青年放浪記   作:mZu

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第118話

雛は青年の言葉のままにその場所に座った。近くでは川のせせらぎが聞こえる静かな場所で木の温もりの感じられる青年にとっては心安らぐ場所である。

 

「して、厄神様と言うのはどういうことが出来るんだ。」

青年は気楽に話していた。雛はほんの少しだけ気になることがあるのだが青年には伝わらなさそうなのである。人に厄災が向かないように集めているのだが青年はもらう事も与えることも出来なかった。何か呪いでも受けているかのように厄を受け続ける青年には雛の能力は相性が悪かった。

 

「私は人の厄を貰うことで活動源としているんです。人の幸せを見ているのがとても好きなんです。」

話している事はいい事なのであるが雛はとても気分の悪そうに話しているのが気になるのか青年はとても気に入らないらしく表情に出ていた。

 

「そうなると今は私たちの厄を貰っている事になるのよね。味なんてあるのかしらね。」

咲夜はきっと青年の顔を雛に見て欲しくはないのだろう。話をそらせるために何となく話す。

 

「味はないですよ。ただ私は厄を溜める事はできないんです。常に放出し続けるので私の周りは不幸になる人が多いんです。」

 

「何か面白そうだ。」

 

「不幸なことが起こるんですよ。それなのに貴方は。」

青年は急に立ち上がってから首から音を鳴らしていた。

 

雛の言葉など退けるようにそのまま雛の横を通ってから青年は山道を歩き始めた。咲夜も不意に立ち上がり青年の左横に走って向かった。

 

「なら反転せればいい。俺は貴方に会えて幸せだ。」

青年はそれだけ言ってから本当に何も話す事はなかった。雛の姿が見えなくなるその瞬間まで。

 

咲夜は面白いものを見せてもらったのかクスクスと笑っていたので青年は変に恥ずかしくなって足が速くなっていた。

 

「どうした。」

青年はそのままの勢いで雛のいるところから十分に離れてから話し始めるが咲夜は本当に笑える場面らしく完璧とは事外れた表情を浮かべる。

 

「臭い言葉ね。恥ずかしくて逃げ出してきて。」

 

「それは関係ない事だ。」

青年は咲夜の言葉を変に受け止めていているらしく焦っているので変に面白いのだろう。

 

「歩いて頭を冷やしたい。」

 

「そうね。」

弱みでも握っているかのような咲夜の表情に何も言えない青年は致し方がなく何も言わずに歩いていく。

 

とても早い足取りなのだが咲夜はそれでも弄るかのように青年の左隣を歩いていく。青年は鬱陶しくて仕方がなかったが何も言い返せないのでその点では我慢する他なかった。

 

青年も歩いて行くうちに足が少し疲れてきたらしく休憩する事にした。何時間歩いていたのかは知らないが随分と上の方へと歩いてきてしまったように感じる。その場所は近くに滝のある場所でにとりと会った川の上の方だと思われる。その辺りは木が生い茂っていて陽の光が入りにくい所であるが川の上には覆うものがなく水面が光っていた。

 

そして耳を澄ませば水を叩きつけられるピシャピシャとした音が聞こえてくる。ここも静かで青年が休憩するにはちょうどいい場所であると感じたので近くにあるポツンとしている座りやすそうな石に座った。

 

「頭は冷えたかしら。」

咲夜は石に座った一息ついた頃に青年に話しかけた。右膝に右腕の肘を乗せて休憩しているところで微妙に疲れたのか青年は気力もなさそうに思える。

 

「頭は冷えたのだろうが体は熱くなった。」

青年はポケットから煙草を取り出して蘭方に一本だけ引き抜くと唇に咥えてからしまおうとしていた。

 

「一本だけ頂戴。」

咲夜がご所望したので青年はしまおうとした煙草を一本だけ渡しておいた。咲夜も青年と同じように咥えている。何か味をしめたのかは知らないが火もつけた事もないので本当の味は知らない。

 

「火を付けようとは思わないのか。」

青年は何となくであるが聞いてみる事にした。本来煙草とは咥えるだけではないので本当のタバコを味わせてやりたいと青年は感じた。

 

「付けるものなのね。貴方はいつも付けないからそういう道具なのかと思ったわ。」

咲夜は確かに火のついた煙草は見た事はない。袋で渡す時はいつも短くなっているものがあるのがきっと吸った後なのだろうと思われる。

 

「煙を嫌う人がいるからこちらから配慮している。独特の匂いがするから俺もあまり好きではない。」

青年はそんなことを言いながら柄に触れて剣を引き抜くと煙草の先端を刀身にマッチを擦るように擦りつけた。

 

ボワッ、と燃え上がるがすぐに火は消えて煙草の先端から紫煙が吹き上がる。その香りは鼻に付くようなもので愛好家にしか吸えないような香りをしている。

 

咲夜は青年の剣で同じように擦るが火は付く事はなかった。かなりコツがいるらしく青年が新しく取り出した煙草を咲夜は口に咥える事にした。その味は初めてである咲夜は相当きつかったらしくすぐにむせ返る。

 

そんな姿を軽く笑って青年は口の中の紫煙を煙突のように吐き出す。咲夜は辛そうにしていたがこのままでは満足行かないのか咲夜は我慢しながら煙草を咥えていた。

 

「今回香霖から譲ってもらったものはキツイから余計にそうなるだろうな。」

その時ばかりは咲夜も青年には敵わないことが知れた。お互いがどんぐりの背比べをしているように見えるがそれが二人の間では普通である事なので今更気にするようなことはなかった。

それどころか二人で同じ煙草を咥えている事には何も感じないらしいが咥えているだけのものを渡している可能性もなきにしもあらず。

 

「これは嫌がる人もいるでしょうね。貴方の気遣いは有り難いものだわ。」

 

「そうか。それなら良かった。」

青年は唇に踊らされている煙草から出てくる紫煙を見つめながら何処か違うところを見つめているかのような状態で石の上に座っていた。咲夜も青年に体を預ける形で座る。

 

そのまま誰も何も言わない時間が長く続いていた。その時間が何を意味するのかは二人の世界にいる人にしか理解出来ないものなのである。そこに一線が走る。青年の座っていた石には荒削りの刀がありその持ち主がいた。咲夜は時間を止めてから後ろを向いてその姿を見ていた。

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