白い雪で敷かれたカーペットには白く化粧のされた松の木がある。その木を通り過ぎていけばある場所へとたどり着く。
地面に埋められた石の上を歩き海を渡る防寒着を一枚羽織った青年は香霖堂へ黒い石を渡すついでにその場所が寒くなっている事に気づいて一枚売れ残っていたウィンドブレーカーを譲り受けた。
どうやら売れ残っていたので使ってやってほしいと店主には言われたので青年は有難く使わせてもらっている。黒い細身のズボンにシャカシャカと音を立てる上着を羽織って中には紅魔館の使用人である証明となる襟付きのシャツを着て黒いベスト羽織っている。但し上着のせいで特に何も見えない。
「妖夢、何しているんだ?」
青年を上を向きながら雪の積もった屋根の上に立っている緑色のスカートに白いシャツ、緑のベストを着ている。寒くないのかと青年は心配したがある意味特に心配ないことに気づいてそれ以上は話しかけなかった。
「雪かきですよ。潰れるかもしれませんからね。」
妖夢は雪を掻き出すためのスコップを用いて下に少しずつ落としていた。青年は別にそのことに気付いていないわけではない。屋根の半分ほどは落としたらしくそれなりの雪で出来ている山がある。そしてその場所には此処の主人がいるはずなのだが雪が被るからだろうか、妖夢が中に入れさせたのかいつもの所には居ないことは理解している。
「それは大変だな。気を付けて作業してくれ。」
手伝えばいい、という訳だが元々幽々子が何かするような性格ではないことは青年は知っている。それに此処には二人しかいないので余分な道具は持ち合わせているようには思えなかった。故に青年は手伝わないのではない、手伝えないのだ。そんな所で青年は縁側から木の戸を開けて屋敷の中へと入る。そしてその先には襖がある。どうやら色を変えたらしく桜の描かれた何処かの山奥のような絵が描かれていた。誰か絵を描ける人が居るのかというといるように思えないので屋根にいる従者の作品であろう。桜の舞い散る姿が良く映えている良い作品であると後で一言伝えてみることに青年は決めた。
「幽々子、来た。」
にこやかに笑っている幽々子はまるで主人としての自覚のないようなにやけた表情をしていた。青年はその場で留まり幽々子が何か言うで待っていることにした。青い和装でピンクの髪を青い唾のない帽子から覗かせた茶を飲む女性こそが幽々子なのであるが青年も慣れているのかあまり特別感というものはない。ましてや目の前では何をしていたのかさえよく分かっていない状況では流石の青年も何もできなかった。
「よく来たわね。ささ、こちらへいっらしゃい。」
幽々子はクスクスと笑いながら青年に向けて手を招いているが青年は幽々子の変わっていく表情を見ているだけで一向に動く気配はなく他人からすれば面倒な時間を過ごした。しかし二人にはとても必要な事なのである。
「早く。」
少しだけ急かし始めた幽々子だが声音はゆるりとした気の抜ける声であるので何とも微妙な気分に青年はなった。変に諦めがついたのか青年は幽々子の近くに座る。
青年は妖夢が上にいるので茶は新しく出されないのは分かっていたが特に其処から動くようなことはなく胡座をして幽々子と対面していた。青年には服装というものは特に似合わない座り方をする。基本的に誰かに従属するようなことのない青年は一層の事ボロ布の服を着せた方がらしいような気はする。
「ところで今は夏になる訳だが、こう雪が降っているというのはどういったものなんだろうな。」
青年は世間話とばかりに本題へと入った。確かに冥界に立つ白玉楼では気温は基本的に低いのであるが流石に雪が降るほど下がるようなことはなかった。あっても悪寒が走るくらいでしかない。そして幻想郷では夏と呼ばれる季節であるがあちこちでは気温が大きく変わっている。
紅魔館ではポカポカとした日差しで門番は気持ち良さそうに寝ているのだろう。青年も流石にこれは異変であると思えた。それこそ幽々子の起こしたわがままよりも酷かったりする。そして青年は何となく理由はなかったがふと思ったのはそのような事なのである。
「私はこのような季節の方が良いのだけれど。深く考えないで楽しくいきましょう。」
幽々子は妙に張り切っているのかもしれない。青年はそんなに冬に降る雪が好きなのだろうかと思っていた。別に好きというわけでもないが異常気象を折角なので楽しもうとするその寛大さがあるのかもしれない。確実に異変なので解決してほしいと誰かが言いそうである。青年は取り敢えず幽々子の空気感に飲まれてその事を楽しむことにした。ある意味青年も変わらないように感じる。
「それはそれとして。妖夢にはこの季節にはとても大変だろうな。」
この部屋には暖房器具のようなものはないが何故か寒いと思うようなことはなかった。それこそ妖夢が何かしているかのようにそれなりにちゃんと過ごせるようにしているらしい。
「そうね。雪かきした後は雪合戦をやるんだから。」
とても嬉しそうにしていた幽々子の言葉を聞いた青年には余りにも幼稚である競技をしようとしていると思った。そもそも妖夢と幽々子の二人でやるのだろうか。それはある意味シュールな光景を見てみたいと青年は思っていたがそれはいい意味で裏切られる事になる。
「雪合戦か。人数が少ないか。」
「私をお忘れなのかしら。」
扇子で口を隠して異空間からその顔を出す人物は金髪のストレートでそれこそ防寒着を着込んでいる。そしてスキマからノソノソと出てくるとその後ろで同じく防寒着を着た狐が現れる。
その狐は最初に出てきた人と同じ色の髪をしているが髪は短めでボブぐらいである。その人が何をしに来たのかと言われるとそれは雪合戦としか言いようがない。青年は大人たちがしょうもない雪合戦を始めようとしていることに驚く。頭のネジでも吹っ飛んだのかと本気で心配するほどだがその辺りはこの四人ならこのような遊戯をしてもおかしくはないのかもしれない。