赤いジャージを着た青年は今日も手作りの舟で釣りをしていた。
ちょっとした修行のついでに始めた事ではあるが青年はそれなりの手腕があるらしく面白く釣れるが魚は取る事はなく直ぐにリリースしていた。
その素早さも達人のようで魚に一切のダメージを与えるような事はなかった。それを面白そうに見ていたのが上空で一枚のシャター音を出してから青年の元へと近づいてきた。
「これはこれは。少し取材してもよろしいですか?」
青年は直ぐに竿を湖から上げるとその人の姿を見た。
山伏のような赤い帽子を被り黒髪のセミロングであるのは分かる。首には先程のシャター音を出したと思われるカメラと左手にはメモ帳、右手にはペンと取材する気満々だった。服装は意外にもシンプルで白いシャツに黒のフリルのついたミニスカート。
何となく直ぐに下を向いた青年にその人は更に話しかける。
「私は文々。新聞の記者の射命丸 文と申します。以後お見知り置きを。」
射命丸がそのように話しかけるが青年は反応は見せなかった。シャターを無断に切られているので仕方がないと言えばそうなるが射命丸もそこで諦めるような人ではなかった。
「今は何をされているんですか?」
「強引だな。」
青年は射命丸の質問に答える事なく素早くそして淡々とした口調で話した。
その氷の冷たさを持っているその言葉には流石に射命丸でさえ肝を冷やした。一言で黙らせるなんて、とか思ったのかもしれないがそれで諦めるような胆力はしていなかった。
「私はそのようなつもりはありませんよ。対等に取材を受けていただければいいんですよ。」
青年はフン、と鼻で息をするがそれ以上は話すような事はなかった。それがどれだけの事なのかはさておき何も情報を得られないまま帰るのも癪に触るのか射命丸は青年の返答を待っていた。
「取材なんてされる筋はない。帰れ。」
「まぁまぁ。そのような事は言わないでくださいよ。」
青年は射命丸に鋭い視線を送るだけで反応を見せるような事はしなかったがその異様な空間は流石に射命丸でもいづらかった。
「で、何が聞きたい。」
青年は折れたのか、それとも面倒になったのか、さっさと答えて帰ってもらおうと思ったのかどうかは知らないが射命丸の取材を受けるつもりらしい。
射命丸は少し喜んでいたが青年のムスッ、とした表情は変わっていないのでどうしたものかと考えていた。
「今、幻想郷では至る場所で花々が咲いている異変が起きていますがその点はどう思われますか?」
「別に。」
青年は別に花が咲いている事については何も感じてはいなかった。それどころか興味もなかった。魔理沙は調剤用の花が咲いているなら嬉しいとかなんとか言っていたようなそうでもないような気はしたが青年には関係のない事だった。
「では、今博麗の巫女が異変の解決に向かっていますがどう思われますか?」
「多分、無駄だろう。」
「先程から気乗りしていなさそうですが如何されましたか?」
「別に。気にしてくれるな。」
「そうですか。」
射命丸はきっと感じているはずだろう。口を割るような気は全くなくこのままでは新聞のネタにもならなさそうと射命丸は思った。
焦ってきた射命丸だがそれを表に出さない辺り技量があると言うのかこれまでの経験がそこにあるのか。青年は遂には釣り糸を湖の中に入れた。
そして細かく不規則に揺らしては竿をしならせていた。そして釣り上げると針から魚の口を外すとその場に落とすように魚を湖に戻していた。
その様子には射命丸は何も言葉を出せなかったがそれで諦めたりするような人ではなかった。
「先日、貴方はあの風見 幽香と勝負をしたそうですが何を思いましたか?」
「手を抜かれているとは感じたが一回しか立ち会ってはいないからよく分かっていない。」
「では、何故そう思ったのでしょうか?」
「余り力を入れているようには見えなかった。それだけ幽香の力が強かったのだろう。」
「そうなんですか。よく生きて帰れましたが何かコツなどはあるのでしょうか?」
「危害を加えるつもりはないことを伝えただけだ。」
射命丸はここまでの全ての言葉をメモ帳に書いていた。
それはもう青年の耳に入るその音でよく分かった。青年は不規則に竿を動かしながら射命丸との会話を成立させているが何処か別のところに集中が向いているようにも思えた。
それが何処に向いているのかは射命丸には分からなかった。
「ところで何を気にしているのですか?」
「もうそろそろあの時間になるかと思ってな。」
「その時間とは?」
「メイドたちが遊びに出てくる時間だ。そうなると取材どころではなくなるから早めに帰るといい。」
青年はそれだけを言うと竿を器用に舟の中に入れて櫂で舟を漕ぎだしていた。
水面に波が立つ音がまだ静かな霧の湖の中で響いていた。その時に射命丸はその舟についていきながら質問をぶつける。
「ところで貴方はこの館の従者なんですか?」
「一応そうらしいが俺は認めていない。」
射命丸はふーん、とだけ返して何となくメモ帳に書いている。しかし実際考えてみると図々しいので紅魔館に人間に聞かれると少しまずかったりする。
が、その事を今更気にすることもないので意外とお咎めが無かったりもするかもしれない。
「私は真面目に新聞を書いているので機会があれば人里まで買いに来てください。」
射命丸はそれだけを伝えると遥か上空へと飛び上がる。青年の目では追いつけない程の速度で何処かに行ってしまったので青年はもう気にするような事はなく舟を陸に寄せて止めておいた。
そして青年は門の前に座ると横に寝ている門番と同じく精神統一をして時間を過ごすのである。