川神大戦が終結して早2週間ほどが経った。S組は彼の本気がやっと伝わったようで本当に大人しくなった。F組もS組の連中をおちょくったりしなかった。
「ちょっかいをかけたらお前らも奴らと同じだぞ?」
龍二は宴の翌日にクラスメイトにそう忠告した。彼らは連中と同じ位置まで落ちる必要はないのだ。彼らも納得して手出しはしなかった。
閑話休題
今日から彼らの学校に留学生が来ることになっていた。今回の件で沙汰止みになっていた神明高校との交換留学が軌道に乗り、先日両校で合意に達したのだ。こちらからは不死川心と甘粕真与が神明に行くことになり、この日神明から留学生が二人来ることになっていたのだ。期間は長めの1カ月。
「なぁ進藤。お前今日からくる留学生のこと知らねぇの?」
「知るわけねぇだろ」
岳人に聞かれた龍二はそうあしらう。つまらなそうに岳人はぼやく。留学生が女性だったらきっと鼻の下を伸ばしていたの違いない。知っていても口にすることはない。
実は、龍二は今日からくる留学生について知っている。村重友代から前日聞かされたのだ。聞かされた人物にさしもの彼も驚いた。
「お前は正気か?」
いつか言った言葉を彼は聞かされてつい口走ってしまった。この人選は何を意図しているのか測りかねた。少なくとも、そのうちの一人は以前に聞かされていたし世話をさせる気満々なのは察せた。
「大真面目だよ龍の字。彼女は自ら立候補したし、彼に関してはあそこに送って連中を黙らせるのにもってこいだろ?」
優雅に扇子で口元を隠す友代は不敵に笑む。
「連中も懲りているだろうが、まぁ追い打ちをかけようと思ってな」
どうやら以前の件で結構ご立腹のようだ。確かに彼はこれ以上とない追い打ちだ。
「私の生徒を預けるのだ。当然だろう?」
お前の生徒じゃねぇけどなという言葉は飲み込んだ。
「まぁよろしく頼むよ」
我らの生徒会長に軽く言われた彼は嘆息しながら了承した。元々断る理由もなかったが。
そんなわけで、彼は頬杖ついて担任が来るのを待っているところ、後ろから肩をつつかれた。振り返ると達子だった。
「ねぇねぇ。今日来るのゆーちゃんでしょ? 大丈夫かな?」
どうやら彼女も友代から聞いていたようだ。まぁ大丈夫だろうと彼は答えた。しでかす馬鹿がいたらこの手で沈める気である。
その時、廊下に絶叫が轟いた。他の皆がなんだなんだと廊下を覗くが誰もいない。彼は黙って苦笑した。きっと連中が驚いている声に違いないと。でもって、そろそろヨンパチが情報掴んで知らせるだろうと。
「大変だ! S組に皇族が留学してきたぞ!」
クラスがざわめく。そらそうだ。
クリスは首を傾げるし、由紀恵はあわあわしているし、キャップとワンコは爆睡している。
「進藤。こうぞくとはなんだ?」
そういって聞きに来たクリスに対して、彼はこそっと耳打ちして教えてあげた。
「天皇の一族だよ」
それを聞いたクリスは心底驚いた。眼を輝かせてあれこれ質問を始めた。これに彼と達子が答えているところに、教室の引き戸が開かれた。
「進藤、ちょっときてくれ」
小島教諭に呼ばれた龍二はささっと廊下に出た。彼女についていくと、とある空き教室についた。
彼が教室の戸を開けると何者かが彼に抱き着いてきた。彼は優しく頭を撫でる。
「よぉ。祐実恵。久しぶり」
顔をあげた周防祐実恵は花の笑顔で頷く。
「一カ月、よろしくな」
彼女は彼から離れると、持ってきていたボードに書き始めた。
『また、よろしくね』
「おう」
それから、彼は後ろを振り向いた。俺が一緒に連れて行けばいいですか?と問えば、小島は首肯した。
「元々、そのために呼んだからな」
「彼女は人見知りが激しいですからね。俺がちゃんと面倒見ます」
「助かる。事前に聞いていたとはいえ、難儀していたんだ」
龍二は笑顔で頷く。行くかというと祐実恵はこくりと首肯する。
先に小島が教室に入り続いて龍二達が入る。
「おら静かにしろ! 転校生を紹介するぞ」
そうはいっても、その本人は龍二の後ろに隠れていて姿が見えない。最も、ここにいるよと彼女特有のアホ毛がその存在を主張する。
「邪魔だ進藤!」
男子が吠えるので、やれやれとその左眼で睨んだ。
「警告しておくけど、彼女に手を出したら、即沈めるからな?」
それを引き継ぐように、小島が続ける。
「彼女は極度の人見知りで、会話は基本ボードを使う。変な気を起こすバカは『三人で』沈める」
二人の睨みで男子は黙った。彼は後ろを向いて頭撫でると、祐実恵はひょこっと顔を出しいつものマイボードを差し出した。
『周防祐実恵です。短い間ですが、よろしくお願いします』
そのつぶらな瞳に心を射抜かれた男子は多々いた。今にも飛びつきそうだったが、龍二達の無言の圧力に屈した。
その彼女は、クラスを見渡しながらある生徒を見つけると、文字を消して新たに文字を書いてその人物に見せた。
『大和君。久しぶり』
大和も気づいていた。あの特徴的なアホ毛を見た瞬間に。と同時に、複数の痛い視線を感じる。
「おい大和! てめぇいつの間にあんなかわいこちゃんを!」
「直江ってマジで盛ってんの? チョー受ける」
激昂している岳人を始めとした男子連中の嫉妬とガングロギャル羽黒黒子の冷やかしといった修羅場が既に形成された。おろおろする祐実恵は、龍二にボードを向ける
『大和君を助けてあげて』
やれやれと思いながらも龍二はつかつかと近づき、岳人の後頭部を鷲掴みするとそのまま床に叩きつけた。ふと見れば、達子も同じ方法で羽黒の顔面を床に叩きつけた。
とても鈍い音を響かせてその二人は黙った。
「次死にたい奴はどいつだ?」
「次死にたい人はどこかしら?」
ほとんど同時に発せられた低い声に、大和を吊るし上げようとした連中は全員恐怖した。次は自分の番だと理解したのだ。
囲っていた全員が激しく首を横に振った。頷いた二人は所定の位置へ戻っていった。
『ありがとう』
祐実恵の頭を撫でた彼は、小島に彼女の席を尋ねた。小島は大和の斜め後ろの席を告げた。丁度龍二達の前だ。
彼女が席に着いたところで、一日が始まった。