その先に見えるもの   作:辰伶

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第6話 軍師として

 Fクラス宣戦布告。その報が流れるや、学園は大戦へ向けての準備に入った。授業は全面ストップ。当該クラス以外の生徒は参加不参加の自由がある。参戦する場合は個人単位となる。団体も可能だ。

 S・Fの両クラスから勧誘があり、他のクラスは自分がどのチームに入ると有利か思案しながらチームを決めていく。勝つチームについて己の地位を守る者、S組に一泡吹かせてやらんが為にFに参戦する者色々いたが、事態が動いたのはそれほど時間がかからなかった。

 武神川神百代がSにつくと発言してから、Sにつく者が続発した。この事態に唖然としたのは大和を始めとした風間ファミリーである。その理由を質したが、単にファミリーと一度戦ってみたかったからというそんな理由だった。

 だがこんなことでいつまでも思考停止しているわけには行かない。大和は参謀として可能な限りの策を弄した。武神が敵についたとしても残ってくれた生徒たちにまずは感謝の意を評し、それぞれを軍団に分けて軍団長に大戦までの日々の訓練等は一任することにした。基本はファミリーのクリス・ワンコ・忠勝・ガクト・キャップが軍団長として任命された。翔一も今回ばかりは燃えているようで軍団の訓練に励んでくれていた。

 一方で、大和は情報班としてモロやスグルを要して敵軍の情報収集と寝返りを行っていた。既に何名かの寝返りは確約を得たが、相手にはあの葵がいる。迂闊に信用はできないし、こちら側にも敵のスパイがいるやもしれない。その辺に関してはヨンパチらに任せ、自身は学園外へ遠征に行った。

 目的は、川神百代を封じる為の戦力集めである。いくらこちらの戦力を鍛えた所で敵に最強の武神がいる限りこちらの勝利は限りなくゼロに近い。こちらが勝つには総大将が倒される前に敵大将を倒せばいい。その為には武神川神百代を圧倒する、もしくは抑えるだけの戦力が必要だ。それには学園内にはないので外に頼る他ない。外部は50人迄なら参加を許可されている。

 まず向かったのは九鬼財閥。英雄の姉である揚羽に協力を要請した。彼女は二つ返事で了承してくれた。

「百代にはそろそろ指導せねばと思っていたのだ。我からもう一人には声をかけておく故」

 そう言って携帯を取り出し誰かと話し始めた。その話からして『四天王』のひとりであることは間違いなかったが、それが誰なのかは分からなかった。ともかく、これで抑止力の一つは確保したがまだ足りない。

 次に眼をつけたのは、龍二が元いた学校神明高校である。現警察庁兼警視庁のトップが理事長を務めるそこには、『武聖四家』を始めとした個性あふれる生徒達が通っているというから、もしかしたらその中に彼女を止める逸材がいるかもしれない。そんな期待を込めて、とある平日に彼は進路を品川に取った。

「神明に行かれるのであれば、この娘に会ってください。きっと力になってくれますよ」と出かける前に風龍が手渡してくれたメモ紙には生徒会長の名が記されていた。

 神明高校についた大和は早速事務局へ行き要件を告げると話は聞いているといい生徒会室に通された。そこには既に生徒会長村重友代が待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風龍殿から話は聞いているよ。まぁかけてくれ」

 気品に溢れる姿に圧倒されながらも大和は促され席に座る。

「君か。S組と交渉していた男の子というのは」

「!? どうしてそれを」

「いや何、たまたまその日に九鬼殿と会う約束があってな。その際、龍の字に校舎を案内してもらっていた時に通りかかってね」

 成程だから何も知らないはずの彼があの場に殴りかかってきたのかと彼は納得した。

「さて、君の要件を聞こうか」

 扇子を広げて扇ぎだした友代を前に大和の額に緊張の汗が滴り落ちる。

 村重友代

 神明高校600名超の生徒達をまとめあげる完璧超人の生徒会長であり、謂わばこの学校の代表である。そして、『今は一般家庭』の家だが、元は『武聖四家』の一つ佐々木家に名を連ねていたことのある人物だ。つまり、彼らとのパイプを持っている一般人ということになる。噂では、佐々木家に伝わる力を使えるらしいが定かではない。

 彼の事前調査による村重友代というのはこんな感じである。

「実は―――」

 大和は先日の出来事を包み隠さず事実のみを彼女に伝えた。彼女はあの場にいたというから大体のことは知ってはいると思うが、そこでこちらに有利なように話すことに何の益もない。むしろ、彼女の中の川神学園という評判は地の果てまで落ちてしまうだろう。

話は分かった、と聞き終えた友代は言った。ほっとした大和であったが、「だが」と続けて友代が口を開くや彼の表情が再び強ばる。

「君がこの学校に来ることに理由はあるのかな?」

 核心を突いてきた。川神大戦というものに参加して欲しいというニュアンスは先ほどの話からなんとなく伝わってきたが、その動機がどうも伝わってこない。その動機を聞かないうちは彼の申し出は断るつもりでいた。たとえ不純な理由であっても、私が納得できるものであればそれでいい。彼女はそう思っていた。

「俺は、あの時龍二に頼らず事を収めようとしました。いつもアイツに頼ってばかりいる自分が情けなくて、せめて今回のことだけは自分達だけで解決しようとしました。委員長が侮辱されていても、ついて来た二人を宥めて必死に耐えました。けど、結果は先ほどの話の通りで。だからせめて、これだけは、自分で成し遂げたいんです。自分で仲間を集めて、Sの連中に証明してやりたいんです。俺達だって、やるときはやるんだぞって」

 緊張しながら、大和は思いの丈を友代にぶつけた。それを友代は閉じた扇子を唇に当てながら黙って聞いていた。

 この時ばかりは、大和もいつもの冷静さはなく熱い男となっていた。これで訴えてもダメなら次を当たればいいという気持ちで彼女に挑んだ。

「・・・・・・よかろう。君達に協力しようじゃないか。私も思うところがあるしな」

 意外にもあっさりと了承を取り付けられたことに大和は安堵した。 

「君に協力しようと思った訳を話そうか」と思わず友代から話題を振ることになった。大和は彼女が自分達に協力してくれる理由は確かに知りたいと思った。

「まぁ、私も子供のような理由からなのだがな」

そんな前置きがあり、彼女は語り始めた。

「Sの馬鹿共の態度が気に入らなかったのが、主な理由だな。他には、龍の字から聞く武神とやらを実際この眼で見ようと思ってな」

 クククと笑う友代を唖然として見つめる大和。

「どこの誰だが知らないが、私とて一介の人間だぞ。完璧なはずないじゃないか。いい迷惑だよ」

 大和の中で、彼ら一族に対する何かが崩れ落ちていくのを覚えた。ただ、ここまで自分達のことを誇らない、威張らない、親しみやすい一族はいないと思った。多分、それが皆に支持される秘訣なのだろう。

「奴らは確かに一流の家柄かもしれんが、それに胡座を掻き一般人を見下すその精神が気に入らん。力ある者の責務を分かっていない」

「責務・・・・・・ですか」

「そうだ。その力は私利私欲の為でも無闇矢鱈振るうものではない。そんなもの、暴力と同じだ。その力は、力無き者の上にあり、彼らの為に使うものだ」

「はぁ・・・・・・」

「まぁ、早い話が政治だな。政治家は我々から選ばれて権限を得た。その権限を彼らは我々の為に使う」

 何となくだが大和は合点がいった。最も、彼らの中には先の彼女の言葉の通り私利私欲のために使う者もいるが、彼らは自分達が何を望んでいるのかその耳で聞き、その頭で考え、その口で、足でそれを実行する者が多い。

「故に、私はそんな勘違いしている馬鹿共を粛清しなければならんわけだ。かつて佐々木家に名を連ねていた者としてな」

 凛とした態度に暫し見とれていた大和であったが、これでひとまず強力な助っ人を得ることができた。

「直江君。あれだったら、私から友人に声をかけてみようか?」

「いいのですか?」

「構うことはない。私の友人を使わない手はないぞ?」

 彼女の友人ということは、かなりの使い手であることを期待しても良いだろう。ひょっとしなくても四家から数名引っ張ってくれるかもしれない。それはそれでありがたい。

「持ちつ持たれつだ。それで、君はこれからどうするんだい?」

 そう言われて時計を見た。短針は4時を指している。どうやら長居をしすぎたようだ。今から戻ればなんとか門限には間に合うかもしれない。

 今日はもう帰る―――。そう言おうとした時、ふと入口に誰かの気配を感じた。眼を向けると、ドア越しにこちらを見ている女子生徒と眼が合う。眼が会った瞬間ものすごい速さでそれがドアに隠れた。ただ、特徴的なアホ毛がこちらに見えており、まるで生きているかのようにぴょこぴょこ動いている。

「か、会長。あれは・・・・・・?」

「村重で構わんよ。あぁ、祐実恵嬢のことかな?」

「彼女、何かかいちょ・・・・・・村重さんに用があるのではありませんか?」

「いや、おおかた珍しい来客が来たので興味があって見に来たってところだろう。おい、祐実恵嬢。そんなところにいないでこっちに来なよ」

 彼女に呼ばれて周防祐実恵はおっかなびっくりした感じで彼女の横にとてとてと歩いてきた。

「おや? 今日は相方はいないのかい?」

 聞かれた祐実恵はジェスチャーで忙しなく動いて何かを伝えていた。大和にはさっぱり分からなかったが、長年友人として接してきた友代はふむふむと頷いていた。

「ふむ、そうか。博の字は風邪で休みだったか」

 こくこく頷く祐実恵。そのアホ毛は彼女の感情と連動するように親指を立てているように見えた。

「直江君紹介しよう。彼女は私の親友周防祐実恵。この通り極度の人見知りでね」

 言葉の通り、大和に興味はあるが初対面の人と眼を合わせるのは恥ずかしいのか友代の後ろに隠れて時々怯えた子犬のようにこちらを見てくる。思わず撫でたくなる。

「まぁ、こんな状態だからいつもは相方がいて害虫共を払っているのだが今日は生憎不在のようだ」

「が、害虫?」

「うむ、例えば・・・・・・」

 と言った瞬間、床から、天井から、窓から数名の生徒が突如として出現、祐実恵を強襲した。大和は色々とツッこみたい所だったが、彼らに怯えて縮こまっている祐実恵を守ろうと彼は反射的に動いていた。

「やれやれ、学ばない馬鹿共だな」

 嘆息する友代だったが、瞬く間に一人は強烈な蹴りで射抜き、一人はアッパーで昇天させ、最後の一人は持っていた扇子で沈めた。それも的確に相手の急所を抉っていた。そんな神業的芸当を成し遂げた彼女はやはりすごい人だと思った。

「さて、この馬鹿共にキツい灸を据えてやろう」

 そう言うと、彼女は三人のバカの身体と足首付近を紐でキツく縛り上げると、足首から伸びていた紐の先端を太い鉄棒に巻きつけたと思ったら、窓を開けそこから彼らを突き落とした。

「暫くそこで頭を冷やし給え」

 悲鳴を上げる生徒達に容赦なく言い放つと彼女は祐実恵の傍により頭を撫でた。よほど怖かったのだろう、ひしと彼女の腕にしがみつき震えていた。

「直江君もありがとう。助かったよ」

 祐実恵もその感謝を表すようにアホ毛が嬉しそうに動いていた。それからポケットをゴソゴソとまさぐって何かを取り出した。ホワイトボードとペンだ。

『助けてくれて、ありがとう』

 ボードにはそう書かれていた。いえいえいと言わんばかりに彼は自然とゆみえの頭を撫でていた。本来先輩である彼女だが、どうしてもその姿が友人に似ていて無性に撫でたくなる。

『直江君は、龍二君と達子ちゃんと同じクラスなんだよね?』

 ボードを見て、そうだよと答えた瞬間、ある事実に気づいた。

 彼、年上か!? つまり先輩・・・・・・

「直江君。龍の字に関しては気にしなくていいぞ。アレはそういったことは全く気にしないからな」

 友代のフォローも大した意味はない。まぁ、いいや。祐実恵嬢が話しているし。

『龍二君と、達子ちゃん、元気?』

『はい、元気に過ごしてますよ』

『良かった。連絡くれないから、心配してた』

『二人共も薄情ですねぇ』

『いいの。私も、ひろちゃんから少しは聞いてたから。ただ、ちょっと気になっただけ』

『そうなんですか?』

 二人はボードとペンを交互に使って会話を楽しんでいた。それはそれは微笑ましい光景だが、果たして彼は何か大切なことを忘れてはいないだろうか。

 さてさて、と彼女は携帯を取り出すとある人に電話をかけた。

「やぁ、久しぶりだね達子嬢。いまどこにいるんだい? ・・・・・・ふむそうか。実はな・・・・・・」

 

 

 

 

 

 時計を見て彼は絶望した。時計の針は6:30を指している。門限までに帰るのは不可能となった。麗子さんの雷が落ちるのは確実だろう。

『ごめんね』

 事情を察した祐実恵がボードを使って謝った。これに関しては完全に彼の落ち度であり、彼女のせいではない。彼女はそう思わないと思うが。しかも、潤んだ瞳で上目遣いに自分を見るのは反則技だ。

「周防さんのせいではないですよ」と優しく言った。

「まぁ、安心し給え直江君。達子嬢に連絡を取って手は打った。今日は私の家に泊まるといい」

 ふふんと扇子を扇ぐ友代が神に思えた。多分、こういったことができるから完璧超人なんてあだ名が付けられたのではないだろうか。

 くいくいと彼女の袖を引っ張る祐実恵。何だいと聞くと、大和には見えないようにこそっとボードを見せた。

『直江君を家に泊めたい』

 友代は衝撃を受けただろう。まさか、彼女が自分達以外の人間を家に泊めようとするとは。まして赤の他人で初対面の男子だ。己の意思で。もし、ここに博正がいたら半狂乱になっていたんじゃないだろうか。

 とまぁ個人的な考えはこれで止めておいて。

「いいのか? ないとは思うが直江君は男の子だぞ。よく似任せて襲わないとも限らんだろう。君は一人暮らしをしているわけだし」

『大丈夫。直江君は、そんな子じゃないよ。それに、私もっとあの子とお話したいの』

 これを喜んでいいのやら。何となく、彼に気があるのではないかという邪な考えが過る。しかしまぁ、これも一つの進歩と捉えると嬉しい限りだ。博正が聞いたら間違いなく狂戦士と化すだろう。

一応、友代はその根拠を尋ねた。何故彼が安全なのだと。

 すると、彼女はひまわりのような笑顔でボードを彼女の真ん前に突き出した。

『だって、龍二君のお友達だもん!』

 友代は盛大なため息をついた。全くもって信頼されまくりのあのたらしは、本妻の他に一体何人の妾を作れば気が済むんだ。こちとらその妾共を抑えるのに必死だというに。

アレは厄介事を押し付ける疫病神かと疑いたくなるほど、彼はこと女性からの信頼度が最高度に高い。

 自身の考えはさておき、友代は再び大きなため息をついた。この娘は一度言いだしたらテコでも動かない頑固な一面を持っている。こちらが折れるまで彼女は鋼の意志を貫くだろう。

「直江君。祐実恵嬢がどうも君を招待したいらしいが、いいかな?」

「そうですか? 俺は別に構えませんよ」

 だと、と告げると祐実恵は子供のように飛び跳ねた。というこで、大和は初対面の女子高生の部屋に泊まることになった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 大和は出された夕食をぱくつきながら、考え事をしていた。

 今時の女子校生らしいぬいぐるみやら小物やらが整頓されて鎮座している1LDKのアパート。そこでテーブルを囲んで食を共にする初対面の男女。

一歩間違えれば危険な目にあうシチュエーションだが、当の本人は全くと言っていいほど気にすることなく彼との会話を楽しんでいた。その嬉々とした表情に癒される大和は彼女の質問に実にしっかりと答えていた。

「そう言えば、先輩は進藤先輩のことが心配なんですか?」

 聞いた途端、祐実恵は頬をぷくっと膨らませて不機嫌になった。大和は彼女が何故不機嫌になったのか分からなかったが、彼女はボードをスゴイ勢いで彼の前に突き出した。

『祐実恵って呼んで』

 短くそう書かれていた。これは困った。

「祐実恵・・・・・・さんは、進藤先輩のことを心配されてましたけど?」

 カキカキ

『龍二君は、私の一番大事な人だからね。何かあったら嫌だもん』

「けど、進藤先輩には神戸先輩が恋人としていますよね?」

『? 何か問題ある?』

「いや、ですから・・・・・・」

『カスガちゃんとか、瑞穂先生とか、沙奈江ちゃんとか、進藤君が好きな人この学校には一杯いるよ』

「そうではなくて・・・・・・」

『それと同じくらい、大和君は素敵だよ』

 何この不意打ち。噛み合わない会話から突然のこの言葉は破壊力抜群である。あまりのことに大和はそれから数分間フリーズしたままだった。祐実恵は流石にやりすぎたなぁと思いつつ、そんな彼が可愛いと思った。

『龍二君のお友達が彼で良かった』

 その夜、寝ている彼の横で一人ボードに書き込む祐実恵。

『初めてだなぁ。龍二君やひろちゃん以外で好きな人』

「・・・・・・可愛いなぁ」

 年下の彼の頭を撫でる彼女の声を聞いた者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『昨日はよく寝れた?』

 翌朝、朝食を出しながら祐実恵が尋ねると大和は頭を下げて謝った。

『謝る必要はないよ。私もちょっといたずらが過ぎちゃったから。ごめんなさい』

 話はそれまでとなり、二人仲良く朝食を食べて、一緒に皿洗いをした。

『大和君、学校は?』

「今週末に学園の行事がありまして、それまで授業はないんです」

『随分変わった学校だね』

「俺もそう思います。せんぱ・・・・・・祐実恵さんは学校ですか?」

『そうだよ。進藤君はこれからどうするの?』

 そう問われた大和は思い返していた。武神を抑え自分達が勝利をもぎ取るためには彼女よりも強力な力が必要だ。その力を求めて彼はここに来たのだ。

「進藤家へ行きます」

『そっか。頑張ってね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緊張の汗が止まらない。一瞬でも気を緩めればたちどころに意識を闇に投げてしまいそうな気がした。

 彼の眼前には、この国を古来より守ってきた一族の城がそびえていた。広大な庭を持つその城の門は行く手を遮るように閉じられていた。彼は一体どうやってここの主に声をかけようか迷っていると、突然その門がゆっくりと開いた。

「直江大和様ですね?」

 そこから出てきた女性はニッコリと微笑むと

「お入りください。我が主がお待ちです」

そう言って微笑んだ。

 彼女に案内されるまま屋敷に入ると彼を興味津々に見てくる住人たちがいろいろと話しかけてきたが、「申し訳ありませんが、主様のお客様ですのでお控えください」とぴしゃりとそれらをシャットアウトした。大抵の人はそれを聞いて引き下がるが、尚も食いつく者もいないわけでもなかった。

「お前、ちょっと来い」

そう言った連中は、どこからともなく現れた呂宝華によってどっかに連行された。直後に響き渡る絶叫は彼らの末路を想像するに固くなかった。

「直江君だな。さ、入り給え」

 通された和室にいたこの家の主、龍造は手招きして彼を自身の前に座らせた。

「何、固くなることはない。足は崩して構わんぞ」

 そうは言われても何せ眼の前にいるのは重鎮中の重鎮である。そんなことできるわけない。

「いえ、自分はこのままで」というのが精一杯だった。そうかとだけ言って龍造はそれ以上は言わなかった。

「友代から話は聞いている。武神とやらを倒したいとか」

「はい」

「何故だ?」

「何故、とは?」

「少なくとも、君が武神と戦う理由がないのではないか?」

 大和は返答に詰まった。正直な気持ちを吐いた方がいいのか、それとも表面的な理由を述べればいいのか。そうすれば彼の協力を取り付けられるのではないだろうか。

 しかしと考える。眼前にいるのは、世界最強の武人だ。自分が何を考えているのか手を取るように分かるだろう。この方に小細工など通用するはずがない。

「俺は、これまで何度も龍二に助けられてきました。だから、今回のことに関しては自分の力だけで解決しようとしたんです。S組の奴らがどんなに悪態をつこうともです。ここで手を出してはまた彼の手を借りることになる、奴らの思う壺だと思ったのです。ですが、結局は彼に助けられてしまいました。俺たちの思いを彼が代弁してくれたのです。だから俺は俺の意思で、彼に返す為に、俺の大事なクラスを馬鹿にしたアイツらに一矢報いる為に、そして、川神百代に男として認めて貰う為に、貴方の力が必要なんです」

 息継ぎもせず一気に己の思いを吐いた。断られたらそれまでだ。時間はないが、誰か他の人に頼むほかない。

「いいだろう。君に協力しようじゃないか」

 色々な考えを巡らせている最中に聞こえてきた龍造からの承諾の意を理解するのに数秒の時間を有し、「いいの、ですか?」と聞き返すほどだった。

「俺の仕事はな、直江君。この国の腐敗を駆逐することだ。君の話を聞いて、S組の連中の腐りを排除しないといけないと感じた。それに、武神川上百代には、一度敗北を知ってもらう。そうすれば何か彼女にも変化があるだろうな」

「そうでしょうか・・・・・・?」

「直江君。大事なのは、言葉じゃない。想いだ。俺は君の想いを感じた。その思いに共感し、俺は君の協力をうけた。それでは、俺が協力する理由にならないか?」

 それを聞いた大和は、畳の上に倒れ大量の空気を吐いた。これまでの緊張の糸が今の一瞬でぷっつりと切れてついつい素を出してしまったことに気づいた。しかし、龍造は咎めるどころか「ここでは自分を偽る必要はないぞ。むしろそのほうが俺はいい」と言ってくれたので彼は普段通りに接することにした。

「まさか、こうもあっさりと協力を得られるなんて思ってませんでしたよ」

「こう見えて、暇人だからな。時間などいくらでも空いてる。それに、次世代の若者と触れ合うのはいい刺激だ」

 他愛もない話をしている合間を縫って先程大和を案内した女性―――戰龍というらしい―――がお茶を持ってくてくれた。

「大和。人数の空きはあといくつある?」

 唐突に尋ねられた大和は、瞬時に計算して大体30名くらいと答えた。

「ふむ、そうか。なら、大抵の者は呼べるな」

「・・・・・・よろしいのですか?」

「ふふん。言ったろ。俺の仕事は、腐りを駆逐することだってな。聞けば、名の知れた家の者もいるそうじゃないか。そいつらを含めて、俺達がしっかりと教育してやるよ」

 そう言うとおもむろに携帯を取り出し誰かに連絡を取り始めた。

「よお徳篤。今平気か。おう、実はな・・・・・・」

 そして次々と連絡を取っては大戦参加の約束を取り付けた。その時間、僅か10分。あっという間に30名という強力な助っ人を得ることができた。

これで、百代を阻止できる力を手に入れた。後は、自身の頭を使ってこの戦力を活かす作戦を考えねばならない。

「大和君。君は戦いと聞いて何が浮かぶ?」

「えっと・・・・・・力、ですかね」

「そうだな。力と力のぶつかり合う一騎打ちがあるな。他にも知恵と知恵のぶつかり合いも一つの戦いだ。力と知恵のぶつかり合いも戦いさ」

「成程」

「誰かに認めてもらうために挑むもひとつの戦いさ」

「そうですね」

「俺達の力は存分に使ってくれて構わない。ただ、負けることは許されないぞ?」

 大和はその言葉の重みに汗を流れるのを覚えた。世界最強の力を使って敗れたとあっては彼らの名声が地に落ちるばかりでなく自分にも多大な被害があるということだ。ヘタをすれば世界を敵に回しかねない。そんなんことは何が何でも阻止しなければならない。

 悩んでいる彼を見て龍造はケラケラと笑い出した。

「冗談だよ。別に負けたからといって君がどうこうなることはないよ。それくらいのことで揺らぐような俺達ではないよ。だから君は君の力を発揮すればいいさ」

 そんなことを言われ、大和は大きなため息をついて安堵した。

「相手は帝の息子か。骨が折れるね」

「それ以上に、クセの強い連中がいるので」

「やりがいがあるじゃないか」

「面白い話をしているね」

 そんな二人の元にやってきたのは、以前訪問した時に一子に稽古してくれた義輝という名の剣士だ。道着姿の彼を見て稽古していたのかと思ったが、汗一つ掻いていなかった。

「義輝殿。今日は確か神明の指導に行っていたのでは?」

「今日は早めに上げました。明日から大会ですから、ゆっくり身体を休めてもらいませんと十分な力を発揮できませんからね」

「確かにそうですな。身体を酷使しては意味はありませんからな」

「先程客人が来ていると瀑龍(ばくりゅう)さんが言っていたが、君だったか。確か・・・・・・直江大和君だったかな?」

 

「そうです。あの時は友人が大変お世話になりました」

「気にしなくていいよ。私も久々に骨のある娘を見つけて心が踊ったからね」

 そんな話をしている隙を見て、大和は柱に掛かっている時計を見た。針は3を指していた。そんな時間まで話していたのかと思うくらい時の流れをゆっくりに感じた。これ以上いては皆に申し訳ない。早々に立ち去ろうとする彼を、義輝は引き止めた。

「焦りは禁物だよ軍師さん。大丈夫、あの子達ならしっかりやってくれるよ」

「そうだな。君はここでゆっくり作戦を練ればいい」

「ですが、それだと・・・・・・」

「龍二は来るべき戦の為に備えている。君の友人達も勝つ為に頑張っている。俺達も準備する。今、君がすべきことは勝つ為に頑張る君の仲間を信じて最善策を練ることだ」

 そこにまたさらに人が入ってきた。

「龍造殿。お待たせをした」

「来たか。彼と一緒に九鬼と自分(テメェ)の環境に胡座を掻いている馬鹿共を完膚無きまでに叩き潰す策を考えてくれ。無論、君も暴れてもらって構わないぞ」

「んっふっふ。願ってもないことだ」

 現れたのは友代だった。連絡した素振りを見せなかったのにいつ彼女と連絡をとったのか不思議であったが、ここには一般世界の常識は通じないことを彼は改めて感じた。

「では龍造さん。私は大和君の学校へ行って彼女達の教授へ行ってこようと思います」

「助かります。ただしくれぐれも九鬼にはバレないようお願いします」

「お任せを。彼らにバレるほど私は落ちてはいませんよ」

「では私達はあの害虫共を駆逐する方法を考えようではないか。時間は、たっぷりあることだしな」

 そう言って友代は彼を促して用意された部屋へと消えていった。

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