アズールレーン二次創作 ~ 今日もあの娘は元気です ~ 作:ながやん
海軍からは空母への改装案も浮上したが、こちらは伊勢と日向が実施されることとなった。山城は姉の桑名同様、速力が遅く、機動艦隊に随伴することは難しいとされたのである。しばらく内地での待機が続き、その間は訓練艦としても活躍した。しかし、レイテ沖海戦に参加が決まり、運命の夜を迎える。1944年10月25日、スリガオ海峡での夜戦で戦没。この戦いは、人類最後の「戦艦VS戦艦による砲戦」だったと記録されている。
ある晴れた、午後の昼下がり。
今日も母港は、出入りする軍艦で賑わっていた。国際色豊かなドックでは、修理や改造で大忙しである。
彼は……指揮官は、こうして平和な時間の港を見るのが好きだった。
陸から見る艦は皆、荘厳な宮殿のようであり、気高き威容の城塞にも見える。
そんな中、一際目立つ塔がある。
まるで童話に登場する、悪い魔法使いの塔……そう思っていると、背後から彼は声をかけられた。
「殿様っ! お仕事は休憩ですか?」
振り向くとそこには、お姫様がいた。
重桜の民族衣装を着た、お姫様。そう、あの魔法使いの塔の本当の主だ。
今日も山城は、にっぽりとゆるい笑顔で近付いてくる。
どういう訳か、彼女は指揮官のことを『殿様』と呼ぶ。確か重桜での君主の呼び名だ。彼女たちKAN-SENを統括する人間だが、生憎と彼は一国一城の主ではない。
そう、居並ぶ艦は全て、民を守る城や要塞ではない。
民を守るのは同じだが、自ら戦いの海へと漕ぎ出す鉄のいくさぶねなのだ。
「そうそう、聞いてください殿様! 私、今……今っ、開発されてるんです!」
思わず指揮官は、突然の告白に黙った。
意図せずけしからん想像が脳裏を駆け巡る。
気付けば顔が熱くて、とてもじゃないが妻たちには見せられない表情をしているかもしれない。
「あっ、間違えました……そう、改造。改造されてるんです!」
そう、ドックで山城の艤装は大規模な改装を行っている。
その許可を上層部に取り付けたのは、ほかならぬ指揮官だ。知っているし、決して忘れない。
山城はキューブから生まれたKAN-SENの中では艦歴の長い娘である。
言い換えれば旧式で、運用の難しさが度々目立ってきた子だった。
だが、指揮官はそんな彼女を弱いとは思わない。
まだまだ活躍の余地はあるし、その機会を作るのが自分の仕事だと思っている。
「ふふ、殿様にだけ……ちょっとだけ、改造の秘密を教えちゃいます」
間近に迫る山城が、ぐっと身を乗り出してくる。
そのスタイルのよい曲線美が近付いてきて、思わず指揮官はのけぞった。鉄とオイルの匂いが潮風に入り交じる中、甘い香りが鼻孔をくすぐる。
鼻先同士が触れ合うほどに近い距離で、山城は真顔になった。
いつも笑顔のマイペース娘が、珍しく真剣である。
「殿様……私、航空戦艦になるんです!」
勿論、承知している。
後部の砲塔を撤去し、そこに小規模だが航空甲板を増設するのだ。運用できる航空機は水上機等に限られるだろうが、これで戦術的な運用に幅が出る。
もう既に、戦艦同士が砲火を交える時代は終わりつつあった。
まだまだ必要な戦力ではあるが、航空機や駆逐艦との連携が欠かせない。
そして、セイレーンとの戦争では次第に、空母を中心とした機動部隊による戦術が定着しつつある。
そんな中での実験的な意味合いも強いが、指揮官は可能性を信じていた。
そんな彼に、山城は少し得意げに小声でささやく。
「航空戦艦……つまり、私は空を飛べるようになるんです! 凄いですぅ……これで飛行機もなんのその、です! もーっと、殿様のお役に立てますよ、私!」
指揮官は再度絶句した。
そして、次の瞬間には込み上げた笑いに無条件降伏してしまう。
気付けば彼は、声をあげて気持ちよく笑っていた。
無邪気で無垢な山城の、そのかわいらしい勘違いがとてもおかしかった。おかしかったが、決して愚かだとは思わない。
なにより彼女は、今もフンス! と鼻息も荒く両の拳を握っている。
「あれぇ……殿様! なんで笑うんですか! ……山城は、もっと殿様のために戦いたいです。もっともーっと、お役に立ちたいんです!」
姉の扶桑が知的な美人なら、妹の山城は可憐な童女のあどけなさを残している。どちらも好ましい女性だし、仲間としても頼れる存在だ。
そして、山城だけが殺伐とした鈍色の戦争に、一風の涼を運んでくれる。
いつでも一途で一生懸命、ドジでドン臭いが誰からも好かれる不思議な少女だ。
指揮官はひとしきり笑ったあとで、本当のことを教えてやる。
瞬間、シュボッ! と山城は真っ赤になった。
「えぅ……そ、それって……つまり、その……お空、飛べないんですか?」
指揮官は黙って頷く。
ついつい神妙にしてしまったので、笑いの第二波が休息接近中だ。既に彼は、山城という名の喜劇兵器から爆笑攻撃を受けている。
だが、それはとても愛らしい。
この娘はいつも、周囲を笑顔にさせてしまうのだ。
「航空戦艦って、航空母艦の機能を持った戦艦なんですか……ほええ」
山城は心底感心したように、目を丸くしてしまった。
あまりに素直で、無防備で、そして眩しい。
純真な彼女の心には、この戦争はどう思われているのだろう。ふと、そんなことを指揮官は考えてしまった。
世が世なら、彼女のような人は平和な時代に幸福を求めていい筈だった。
人類に天敵がいなければ、世界を繋ぐ海が平和なら……山城もまた心安らかでいられた気がするのだ。平和な時にこそ、山城の優しいほがらかさが必要なのだ。
だが、彼女はKAN-SEN……旧大戦の記憶が象る、戦うだけの実体を持つ幻影。
それなのに、山城には表情が豊か過ぎるのだ。
「むむむ……はっ! どうしましょぉ、殿様ぁ! 私、私」
その場でぴょんぴょんと、山城は焦り顔で跳ねる。
どうしたのかと問うと、意外な答が返ってきた。
「私……お伊勢さんに、教えちゃいました。航空戦艦、飛べます! って言っちゃいましたあ!」
今度は指揮官が焦る番だった。
山城に悪気はない、むしろ親切から出た言葉だったと思う。
因みに伊勢もまた、古い艦歴を持つ超弩級戦艦である。武道を嗜み、妹の日向と共に日夜道場で汗を流している。竹を割ったような性格の、気持ちのいい女性だが……怒ると怖いし、嘘には厳しい人でもある。
騙すつもりはなかったにしろ、山城は伊勢に誤った情報を伝えてしまったのだ。
「どうしましょう、殿様。お伊勢さん、怒るかも……これは、薙刀特訓三時間コースかも!」
すぐに容易に、想像できた。
道場で伊勢にしごかれ、半べそで薙刀を振るう山城の姿が。
ちょっとかわいそうだけど、やっぱりかわいい。
悪いなと思ったけど、クスッと笑えてしまった。
それを見た山城は、頬を膨らませる。
「もぉ、殿様! 私、困ってるんです。笑うなんて……でも、ふふ、そうですよね」
すねて見せたかと思えば、また笑う。
やはり、笑顔がいい。
ころころと表情を変える、感情表現豊かな山城が眩しい。
「お伊勢さんに謝りにいかなきゃ。うう、怒られるかも……でも、ごめんなさいしなきゃ」
ついつい指揮官は、自分も一緒に行こうかと口を出してしまう。
どうしても山城を見てると、構いたくなってしまうのだ。
だが、山城は彼の申し出にパッと表情を明るくして、そして頸をブンブン横に振る。
「ううん、自分で言います。私の勘違いだし、私がちゃんと言わなきゃ! ですよね、殿様!」
そう言うと、一人で大きく頷き、山城は来た道を走って戻る。
走りながらも、振り返って大きな声で手を振ってくれた。
「殿様、改造が終わったら山城に乗ってくださいね! 私、生まれ変わってこれからも、ずっと、ずっと、ずーっと! 殿様と一緒に戦いますから!」
元気よくそう言って、山城は行ってしまった。
その背が見えなくなるまでずっと、指揮官は目を細めて見送る。
今日もドックの中の戦艦山城は、誰よりも高く長い艦橋で母港の平和を見守っていた。
実はアズレンでは、伊勢と日向より先に、扶桑と山城が航空戦艦に改造されるんですよね。これは実は、史実での空母改装案で、最後まで残ったのが伊勢型と扶桑型だったからだと思います。
まあ、扶桑型は足が遅い(速力が出ない)ので、伊勢型が選ばれたんですが。
多分、世界広しといえども『半分が戦艦で、もう半分が空母の軍艦』を本格的に使おうとしたのは日本だけかもしれません。実は兵器というのは、アニメや漫画で出てくる『汎用性に溢れた万能な兵器』ってのは、なかなか存在しません。多くの兵器は用途が決まっており、想定された局面で活躍するように作られています。戦闘機にはマルチロールファイターという概念がありますけどね。
山城ちゃん、かわいいなあ…殿様って呼ぶあの声、本当にかわいい。俺は昔から「航空戦艦といえば伊勢! そして日向!」な人だったのですが……ゲームだからこそ、本来は実現しなかった航空戦艦の山城ちゃんを使うのが、とても楽しいですね~