アズールレーン二次創作 ~ 今日もあの娘は元気です ~   作:ながやん

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 ドイツ海軍で、アドミラル・ヒッパー級に続く重巡洋艦として設計された、ローン級の壱番館。……に、なる筈だったが、建造されることなく終戦を迎えている。名は、プロイセン王国のアルブレヒト・フォン・ローン将軍に由来する。

 ゲーム中に登場するローンは(もし史実で建造されていれば)二代目であり、初代は1903年6月27日に進水している。先代ローンは第一次世界大戦を戦い抜き、その後は練習艦となった。


WARMONGER GIRL

 母港も少し歩けば、周囲に豊富な自然が広がっている。

 地図にない島、秘密の基地……アズールレーンと呼ばれる、利害も国境も超越した艦隊の拠点だ。そして、ここから海へと船出する少女達は、その半数以上が二度と戻らない。

 謎の敵対勢力と戦う日々は、終わりが知れぬことを教えてくれる。

 だからこそ、今日のような平和な日は貴重だった。

 艦隊を預かる指揮官の少年は、浜へ降りて岩場を歩く。

 

「あ、指揮官……ふふ、見つかってしまいましたね」

 

 潮が引いた岩場の影に、その少女は立っていた。

 振り返るのは、重巡洋艦のローンである。キューブと呼ばれる未知の物質から生まれる、海神の加護を得た大洋の天使……KAN-SENと呼ばれる軍艦の化身だ。

 ローンはブーツを脱いで、裸足で水の中を歩く。

 彼女の足元を、潮に置いていかれた小魚達が泳いでいた。

 

「私のこと、探しに来てくれたんですよね? 指揮官」

 

 指揮官と呼ばれた少年は、微笑むローンへと大きく頷いた。

 彼女は他のKAN-SENとは少々異なる。キューブから生成されるKAN-SEN達は、今の技術では任意の艦を生み出すことが難しい。せいぜい、艦種が大雑把に指定できるくらいである。

 そんな中、科学研究所ではキューブの研究が進んでいた。

 開発ドッグにて、本来存在しない艦を新規設計、製造する試みがなされていたのである。

 ローンはそうして生まれたKAN-SENだった。

 だからだろうか、なかなか他の艦隊メンバーと打ち解けてくれない。

 ローンは潮溜まりの中を歩きながら言葉を零し続けた。

 

「私、仲間を守りたい……みんなと仲良くして、協力して戦いたい、けど、駄目……駄目なんです」

 

 ローンの戦いは、一言で言うと苛烈だ。

 獅子奮迅という言葉は、彼女のためにある。

 穏やかで柔和な今の姿からは、想像もできない……軍神マルスの化身となりて、味方の最前線に立って戦うのだ。己の身を盾とし、己自身を剣として闘争に踊る姿は、味方すら恐怖を感じて足が竦むという。

 そう、普段とは裏腹に狂戦士じみた姿が、多くの仲間達に恐れられている原因なのだった。

 

「でも、みんなは理想のため……指揮官のために戦ってる。私とは違うんです。私は……私にとっては、戦いこそが目的。手段そのものに他の目的は必要ないんです」

 

 自他ともに認めるウォーモンガー、それがローン。

 戦争のために生まれたからこそ、誰もがその外に戦い以外を求める。友情や愛情、趣味や娯楽……一部のKAN-SENは既に、他の軍人と男女の仲だし、ケッコンした者達も多い。

 勿論、指揮官にもそういう女性はいる。

 母港では、KAN-SENとの重婚はむしろ推奨されており、彼女達に戦い以外の世界を広げてやることは人類の使命とも言えた。

 そのことを伝えたいのだが、指揮官の不器用な言葉が気持ちを象らない。

 そして、ローンは足元に視線を落とす。

 

「戦うのが、好き。破壊と殺戮が、好き。誰かのためじゃなくてもいい、自分のために戦ってるの。だから……私は、みんなとは違う」

 

 彼女は恐らく、知っているのだろう。

 自分のような戦争狂は、平和な時代には生きられないと。そして、平和を望んでいない自分自身の本性を、誰よりも理解しているのだ。

 それは、平和のために戦う艦隊の中では少し息苦しい。

 平和がもし訪れるなら、その平和とさえ戦わねばならないからだ。

 指揮官は意を決して、濡れるのも構わず潮溜まりへと歩み出す。

 靴やズボンが濡れたが、そのままローンの前に進んで彼女に向き合った。

 

「あの、指揮官?」

 

 ――君が、必要だ。

 それだけしか言えなかった。

 華奢な肩に両手を置いて、じっと大きな瞳を覗き込む。

 だが、ローンは目を逸らして、寂しそうに笑った。

 

「私は、この潮溜まりの魚達と同じです。潮が満ちればよし、それまでにこの場所が干上がれば……一緒に死んでしまう。私にとって、海とは戦い。波濤の果てに見るは、平和ではなく、闘争。こんな私じゃ、みんなと並べない……一緒にいられない」

 

 魚は海とは離れられない。

 他のKAN-SEN達のように、陸に戦い以外のなにかをローンは見つけられないという。

 そして、平和という名の太陽が天に輝けば、戦いの海は消えてしまうのだ。

 指揮官が必死で自分の中に言葉を探していた、その時だった。

 

「あ……居た、です。こっち。ローンさん、発見です」

「ナイス、綾波っ! ふえー、こんなとこじゃ日に焼けちゃうよー」

「ローンさん、元気ない? アメさん、あげたら元気、でるかなあ」

 

 他のKAN-SEN達がやってきた。

 皆、ローンを探してたのだ。

 指揮官が命令せずとも、孤独な仲間を孤独なままにさせない……そういう雰囲気がこの艦隊にはあって、それは家族の絆に似ていた。

 ケッコンせずとも、指揮官にとって皆は家族以上の存在だった。

 帰ろう、とようやく言えた。

 皆もウンウンと頷く中、ローンはぎこちない微笑を向けてくる。彼女の、生まれ持った闘争本能との戦いは終わらない。だが、彼女が自身の狂気と向き合う限り……アズールレーンの鉄壁の盾は揺るがぬ強さで仲間達を導くのだった。




 俺のローン返済はまだ、始まってすらいねえよ!(謎のイケメン顔)

 いやあ、ヤンデレ気味な艦は多いですが、ここまで極端な娘も珍しいですね…普段は母性あふるるお姉さんなのに、戦闘になるや鬼神の如く……うーん、いいですねえ!大好きです。もしかしたら母港でも、あんまり極端な性格、その上鉄血艦で、しかも開発ドッグ出身というぼっち属性を匂わせる雰囲気……でも、こんな素敵な女性に重い愛で圧殺されてみたいものですね。

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