

「一応パンフあっから読んどけ」と龍造はテーブルの上に川神学園のパンフレットを放った。それを手に取った龍二はパラパラとめくり始めた。

「さっき言ったクローンだがな。多分お前昔何度か会ってるぞ」

「そうなん?」

 龍二は適当に聞き流してパンフに眼を落としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍二と達子の転校の話はまたたく間に神明(しんめい)高校中に広まり、送別会やらなんやらを急を要することになったが、何の心配もいらなかった。

 完全無欠の生徒会長村重友代の指揮の下、迅速に準備が勧められ、盛大に開催された。

 その時彼が苦労したのは、彼を溺愛しまくってた従姉妹の瑞穂、弟激loveの実姉沙奈江と同じく龍二loveの友人カスガノミコトの説得だった。

 瑞穂とカスガに対しては、進藤家の守護龍とカスガの弟に世話という名の監視を頼み、実姉沙奈江に関しては取り敢えず兄の龍一に任せることにした。

「お主はいい加減龍二から離れんか馬鹿者ぉ!!」と吠え、ギャーギャー抗議する彼女を自分の相棒に任せ龍二は父の元へ急いだ。

 後で聞いた話では、沙奈江は守護龍に小一時間みっちり説教されたとか。

 さて、龍二と達子は龍造から今後の詳細を聞いた。

 まず、転入日は6月9日月曜日と決まった。二人の今後の拠点は川神市の島津寮に入寮することが決定していて、既にあちらの寮母には話を通しているそうだ。そこから学園に通うことになっている。

 転入するクラスは、「特例」で2年F組に編入されるらしい。どんな手を使ったのかは敢えて聞かなかった。

 今回彼らに課せられた任務は、彼と同じく転入することになった四人のクローンを危険から守ることである。しかし件の者達はS組に転入するという。それは先方の意向であるから仕方ない。

 では何故自分達が彼らとは別のクラスなのか理由を聞いた。

 彼の問いに、龍造は「良く言って選抜組、悪く言って上から目線と選民思想主義者の金持ちボンボン共の巣窟」と答えた。あっ、無理と龍二は皆まで聞く前に即答した。

 そういった部類の人間は龍二が一番嫌いな人種である。それを考慮しての配置であった。

「そんで、こいつらが今回お前らにそれとなーく守って欲しい連中だ」

 ほれ、と龍造は対象の四人の写真をテーブルの上に投げた。

 それを見て「あーこいつらかー」と、龍二は昔の懐かしくも楽しかった思い出に浸った。

 そう言えば、彼らの他に、四人の子供とも一緒に遊んだことがあったっけ。今の今まで忘れているとは、いやはやなんとも情けないなぁ。

 源義経・武蔵坊弁慶・那須与一・葉桜清楚(はざくらせいそ)。彼らが九鬼家の計画で誕生したクローンであり、龍二達がそれとなーく守る対象でもあった。しかし、葉桜清楚に関しては遊んだ記憶はあるが、彼女が誰のクローンか全く分からなかった。

 父にそのことを聞こうとしたが、止めた。どうせ過ごしているうちに判明するだろう。

 その時父龍造が顔を一瞬だけ曇らせた。

「義経と弁慶や清楚に関しちゃ問題ないんだが・・・・・・与一がどうも厨二病らしくてな、アイツも手を焼いているらしい」

「いやいや厨二て・・・・・・」

 あのやんちゃだった与一に一体何があったのかすごい気になったが、聞いたら聞いたでなんか精神的にとてつもない疲労が襲いかかると直感した龍二はついにその理由を聞くことはなかった。言っても教えてくれなさそうだし。

 龍造は話題をある生徒に振り替えた。

「あそこには、武神と呼ばれる女がいるそうだ」

「武神? あー確か川神百代、とかいったっけ?」

「そいつは、強者を見つけると戦いを吹っ掛けてくると聞く。気配を隠せよ? 面倒ごとになるからな」

「あーそれは俺もゴメン被りたい」と彼は辟易した表情で天井を見上げた。戦闘狂はめんどくさい事この上ないとここ最近つくづくそう思った。そんな奴にいちいち勝負吹っかけられたらこっちの身が持たん。

 というか、できれば平和的に高校生活を送りたいのであんまり自分の実力を見せたくない。見せたら本当に面倒になる。

「でなくても、学園には武人がたくさんいるから勝負ふっかけまくられるかもな」

 それもやだなと思った。全力で断ってやる。

 龍造は付け加えとしてが付いていくことを告げた。

 それに対して龍二は拒否しようとした。

「いやいやそこまでは必要なくね? てか、風龍今回の件と関係無いじゃん」

「それは俺も行ったんだが・・・・・・・・・。風龍がお前らと行くとどーしても聞かなくてな」

 珍しく龍造が歯切れの悪い言い方をした。振り返ると、今まで風龍は毅然とした態度で通していたが、龍二が事あるごとにやれ腹だの背中だのに瀕死の重傷を追って帰ってくることが多かったものだから、心配してしまったのだろう。

 彼女はこの家を預かる者として、しっかりと見張っておかなければという使命感―――と呼んでいいのか分からないが、とにかく彼女なりの決意であろう―――を果たすべく志願したものと捉えた。

 それはそれで嬉しいのだが。

「すまないが、頼まれてくれ」

「へーい」

 そういうことになった。

 

 

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