その先に見えるもの   作:辰伶

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第8話 川神大戦 中編  最強vs武神

 

「お前に敗北を刻んでやるよ、川神百代」

 眼前に現れた白の上衣に紺の袴を着た男。右眼を鍔で作った眼帯で覆っていて、見た目は普通の高校生だ。

 しかし、そこから溢れ出る闘気はこれまでの者達と格段に違っていた。彼の存在自体が怪物のように感じたのだ。

「ようやくお出ましか」

 百代は高揚感から嬉しそうに口にする。長年の夢である、己と同等の位置にいる世界最強との一戦が漸く叶うからだ。

「本当は本気なんて出したくなかったんだがな」

 ニヤリと不敵に笑む龍二は、手にした太刀『藤朝臣相模守龍雲(とうのあそんさがみのかみたつくも)』―――祖父がわざわざ自分の為に鍛えた一刀である―――の切っ先を百代に向けた。

「テメェのその腐った力を根絶してやんよ」

「お前にどうこう言われる筋合いはないな。私は私の好きなように振るう」

 やれやれと首を振る彼らのやり取りを少し離れた所から見ている者達がいる。百代を除いた『四天王』の三人と保護された甘粕真与だ。素早く安全地帯へと非難させた由紀江に揚羽が冷たくなったペットボトルを差し出す。同じように乙女は真与にそれを渡す。

「暫く休め。我らはお役御免だ」

「そうだな。奴が本気になったら私達は唯のお邪魔虫だしな」

 よく見れば彼女達もそれぞれ喉を潤していた。

「本気の龍二さんって、どんな感じなんですか?」

 ふと、そんな疑問を口にしていた。彼女は本気になった龍二を知らないのだ。

 揚羽と乙女は互いに顔を見つめると苦笑した。

「一言でいえば化け物さ」

「全身のあらゆるものが氷点下まで下がった気分だったよ。あぁなるとは思ってもみなかった」

「あぁなる、とは?」

「それは、今日見ればわかる」

 それは全体? と思って聞き返そうとした時だった。百代が自ら開戦の合図(のろし)を上げた。

「せいぜい私を楽しませろ進藤!」

 百代は高速で移動し間合いを詰めるとそのまま拳を繰り出した。龍二に当たったその衝撃で土埃と石が周囲で舞った。身を護ろうと彼女達は思わず眼を覆う。

 百代の拳の威力は平気で人間の骨を粉砕する。あんなのを喰らっては龍二でも一たまりもない。

「いい攻撃だったが、これじゃぁ効かねぇな」

 衝撃が収まった後に彼女達の眼に入ったのは、高速の拳をしっかりと顔面直前で受け止めている龍二の姿だった。

「ほらよ」

 蹴り上げられた右足はしっかりと百代を捉えた。吹っ飛んだ百代はしかし何事もなかったように着地した。

「お前の攻撃も全く効かないな」

 挑発する百代に動じることなく、彼はふふんと笑う。

「時に百代。お前攻撃されているのに気付いているのか?」

 彼女は首を傾げた。攻撃とは一体何を言っているのか理解できなかった。彼とはたった今吹っ飛ばされてゆうに200m位は離された。着地するまで彼を見ていたが攻撃をしたどころか全く動いていなかった。

 成程そう言ってはったりかましてこちらを油断させようとする魂胆か。そうは乗るか。

 その時、彼女は自身の身体に違和感を覚えた。先程から横腹のあたりがちくりと痛むし頬に生暖かい何かが頬についたような・・・・・・。

 百代は頬に着いた何かを指でなぞった。ぬめりとしたそれは赤かった。

「血・・・・・・?」

 そのまま視線を下にやると、右脇腹に一筋の線が入っていてそこから血が流れていた。

「いつの間に・・・・・・!?」

 瞬間回復で傷口を直してから彼女は素早く龍二を見た。涼しい顔をしてこちらを眺めている彼に恐怖を感じた。それは離れて所で観戦していた三人も同じだった。

「鉄の。今の、見えたか?」

「いや、全く」

「わ、私はほんの少しだけ」

 飲み物を飲みながらのんびり観覧している三人はそれぞれ意見をぶつける。

「やはり独特の雰囲気があるな。彼は」

「けど、まだ本気ではないな。4割くらいか」

「あれで本気ではないのですか?」

「あんなのまだ準備運動ぐらいだろうな。まだ『アレ』を出していないしな」

「百代が技を使わなければ、出んさ」

「あの、『アレ』って何ですか?」

「まぁ見てのお楽しみだ。アレを見たらますます奴と戦う気が失せる」

 そうやって盛り上がっている一方で、百代は固まっていた。

「どうした? 何か『ありえない事』でも起こったか?」

 龍二がすっとぼけて言う。その顔は完全に楽しんでいた。

「一体何を―――」

「知りたきゃテメェで俺からもぎ取りな」

 あっという間であった。ほんの一瞬、視線を逸らしただけで肉薄し今まさに太刀を振り抜こうとしていたのだ。慌てて避ける百代であったが、腹を真一文字に割かれた。

「くそ、調子に―――」

「ほれほれ、休んでる暇はねぇぞ」

 そこからは龍二の一方的展開だった。百代に攻撃をする間を与えない斬撃と打撃の嵐に彼女は徐々に押されていった。彼女が隙を見て繰り出す拳は紙一重で簡単にいなされてしまった。それが彼女のフラストレーションを募らせる。

「川神が苦戦するのは初めてだな。あんな一方的展開になれてないからほれ、徐々にイライラしてきてるな」

「そもそも、進藤に喧嘩振った時点で百代は詰んでおるわ」

 ケラケラ笑う先輩2人に対して、由紀江はおろおろしていた。いくら彼が強くても相手はチート技を使う疲れ知らずの武神だ。相手が悪いのではないか?

「黛。心配は無用だ」

 そんな彼女の心を見透かすように乙女が彼らの戦場を指した。

「百代は肩で息をしているし所々ガタが来ているが、龍二はあの通り」

 言われてみれば、百代は服の至る所が破れその鍛え上げられた肉体が露出していて大きく肩で息をしているのに対し、龍二は全くの無傷であり、息一つ乱していなかった。

「あいつは最小の動きで最大の攻撃ができる。一種の天才だ」

「我らは皆、努力を重ねてここまでの域に達した。百代は天才だが努力と楽しみが欠落している」

「楽しみ・・・・・・ですか?」

「うむ。相手とやり合うとき、コイツは一体どんな武術を習ったのだろうか。どんな努力を重ねてきたのだろうかとかな、相手への敬意を持って戦うものだ。だが、百代にはそれがない。あるのは唯己が欲望を満たすことのみ」

「あ、あの、お言葉ですが、モモ先輩はちゃんと礼儀をわきまえてますよ」

「我からしたらあんなもの形だけに過ぎんわ」

 仲間を擁護しようと試みるもあっさりと返り討ちにあってしまった。

「あの男はな由紀江。百代のような馬鹿や社会を舐め腐っている屑共は別として、たとえどんなに弱い者であろうとも武人として最大級の礼儀で応じるのだ」

 そこまで乙女が言った途端、百代の高らかな笑いが木霊した。

「これだ! これを待っていた! 私をもっと楽しませろ!!」

「・・・・・・あーちっくしょー。めんどくせぇことになった」

 見れば百代がヤル気を漲らせすぎて狂ってしまった。完全に眼がイッていて、彼女を包む雰囲気が黒く淀んでいた。龍二は額に手をやりため息を吐いていた。完全に戦い方を間違えてしまったようだ。火に油というか魚に水を与えてしまったというか。

「直江の奴、対策を間違えたか?」

「いやいや鉄の。世界最強と謳われる進藤家が相手だ。私とて心躍るわ」

 お前もそうだったろうがと言われると乙女は苦笑で返した。

「やっぱりそうなんですねぇ。ですが、大丈夫でしょうか?」

「ん? 大丈夫さ。上手くいけば面白いものが見れるぞ?」

 そう言って揚羽が乙女を見ればこくりと頷いた。由紀江は一人ポカンとしていたが、揚羽はくくくと笑っていた。

「見たくないか? 『龍』の力」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かーわーかーみー破―!!!」

 どこかで見たような恰好から放たれたエネルギー砲は真っ直ぐ龍二目掛けて放たれ、それを彼は慌てて避ける。

「うおっと!? どこの悟空だよ!!?」

「まだまだぁ!!」

 言い終わらぬうちに放たれたかわかみ破乱れ撃ちを絶妙なタイミングで避ける龍二であるが、百代も負けてはいない。最後の一発を放つと同時に突っ込んできた。彼がそれを避けた瞬間、拳を繰り出す。

 その素早い動きに流石の龍二も驚いた。驚きながらも彼の頭は思考を止めていない。

 彼女は現時点でトップレベルの武闘家だ。そして彼女の願望というのは自分よりも強い奴と戦いたいというものだ。聞いた話ではこれまで幾人もの強者と戦ってきたが、彼女の満足とは程遠いものだった。百代が強すぎたからであるが、兎に角彼女はそのおかげでいつも欲求不満であった。溜まった欲求不満は普段なら舎弟の大和をいじることで発散していた。

 だが今日は違う。自分の願望以上の強敵が眼前に顕現したのだ。しかも、世界最強と謳われる一族に連なる者だ。彼女のこれまでの鬱憤が爆発してもおかしくはないだろう。実際、彼女のテンションは既に狂気と化している。

 それはそうだろう。気配を一切消して突然現れては自分を圧倒するのだから。武道を行く者としてはこれ程心躍ることはないのではないか。と考察する。

 同時に彼はげんなりした。

(どんだけ溜めてたんだよ)

 先程から彼女が繰り出す一撃一撃が重すぎる。どことなく良くない念が籠っている気がした。何故もっと早く出てこなかったのかと。これまでの鬱憤晴らさせてもらうぞという念も感じる。

(出し惜しみしている暇は、ないか)

 彼は決断した。全身全霊を持って彼女の邪心を粉砕すると。

 一方、百代は嬉々として眼の前の強敵に拳を繰り出していた。今日という日を待ち望んでいたのだ。これまで祖父が彼女の為にと骨を折って呼んでくれた者達は、確かに強かったが彼女を満足させることはできなかった。毎回不完全燃焼だった彼女はそのもやもやした気分を舎弟である大和を弄ったり、由紀江などの女子生徒達へのセクハラ攻撃で晴らしていた。それでも完全に晴れるわけではなく小さな鬱憤は徐々に蓄積されていたのだ。

 そんな彼女の前に颯爽と現れたのが彼だった。『武聖四家』の一つ進藤家の次男であり、高校剣道界の頂点に君臨する強者。

 だから彼女はもてる力全てをぶつけた。川神流の技である雪達磨や炙り肉、奥義でもある星砕きなども惜しげなく彼に見舞った。それを彼はまさに紙一重で避けてくれ、そのまま彼が一撃を見舞ってくるのだ。龍二の斬撃は一撃一撃が重く、彼女の眼力をもってしても追い切れない程の速さで繰り出されるので身体には無数の切傷が絶えない。最も瞬間回復で消えるわけだが、攻撃される度に使うので精神や体力に疲れが見え始めた。

「おいおい。これくらいのことでへばってんのか?」

 そんな彼女に対し、龍二は汗一つ掻かず息も乱すことなく余裕の表情で宣う。

「ふん。まだまだこれからだ!」

 息巻いて繰り出した一撃は彼に簡単にいなされた。

「そうかよ」

 いなされた反動で全くの無防備状態となった百代に龍二の裏拳が捉え吹っ飛ばされる。即座に瞬間回復をする彼女の耳に龍二の声が響いた。

「時に百代」

 眼を開いた彼女は、彼の構えに驚愕した。

「かわかみ破ってのは―――」

 両手の真ん中に光の玉が練られ、凝縮されたそれは次の一言で彼女に放たれた。

「こんな感じだったか?」

 彼女はまだ着地をせず吹っ飛ばされているので彼が放ったかわかみ破をもろに喰らってしまった。そしてそのまま河原に文字通り叩き付けられた。

 その一部始終を見ていた由佳里と保護されていた真与は唖然としていて、揚羽と乙女は微笑していた。

「あれって・・・・・・」

「そうか、黛は知らなかったのか」

 一人納得した揚羽は乙女に説明を求めた。

「進藤家の一部に人間には『龍』の力以外にある特殊能力を身に付けた者がいるんだ。それがアレだ」

そこで乙女は言葉を一旦切った。

「アレは簡単に言うと『コピー』だ。たった一度見た動きや攻撃などを完全に自分のものにしてしまうんだよ。加えて、彼がコピーした動きや攻撃は彼の力に比例するからその威力は下手したら本人以上になるというオマケ付きだ」

 揚羽が補足する。その力は普段は使うことはなく、彼が使うべき時と判断した時にしか使わないという。そして、それは決まって勝負の後半であるという。

 その証拠に、彼は百代が立ち上がるやそれまでに彼女が使った川神流の奥義を次々と繰り出した。驚愕の表情のまま自身の技を喰らう百代を龍二は徹底的に追い詰める。

「コイツはサービスだ。九鬼雷神金剛拳!」

 といって彼は揚羽の流派の奥義までも百代に披露した。

「あ、揚羽さんの技まで・・・・・・」

「依然戦った時にうっかり使ってしまってな。我もアレを喰らってノックアウトさ」

「し、進藤ちゃんってすごいのです」

 真与はしきりに彼を誉めていた。その一方で由紀江は彼の才能に恐怖した。

 そうそうと乙女が思い出したように話し出した。

「もうそろそろ彼の真の力を拝めるぞ」

「? どういうことですか?」

「わざと隙を作る」

 乙女は戦場を指さした。ちょうど彼が空中に飛び一方的攻勢をかけている時だった。百代は何とかチャンスを見つけて拳を繰り出すが、龍二によってあっさりと掴まれてしまった。

 その時だった。彼女がほくそ笑んだのは。

「かかったな?」

 百代の身体が光りだした。アッと唸った時はもう遅かった。

「川神流人間爆弾!」

「!? しまっ―――」

 彼女は龍二諸共爆ぜた。その威力はすさまじく強烈な爆風が容赦なく離れていた揚羽達を襲った。いくら何でもアレを喰らっては龍二とてひとたまりもないないだろう。ましてやほぼゼロ距離からの技だ。

 悲鳴をあげる由紀江や真与に、乙女はあくまで静かな口調で言う。

「由紀江、甘粕。よーく眼を凝らしておけよ」

 人型の何かが爆炎に包まれた地面に墜落し、百代が着地した時に乙女が言ったそれは、少しも彼が死んだことを疑っていないようだった。

「あの男の真の力、滅多に見れぬからな」

 揚羽が言い終わると同時に百代の高笑いが戦場に轟いた。

「くはははは! 勝った! あの進藤家に勝ったぞ!」

 それは事実上の勝利宣言であった。完全燃焼したうえでの発言だ。彼女は爆発した瞬間に瞬間回復をして蘇生したのだ。

 確かに彼は正しく彼女が求めていた最強だ。自分の技がたった1回見られただけでモノにされると思っていなかったが、それだけだった。見せると言っても爆発技はいくら彼でも真似しまい。真似したら最後彼は即死するからだ。だから使ったと言っていい。

「なかなか楽しかったぞ進藤! だが、私の方が上だったな」

 彼女は酔っているようだった。武門の頂点の君臨する者の一人を倒したのだから仕方がないとはいえるが。

 百代は視線を揚羽達に向けた。瞬間回復で無傷となっている彼女を前に由紀江は身構える。

「後は、揚羽さん達を始末すればゲームクリアだ」

 その眼は既に狩人になっていた。体力は大分消耗してしまったが、四人を始末するくらいは残っていた。

 ガタガタ揺れる由紀江と真与と違い、乙女と揚羽は笑みを崩さない。

「川神。お前、まさかあれしきの事で進藤を屠ったと思っているのか?」

 百代にはチャンチャラおかしかった。如何に進藤家であろうがゼロ距離で爆発したのだから戦闘不能以外の状態などありえない。現に今も彼は爆炎に呑まれているではないか。どうやら彼女達はあまりのことに頭がイッテしまったようだと判断した。

「何を言っているんだ揚羽さん。あの男は文字通り―――」

 その時だった。『彼』からの返答が来たのは。

 百代が言い終わらぬうちに彼女の右頬辺りが一瞬光ったかと思うと熱源を帯びた何かが迫ってきたように感じた。振り向けば紅黒い炎の刃が襲い掛かってきているではないか。咄嗟に拳に炎を宿して弾き返した先にいた存在に、百代の眦は避けんばかりに開かれた。

「川神よぉ。まさかあれしきの火力(こうげき)で俺を倒したと思っているんなら、随分とこの俺の事をナめてくれやがってるじゃないか」

 そこにいた人物を見て彼女は思った。ありえないと。それは傍から見ていた由紀江と真与も同じだった。

 そこに立っていた人物は確かに先程まで戦っていた進藤龍二であるのは間違いない。だが、見た目はまるで別人のように違っていた。確かに彼が爆発の瞬間掴みかかった左腕は黒く煤けてその部分の道着が焦げ落ちていたが、そんなことどうでもいいくらいの違いだった。

 短い黒髪は長い白銀色の長髪となり後ろで結ってある。右眼の眼帯は無くなっており、傷跡の残る右眼は真紅、左眼は(あお)のオッドアイとなっていた。

 その場にいた全員が、全身を駆け巡る痺れを感じた。彼女達の中に流れる武士の血が、恐怖を感じていたのだ。爆発的に発生した、周囲を押し潰す空気が彼を物語ってた。

 『静かなる蒼き龍』の異名と『絶対零度の聖者』の裏の名を持つ「公式戦」全戦無敗の絶対王者。それが、進藤龍二である。

「テメェに見せてやるよ。俺の本気をな」

 それから、百代は自分の身に何が起きたか分からなかった。突然右脇腹に痛みが走ったと思ったらいつの間にか自身の身体は宙を舞っていた。それに気づいた時には眼前に彼の顔があった。そのまま攻撃を喰らい地面に向かって落ちていった。地面に激突する寸前に再び身体が宙へ突き上げられた。

「進藤流剣術、鬼砕き」

 振り下ろされた斬撃により全身に激痛が走った百代はそのまま河原に叩き落された。

 

 

 

 

 

 

 

 あまりの速さについていけなかった。瞬きをした瞬間に百代の身体が宙に浮きそのまま斬撃によって彼女は河原に叩き落されていたのだ。

「あれが・・・・・・進藤さん?」

「アイツの本気の姿だ」

 答える揚羽の声が震えていた。彼女ですら恐怖しているのが分かった。

「これは彼の父君から聞いた話だがな」と揚羽は一息ついて彼について語りだした。

「アイツは2匹の龍『紅龍(こうりゅう)』『伏龍(ふくりゅう)』と彼らの守護神『青龍』の力を受け継いでいるという。あの姿は、彼らの力を使うときの証だそうだ」

 聞けば。白銀の髪は伏龍が使うとされる『紫焔(しえん)』を、同じく右眼の真紅は紅龍が使うとされる『紅焔(こうえん)』を、左眼の蒼は青龍が使う『蒼炎(そうえん)』をイメージしているとされている。

 後に知ったことだが、紅龍と伏龍は『五大龍』という彼らの力の源「龍」の中で別格の力を持つ龍であるという。

「進藤の本気はいくつかあってな。普段の姿から始まり、瞳の色が蒼、真紅、銀に変わったり髪の色が変わったり長髪になったりと数パターンの組み合わせがある。そして、超本気の姿が今のアレだ」

「本気のアイツはさっきのに加えてもう一つ特殊能力があるんだ」

「それってどんなものですか?」

「簡単に言うと、この場の全ての動きがスローモーションで見える」

 つまり、彼のいる場は上下左右全部が彼の視界になっているということらしい。

「運がいいと、一部の者にしか伝わらないという進藤流の奥義が拝めるかもな」

 乙女は暢気にそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 回復した身体を起こす百代は恐らく人生で初めて恐怖という感覚を覚えた。龍二はこれまで戦ってきた者達とは明らかに一線を画していた。不可視の刃で攻撃したり、相手の技をたった一度見ただけで自分の技として繰り出すなど、正真正銘の『化け物』だ。

 ほんの一瞬、後悔しそうになった時に彼の嘲る声が聞こえた。

「この程度か武神。二つ名が泣いてるぞ?」

 挑発する彼に反論する余裕など、彼女にはない。いや、反論する気はなかった。

 彼女は、ある考えを実行すべくタイミングを計っていた。使えば無論彼にパクられるだろうが、彼女にはその前に彼を潰せるという漠然ながらだが自信があった。その結論に達してからは少しずつだが落ち着きを取り戻していた。

 龍二は一度見た動きと技を完全に自分のモノにすると分かった。だが、その時彼女の脳裏に一つの仮説が浮かんだ。仮説の域を出ないが、確かめている時間は彼女に残されていない。この勝負は両軍の総大将である真与か英雄が倒されると負ける戦だ。

 故に一発勝負の賭けだった。

「その余裕、いつまでもつかな?」

 そう言った彼女の不敵な笑みに違和感を覚えた。あれだけ自らの技を喰らって尚倒れないとは、まだ体力が残っているのか?それとも、まだ何か隠しているのか。

「ほう? それはどうゆう意味かな?」

 彼女に聞こうとしたその時、彼の視界にまばゆい光が差した。ふと上空を見上げると高質量のエネルギー砲が真っ直ぐこちらに向かってきてるではないか。

「終わりだ進藤! 川神流奥義星砕き!!」

 そう。彼女は宇宙空間に密かに溜めていた光のエネルギー砲を高速で打ち出したのだ。絶対にパクれない遥か彼方から飛ばしてきたのだ。まして高密度に精製したエネルギー砲であり、いくら化け物であってもこれを防ぐ術はない。この砲は彼女の意思で自在に変化させることができるのでたとえ逃げたとしても追尾が可能だ。彼女が不敵に笑んだ意味はこれだったのだ。

 絶対回避不可能技。それが、川神流奥義・星砕きである。

 それを見た由紀江は彼を助けんと走り出そうとした。しかし揚羽によってそれを阻まれた。

「離してください! 進藤さんが!!」

「落ち着け黛」

 興奮する彼女を宥めたのは乙女だ。

「言っただろう? 進藤は本気だって」

 咄嗟に彼を見るが、彼はその場から動くことなく上空から来るエネルギー砲を見つめていた。由紀江は裂けんばかりの声で彼に逃げるよう伝えた。

「くたばれぇ!」

 今度こそ勝利を確信した百代は拳を高々と突き上げ笑っていた。最強を沈める必殺の一撃―――のはずだった。

「この程度か」

 そんな彼女の笑みを凍り付かせる一言が発せられたのはそんな時だった。そして―――。

 彼女が放った星砕きは鞘から抜き放たれた『龍雲』の一閃によって綺麗に両断され、爆散した。

 一部始終を見ていた揚羽と乙女以外、全員が唖然としていた。一体何が起こったのか、理解できなかった。ただの鉄の刃物で実体がないエネルギー砲をぶった斬るなどという非現実的な事象を理解しろということに無理がある。

「さて、武神。そろそろチェックメイトといこうか」

 低い声で宣告する。龍二は右足を引き、腰を落とし半身となると『龍雲』の鞘に手をかけた。

「進藤流剣術居合ノ奥義。不死鳥・極焔(きょくえん)

 鞘から放たれた一閃から繰り出される真空の刃は、やがて形を巨大な火の鳥に変え百代に襲い掛かった。百代は何とか避けるとかわかみ破を放った。不死鳥は悲鳴を上げて爆炎に包まれた。

 よし、と頷く百代。それを見ていた龍二が苦笑する。

「百代。俺の技名、ちゃんと聞いていたか?」

 何を、と反論しようとした彼女の周りが突然暗くなった。そして綺麗な鳴き声が木霊した。見上げると、先程始末した不死鳥がその巨大な翼を広げ自分を見下ろしていたのだ。

 馬鹿な、と思わず漏らした百代に龍二は追い打ちをかける。

「言ったろ? 不死鳥だと」

 不死鳥。一般にはフェニックスと呼ばれる伝説の鳥だ。たとえ死んだとしても何度でも甦るその鳥が彼女を見つめながらその美しい声で咆哮した。

「あ、あぁ・・・・・・」

 百代が声にならない悲鳴をあげる。今すぐこの場から逃げたいのに、身体は言うことを聞かず震えるだけ。人間、恐怖を感じると咄嗟に動けないようだ。

「不死鳥の怒りをとくと味わえ」

 その言葉と同時に不死鳥は動けない百代へ突撃した。大きく開かれた嘴に食われた瞬間、彼女の全身を灼熱のように熱くなった。声にならない絶叫を上げると、突然ひょいと彼女は宙に放り投げられた。その先には龍二が上段の構えのまま飛び上がっていた。

「武神。俺と大和に負けた原因、しっかり考えるんだな」

 握られた刀には三種類の炎が渦を巻いていた。その三種類の炎が龍のように彼女は見えた。

「進藤流剣術上段ノ奥義 龍王ノ怒リ・三龍王逆鱗(さんりゅうおうのげきりん)

 振り下ろされた『龍雲』から繰り出された三匹の龍王は、そのまま彼女を喰らうと、彼女は炎に包ま再び彼女は絶叫した。そしてそのまま河原に激突した。それと同時に上空に空砲が鳴り響いた。

 百代が再び立ち上がることはついになかった。

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