一言だけ謝ってから青年は歩き始めた。橙に一言伝えてからではあるが少し歩き過ぎたかもしれない。
咲夜はどうやら橙とは少しばかりか話していたらしく少々別れの挨拶が長めになっていた。
青年は気づいた以上はそれ以上は進むような事はない。しばらく待ってから青年は咲夜が近くに来るまで待ってから行く事にした。どうやら近くに川があるらしく水の音が聞こえてくるのでとりあえず其処に向かう事にした。その場所には誰もいるような気配はないがともかくその近くを歩いて行く事にした。
「此処には川が流れているのか。とても住み心地の良さそうな場所だな。」
青年はボソリと何処か悲しそうにつぶやく。その声には咲夜は変な詮索を加えようとしたくなるが聞くのはやめておく事にした。何か聞いてはいけない事である事は違いないだろう。それに記憶はほとんど残されていない。
「貴方はこのような静かな場所が好きなの。」
「いや、別に。空気感がよく似ている。」
何処に?咲夜はふと聞いた。いや、聞いてしまった。青年は何処となくて怒りに身を任せているように思える表情を一瞬だけ浮かばせた。流石の咲夜でも初めて見るような顔であるのは確かである。
「まぁその話は今はやめておこう。」
青年はとても気を高ぶらせながら今の話はない事にしていた。何があったのかは一切理解できない未知の世界である。
「そうね。聞いてはいけない事とは分かっていたわ。」
「して、此処には何かの種族が住んでいると思うのだが何処にも姿は見えないな。」
青年は辺りを見回しながら足元の悪い岩場を歩いていた。ゴツゴツとしてクライミングをするような大きさはたまに会ったりするがそれは避けれたりするので青年は近づこうとはしなかった。
足元で岩の先がチクリとすることが極稀に起こるだけのそんな道だった。川沿いというのが一番の原因であると思われるが岩が転がる中で磨かれている石とそうでもない真っ黒の石が混在している。
それが何かは分からないがパチュリーか香霖に鑑定してもらおうと思って二つの適当な大きさの石を拾ってジャージのポケットの中に入れた。
咲夜はそれを見て見ぬ振りをしていた。もう言葉をかけたいとはしばらくの間は思わないのだろう。それにいつも行動の読めない青年はいつあのようになるのかはよく分かっていない。しかし素直に非を認めたりするなど余計に掴めなくなるわけである。
「先ほどは済まなかった。貴方だから特に言わなくても理解してくれるだろうと思っていたが思ったより空気が悪くなってしまった。」
青年は淡々と話していたが原因としては彼自身であるのは確か。それがどのような紡がれていくかは彼の周りの人たちによって変わっていく。
「それは仕方がないわ。私も聞いてほしくない過去の一つや二つはあるもの。それに触れられるのは私は嫌、だから貴方もそれと同じ事でしょう。」
「それはどうなるかは知らない。どのように傾くのか。またいけない方向へと向かったその時は知っている皆で止めて欲しい。」
青年は何処を見ているのかはよく分からなかった。それがどの方向へと向こうとも咲夜にも本来は関係のない事なのだ。それなのにもかかわらずどうしても心を苦しめられるのがどうにも好かない感覚だった。
「もしどうしても聞いてほしいことがあれば私に聞かせて。何か分かることもあるかもしれないから。」
咲夜はなぜか必死に訴えかけていた。青年の内なる鬼には聞こえずとも外では聞こえるのがやっと、そのくらいであった。
ふと青年はポケットから煙草を取り出す。長らく吸う機会もましてや咥える機会もなかったがこの時ばかりは青年もそれをしない理由は見つからなかった。
「機会があればそうするのも良いだろう。」
他人行儀な話し方で自信のない青年はまるでが人が変わったかのような人相をしている。咲夜は一本だけ煙草を貰って唇の上に乗せるだけの青年と同じような咥え方でその場を乗り切ろうとする。
「きっと私と貴方は何処か共鳴するところがあるのよ。」
咲夜にもその辺りは察する事もできる。触れても良い事と触れてはいけない禁忌がある事に。