青年放浪記   作:mZu

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第137話

赤いジャージを着た青年はゆっくりと立ち上がる。右からある人の声がしていたからだ。その人の衣服は赤いゴスロリ調のドレスで髪を後ろで高く上げて顔がよく見えた。青年はそれを立ちながら見つめていたが直視するような事はしなかった。

 

「どうなってますか?」

雛は妙に気になるのか少し恥ずかしそうにしている。

 

「別に気になる事はない。」

と本当の事は隠して話していた。一層の事話した方が良いのだろうがそれをしないのは青年の方に問題がある。雛はそのような事は知らないが分かりやすい反応なのでそれはそれで、と楽観的に青年の態度を捉えておく事にした。

 

「そうですか。では行きましょうか。」

後ろにある髪を揺らして踵を返す雛。その様子を見ていた青年は何処か口下手のような気がする。正直に言えば良いのだがそれをしないのは青年の性なのか。

 

「ああ、行こうか。」

青年は少し慌てているようで口を滑らせた話し方をしたのを見て雛が小さく微笑むだけで何か話しかけるような事はなかった。青年は川岸の小さな石を踏みながらゆっくりと山道へと行く。その横を雛は連れ添いのようにぴったりと身を寄せて歩いていた。別に青年は何か気にするような事はないのだが立ち位置が妙に悪かった。

 

「雛、出来るなら左側を歩いてくれ。下手したら斬る。」

青年は右腰から抜く癖があるのだがその勢いのままに雛に当てることもあるのかもしれない。青年はその軌道にいるひなには危害を加えることもあるだろうと考えていた。それぐらい近くを歩いているのであるが注意するのなら其処ではないと思う。

 

「そうですね。分かりました。」

青年の後ろを通って気弱な感じで左腕に掴まりそうな勢いで近寄った。やはり青年は雛を少女として見ているような気はしなかったが別に離す気もないなどどちらとも判断はつけにくかった。

 

「して、こう守矢神社に行こうと言ったものの俺は一人で行くはずだった。」

青年はまるで孤独で歩いているようなそんな気がした。それなら雛を連れて来なければ良いのだが誘った理由は本人にも分からない以上雛にも何も伝わらなかった。

 

「そうならどうするんですか?私はここからいなくなっても構いませんよ。」

 

「いや、別に行く予定ではあったがどうしてかは知らないがこれで良かったのだろう。」

青年の言葉は雛の心を傷つけるものなのだが本人が何処か嬉しそうにしているので二人の間にはまた別のものが芽生えているように思える。他人には到底理解出来ないような深いものがある。

 

「良かったんですね。嬉しいです。」

雛は体を硬直させて少し緊張した面持ちで青年の表情を見ていた。雛とは同じぐらいの身丈だが雛は下から目線で青年を見ていた。青年はふーん、と鼻を鳴らすだけで何か話すような事はなかった。その後二人はその人気のない山道を歩いて大きく開けた場所へと向かった。

 

その場所は言わば参拝者のために整備された道でありなだらかで人が歩くのにはまあまあな労力のいるように作られている。青年はそんな事を思いながらこの先のくねくねとなっている道を進んだ。前に守矢神社に訪れた時は裏道なのでよく知らないが人の量はとても少ないように思えた。

 

毎日のように参拝に訪れるような猛者がいない限りはそのような事は出来ないと思うが初日の人気ぶりから考えるという事である。

 

「道のりが長いな。」

青年は少し上を向きながらこの先に続く山道を見ていた。もちろん歩きやすいようにされているのだがその分距離は長くなるのは致し方がない事だと思っていた。距離を短くしようと考えてもその急な坂は到底人が登れるような傾斜ではなかった。

 

「仕方がないです。ゆっくりと歩いていきましょう。」

雛は小さな声で話していた。それは周りの声に被さっていて青年の耳にはあまり聞こえてくるような事はなかったが何とか聞き取る。周りには様々な種族が開いている出店が立ち並んでいてどこもそれなりに並んでいる。茶を提供する人や片手で食べられるような串、土産用のものまで多くの種類が様々な形で売られていた。

 

「おい、アンタ。誰連れているんだ。」

何処からか話しかけられたその粗悪な声を青年は聞き逃さなかった。このような時の青年の耳は誰よりも優れているように思える。

 

「鍵山 雛と言うものだ。羨ましいか?」

青年は少し上から話しかけてみる事にした。

 

「いや。アンタには疫病神が憑いている。そんなことも知らないのか。」

 

「知らない。」

青年の素早い返答には話しかけてきた人もその身をたじろがせていた。相手にしてはいけないと率直に感じてしまったのかもしれない。青年は振り向いて話しかけてきた人を見ていた。薄茶色の無地の布を使ったものを着込んでいる事以外はさっぱりとした髪型が特徴的だった。その人は一瞬だけ青年の片鱗を見たような気はする。

 

「そうかい。精々後悔するなよ。」

 

「しない。」

その人は一瞬だけだが平伏しそうになった。言葉を交わしてはいけないそれだけのおぞましさが潜んでいる事に気が付いたからだ。その人は恐る恐る青年の横を通って人の中に消えていった。

 

「ありがどう御座います。」

雛は深く頭を下げて青年に首筋を見せていた。青年は少々乱暴に雛の肩を掴むと半ば強引に上げさせた。その事は神に反逆する事と同義であるが青年はそのような事を聞いたところで反省するような事はないだろう。

 

「別に。」

青年からすればその程度の事なのだろう、さも当たり前の事したまでだと心の中ではあ叫んでいそうだ。雛はやり方は不器用なものの別に気にしているような事はなかった。ある意味ではあそこまでして喜んでいるようにも見えた。

 

「優しいんですね。」

雛は少し照れながらその場所にいた。青年はそんな事は構うような事はなく歩き出していた。ある意味では人の心もわからないようには見えるがそれがどう問題になるか知らない青年にはそれこそ言っても無駄なのである。

 

雛はその事は知らない、だがこう横に擦り寄ってくるのは一種の愛の形とも言えるのかもしれない。悩ましいものではあるが。

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