青年放浪記   作:mZu

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第108話

あくる日、この立ち並ぶ本の山の中で慣れた動きで魔道書を読んでいる青年がいた。流石に見慣れてきたのか一人で飛び始めるようになり小悪魔の手を借りなくても自分でするようになり始めた。

 

全ての位置を把握しているわけではないが気になった書物がある場所はよく覚えている。青年はそんな方を探しながらゆっくりとした速度でふわふわと浮遊していた。

 

いま青年が読んでいる魔道書は少数元素について簡易的にまとめられているものである。基本的な事はパチュリーと似ているところがあるが偶に虚偽の情報が混ざっていることもある。

 

あの時以来ごく稀にパチュリーの実験の手伝いをしている青年はその中で見つけた発見については何も書かれていない事に気づいた。青年は正誤のところを書き留めてから閉じて右手で持つと本棚の間を通り抜けた。新たな発見をするつもりらしいがこの膨大な数だけに見るだけで一日を過ごしそうになる。

 

そのような事が頭の内にあるのか早歩きで自分の見えるところのみを見る事で一通り一階の方は見終わった。青年はそんな訳でいつも通りソファーに腰掛けるとパチュリーに疑問を投げかけた。

 

「日と月の元素について教えてほしい。」

青年は自分で書いたのであろう青年だけの読める文字からパチュリーに伝えた。日というのは朝から夕方までに空にある物体という風な書かれ方をしているがその元素について書いてあるものであるらしい。月にしても多少説明文は違えど基本的には太陽とは逆になるものである。

 

「それはつまり貴方も使ってみたいということでいいのかしら?」

パチュリーは青年の言動について前置きとして一言申す。青年は無言で頭を縦に振る。

 

「日については基本的に促進であるけれど熱を発生させる。要は空にある太陽と同じだとは思うわ。」

青年は一字一句見逃すつもりはないらしく殴り書きで紙に書いていく。パチュリーはその事については何も思わない、それぐらいの勢いがある方が青年らしいといえる。一旦説明するのをやめて書き終えるのを待っていた。

 

「月は逆に静める事に使う事になると思うわ。吸血鬼には活動時間になるけれど貴方にとって眠る時間となる。日が動なら月は静となる。まさかとは思うけど相反するはずの二つを掛け合わせたどうなるのとか言わないでしょうね。」

パチュリーの頭の中では青年が何を聞きたいのかおおよそ理解出来ているらしい。紙に文字を書いていた青年はピタリとペンを止めた。まさに図星であるらしい。

 

「どうして分かった。」

 

「まさか当たるとは。前にも言ったと思うけどそれは魔法として成り立たないものなのよ。元素の作用が逆転している。それはつまり何も起こらないものなのよ。それは普通の魔法使いの話、貴方とその剣でどのように作用させるのかは貴方のこれからの努力次第では変わる事になるでしょうね。」

パチュリーはその点は放置させてその人にやらせる主義であるのでやるならやってくださいという感じである。

 

青年はそんな環境でもう二年を過ごす事になる。もう随分と前から慣れているので頭の中でまず空に浮いている月を思い出した。この時思いついたのは三日月である。

 

そしてその隣に丸く白い小さめな球体を思い出していた。青年はその考えのままに柄を握って刀身を見せると切っ先を床に当たりそうになるほどに脱力して持っていた。

 

その姿はまさに光合成する植物に酷似しておりパチュリーはチラッ、と見たその瞳を疑うような光景が目の前には起こっていた。

 

刀身からはフレアのような物が発生しているがその色が赤色ではなくて少し明るめの灰の色をしていた。何を混ぜたらそうなるのか魔法を扱っているだけの人ならば思いつくだけで一週間を要するかもしれない。此処までの話を聞いているパチュリーにはすぐに何かわかった。

 

パチュリーは珍しく急いでペンを取り出すと紙に目の前の魔法的にはあり得ない光景を出来るだけ明白に書いていた。日の元素を使用した物体から熱を発生させるその波と月の元素が発生させるものと思われる色彩が一緒にされている。

 

混ざり合うことのなかった二つは青年によって巡り合ったわけである。その初めての発見にパチュリーは落ち着きをなくしているようで青年と同じく殴り書きになっていた。魔法使いとしての宿命なのかもしれない。

 

「まだまだらしい。」

青年は疲れたようでその場で尻餅をつくと一息大きな音で吐いた。パチュリーは何事もなかったかのようにしていたがやはり抑えられないところはあるらしい。

 

「貴方には未知という言葉は似合わないようね。やっぱり流石だわ。」

パチュリーは机から離れると履いているスリッパのようなもののパタパタという音を出しながら青年のもとに近づいた。青年はその足音に気付きながらも振り向くような事はしなかった。

 

「とても小さかったように思う。これからが本番だろう。」

青年はとても冷静に現状について捉えていた。確かにパチュリーが見た視線からは魔法の常識を覆した快挙であるのは疑いようもない事実なのだろう。

 

しかし青年にはそのようなこれまでの常識は通じない。魔法の基礎知識しか知らない青年にはこれまでどのような実験の中で何が生まれたのかは一切知らない。その点ではある意味見習いでもあるがそれを感じさせないほどの感性は持ち合わせている。故に出来たことが凄いとは思わずにもう少し大きくなりそう、と少し上の方向を向いているわけである。

 

「今はこれで良いでしょう。」

パチュリーは概ね満足そうな表情を浮かべていた。大分落ち着いてきたのかいつも通りの調子の声音に戻り始めている。

 

「今は、な。これからどうすれば規模を大きくすることが出来るのかちょっと考えてくる。」

青年は急に立ち上がると階段を登って上から見下ろすつもりであるらしい。パチュリーはそんな青年の成長を見ながらその内自分が抜かされそうに思えてきた。

 

「紅茶入れ直しますね。」

 

「お願い。」

小悪魔がパチュリーの元へと駆け寄り優しく問いかけたところ意外にも優しめな声で応対した。小悪魔が紅茶を持ってくるまでにパチュリーはいつも通りの机まで戻ると一息つくように椅子に深く座り込んだ。

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