妖怪の森として有名な人里の南西側には一つの雑貨屋があった。其処にわざわざ来るような人里の人はいなくともある館からは頻繁に来る人がいる。その雑貨屋の名を香霖堂と言い、青年はよく流れてきたよく分からない煙草を買ってきて来る事がある。
しかし今日はその目的ではなさそうだった。香霖には道具の名前と使い方が分かる、青年はその能力を使ってもらって妖怪の山で拾ってきた黒い二つの石を見てもらうことにした。パチュリーに見せてみたところよく分からないと言う。但し何らかの魔力が籠っているのでもしかすると飛躍的な進歩を遂げる為の布石になり得ると言う話である。
「胡散臭そうな店ね。此処でいつも煙草なんて買っているのかしら。」
パチュリーは無理矢理連れてこられたからなのか気は落ちている。青年は気にする事はないが帰っても構わないとさえ思っている。ただ知識を有している人がいた方がお互いが解決しやすくなるだろうと必死に来て貰えるように頼んだのだ。なのでパチュリーが帰っても自分でなんとかするとと答えるのが青年の頭の中の回答である。
「確かに胡散臭いがその実力は確かだ。」
青年は慣れたように扉を開ける。そして右手でひらひらと振ってからパチュリーを先に入れさせようとした。パチュリーはそもそも外には出る様な事はないのでここにいる事だけでも奇跡ともいえよう。それでなのか青年は先を譲ると言う事であるらしい。
「此処が香霖堂というところなのね。」
パチュリーは店内の散らかった雰囲気を嫌そうに見つめながら出来るだけそのようにはさせなかった。白髪で丸眼鏡をかけた青と黒の不揃いの服装をした和洋折衷の服装をしている香霖は読んでいた本を後ろの図書館に比べると豆粒の様な本棚にしまっていた。そしてカウンターと呼べる様なテーブルには一箱だけ置かれていた。其処には白の無地に山の絵が描かれていたパーケッジの煙草が置いてある。そして名前はこーりんである。
「香霖、ついに自作を始めたか。」
青年は優しくその箱を右手で掴むと裏返してじっくりと眺めていた。香霖は少し照れくさそうにしているが青年はして来るだろうと薄々感じていた。商人というよりかはコレクターと言う方が似合う香霖はそれと同時に手先が器用だった。偶に自作の服や小物が置かれていたりもしかすると外から流れてきたと言うが自作しているのではないかとふと思ってしまうこともある。
「そうなんだ。実は昔から出来ていたんだけど上手く作れなくてね。君はよく煙草をもらいにきてくれるんだけど何が良いのかな、なんて思って試しに吸っていたりするんだ。その内ある感情が芽生えてしまって、それが創作欲なんだよね。それでこれはあげるよ。初めてのお客さんだよ。」
青年は香霖の言葉を聞いて執事としての正装のズボンのポケットに入れるとその逆から黒い石を出した。コロコロとした形状なのだが川で流されているうちに角が落ちたのかそれとも元々この様な形なのかはよく分からなかった。
青年は本題を入ったところで香霖はその石をとても興味深そうに見つめていた。その艶のある感じは見た事がないものであるらしく香霖は優しく手に取る事にした。それから手の中でコロコロと転がすとゆっくりとカウンターに置いた。
「これは魔法鋼、君の持っている双剣の鍔の部分に使われている物だよ。とても綺麗に磨かれていて丸くなっているから最初はよく分からなかったんだけど触っていたらすぐに分かったよ。とても貴重な物なんだけどどこで拾ってきたんだい。」
香霖は青年に深く問い詰めていた。其処は青年を少しを身を引くが魔法に対する情熱は青年も負けない態度なのでその様に変換して真っ向からぶつかる。パチュリーは謎の疎外感を受けたが気にしない事にした、青年が楽しそうで何よりなのである。
「妖怪の山で拾った。それで後ろにいる人にも分からないと言うので香霖ならわかるだろうと思って来てみた。」
「妖怪の山なんてよく入ったね。怪我とかはしなかったのかい。」
香霖はどうやら妖怪の山がどの様な場所なのかはよく分かっていた。妖怪の山というのは外の者を徹底的に除去していくそんな所であり人間が入れば哨戒天狗に捕まってあっという間にその命の灯火は握り消されてしまう。そんな恐ろしい場所にわざわざ行く理由なんて香霖には見当たらなかった。
「守矢神社というものが山の頂上に建立したらしくて人里では人気らしいから行く事にしたんだ。結局参拝はしていないからもう一度行こうと思っている。」
青年は先日の事を話した。あの時に戦った椛とは腕に力が入らなくなる怪我は負ったがそれぐらいしかないのである。
「ところでこれに魔力が籠っているんだけどどうしてか理由はわかるかな。」
香霖は不思議そうにしていた。普通ならただの金属なのでその様な事は起こるはずがない。それはつまり何らかの原因で魔力が籠られたということである。香霖はその事を謎に思っていたので鑑定に時間がかかったのである。
「最初から籠っているものではないんだ。触ったら流れたと言うのなら俺が原因だな。」
青年は素っ気無く答えた。その感じには香霖も反応を遅らせるほどだった。
「うん。多分君の魔力なのだろう。何か力が抜けるなどの不調はなかったのかな。」
青年は何となく石に触れたときのことを考えていた。あのは確か河岸を歩いていた時に見つけたものでその後ににとりに会っている。それから雛にあっているが魔法を使ったのは椛との一戦からだが何か不調と感じる様な事はなかった。別に心当たりがないので青年は余計に悩んでいた。
「確か無かった、はずだ。」
青年は急に自信をなくしていた。その理由はきっと原因が不確定だからなのだと思える。香霖はそんな風に感じた。
「もしかしたら君の体の持っている魔力と魔法鋼は相性が良いのかもしれない。」
香霖は取り敢えず其処だけ言う事にしてみた。それからカウンターに置いた石を掴んで手の内で転がす。青年はその様子を見ながら何をするのかを楽しみにしていた。】
紫色のした丸い帽子、ゆったりとした服装をしているパチュリーは香霖の持っている黒い石の一つを譲り受けると青年から剣の鍔を見せてもらった。その間青年は不揃いな剣の重心のズレに悩まされながら香霖とはあることを話している。
「そうするとこの石が環境に影響されない物ということなのか。」
青年は深く考えながら前に聞いたことのあるようなないような話を思い出していた。そうなると魔理沙の小さい八卦炉にも使われている内蔵された薄い円盤のようなものがその石を加工したものであるのは確かなのだが作り方は特に分からなかった。
「そうだよ。どのような温度にも湿度にも形状を変える事のない凄い金属なんだ。その代わりに加工がとても難しい。窯に入れようとも形状が変わることが無いからね。」
香霖は一通りの説明を終えたのか一息ついた。青年はこれからどのようにしていく必要があるのかを考えながら頭の中で先程の説明を復唱しては更に理解を深めようとしていた。変える方法が無いはずなのに自由に形状を変える香霖の技術にも興味は示したが其処まで手を伸ばしていいのだろうか青年は遅めの考察をする。
「そうなると魔力で形状を変えるしかないわね。」
青年に黒い鍔のある剣を返して黒い石をカウンターに置いたパチュリーはそのように述べる。青年はやはり連れてきて良かったと感じたが何か雲行きが怪しいように思えるのは気にせいなのかどうなのか。
「そうだね。それに気づくという事は君は魔法使いなのかい。」
香霖は今まで一言も話すことのなかったパチュリーが実は魔法を扱える人なのかもしれないとふと感じてしまった。青年はその事を目の当たりにしているので重々承知している。その魔力は青年に比べると無尽蔵にあり底があるような気がしないので大魔法なんかはポンポンと出せるようだ。まだそのような場面には会ったことがないので青年はどのくらいのものなのかはよく知らない。
「いいえ、私は魔女よ。其処は気をつけておきなさい。」
パチュリーは半ば怒りながら自分の事を主張した。確かに飲まず食わず寝ずで魔法の研究に明け暮れている事は何となく青年でも知っていた。それに横になっている事はあって眠っているというところは見る事はなかった。やはりか、それが青年の反応である。
「そうだったのか。会えてとても光栄だよ。」
パチュリーとは打って変わって嬉しそうな香霖には青年と同じような執着がある事に気づきつつあまりその事を感じさせないようにしていた。
「その話は後にして貰いたい。早く加工の仕方を見てみたい。」
青年はあまりそのような話には興味がないようでどこを見ているのかは他の二人にはさっぱりだった。
「そうだね。そうする事にするよ。それで加工の仕方なんだけど昔教えて貰った事があってね。今ではとても簡単なんだけど専用の道具が必要なんだ。」
香霖はそれだけ言って裏にある工房らしきところに行くと大きめの手に収まらない砥石を持ってきた。その大きさは香霖の手の指から肘の所まであり横幅は余裕で入っていた入り口のギリギリまであった。そして椅子なのかどうかよう分からないところに置いていた。大きいだけで重さはあまり無いらしく平気そうな表情をしている。
「これが杖用の砥石だよ。偶に作りたいと言う人がいるから置いてあるんだけどなかなか使わないんだよね。」
はははっ、と軽快に笑う香霖を横目に青年はじっくりとその砥石を見ていた。青年から見て左側は棒状にするための湾曲した部分があり最後の仕上げであるらしい。それから右側には平らな面があり其処で荒削りにするらしい。青年はそのような使い方をするのだろうと予想を立ててから何となく香霖へと視線を移した。
「とするとこれだけでは無いと言うことか。」
青年は呟くだけで何か驚くような事はなく、香霖にとってはがっかりする結果となっている。
「うん。別にこれだけでは無いんだけど君は剣を媒体にするのだろう。そうなるとこれくらいの大きさの方がやりやすいと思っている。それに大は小を兼ねるからいいだろうと思って。」
香霖はそう言う。しかし今手元にあるのはこの二つの石だけなので到底剣の一本も作れるような気はしなかった。そうなると青年は妖怪の山に行ってどれだけの量の石をかき集めて来る必要があるのかを考え始めた。そしてある人物を思い出して何となく行く事にするらしい。
「して、量は足りないから今は作ることは出来ないのか。」
青年はぼそりと呟いた。それこそ悪霊のようにコソコソとした耳元で囁くような悪寒を感じさせるようなほどのものだった。
「そうだね。でも剣二本分の量はなかなか集めにくいと思うけど。」
「だから知っている人に集めてもらうつもりだ。パチュリー、後はやっておいてくれ。」
青年はそう言うや否やすぐさま香霖堂から出て行くと飛び出していった。それは子供のはしゃぐ姿そのものである。その間パチュリーはあまりの行動の早さに自分の身が追いついていない事を感じてなのか言葉を一言も話すようなことは出来なかった。
「とても元気だね。ところで君は青年とはどのような関係なのかな。」
魔法道具に詳しい香霖は敏感ではないが魔力の大きさは感じ取る事ができる。青年とパチュリーではあまりにも魔力の貯蔵量が違うので一体どのような繋がりがあるのか知りたくなったようだ。
「昔から魔法を教えているのよ。あの人は今では貴方に作って貰ったらしいあの剣で自分なりに魔法を作り出しているわ。それこそ青年にしか扱うことの出来ない究極というのが相応しいほどのね。」
パチュリーは何か含みのある言い方をしているのを香霖は感じた。だが、その何かは分かるようなことはなく泣き寝入りに近い状態だった。
「君が青年の師匠という事か。話はよく聞いている。自由に研究をさせてもらえると聞いているよ。」
香霖は何かの含みの真意は分からないがパチュリーの話はよく来る青年から聞いていた。悪い事や良いことも全て含まれているが。
「それでは私はこれで帰る事にするわ。」
パチュリーは踵を返して香霖堂の扉から外に出るとゆっくりと閉めていた。