宴会の時期も通り過ぎた幻想郷。これから暑くなるだろうと皆が思いながら日々を過ごしていた頃だった。
黒いとんがり帽子、金色のウェーブのかかった髪を帽子から出した少女は箒にまたがりながら博麗神社へとやって来た。
来ること自体は別に不思議な事ではない。赤いリボンを頭に付けた黒髪の巫女は特にもてなすようなつもりもなかった。まるで信仰心のない客だがそれでも神にとっては嬉しいものである。
「なぁ、霊夢。妖怪の山に神社が出来たらしいがお前は行ってみたりしないのか?」
魔理沙は箒を肩に担ぎながら霊夢の過ごしている小屋へと近づく。
「面倒よ。行きたくないわ。」
霊夢は巫女として敵情視察はするつもりはないらしい。魔理沙は古くからの友達としてそんなふうに考えていた。
「行ってみた方がいいぜ。参拝客がどんどんそちらへと流れているからな。賽銭もなくなるかもな。」
「それはどう言う意味よ。」
霊夢はやはり食いついた、と言うよりかは生命線が新しくできた見知らぬ神社にとられてたまるかと言ったところである。
「茶を淹れるからそれから話そうぜ。」
担いだ箒を小屋に立てかけてから相変わらず仮住まいをしているようなくらいの慣れ具合で茶を自分で作るが霊夢は何か言葉を出すようなつもりはないらしい。
「それでその神社は何処にあるのよ。」
魔理沙が淹れた茶を貰いながらそのままズズッ、と音を立てて飲む不恰好な巫女は何かに取り憑かれているかのように声を上げていた。魔理沙は手を使って落ち着かせながら霊夢は落ち着くのを待っていた。それから魔理沙は小屋の中にあるちゃぶ台の近くにある座布団に座ってからとんがり帽子を畳の上に置いた。
「妖怪の山にあるらしい。彼処は確か縦社会の組織的な山だと聞いているがその頂上に建立されているからとてもご利益があるそうだと言う事で人里の人々は我こそはばかりに向かっているらしい。」
魔理沙の話を珍しく興味津々に聞いていた霊夢は少しの間何かを考えていた。魔理沙はそんな霊夢の様子を明日は雨でも降るのではないかとウンザリとしていた。
春と夏の間には雨の多く降る時期があり、湿気が多い日々が続くがそれは魔法の森ではより多くなるのである。もう流石にそのような事はしばらくは嫌なのである。
「それで此処にはどうして来ないのよ。」
霊夢はその辺りは疑問に思ったのだろう。博麗神社と妖怪の山では今魔理沙がいる場所の方が比較的近い訳である。それなのにもかかわらず人里の人々は妖怪の山へと流れていく。
「簡単な話、此処には参拝は難しいぜ。」
魔理沙は湯飲みに入った茶を一口飲んで一旦落ち着いてから話すことにした。人里の東部、博麗神社の西側は深い森になっている。その間には人喰い妖怪などが密かに生息しているらしく偶に襲われたなどの情報があるとすぐに人里の自警隊が注意喚起をする。人々には確かに妖怪に対抗する術はない。
「それなら倒してこればいいじゃない。」
霊夢はさも当たり前かのように答える。その点では霊夢には当たり前なのだろうがそれが出来るのはごく一部の人であったりする。
一応妖怪に対抗する術を持つ魔理沙は流石に苦笑いをするしかなかった。
後は誰がいるのかと言えばその点は知らないが永夜異変で活躍した人ならきっとなんとかなる。
「それが出来るのはほとんど居ないだろうな。その事は承知していて欲しいぜ。」
魔理沙は何処か落ち着いた老人の諭すような言い方をしてみる。その内ホッホッホ、とでも笑い声を出しそうなものである。
対して霊夢は自分の発言が否定された訳だがその点ではあまり気にしていないらしい。自分さえ良ければそれでいいと言うのは霊夢の性格故か、先代の巫女の継承なのかは魔理沙には流石に判断しかねる。
「そうよね、取り敢えず行くだけは行きましょうか。」
重い腰を上げた霊夢だがもう一度座り直した。その理由は意外と明白である。
「お茶を飲み干してから行きましょう。そこまで急いでも何ともならないわよ。」
霊夢には確かな判断力がある。その事を重々承知している魔理沙は霊夢が動き出すまではしばらく自分の魔法道具を触っている事にしたらしい。
魔理沙は魔法使いであり魔法道具に頼っている以上は道具は大事にしなければならない。道具が壊れると言う事は魔法が使えなくなる事に等しい。先ずはいつも持ち歩いている八卦炉を取り出して埃や汚れを落とすところから始めた。
それから自分で作り出したものを服の色んなところから出してちゃぶ台や畳の上に並べていた。このような点検も時には必要になる。霊夢はあまりそのような事をすることは意味をなさないと感じているが魔理沙は実体験があるので愛着を持って道具と接していたりする。
対面でゆっくりと茶を飲み自分の空気の中で時間を過ごす霊夢とは裏腹に魔理沙は慣れた手つきで持っている布巾で道具の汚れを落として大事に扱っていた。
「準備は完了したからいつでも行けるぜ。」
魔理沙は服の至る所に布巾で磨いた魔法道具をしまい込むとトレードマークのような黒いとんがり帽子を被って外にある箒を取り出すといつでも行けるように縁側に待機していた。
「ええ、行きましょうか。」
霊夢は使い古されたお祓い棒を持って外に出ると魔理沙を待ってから空へと舞い上がる。