アズールレーン二次創作 ~ 今日もあの娘は元気です ~ 作:ながやん
マサチューセッツはサウスダコタ級の三番艦として、1941年9月23日に進水。カサブランカ沖海戦にてジャン・バールの砲撃に対し反撃、枢軸国に対して始めて砲撃したアメリカ軍艦艇となる。その後は対日戦へと回され、数々の海戦を戦い抜いてゆく。日本本土に対しても、浜松や釜石に対して艦砲射撃を実施、特に1945年8月9日の釜石への再砲撃は、アメリカ海軍の第二次大戦での最後の16インチ砲の砲撃となった。ビッグ・マミーの愛称で親しまれた本艦は、今もマサチューセッツ州フォール・リバーにあるバトルシップ・コーヴに係留され、一般に公開されている。
ビーチにさざななみが、寄せては返す。
少し早めの海開きを祝福するように、天には燦々と太陽が輝いていた。
気温32度、夏日。
指揮官はたまには息抜きをと、KAN-SENたちでごった返す砂浜に来ていた。見渡せば、今日も母港に一時の平和が満ちている。
ビーチチェアに身を沈めて、彼は眼前の光景に目を細めていた。
だが、突然隣から双眼鏡が渡される。
首を巡らせれば、水着のアークロイヤルが同志を見る目を輝かせていた。
「閣下もきっと、駆逐艦の子たちを……そうです! 違いありません。さあ、私の予備の双眼鏡を」
なんの話だと思ったが、つい受け取ってしまった。
アークロイヤルは時々、妙だ。いつもは毅然として凛々しいのに、駆逐艦の前ではまるでだらしない。駆逐艦の少女たちは幼い容姿の者が多く、彼女にはそれが憧れと慈しみを注ぐに足る対象となるようだ。
ともあれ、しょうがないので一緒に双眼鏡を覗き込んでみる。
すると、波打ち際にネットが張られてるのが見えた。
どうやら、これからビーチバレーの試合があるらしい。
「閣下、二時の方向、艦影! ……あれは重桜の文月、三日月、水無月、そして卯月! はあ、かわいい……尊い!」
隣のアークロイヤルを放置し、指揮官は今正に始まらんとする一戦に注視した。どうやら2on2で試合が行われようとしていた。
コートの手前側には、見慣れた水着姿が二人。
勿論、今年の新しいおろしたての水着を着ている。
視線に気付いたのか、秘書官にして妻のレキシントンが振り返った。こちらに微笑み手を振っている。空母は本当に目がいい。
その隣は、シュルクーフだ。
「むむ! 閣下、続いて八時の方向、艦影多数! クッ、水着が七分で裸が三分だ……は、裸っ!? ル・トリオファン、それはいけない! それ以上いけない! は、鼻血が」
どうやらアークロイヤルは、見てはいけない方向を見てしまったようだ。
そっと彼女の傍らに双眼鏡を返して、指揮官は立ち上がる。
自分の第一夫人と第二夫人が、そろってビーチバレーでコンビを組んでいるのだ。間近で応援してあげようと思えば、焼けた砂の上で足取りが軽い。
今日は指揮官も、ハーフパンツにアロハシャツと砕けた格好だった。
そして、ネット際では既に舌戦が始まっていた。
「……何故、私が貴様と組まねばならんのだ」
「同感だね。ぼく、この暑い中で運動なんか……まして、あなたがパートナーだなんて」
レキシントンとシュルクーフの相手は、どうやら揉めているようだ。
ふと見れば、見事な肉体美の美女が二人。際どい水着の大胆さも、二人の起伏と曲線を飾るアクセサリーに過ぎない。そして、裸である以上の美しさはまるで渚のヴィーナスだ。
ジャン・バールとマサチューセッツは、互いに胸の膨らみを突きつけ合うように睨み合っている。険悪な雰囲気だが、構わず試合が開始された。
あの二人が珍しいなとは思うが、いい傾向だと思う。
砲火を交えて戦った仲だけに、互いを認めあっている二人だから。
「レキねーさんっ! いっくよー!」
「はいはい、シュルクーフちゃん。お手柔らかにねえ」
ボールが真夏の空に舞う。
ネットを挟んで対決するは、大海原の女神たち……空母と潜水艦のコンビが勝つのか、戦艦タッグの巨砲が勝負を制するのか。
気付けば周囲にも、沢山のKAN-SENが集まり出していた。
だが、実力が拮抗しているように見えて、徐々にリズムが狂い出す。
ジャン・バールが苦し紛れにボールを拾えば、その行く先にマサチューセッツがいない。逆に、マサチューセッツは少し寝ぼけているのか、長身を活かしたブロックで飛んでも、その手をボールがすり抜ける。
「やたっ、サービスエースッ! レキねーさん、いい調子っ!」
「ふふ、弟くんも見てるから、これくらいはね」
レキシントンがなんでもそつなくこなす才女だとは知っていたが、運動に汗を流す姿はどこか新鮮だ。そして、彼女とハイタッチを交わすシュルクーフは、いつも以上に眩しい笑みを咲かせている。
一方で、ジャン・バールとマサチューセッツはどうにもギクシャクしていた。
「シュルクーフッ! 貴様、裏切ったな! ぐぬぬ」
「いやいや、あなたはヴィシアで彼女はアイリスだろう」
「マサチューセッツ、貴様も貴様だ! もっと本気を出せ!」
「……あなたはどうなのさ。戦う相手、間違えてない?」
二人の間を、気まずい沈黙が横たわった。
ネットを挟んで、天国と地獄だ。
だが、それだけで終わらないのが真夏の二大戦艦だった。瞬時に二人の張り詰めた空気が、心地よい緊張感へと変換されてゆく。
大量の点差を背負った今になって、どうやらジャン・バールは本気になったようだ。
その気迫に呼応するように、マサチューセッツも眠たげな表情を引っ込める。
そして、運命の一球がレキシントンから放たれた。
「クッ、マサチューセッツ!」
「わかってる! ぼくは結構、対空もっ! 得意、だからっ!」
ラインギリギリの鋭いサーブが、砂の上に突き刺さる。
かに見えたが、マサチューセッツの筋肉美が躍動した。彼女はギリギリのレシーブでボールを拾うと、そのまま前転で一回転して立ち上がる。
その時にはもう、宙へと放られたボールの下にジャン・バールが身構えていた。
「ジャン・バール、上げて!」
「わかっている、私に命令するな!」
全身を使って、ジャン・バールがいいトスを上げた。
だが、あまりにも安定し過ぎていて、スピードがない。既にレキシントンは、コートに戻ったシュルクーフとスパイクに備えている。
ジャン・バールは高く上げすぎた……そう思ったのも、一瞬だった。
砂を蹴り上げ、マサチューセッツが空へ翔ぶ。
「レキねーさんっ、来るよ!」
「ええ、任せて!」
「ぼくと高さで勝負? 自慢のエレクトリックディーゼルじゃ、ちょっと無理、かな?」
全身を伸ばして、レキシントンとシュルクーフがジャンプした。
ブロックするには十分な高さだ。
だが、マサチューセッツのスパイクが炸裂することはなかった。
そして、彼女の背後からジャン・バールが低く鋭く跳躍する。
「あっ、フェイント! ずるいっ!」
「あらあら、まあまあ」
「戦艦を、大戦艦を舐めるなよっ! このっ、一撃で……決めるっ!」
砲弾のようなスパイクが、ライン際に突き刺さった。
そのまま半分砂に埋まって、まだスピンしたボールが止まらない。
そして、四人がそれぞれ着地して明暗が別れた。
ボールを振り返るレキシントンとシュルクーフが、驚きに目を丸くしている。
一方で――
「やはりあなたはやればできるんだな! 今のタイミング、バッチリだったよ!」
「貴様こそ、どうして……ははっ、やはり私が見込んだ戦艦だけはあるな!」
「それはぼくの台詞だよ! さあ、反撃といこう!」
「よし、この調子で敵を粉砕してくれる! 私たちなら、できる!」
たった一点。
僅かに一点返しただけなのに。
まるで子供のように歓喜を爆発させ、ジャン・バールとマサチューセッツは抱き合って飛び跳ねた。客たちも思わず呆れるほどに、無邪気で、眩しくて、美しい笑顔だった。
だが、二人は周囲の視線に気付いて、弾かれるように離れる。
「ちょっ、調子に乗るなよ! いまだ点差は歴然だ」
「そうだね……まあ、あなたも今後は気を抜かないでほしいな」
「私がいつ、気を抜いた! 貴様こそ、今の力を最初から出してれば」
「はいはい、ほら、プレーが再開されるから」
「ぐぬぬっ! 貴様はいつもそうだ! いつもいつも、いつも!」
「それこそ、こっちの台詞。最近、いつも一緒だし」
こうして試合が再開される。
とりあえず指揮官は、他のKAN-SENたちが心配していた二人の仲を、あまり構わなくてもいいんじゃないかと思い始めていた。日常生活でもなにかと張り合い、いがみ合い……どちらかというと、ジャン・バールが一方的に絡んでるようで、マサチューセッツも譲ろうとしない。そんな仲を心配する声は多かったのだ。
だが、それが杞憂だったと、吹き渡る海風が指揮官に教えてくれるのだった。
はい、ジャン・バールちゃんとマサチューセッツちゃんです!去年は、ガチャを回せどずっとジャン・バールちゃんだけが出続け、ついぞ最後までマサチューセッツちゃんを引けませんでした。悔しい…もう、ジャン・バールちゃん見たくない…(笑)でも、普段はいがみ合ってる(片方が一方的に突っかかって、もう片方がややスルー気味な)女の子コンビっていいですよね!仲が悪いのに、ここぞって時には抜群のコンビネーションを見せたり、息ぴったりだったり。そういうの、ちょっと憧れちゃいますね~