アズールレーン二次創作 ~ 今日もあの娘は元気です ~ 作:ながやん
余談であるが、朝鮮戦争当時に北朝鮮側が「魚雷艇により米帝の巡洋艦ボルチモアを撃沈した」と公表、自らのプロパガンダとした。だが、実際にはボルチモアは朝鮮戦争には従軍しておらず、米海軍の艦艇に撃沈された艦は存在しない。ようするにデマだったようである。1956年5月31日にワシントン州ブレマートンで予備役となり、1971年2月15日に除籍、翌年にスクラップとして解体された。
指揮官が学園区での仕事を終えると、既に時は昼下がり。
今日も潮風が、爽やかな空気を運んでくる。
夏の盛りでギラついた太陽さえ、ここでは静かに輝いていた。
さてと、オフィスに戻るべくバス停へ向かう。移動にはリムジンを使う者もいたし、指揮官の権限で秘書艦に車を運転させる者もいた。
だが、少年はなるべくKAN-SENたちと同じ交通手段を使うようにしていた。
小さな端末を取り出せば、あいにくどうやらバスの時間まで少しある。
いっそ歩こうかと思った時、不意に背後で声がした。
「やあ、指揮官。この時間はバスはやめたほうがいい。もうすぐ駆逐艦の子たちが下校時間だからね」
振り向くとそこには、制服姿の少女が微笑んでいた。
凛として涼やかで、ショートカットも手伝って中性的な顔立ちだ。それでいて、すらりと手足の長い痩身は、確かに少女特有の柔らかな起伏が見て取れた。
彼女の名は、ボルチモア。
ボルチモア級重巡洋艦のネームシップだ。
「バスを待つにしても、この炎天下だし……とてもじゃないけど、オススメできないな」
そう言って、ボルチモアは引いていた自転車に颯爽と跨った。
スカートのプリーツが、ふわりと翻る。
そのまま車上の人となると、ボルチモアはペダルを蹴って指揮官の前を通り過ぎる。そして、目と鼻の先で停止して振り返った。
ポンポンと自転車の荷台を叩いて、白い歯を零す。
「ほら、乗って乗って。司令本部まででしょ? 送ってくよ」
指揮官は驚き、同時に戸惑った。
自転車の二人乗りは、基本的にあまり褒められたことではない。危ないし、艦隊のメンバーであるボルチモアになにかあったら大変である。
同時に、非常に魅力的だ。
単純に、オフィスに早く戻れるからだけではない。
どこかで自分が知ることさえ忘れた、青春なるものの甘酸っぱさを感じたからだ。
とはいえ、どうしたものかと返事を選んでいると、
「いいから、遠慮しないで。怒られたりしないよ? だってここ、学園区だし」
思い出した。
ここはKAN-SENたちが女学生として通う学び舎で、ユニオンやロイヤルといった各陣営の寮舎が並ぶ学園区だ。この場所では、KAN-SENたちによる自治が認められている。
とどのつまり、同じ母港でも半ば治外法権なのだった。
それに、先程の心配も杞憂というものである。
キューブと呼ばれる物質から生成される、過去の艦歴からイメージされた鋼の戦乙女……KAN-SEN。現代に蘇った軍艦を纏う彼女たちの身体能力は、人間とは比べ物にならない。
自転車の二人乗りで事故に合うなど、飛行機事故よりも確率の低い奇跡みたいなものだ。
おずおずと指揮官は、少し高い自転車に跨った。
「しっかり掴まってて」
ボルチモアが前を向くと、ペダルを踏み込む。
慌てて少年は、目の前の柳腰に抱きついた。
瞬間、風になる。
まるで滑るように軽やかに、二人を乗せたスポーツタイプの自転車が走り出したのだ。なんの危なげもなく、静かに軍港の方へとなだらかな坂道を降り始める。
周囲の景色は皆、グングン背後に飛び去っていった。
「指揮官、今日はどうして学園に? あ、待って……当ててみせるから」
どこか楽しそうに、ボルチモアは息を弾ませていた。
そのまま彼女は、一気にギアをトップに叩き込む。
対向車もまばらで、自転車はまるでレールの上をなぞるように路肩を疾走した。
「食堂の件、かな? ほら、最近メニューが増えたし。指揮官が手配してくれたんだよね。それとも、あれかな……秋の文化祭の件かな」
なんだかボルチモアは、とても楽しそうだ。
そして指揮官は、そんな彼女の背中にへばりついている。
真っ白なシャツの向こう側に、確かなぬくもりがあって、鼓動が息衝いている。
KAN-SENたちは人間ではないが、高鳴る心臓の音が感じられる気がした。
そんな時、不意にボルチモアがブレーキを握り締めた。
急停車で荷重がフロントに押し出され、彼女との密着度が増す。
慌てて離れると、もう既に次のバス停の前だった。
そこでベンチに座っていた少女が、ボルチモアに声をかけたのだ。
「お疲れ様、ボルチモア。あら、指揮官も一緒なのね。……なんだか怪しいですわ、ふふふ」
「やあ、エイジャックス。たまたま学園で一緒になってね。バスまで少し時間があるし、送ってくことにしたんだ」
「あら、そうなの? それだけ?」
「そうさ、私は重要な輸送任務中なんだ。要人護衛も兼ねたね」
「まあ、そういうことにしといて差し上げますわ」
優雅で優美、それでいて鋭いトゲを隠した少女はエイジャックス。ロイヤル所属の軽巡洋艦である。指揮官はよく、ややサディストなきらいがある彼女に随分とかわいがられているのだった。
勿論、そんなエイジャックスも戦場では頼れる仲間で、とても信頼している。
それが伝わってるからか、からかったりいじったりしてくる彼女にも悪意は感じられなかった。
「それはそうと、ボルチモア。明日の放課後はお暇かしら?」
「明日? えっと、どうだっけな。ちょっと待って」
「ええ。速急に確認して頂戴」
ちょっと長くなるのかなと思い、指揮官は一度自転車を降りる。
ボルチモアは、アナログな紙媒体の手帳を取り出し、明日のスケジュールを確認した。
「明日はまず、バスケット部に助っ人を頼まれてて」
「まず? まずって、どういうことですの?」
「そのあと、重桜の子たちの柔道の稽古相手になって」
「……で?」
「それから、映画研究会のフィルム整理を手伝うことになってる」
「はぁ……いいように使われてるんじゃなくて? ま、私が言えた義理じゃありませんけど」
どうやら、エイジャックスもボルチモアを頼ろうと思っていたらしい。
「実は明日、テニスの試合がありますの。ダブルス、私のパートナーをお願いしたかったのだけど」
「あ、それって鉄血の子たちとの?」
「ええ。でも、忙しいのなら無理ね。他を当たりますわ」
「その試合、行くけど」
「へっ? ま、まあ! そう、それは助かるわ。貴女なら、脚を引っ張ることもないでしょう」
エイジャックスが満面の笑顔を咲かせて、慌てて澄まし顔を取り繕う。
だが、ぱむ! と手帳を畳んだボルチモアには、不敵な笑みが浮かんでいた。
「鉄血からも、テニスの助っ人を頼まれてたんだ。楽しみだね、エイジャックス」
「なっ……う、裏切り者っ!」
「裏切っちゃいないよ、オイゲンの方が先に話を持ちかけてきたんだもの」
「なんてことかしら……助けにならないばかりか、既に敵に回っていたなんて」
どうやら、ダブルブッキングだったようで、それも紙一重の差で鉄血に先を越されたようである。ボルチモアは「そういう訳だから、ごめんね」と一言謝って、再び自転車に乗ろうとする。
しかし、エイジャックスは溜息を零しつつ、指揮官を見て……ニヤリと笑った。
「ちょっと、指揮官? こういうのは普通、殿方が自転車をこぐのではなくて?」
麗しい容姿を全身全霊で裏切る、剃刀のような視線が指揮官に突き刺さった。あの、見下すようなエイジャックスの目に、指揮官はたまらなく弱い。
慌てて指揮官は、ボルチモアからハンドルを奪って自転車に乗る。
爪先立ちでギリギリ、どうにか地に足がついた。
「えっ、いいよ指揮官」
「ふふ、乗せてもらったらどうかしら? みんなの憧れのボルチモアお姉さま?」
「……あっ、エイジャックス! ちょっと、陰険じゃないか」
「たまには女の子っぽいこともやらされてみてはどうかと。ほら、指揮官は急いでるのではなくて?」
少し顔を赤らめたボルチモアだったが、舌戦ではどうやらエイジャックスに勝てないらしい。恥ずかしそうにそそくさと、彼女は脚を揃えて荷台の上に腰掛けた。
「覚えてなよ、エイジャックス? 明日、テニスでコテンパンにしたげるから」
「あーら、怖い怖い。ふふ……明日の試合、楽しめそうね」
「お互いにね。じゃ、また明日!」
「ええ、ごきげんよう」
指揮官は、精一杯の力を振り絞ってペダルを踏んだ。
少しよろけたが、再び自転車は走り出す。
そして、そっと背中にボルチモアの体温が密着してきた。
ふわりと風になびく髪から、甘やかな香りが鼻孔をくすぐる。
なんだか身体が熱くて、指揮官はとにかく一生懸命に自転車をこいで走るのだった。
いやあ、ボルチモアちゃん人気ですよね。俺も好き…こう、颯爽として格好いい女の子って、大好きなんですよ。ゲーム内でも火力重視の砲戦型で、ユニオン陣営では二人目のSSR重巡ですね。妹のブレマートンもいて、今はもっと増えたと思いますが。いやしかし、体つきがエロい。
そういえば、彼女の着替えスキンって二種類あって、今年追加されたテニスのやつ、みんなびっくりしてたみたいですね。なんと、あのボルチモアちゃんの身体にイレズミが!みたいな。いやあ、海外だと結構タトゥーはスナック感覚で入れたり入れなかったりなんで、日本の価値観とはちょっと違うんですよね。でも、優等生で文武両道、みんなのあこがれのお姉ちゃんが実は…みたいなの、エロいですね。悪い男に捕まったりしててほしいですね(ぉぃ