青年放浪記   作:mZu

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第114話

マヨヒガと看板には書いてあった小屋であるが中は意外にも普通のものであった。

 

長い一本の廊下の左側に部屋がふた部屋あるだけの場所であるが片方が囲炉裏でその奥に物置部屋のように使われている。腰に巻いている帯から剣を部屋の壁に立てかけてから対面するように座った青年は藍が茶を出すのを待っていた。

 

藍が席を外している間に青年は音を立てないようにして部屋を覗きに行くが特に何か興味のそそられるようなものはなかったのですぐに戻ってきた。

 

「紫様との話では縁談だと考えている。其処で私の印象について話してほしい。」

青年は出された湯気の立ったいかにも暑そうな茶を横目に藍の質問に答えてみる事にした。

 

「先ほどの橙との会話を見ていて式とは仲が良さそうに見えた。そのぐらいだろうか。」

青年は淡々と話していた。その辺りの事は別に気にしないとして藍は何か質問とは違う事をはぐらかされているように思えて気分を悪くしたが其処は表情に出さないようにしておく。

 

「して、貴方はどう思う。」

青年が今度は聞き返した。永夜異変以降どうも気に入らない紫の式という事であるらしいが青年はあまりその事を表情に出すような事はしなかった。

 

もし出そうとするのならきっと胸ぐらを掴まれるのだろう、忠誠が本物なのであるなら。そもそも式とは主人に使える事になった妖獣であると聞いている。

 

紫の式は人型に出来るようでそれだけ紫の力が大きい事が理解出来る。そして式の式も人型であることからその確証はより断固となるものである。

 

「私か。今のところは特にない。だが絶対に悪人ということではないようだ。」

藍はそのように言うが何処か他人行儀なところがあるので何かを隠していると言うのは何となく察した。そしてそのように予想しておきながら青年は話を進める。

 

「しかし紫の戯言がここまで本気になるとは思わなかった。」

青年はそんな風に言って軽く主人を煽りながら話してみるが特に怒るようなところはないのでその辺りは自制することが出来るらしい。

 

「ええ。毎回紫様の発言には振り回されることがありますがあの方はとても偉大な方なので私は何の苦にも感じません。」

きっぱりと言い切った藍に青年は拍手を送りそうになりつつ何とか収めたが立派な式である事には間違いない。青年はもう少し続けてみる事にした。

 

「立派な忠誠心だがそのように教育されているのか?」

青年は何となくだが聞いて良いのか、と半ば不安に感じていた。理由としては忠義が曖昧であるのだろうと煽っているように聞こえるのではないかと言った事ところだ。

 

それから褒めているのか汚しているのかはどちらにでも捉えることが出来てしまう。きっと後者の可能性が大いにあるのだろうが。どちらにせよ、此処でどのように出るかによっては青年は失言となる。

 

「教育というものではありません。私は紫様の偉大なお力を尊敬しています。決して脅迫的なものではありません。」

 

「それなら別に良いんだが。急に縁談を持ち込まれると流石にあの時は返答に困ったがこうして機会が来ると意外とありなのかもしれない。」

最後の方はぼそりと呟いた。囲炉裏を挟んだぐらいしか距離がないがそれでも聞こえるか、聞こえないかその瀬戸際なのである。

 

それでも藍の耳が良いのかすんなりと答えてしまった。藍からして見ればあまりにも急な話でありタイミングも偶然としか言えないようなものである為に何か運命を感じずにはいられなかった。

 

その事も相まってから何か別の事を考え始めたりしてしまうこともある。

 

「心の準備は一切出来ていませんけどね。このような機会を貰えたのは少々嬉しいものですよ。」

藍としてはその事については何を考えているのかは一切分からなかった。それからと言うもの変に意識をしてしまった青年は見慣れた人からは簡単に分かる。

 

「嬉しいものなのか。別に嫌な気はしないから一時的にするのなら興味はある。」

青年は藍との縁談は別に悪いものではなかった。簡単に言えば気に触るような発言や動向はないように見えるので青年も其処まで気にならないと言うだけだったりする。

 

何か観点が違うようにも感じる青年だがそれはまた別の話なので気にしない事にした。

 

「それで君は何処から来たのかな?」

藍としては一旦縁談は終わらせたのだろう。それともひと休憩入れるための話を差し込んだだけなのか、その点は別に良いかと気軽に考えていた。

 

「外から来たと言われている。だが何も覚えていないので想像でしか話す事はできない。」

青年は何処か悲しそうにしていた。その理由としては簡単に言えば答えになっていなかったのが青年としては悔やんでいる。

 

「そうなると名前も偽名であるか。それは困ったものだね。」

藍は裏切られたわけであるが青年の様子を見ていれば別に問い詰めようとは思わなかった。それに一切の記憶がないのであればそれは何か理由があると思うので無理に思い出させようとはしなかった。

 

「確かに偽名になる。本当に申し訳ないのだが今立てかけられている二本の剣も近くに落ちていたから拾っただけでもしかしたら他の人の持ち物なのかもしれない。今は疑問形でしか話せないのだが外である以上は幻想郷には何らかの形で入る事になったのだろう。」

青年としては其処で止めておく。他にも何処か見覚えのある夢を見ていたりするのだがそれはまだ話すわけにはいかない。まだ確証というものがないからだ。

 

「ふむ。基本的に幻想郷に入る方法はない。今は博麗大結界があるからより難しいものになっている。だがそれは後でゆっくりと話す事にしよう。外で待っている人がいるのだろう。君は何処に住んでいるのかな。」

 

「紅魔館だ。」

 

「紅魔館、か。紅夢異変が起こった場所であるとは聞いている。私が訪れることはできないがよく人里に買い物をするからその時に会えたら会う事にしよう。」

 

「紅魔館に住むようになったのも気になるだろうが今は貴方の好意に甘える事にして此処で失礼する。」

青年は立ち上がると部屋の壁に立てかけられた剣を帯に挟み込むように納めるとそのままマヨイガの出口まで向かった。

 

その先には咲夜が待っている。その時は一つ詫びる必要がありそうだ。

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