青年放浪記   作:mZu

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第103話

石段を降りた青年はその懐かしい林道の中に足を踏み入れていた。

 

その場所とは青年がこの幻想郷で目を覚ました時にいた林の中だった。

 

相変わらず物騒で光の通らない道だがだからこそ静寂な感じが青年には合っていた。

 

青年の足裏が地面に擦れる音、そして上の方で風に揺らされて鳴らされている合唱に耳を澄ませながらその暗闇の中を突き進んだ。

 

前にここで人喰い妖怪に出会って満足していたのか丁寧に道案内をしてくれたのを覚えている。無事に着いた事をお礼したいという気持ちが青年の中で膨らんでいた。

 

それが何方に作用しようとも気にしないと思われる青年だがこの時の足音には流石に柄を触らずにはいられなかった。

 

その音は何処かからは聞こえたのだがその方向は曲げられたように聞こえてこなかった。

 

グルグルと旋回する音を青年は正確に捉える事はできなかった。ここでは動かない方が良いとすぐに察した青年だったが一気に駆け抜ける事にした。

 

その足音の反響を任せて丁寧にそして豪快に進んでいくので音を置き去りにしているかのようにその場所からは居なくなった。

 

「して、何用だ?」

急に振り向いた青年は其処に一人の妖怪がいる事に気づいた。その妖怪は青年と同じような背丈をしていて金髪のストレートである。

 

リボンなどの装飾はないが頭の上には輪っかのようなものが浮いていて左手に魔力の込めてあるのであろう赤色の球を所有していた。そして髪型は青年と同じように後ろで一本にまとめているだけのシンプルなものだった。服装は黒のベストを羽織っているらしいが闇に包まれていて見えづらい。その異形のような姿には妖怪としては扱える。

 

「いや、何もないよ。」

その人は軽々しく受け答えをする。それなりの知能もあるらしいが青年は不信感を隠せる気がしなかった。

 

ここに来てからは如何しても上手くいかない事が多いように感じる。青年は柄を握った手が離れるような気はしないのでそのまま少しずつ下がるようにした。膝を曲げて踵を地面につけてからある程度下げる、それを両足で2回繰り返した。

 

その間合いを詰めれるのかと思ったがその人の持つ玉は少しだけ回っているようにも見えた。禍々しい紋様が何となくそのように感じた。

 

「なら別にそのように警戒心を湧き立たせるような事はしなければ良いだろう。」

青年はあまり戦闘はしたくないらしく、変に下手に出てこの場から逃げようと考えを巡らせるがそれが叶うような相手ではない事は既に承知している。

 

玉から一発だけ赤と黒を混ぜたような細いレーザーを放つ。その速度は青年の反応速度に間に合うかどうかと言う瀬戸際の速さだった。

 

青年は握っていた柄から刀身の姿を見せた。特に構えるような事をしないがその力の抜けた姿からは想像できぬ早技で次の一撃を弾く。

 

「でも楽しそうなんだよね。どれだけ苦しそうな表情を浮かばせられるんだろうと。」

その人の表情が変わった、その時には青年は剣で相手の攻撃を受け止めていた。

 

その速さもさる事ながらその力もかなりの物であるらしく青年は弾いてから一気に後ろへと下がった。間合いを詰められないようにするためにした行動ではあるがあまり意味を成さないかもしれないとこの時に青年は感じた。

 

その人の右手には真紅の刀身をした片手で持てるようなものではない剣を持っていた。その力はきっと先ほど持っていた禍々しい玉を具現化したようなものであるらしく左手には何も持っていなかった。今の青年の実力では到底かないそうもないが逃げられるような気もしない為にここで何とかして勝つ必要があった。

 

「もう辞めよう。お互いに利益のない戦いはしたくはないだろう。」

 

「うんうん、そうでもないよ。わたしには利益があるもん。」

その子供らしい返答だが見た目は青年と同じなので見合っている言動とは思えない。

 

が、青年はその時に何処かで会ったことのあるような声である事に気づいた。そしてその妖怪は確かに似ているが確証を持てなかった。

 

流石に道案内をしてくれた妖怪なのだろうが身丈が違うとまた違う雰囲気もあるので最後まで行かないわけである。

 

「どのような利益があるんだ?」

 

「今、わたしはとてもお腹が空いているんだ。だから食料を逃すわけには行かないよ。」

だろうな、青年は感じてはいけないはずなのにそのように感じてしまった。

正真正銘の人喰い妖怪であるがそれが純粋に嬉しいような妖怪は本当に一人しか知らない。そしてこの子供のような言動。

 

「あの時に道案内してくれた妖怪なのか?」

 

「それは知らない。いちいち覚えていないよ。」

その人はそのように答えた。要はただの時間潰しとして行っただけなのだろうか、それとも一年以上は経過しているので忘れてしまったのか。

 

それとも目の前にある欲望を満たしてくれるものを一目にして見惚れてしまったのか。

 

「そうか、なら素早く帰ることにしよう。」

 

「逃がさないよ。」

その妖怪は地面を抉るようにして下から斬り上げるような軌道を描いた剣を青年に向けていた。その間合いを一気に詰めてきた事には流石に慣れないが来る事は予想していたのである程度冷静に対応していた。

 

青年は両手なのだが妖怪は右手一本で対等に渡り合っていた。いや、妖怪の片手に人間の両手が対抗出来ていると言えるのか。

 

現状青年はどうすることも出来ないので相手にするだけ時間と労力の無駄であると感じた。妖怪は一旦力を抜くと青年はその隙を見て後ろに下がりながら剣を振り回して追撃を退けておいた。

 

これで逃げるような事はできないし此処で背中を見せようものなら本能のままに食される。しかしこの薄暗い場所では相手の動きを読み取るのは難しかった。

 

その妖怪は反転しながら距離を詰めて右手から回転の威力も加えた一撃を青年に向ける。

 

青年はしゃがんで避けたがそこで行動が取りづらくなっている事に気づいた。不味い、そう思った時には妖怪のさらなる追撃は加えられていた。

 

素早く持ち方を変えて突き刺しに来る剣の使い方に青年は首筋を右側に反らして向かって来ないように剣を間に入れておいた。更に来るなら左腰の剣も使うつもりだがそこまではする必要は無かった。

 

防がれた時点で妖怪は距離を空けていた。一進一退の続く中で青年は少しだけ時間を盗むかのように一点集中を始めた。それは妖怪には伝わっているような様子はなく、と言うよりかはそれから何が出来るのを眺めているだけなのかは知らないが何もせずに待っていた。

 

「闇をまとった妖怪。これで対等になるだろう。」

 

「私に勝とうとするの?無駄だよ。」

少し笑みをこぼした強者の余裕をどのようぬ崩すのかを青年は脳内でシミュレーションした。

 

簡単に話すと全てを崩してから妖怪に強力な一撃を与える。

 

それこそ闇に対極となる光の力によって。それが出来るのかは太陽を考える事ができるのかによって変わってくる。

 

どの様になるのは青年も初めての事だった。

 

「無駄かどうかは試してみないとわからない。」

妖怪はその青年の言葉に危機感を覚えたのか一気に距離を詰めてきていた。しかし青年は軽く剣を受け止めていた。本当にそれだけで良い。

 

妖怪の持っていた深紅の剣は軽々しく砕かれた。そしてその先にある本体まで青年の剣は届いてそのまま斬り裂いた。血などは出なかったがその気持ちの悪い断面を青年は見てから北西へと突き進んだ。少しだけ重たく感じる右腕を労わりながら自分の足取りで人里まで向かう事にした。

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