青年放浪記   作:mZu

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第12話

青年は既に作られていた紅茶をアリスのを見てから飲んでいると、アリスは二冊の魔道書を運んできた。紅茶の量は青年が少しずつ飲んでいたからかは知らないが、量はさほど変わらなかった。

 

「さ、始めるわよ。」

アリスは上機嫌に話している。やはり得意な事を聞く時はこのようにされるらしい。致し方がない事だし、逆らえない事は重々承知している。一から魔法を教えてくれたのはアリスである。少し前の朝日を拝むまで魔道書を読んでいた時のことを思い出していた。

 

「よし、やるか。」

青年もいつも以上にテンションを上げて、アリスに負けないようにした。理由は簡単である。青年が魔法を学ぶのが好きになったからである。青年は魔道書を読み漁っていく。前とは少し違う言葉のようだが、うろ覚えの記憶から糸を紡いで片言で読み続けた。偶に読み間違えた所はアリスに一言だけ注意された。青年は紙にその事を書き足して更に読み続けた。魔道書も半分ぐらいだろうか。青年は少し疲れを見せ始めた。

 

「少し休憩にする?」

アリスはそんな青年の様子を見て、一言だけ伝えた。青年の返答は了承である。流石に集中力を魔道書に使い続けた為に相当集中力を使っていたに違いない、とアリスは予想した。だからこそ、青年を休ませる目的で一言言ったのである。

 

「紅茶を淹れてくるわ。少し待ってなさい。」

アリスは青年の隣から立ち上がると、ポットとカップを用意し始めた。少しだけ魔法を学びたいと意欲な生徒がいるからのか、楽しそうに紅茶を作り始める。

 

青年はその様子を背中で見ていたわけだが、その目が閉じた。理由は簡単だった。それだけ体が疲れていた。そしてその限界を迎えて自然と休息を取り始めただけである。アリスが湯気の立ったカップを青年の近くに置いた時に目が閉じていることに気づいた。青年はそれでも剣と煙草は身から離そうとしなかった。何か特別な理由でもあると思うが、煙草は流石にまずいと思い、取ろうと手を伸ばした。その手が弾かれた時、アリスはすぐに手を引っ込めた。そして青年の様子を見ていたが、起きている様子ではなかった。本能というのか、条件反射かのように行動を起こしたのである。

 

アリスは近くにあった魔道書を読んでおく事にした。自身が子供の頃、何となく読んでいたものだが随分と目を通していない。あの頃は沢山の魔道書を読んだ気がする。適正と言うものを知るために誰もが読むのである。魔理沙も同じくそうだと思うが、邪な道へと進んだ。そして青年も道具に頼っている。確かに手っ取り早く魔法を使う事ができる。しかしそれは本当の意味では魔法とは呼べない。

 

理由はよく分かる。道具が無くなった瞬間に気付くだろう、自分の未熟さ、愚かさに。青年はどのように思うか。きっと大きく落胆して諦めてしまうだろう。アリスはそんな危険から救い出そうと考えていた。

 

 

日が昇り始めた。それは朝である事を伝えるものでもあった。かくいう青年も正に同じタイミングで起き始めた。

 

「何時間無駄にした?」

開口一番青年はそんな事を口にした。理由は簡単である。寝てしまっていた事に気付いたからだろう。

 

「別に無駄にしていないわ。時には休憩や立ち止まることも必要なのよ。」

まるで起き上がるのを知っていたかのようにアリスは優雅に紅茶の入っているカップを口に運んでいた。青年としては外が明るい事にはっ、としていた。別にアリスの事は気に留めていないらしい。

 

「早速頼めるだろうか?」

魔道書の事だろうか、とアリスは思いながら特に答えはせずに後ろの方へと向かっていた。青年は椅子を動かして後ろを向いた。其処にはトーストが用意されていた。そして湯気の立ったカップが一つ。アリスは青年の為に朝食を用意していたらしい。トーストには何か乗っているわけではなかった。片側はカリッ、としていて中はふんわりとしていた。そしてほんのりと甘い。青年は言い知れぬ喜びに顔を綻ばせた。

 

「美味しそうに食べるわね。嬉しいわ。」

アリスは青年のそんな様子を見ると微笑ましく思ったのか、同じ表情をし始めた。青年は無言でトーストを食べていた。そして温かい紅茶を少しずつ飲み、どんどん流し込む量を増やしていった。カップはゆっくりとプレートに置いた。

 

「ご馳走様。」

青年はそう言うと食器を片付け始めた。アリスは急に動き始めたので、身を起き上がらせた。青年はそんなアリスに見ていないで、何処で片付けるか辺りを見ていた。

 

「食器はどうしたら良い。」

青年は結局どうすればわからないので、アリスの方を向いた。神社ではそのような事は全て青年がやっていた。

 

「人形に渡しておいて。」

アリスがそう言うので何処からが現れた人形に食器を渡す。青年は運ばれていく食器の行き先をじっくりと見てから歩いて椅子に座り始めた。無論、魔道書の解読を再開するつもりらしい。アリスは間髪入れずに活動する青年に若干振り回されながらも、いつもの位置に椅子を移動させた。扉を前とした時に青年はいつも長机の右奥に座っている。アリスは更に右奥に椅子を移動させたのだ。勿論机などはないが魔道書が一番見やすい。

 

「ここからが本番よ。覚悟して受けなさい。」

アリスは青年を煽るかのように言った。青年はその調子に乗せていた。

「貴方が居るから大丈夫だ。」




次回から紅魔館が登場するかもしれません。

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