夏らしい日差しの降り注ぐこの場所には水が流れている場所があり避暑地としては十分なところであった。
しかし、ある神様のせいであまり人は寄る事はない。そこには不運になることがあるとか人間を襲う妖怪がいるとか良からぬ噂が囁かれているがそれを全く気にしない人がいる。
その青年は少し汚れた赤いジャージに灰色のインナーを着た前髪を掻き上げて後ろには少々不衛生な髪が結んである。その様子には流石に話しかけるような人はいないので青年は1人妖怪の山でも嫌な噂のある場所へと朝から入っていく。
「おはよう。」
青年は川の近くである人に話しかける。緑髪の美しい少女は皆から厄神として恐れられているが人の厄を集めているだけなので何も悪影響はないのだが近くに居ると不運なことが起こるとされている。実際にそのような事はないと青年は思っている。
「おはよう。と言っても朝日が昇っているのでそうなるのでしょうね。」
何処か悲観的になっている鍵山 雛だが何か悩みでもあるのかとふと青年は感じた。だがあまり聞くようなことでもないのだろうと青年は勝手に判断する。
「寝てはいないのか。」
雛の声は正しく寝ていない人の間の抜けた声なので青年はそうなのだろうと外堀を埋める感じで聞いてみる。雛からすればそのように話を出来るだけでもとても嬉しいのである意味では有り難い存在という事になる。その事は青年自身は気にしないのだろうが。
「はい、最近異変が起きていると思うのですが其処で厄が沢山発生しているんです。」
「それの回収のために雛は日夜奮起している、という事か。お人好しと言うのか自己破壊というのかどちらの言葉が似合うかはどうでもいい。人には良い時と悪い時が無理に回収するとそのあとで大きな厄が訪れるのだろう。」
青年は他人事かのように淡々と話していた。確かに厄と言うのは大体の人が嫌う物ではあるが青年は別にそうでもないらしいので別に興味があるわけでもなかった。人生は山と谷がある、谷の時に自分がどうするかで何とかするものだと考えている。青年の考えとは裏腹に雛は深く考えているようだ。
「そうなのでしょうか。私の良いと思った事で人が不幸になっているのですね。もしかして私が厄を取り過ぎたからこのような異変が。」
「待て、其処までは言っていない。落ち着いて話を聞いてくれ。」
青年は雛のあまりにも悲観したその物言いに途中で言葉を遮った。何か青年の頭によぎるものがあったのか如何かは知らないがあるとしたら昨日のことであろう。青年は少し前から上手く魔法が扱えなくなっていた。何度やっても邪念があるのか純粋な元素を作り出すような事は出来なくなった。その事で青年はどうしようか悩んでいる、雛との会話はその後からの自分に重なる部分があった。
「はい。私はこれからどうすれば良いのでしょう。」
「なら今から神社にでも向かってみようか。」
突拍子も無い青年の発言は雛を驚かせるのには十分だった。青年が神が神に会いに行くという形で守矢神社へと行こうとしていた。咲夜に抜け駆けで先に参拝しようとしているかそれとも雛のために行くのかその真意はどちらとも取れないが少なくとも邪念はなかった。雛はそのような場所へ行こうと思う事はなかった。それこそ其処にいくまでの道のりがとても怖いのである。人間の口から何が飛び出すのかは雛には分からなかった。
「それは困ります。私は厄神様、皆に不幸を振り撒いてしまいます。」
「ならそう思えば良いんじゃないか、俺は全く信用していないが。」
青年の言葉は全く雛のことを認めているような節はなかった。ある意味では青年の悪い部分が出てきている。
「私は厄神様、それは知っているでしょう。」
青年は雛の必死の訴えを受け流すかのように目を横に向けるだけで何かすぐに話そうとはしなかった。その川のせせらぎと風の音が聞こえてくる以外は無音という世界で雛は一種の孤独感を感じた。
「俺は貴方の事を鍵山 雛としか認識していない。厄神様という役職は勝手に決めているだけなのだろう。」
青年はどこか身勝手なことを言う。
だが雛にとっては何かスイッチを入れられたようで何か微笑む事はあるらしい。その優しい微笑みを見ながら青年はポケットから煙草を取り出して唇で少しだけ咥えた。雛はあまり見たことのないその姿には何か違うところにあると思えた。
「そうですね。」
雛は太もものところに置いた両手を強く握りしめていた。何か決意が固まったらしい。雛は立ち上がるが青年は座りように頼んだ。
スカートを地面に広げて座った雛の後ろに青年は立った。そして前の方に手を伸ばして髪を結んでいた赤いリボンを取り外した。パラッ、とはだける髪を青年は丁寧にゆっくりと後ろの方に持って行き、手の中で一つに集めた。緑色の美しい髪を青年は手で優しく触って馬の尻尾のように垂れ下がるようにした。
其処に青年は下からフリルのついたリボンを付けて上に持っていくと輪を作ってから前で結んでいたようにした。早くはなくそして汚いが青年は雛を喜ばせようとしていたので本人が動きは見せずに何か言うような事はなかった。
「出来たか。」
青年は不安そうに雛に聞こえるように呟いた。静寂に包まれた二人は誰も邪魔するような事はなかった。雛は少し首を前に傾けていた。首元を通る風が少し気分が悪くなるのだろうと青年は思っていた。青年はそれからどうしようかと思ったが何か思いついたようだ。
「仕上げはにとりにしてもらうと良い。どうにも俺にはその才能はないようだ。」
青年はその場で立ち上がってその場からは離れた。雛は直立に立ち上がると青年の言葉を聞いていたのかどうなのかは分からないがドーム状のにとりの工房へと向かった。
青年はもう後ろ姿から見える日雛の頸を眺めてからすぐに川の流れへと視線を落とした。そして剣を取り出すと煙草を左手につかんで先を擦ってみるが付くようなことはなく燃えたのですぐに青年は川の中に捨てた。
川には悪い事をしたがこの場所に残しておくのも気が引けた。それに燃え上がった火を何とかするには水につけるしかなかった。青年は新たな煙草を取り出すと唇に咥えていた。