赤いジャージに灰色の下地を着込んだ普段着と呼べるかさえ分からないような服装の青年と白いワンピースに薄い水色の上着を羽織り麦わら帽子を被った銀髪の女性はある意味では山にいた。
しかしその道は何処にも人が居ない。この山で合っているかも不安になる程何もない場所で岩肌の見えるこの場所では辺りは開けてもただ寂しいだけの光景だった。
青年は別に迷ったわけではなく順路通りに行くのがどうにも気に入らなくて変な道に入ってそのまま歩き続けたわけである。そんな訳で何処にいるのかさっぱりな訳だがある一軒の小屋を見つけて二人は何となく向かうことにした。
「マヨヒガ?」
青年は一見普通の見た目をしている木造の小屋の前に立てかけられた看板の文字を読んでみることにした。その文字は筆で書かれているようで達筆な字で書かれている。
それが原因で逆に読みづらいのであるがきっと身分の高い人が住んでいるのだろうと青年は感じた。とにかく入るか入らないかはどちらでも良かったりするのだが道を聞きがてら入ってみる事にした。
「どちら様ですか?」
青年は小屋の戸を軽く三回叩いてからしばらく待つ事にしてみた。中から誰かの声が聞こえたのだが確実に子供のような声であり誰かと一緒に住んでいるのだろうと思った。
「俺は木本という者だ。」
それから青年は少しの間待ってみる事にした。
戸を開けた子供は日本の尻尾を有していた。緑色のペタンとした帽子で茶色のショートヘアーをした耳のある猫のような人だった。腕の部分とスカートの裾の部分が白く胴体とスカートは赤というワンピースで胸元に白いリボンが付いている。
普通なら此処で驚くところであるはずだがその点は青年は関心がまるでなかった。
「私は橙と言います。今日はどのような用件なんですか?」
子供と話しているような気にならない受け答えをするな、と青年は感心した。別に何か此処に来るような用事もないのでどのように答えようか困った。
「実はこの山の頂上にある神社に参拝しようとしていたんだが人が多くてな。ちょっと道を外してみたら此処が何処なのかさっぱりになっしてしまった。と言うわけでどの方角に行けば良いか教えてくれるか。」
咲夜はこの時に誰のせいでこのようになったのか言いたくなったが此処は口を閉じておく事にした。このような場所で口喧嘩を起こすのも良くない。
「それでしたら、えっと。北東に進めば良かったと思います。」
少し緊張した雰囲気で自信がなさそうに話していたが中から嫌な視線を感じた青年はその方を向いていた。其処には何か異様な雰囲気となっていて青年はとりあえずどうしてみようかと考えていた。
今考えるようなことではないのは分かってはいるのだがどうにもその気が治まるような気がしなかった。
「其処にいるのは誰だ?」
「いや、少し心配になってな。もしもの時があれば私が応対するつもりだった。だが身を隠していてもバレてしまうのは私も未熟な者だな。」
そう言いながら廊下から出てきたのは扇状に広がった九本の黄色の尻尾を持った人物だった。
頭には小さな二つのとんがり部分のある帽子で橙と同じなら耳があるのだと思われる帽子で何やら札が貼られている。金色のショートボブを持った金色の瞳の人である。服装は何処かで見たことのある服装でゆったりとした長袖ロングのスカートの服に青色の前掛けをしている美鈴とは違う中華風の服装をしている。癖なのか腕を交互にさせて袖の中に隠している。
ゆったりとした女性であるのは知れるがそれ以上はよく分からない謎の多い感じのする人である。
「いや、一人で住んでいるとは思いにくかったから探していたまでだ。特に気にするな。」
気落ちしているその狐のような女性を励ましながらその人が近くまで来るのを待っていた。実際其処まで待っていると言う訳でもない。
「私は八雲 紫の式である八雲 藍という。そして私の式である橙は此処で一人で住んでいる。」
何処か機械的な視線をしている藍だったが何となくその理由はわかったような気もする。
青年はその名前を聞いた時にやっと服装が似ていると思っていたのが誰なのか気付けた。
「俺は山本だ。紫から話は聞いているか。」
青年は何かを確かめるように話を進めていた。最早神社に参拝に行くことをすっかり忘れてしまったようなのである。
その事は今は良いとして咲夜と橙は二人だけに関係する話に困惑するが特に口に出すような事はしなかった。
「貴方ですか。中にお入りください。時間に余裕があるのでしたら是非。」
何処か他人行儀なような気がする藍に青年は多少なり押されながら少しだけ考えていた。今は一人ではない、その事は承知している。
「咲夜、少し時間をもらっても良いだろうか。」
青年はとても申し訳なさそうにしていた。それはせっかくの休暇なのにこのように時間を使ってしまっても良いのかという事なのであるがその点はあまり気にしないらしい。
何か入れないような話をするのだろう。その事を察していた咲夜は首を縦に振るだけで否定するような事はしなかった。
「橙、しばらく家には入らない事。約束してくれるかな。」
藍も少ししゃがんで橙と目線を同じ高さにして言い聞かせるようにしていたが青年はきっと仲が良いのだろうと思っていた。
「咲夜、貴方も同じようにしてくれないか。どうしてもこれは抗えないんだ。」
青年はまたも申し訳なさそうにしている。此処は一人で立ち向かう必要がある事を何となく感じていた青年は咲夜を連れて行く事はできないと感じていた。
「分かりました、藍様。」
橙は意外にも二つ返事で答える。その言葉には確かな力があり其処らへんにいる子供とは一つか二つ頭が飛び抜けていた。まだあどけなさが残るのはそれもありだと青年は感じていた。
「山本さん、では中にお入りください。」
藍はマヨヒガの中へと青年を案内した。青年は無言でその中へと入って橙と咲夜は外で待つ事になった。