その先に見えるもの   作:辰伶

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第5話 決別

 九鬼英雄は自室の机に両肘をついて思い耽っていた。

 先日の東西対抗戦は親友の活躍もあり川神方が辛勝する形で幕を下ろした。

 しかし、このことがきっかけでSとFの溝が一層深まってしまったと言っても過言ではなかった。

 元々折り合いが悪い両クラスは、進藤龍二・九鬼英雄という二大巨頭の顔を立てて表面上は仲直りしていた。が、彼らの預かり知らぬ所で小競り合いを続けていた。今回の対抗戦においても、互いが互いを邪魔し作戦に支障をきたすことが多々あり、それに対して「アイツ等が悪い」などと言い訳しては喧嘩をするなどしていた。そのことが従者を通じて英雄の耳に密かに告げられた時は内心頭を抱えた。

 決定的だったのは、彼の親友のこの一言だった。

「大和、動くぞ」

 無論、天神館の猛攻と智謀を前に川神が押されていたこともあっただろうが、一連の騒動は何らかの形で龍二の耳に入っていただろう。仮にも共闘している間とは言え、いくらなんでも露骨すぎる。彼の言葉の端には、この状況になっても協力できない自分達に見切りをつけたのではないか、と英雄は感じた。

 名門九鬼家としては、進藤家という大家と争う気は毛頭ない。だが、彼は恐らく怒りに燃えているだろう。できることなら穏便な形で収束させたい。

 問題は、クラスメイトだ。今回に関しては、お互いが真に認め合うものでなければ意味がない。自分達の鶴の一声があれば大人しく従うだろうが、それだとこれまでと変わらない。

「戦うしか、ないのか」

 英雄の苦悩は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達子を愛でる龍二は、夜空を見上げながら考え事をしていた。

「メンドくせぇなぁ」

「何がァ?」

「SとFの仲の悪さがだよ」

 まさか学園のイベントの最中でも争うとは思ってもみなかった龍二は心底失望した。と同時に、これは本格的にどうにかしないとダメだと感じた。英雄や自身がでしゃばってまとめれば表面上は仲良くなるであろう。それでは、意味がないと彼は思っている。

 片や、己の才能に絶対の自信を持ち才能なき他者を見下すSクラス。片や、自由を信条とし才能を鼻にかける連中を毛嫌いするFクラス。

 元々相容れない二つのクラスどうまとめるかが、彼らに求められている。

(まぁ、このくらいはアイツも考えているだろうな)

 王を自負する彼のことだから、今頃どうすれば両クラスが仲良く学園生活を送れるか思案しているだろう。今の自分みたいに。

「どーするのー?」

 そう尋ねてくる達子に対し、そうだなぁともったいぶりながらも彼には一つの考えがあった。古今東西人が分かり合う方法は変わっていないのではないだろうか。甲斐の虎武田信玄と越後の龍上杉謙信のように。

「・・・・・・やるしかないかなぁ」

 ぽっつり呟きながら月夜を眺めた。できればこの手は使いたくないのだが、ここまでしないと仲が改善されないのでは致し方ない。

 まさか彼と同じ考えであったとは龍二はついに知ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや? 珍しい人がいるねん♪」

 ある日の昼休み。屋上で昼寝をしている龍二を覗き込んできた女子高生はそう言った。彼女が覗き込んできた瞬間どういうわけか一陣の風が吹き始め、少し強く吹いた。彼女のスカートの中が見えてしまうんじゃないかと思ったがそんな美味しいことは起きなかった。

「先輩こそ、こんなところで何してんすか?」

「私? ここは私の特等席だからねん。川神の街を眺めていたのだよ」

 さいですか、とそっけなく彼は返した。

 ヨイショと隣に座った松永燕は、すかさず手に持っていた納豆を勧めてきた。『松永納豆』という彼女を『納豆小町』にした代物であり、いなくなった母親を探すアイテムでもある。納豆の味は絶品であり、彼女の人気も相まってこの学校でも信者が急激に増加していった。

「今度にしてくれ」

「あらー。また断られちゃったよ」

「の割には、全然悔しそうではないようですが?」

「こーみえて、私は粘り強い乙女ですから」

「それ、自分で言いますか」

 クスクスと燕は笑ってごまかす。

『弾正の末裔か。何とも因果なものだな』

 彼女との会話を楽しみながら龍二の先祖は感慨深く呟く。

 乱世の梟雄と将軍家最強の護刀の子孫がこうして普通に会話できる日が来ることを彼らは想像できたであろうか。

 もしここに主君がいたらどう思うだろうか。あの人のことだから、過去のことは水に流して彼女との会話を楽しむのだろうなぁ・・・・・・。

 なんて想像している先祖をよそに龍二は燕との会話を楽しんでいる。

「最近さー、モモちゃんと毎日稽古しているから体中痛くって痛くって」

 その割には愉しそうに語る彼女はとても満足しているようであり龍二は「さいですか」と頷いた。

「私は一度龍二君とも勝負してみたいなと思うわけですよ」

「またとーとつな誘い方ですね」

「武道を嗜む者としては『武聖四家』と戦うのは史上の誉れなんだよ~?」

 燕の言うことは一理ある。

 この国にいる全ての武道家が一度は抱く夢。進藤・佐々木・後藤・神戸の四大武家に己の力がどこまで通用するのか確かめたい、というものだ。

 彼が出る大会に参加して試す者、直接彼らの家に押しかけ勝負を挑む者、闇討ちする者など、枚挙にいとまはない。龍二自身も何度か闇討に合った事があった。正々堂々と挑んでくる者には最大限の礼儀を持って対峙するが、礼儀を知らない不心得者には、二度と武術家として再起できないようにその者が持っているあらゆるものを完膚無きまでにぶち壊す。

「・・・・・・稽古って形なら、いいですよ?」

「ホント!? やった!」

 彼と戦えるのがよほど嬉しかったのか、燕は飛び跳ねてその喜びを表していた。それを見て龍二は嬉しそうに顔を綻ばせた。

 今度、義輝さんに会わせよう。

 そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何、してんだよ、おい」

「何って、我が校の生徒がちゃんと川神に馴染んだかどうか見に来たのだ」

 呆れ返って頭に手をやる龍二に向かって、女子高生はそれがさも当然のように言い放ち、手に持つ扇子を唇に当てている。それが妙に妖艶だった。

 神明高校生徒会長村重友代。

 友人の実姉であり、完璧超人として個性あふれる神明高校600人を束ねる長である。それが昼休みに突然やってきたのだ。

「実はな、川神学園との交流に関してここの総代に呼ばれていてな」

「あ〜、なんか、そんなこと言ってたな」

 彼が転校してきた日に鉄心がそんなことを言っていたような気がした。

「ところで龍の字よ。達子嬢とは仲良くやっているかい?」

「お陰様でな。そっちはどうなんだよ?」

「平常運転。皆元気でやっているぞ。安の字と操嬢も仲睦まじくやっている。夜もお盛んだぞ」

「そんなこと聞いてねぇし、俺に報告する意味ねぇだろ」

 くっくっくと悪戯笑みを浮かべる友代。この顔をしている場合は大抵冗談を言っている確率が高い。前半は本当のことを言っているであろうが。

「それとな、瑞穂先生とカスガ嬢、沙奈江殿に関しては我々がしっかり『教育』しているから心配しなくても良いぞ」

「・・・・・・ホント、ありがとう友代」

 こちらに来てからの一番の気がかりであったこと。自分のことを好きすぎる姉の沙奈江と従姉妹の瑞穂、カスガノミコトの三人である。一日一回は彼とひっつかないと赤子のように駄々をこねる彼女達が、数ヶ月以上も彼と触れ合える機会がなくなるのだ。発狂していないか心配だった。

「未奈先生も手伝ってくれているからな」

大人の女性で唯一の常識人である彼女が友代側に付いているのは彼にとって非常にありがたかった。後でちゃんとお礼を言っておこう。

「・・・・・・よし」

 友代はふとぽんと手をついていきなり龍二の手を掴んだ。

 そして一言。

「龍の字。今から私と一緒に鉄心殿のところに行くぞ」

 数秒の沈黙が場を支配し、そして彼は何を持ってそうなったのか友代を問い質した。

「君なら神明、川神双方に事情に詳しいだろ? まぁアドバイザーとして同席してくれ」

「嫌待て。俺はこれから授業があるんだが?」

 彼女は龍二の手を引っ張り鉄心の元に歩み始めた。当然ながら、龍二の意思は完全無視である。ギャーギャー文句を垂れる友人など気にもせず、友代はどんどん歩を進める。

「人の話を聞けー!!」

 後に残ったのは、龍二の虚しい叫び声が木霊すだけだった。

 

 

 

 

 

 

 おい、何だこの場。色々とすごい川神学園生徒会長南條・M・虎子に世界企業である九鬼の御曹司、進藤家に佐々木の傍流。

 何だこの混沌。肝心の学長いねぇし。勝手に話進めてもいいんかね?まぁ、九鬼と佐々木だし。問題ないか。

 てか、南條会長。何アクセサリー作ってんすか。会議に参加してください。

 ブツブツ独り言を呟く龍二と、溜まりに溜まった予約アクセサリー作りに没頭している南條を尻目に、英雄と友代は今後の交流に関して話を進めていた。日程や留学する生徒、規則などをテキパキと決めていった。その際に分からないことや困ったときに二人は龍二に尋ねた。それに対し彼は的確にアドバイスをくれた。

 暫定ではあるが日程は6月下旬から7月上旬の1・2週間、交換留学生は川神側からは不死川心と甘粕真与、神明側からは國枝博正と周防祐実恵のそれぞれ2名を交換することと相成った。規則等は別に定めるということになった。

「しかし、大丈夫ですかな村重殿。双方とも異なる学年に派遣されますが・・・・・・」

「それなら大丈夫でしょう九鬼殿。不死川殿と甘粕殿にとっては今後学ぶものがどんなものなのか知るいい機会ですし、博の字と祐実恵嬢にとっては受験勉強のいい復習になりましょう。それに互いの文化を知ればいい刺激になりましょう」

 会談後の一時。虎子は早々に何処かに消えていた。獣並みの速さに驚く龍二であったが、それはほんの一瞬で今は三人で談笑していた。

「しっかし、そんな超法規的措置が・・・・・・取れるか」

 自分がいい例じゃないか。自分が出来るなら、一般人については朝飯前のことだろう。むしろ忘れていたぐらいだ。俺そういえば3年生だったなぁ。受験、どうすっかな。

「龍の字。上の空とは感心しないぞ? 聞いていたか」

「あっ、悪い、聞いてねぇ」

「全く。君のそういうところは感心しないぞ。まぁいいや。龍の字。この学校を案内してくれ」

「我からも頼む龍二。これも川神と神明の相互理解のためだ」

「・・・・・・だったら南條会長を同席させるべきでは?」

「無理だ。あの人を制御できる人はいない」

 そんなんが生徒会長で大丈夫かこの学園。何て考えは即座に頭の片隅に追いやられた。

「龍の字が過ごす学び舎か。楽しみだ」

 扇子を唇に当てウキウキとしている友代。自分だけでは心配だったので学園を熟知している英雄にも同行してもらうことにした。

 最初に教職員室に寄り、担任の小島梅子とヒゲ先生こと宇佐美巨人に一応友代の学園見学の許可を取ってから校内を案内することにした。

 許可に関してはあっさり降りた。

 予め総代が通達してあったのか、はてまた佐々木一族に連なる彼女のことを知っていたのかはさて置き、二人は心おきなく友代の案内を始めた。

 理科室や部室棟やら学園のあらゆるところを案内し、今は2年生の教室が連なる2階の廊下を歩いているのだが、ある一角から耳障りな声が漏れていた。

「やけに騒がしいな」

「Sからだな」

 たまたま開いていたドアから教室内を見た瞬間、友代の顔が曇ったのと同時に英雄が驚愕し、龍二の眉間にしわが寄った。

 英雄にとって最悪の出来事がそこで起きていた。

 そこには、独断で和平交渉に来ていた大和達F組一行を囲み罵詈雑言の口撃を浴びせるSの連中がいた。その中には比較的友好的であった葵や井上も混じっていたのだ。それをなんとかしようと慌てふためく義経達。

 最悪の展開を英雄は予期していた。

「・・・・・・もう、限界だ」

 静かな怒りを口にした龍二は二人の眼の前から姿を消した。

 そして―――。

「いい加減にしろや蛆虫が」

 二人の眼に映ったのは、涙眼になっている真与に卑猥な笑みを浮かべて貶す男子生徒の顔面に、左拳を打ち込み床に沈めた龍二の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 大和は功を焦ったと思った。英雄、龍二という抑止力を欠いた状態で和平交渉を行った結果待っていたのは侮辱の嵐だった。

 SとFのいがみ合いは今に始まったことではないが、転校生が来たこともあり、かつ、近いうちに東京の高校から留学生が来ることを事前に知っていた彼は、そのこともありこのままではいけないと感じた大和は独断でSとの和平を試みた。

 しかしそれをそのまま伝えれば間違いなくクラスメイトの反対に遭うのは眼に見えていたので、まずは委員長の甘粕真与に自身の考えを打ち明けた。彼女としても今の状態を快く思っていなかったので彼の提案に快諾の意を示した。そして彼はその話をワンコとクリスにも話した。極秘と前置きして。

 二人も彼の話には概ね賛成だった。彼女達にはあくまで真与の護衛という形だが「決してこちらから手を出さない」と言うことには不満を抱いた。

「こちらから手を出せばここぞとばかりにアイツ等のいいように事が運んでしまう。だから、今回に関しては何を言われても耐えてくれ」

 彼の懇願された二人は渋々ではあるが了解した。

 彼としては、自分達だけでこの件を解決したかった。いつまでも龍二の力を頼ってばかりにはいられない。少しは自分たちで物事を決着させたいという一心での行動だった。

 そして、和平交渉団はSに向かい、自分達がへりくだる形で交渉を始めた。

 その結果が、これだった。

 龍二・英雄という抑止力がないことをいいことに、Sの連中はここぞとばかりに口撃を開始した。

「高貴なるこなた達がどうして山猿どもと仲良くしなければならんのじゃ?」

「悪いが、俺はごめんだ。こいつらといるとバカになるからな」

「大好きな大和君からの申し出ですが、それとこれとは話は別です」

 彼らの口から出る、およそ人としてみていない発言に大和は怒りを覚えたが我慢した。後ろに控えているクリスやワンコに至っては彼がいなければ既に彼らに襲い掛かっていただろう。真与は彼らの口撃に耐えながら必死に説得したが彼らの心にはついに響かなかった。

「さっきからうるせェチビだな」

 いい加減耐えられなかったのか、ある男子生徒がおもむろに真与の胸ぐらを掴んだ。

「おい、ちょっと待て!」

 彼の暴挙を止めようとする大和を、別の男子生徒がそれを阻止した。大和の背中を踏みつけ「邪魔すんなよ」と威圧する。

「バカがいい気になってんじゃねぇよ。俺達は選ばれた人間なんだよ!! お前らみたいな出来損ないとは違うんだよ!!」

 人を嘲た微笑みで悪言の限りを口にする彼に真与は耐えていたが、眼には涙が溜まっていた。

「なんでも泣けばいいって―――」

「いい加減にしろや蛆虫が」

 それは本当に刹那の時間だった。真与を掴んでいた男子生徒は振り向きざまの一撃をもらい顔を醜く歪めて床に叩き伏せられ、大和を踏みつけていたもう一人は、「その汚い足をどけろクソ野郎」の暴言の後、鞘に収まった『龍雲』によって顔面を殴られ、床に叩きつけられるや鳩尾に『龍雲』を突き刺された。その攻撃は岩のように重く彼は「うっ」と呻いて意識を飛ばした。そして、彼は突き刺す視線でこの教室にのさばる者共を睨みつけた。

 その場にいた全員が戦慄した。

 今は夏に近いというのに教室が凍えるほど寒かった。自分達を見据える龍二の左眼を見た瞬間、全身のあらゆる器官が壮絶なる警戒警報をけたたましく唸りを上げていた。

 その瞳には怒りの業火と失望の色が現れていた。

「少しは物分りのいい奴らだと思っていたが・・・・・・英雄の資質もこの程度ということか」

 龍二は打ち付けていた『龍雲』を引き抜き、この事態を止めようとした義経達の元へ寄った。

「すまない龍二君。何とかしようとしたんだけど」

「義経達が気にすることはない。ここにいるゴミ虫どもの頭が腐っていて人の言葉がわからないだけだらな」

「さっきからクソだのゴミだの言いたい放題いいやがって! 何なんだテメェ」

 彼の暴言に耐えられなくなったようで、ある一人がついに吠えた。

「こいつらと俺達は格が違うんだよ! 俺達は―――」

 その後も彼は何か行っていたようだが、未だに場違いな発言をしているこの男の耳障りな音を聞き入れる許容などない。

 血筋だどうとか能力がどうとか様々な言葉を使って自分達がいかに有能で社会に必要とされているか、F組の連中がいかに社会に必要とされていないかを高説していたが、それが龍二にとっての一番の地雷だった。

 人を見下し罵る人間は龍二が最も忌み嫌う種族である。

 自分の言葉に酔っている彼はついに気づかなかった。龍二のこめかみが青筋を立てて隆起し、握っていた拳から血が流れていることに。

「わかるか進藤。このクラスは―――」

「黙れクソガキ」

 『龍雲』の鋒を喉元に突きつけられ彼は黙った。血走った左眼に睨まれた彼はようやく自分の過ちに気づいたがもう遅かった。『龍雲』の刃は彼の首の皮を裂き、そこから一筋の血が流れ出す。

 ぐりんと龍二の左眼は囲んでいたS組の連中に向いた。羅刹の形相を見た連中は一斉に小さな悲鳴を上げる。

「人を人として扱わない犬畜生にも劣る貴様らをゴミだクソだと呼んで何が悪い? 俺は、大和達にしてきた事をそのまま貴様らにしているだけだ。言わせてもらえば、俺は貴様らのような害虫共を人間として見る気は毛頭ない」

 深海の底のように冷え切った視線に一層恐怖している彼らを一瞥し眼を葵に向けた。

 傍にいた井上を含めてその眼には失望の色が点っていた。「お前らも所詮はそちら側の人間か」と語っていたと後に井上は誰かに話していた。

「大和、ワンコ、クリス。お前ら、よく我慢してくれたな。けど悪い。俺はもう耐えられん」

 振り向くことなく静かに言葉を紡ぐ。二人はきょとんとしていたが、大和はこの時彼が何をするのか感づいていた。

 龍二は葵の前にワッペンを叩きつけた。決闘の合図だ。

「貴様ら全員、叩き潰す。英雄にも伝えろ。決着がつくまでお前の一切の申し出を断るとな」

 そう言い残し、龍二は三人を連れてS組を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 驚愕の表情のまま英雄はその一部始終を黙って見ていた。あの龍二があそこまで激昂するのを彼は今日初めて見たからだ。

「九鬼殿。貴殿を前にしてこれを言うのは憚られるのだが」

 静かな口調で隣にいた友代が話し出す。彼女の口から発せられる言葉の一言一言には、紛れもない怒りが込められていた。

「私は別に能力の差があろうが構わないと思っている。人とは千差万別だからな。得手不得手もあろう。だがしかし―――」

 その後に紡がれるであろう言葉を、できれば英雄は聞きたくなかった。それは彼に対する最大級の侮辱であり最低のものだったからだ。

「腐っているな。貴殿のクラスは」

「・・・・・・」

「貴殿は王としてこのクラスのことをまとめる事ができなかったようだな。そして、この状況を見てしまっては神明高校生徒代表として、今回の交流に関して見直さねばならぬ」

 それは当然のことだと英雄は思った。こんな状況を見せられては自分だって躊躇う。交流先の学校でいじめとか、嫌な思いを抱かせたとあっては後々の問題になるばかりではなく派遣された生徒の心に傷を作りあまつさえ学校の品位とか評判とか地に落ちる。

「貴殿の失態は、その才に驕り胡座掻いた結果と心得よ」

 先輩のアドバイスに素直に返事をする彼に、いつもの王の気品はない。其の辺にいる普通の高校生だ。

「貴殿は龍の字の二つ名を知っているか?」

 彼女は急に話題を変えた。それがどういう意味を持っているのか彼は図りかねたが、普段耳にしている『静かなる蒼き龍』を答えた。違うとそれに対して彼女は言う。

「確かに。その二つ名は普段は冷静に相手を分析し力の加減を弁え、決して相手を侮ることなく相手に敬意を評し・・・・・・長いからこれ以上は省略させてもらうが、他にも『裏の二つ名』があるのだよ」

「それは、一体・・・・・・」

「『絶対零度の処刑人』」

「・・・・・・?」

「弱者を蔑ろにする連中、悪徳者といった者達や、彼の『何か』に触れた者は、たとえそれが大物だろうが有名人だろうが情け容赦なく正義の制裁を下す。一度キレたら最後、刑を執行するまで彼の怒りは収まらないからな」

 その時、英雄の眼には龍二が葵冬馬の前にワッペンを叩きつけたのが見えた。それはすなわち決闘の合図。イコールこの決闘が終着するまで彼の怒りは収束しないということだ。

「貴様ら全員、叩き潰す。英雄にも伝えろ。決着がつくまで、お前の一切の申し出は断るとな」

 事実上の決別宣言。それを聞いた英雄は膝から崩れ落ちた。このことは何らかの形で家に伝わるだろう。そして自分は殺される。主に姉に。

「九鬼殿。これを機に、王とは何かをよく考えることを勧める」

 そう言い残して友代は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 その日のうちに、学長鉄心より2週間後に『川神大戦』を開催する旨が全校生徒に告げられた。

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